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06 一回戦第二試合「覚悟で進め」

「それでは第二試合、まず姿を現したのはリゼ・アスティ候補です」

「リゼ候補は二十一歳、試合巧者として有名ですね。現在はアルド流剣術の師範を務めております」

「キアラ候補はアルド流刺突術でしたが──」

「同じ流派の分派ですね。武器も同じくレイピアですが使い方が若干違います」


「反対側からイオン・ニール候補が入場です」

「こちらのイオン候補はアドリア候補と同じ南流剣術です。十六歳、公式戦での優勝経験は今回の予選が初めてです」

「胸を借りる形になりそうですねー」

「経歴の厚みが違いますからね。正直厳しい勝負になるかとは思いますが、健闘を期待したいですね」


両側から二人は歩み寄った。


リゼは袖なしのドレスで白い手袋を嵌めている。

ドレスの上衣は白で、スカートは二重になっていて内側は白、外側は黄色。

足には茶色い革の紐なしのショートブーツ。

金緑色のコルセットで胴を締め上げて、腰には華麗な護拳のついたレイピアを佩いている。


一方イオンは白いブラウスシャツに赤い紐タイを締め、ジャケットを羽織っている。

茶色のハーフパンツはサスペンダーで吊っていてその下に黒いタイツ、足元は革靴。

腰には飾り気のない刀。

まるで少年のような服装だ。


二人は開始線まで進み、互いに一礼してそろって剣を抜いた。


「始めッ!」


試合はお決まりの魔力撃の撃ち合いから始まった。

リゼのそれは魔力突とでもいうべきか、一呼吸で三発が撃ち込まれた。

レイピアの突きに乗せた魔力撃は細く絞り込まれて、威力を減じることなくイオンのシールド魔法を破壊し、体にダメージを与えていた。


一方イオンの魔力斬は薄く煌めくシールド魔法に軽く相殺された。

それを見てイオンは相手が自分より遥か格上であることを認めざるを得なかった。

あれだけ流麗に魔法を使えるのは余裕がある証拠だ。


遠距離では勝ち目がない。

イオンは接近戦に切り替えた。

リゼもそれに乗った。


近距離ではさらに絶望的な差があった。

リゼは身長165cmイオンは155cm、近寄ると見降ろすほどの差がある。

体格だけでもリゼが有利なのに技量の差はさらに明らかだ。


「くっ!」


体中を好きなように突かれ、腕を打たれ肩を打たれる。

リゼはステップが上手い。

イオンは間合いを完全に支配されている。


まるで剣術の教官に指導されている生徒──それほどの差だ。

南流得意の返し技につなげられない。

審判が試合を止めるタイミングを計っているのをイオンは横目で確認した。


イオンは次の一手に突きを選択した。

向こうが刺突の達人であることは承知、しかしイオンの剣は両手で保持しリゼは片手で剣を持っている。

絡めて落とすなどといった芸当はできないだろう。

それに対してリゼは礼でも取るように剣を縦に構えた。


(何を──)


「キエェェェイ!」

一瞬戸惑ったが構わず突く!

瞬間リゼは剣を振り下ろし、鍔元をイオンの剣先に叩きつけて手首を返した。

イオンの剣はリゼの体の外に逸らされた。

それどころかイオンは自らリゼの剣に突っ込む形になってしまった。


「グウッ!」

レイピアの先が胸の下の肋骨に突き立ち激痛が走る。

イオンは思わずたたらを踏んで後退した。

呼吸が苦しい……多分折れている。


しかし強がりを見せるために、また自分を奮い立たせるために再度踏み込む!


その踏み込みに牽制の突きを合わせられた。

構わず踏み込むとリゼはイオンの顔面に突き立ちそうになった剣先を逸らした。

グサリ、レイピアは左耳に引っかかって突き立って大きく裂けた。


「クッ!」

リゼは大きく飛び下がって間合いを取った。

刺されたイオンではなく刺したリゼの方が動揺している。


「あーっとこれはイオン候補大きな負傷!審判、試合を止めるかっ!?」

アナウンサーが叫ぶ、審判はイオンを見た。

イオンは首を振って続行を選択した。


ようやく勝機を見つけた。


イオンは恐らく候補者中もっとも未熟である。

それは本人が一番自覚していた。

しかしその未熟を補うだけの覚悟があった。


人は自分の命のために自分の命を捨てるなんて本末転倒なことはしない。

人が命を擲つのは自分以上に大切な誰かのためだけだ。


あの雨の日に孤児だった自分がお嬢様に拾われて、いっぱしの侍女にまで育てられた。

こうして武術まで学ばせてもらえた。

その恩に報いるためにイオンはここに立っている。


身長も経験も戦闘スタイルも何一つとして共通するところのない二人だったが一つだけ似通っている部分があった。

リゼは修業の集大成としてこの大会に出場していたし、イオンは彼女の優しい主の願いのために戦っていた。

二人共に王子との婚姻には興味がなかった。


イオンは思った──しかしやはり二人は正反対である。

自分のために戦う者が他人のために戦う者に勝てるはずがない。


「ハァッ!」

イオンはいきなり突きを打った。

反射的にリゼは剣を叩きつける。

手首が返って胴に剣が突き立つ。

イオンはそこでさらに一歩を踏み込んだ。


ズドッ!


凄まじい激痛が走った。

先ほどの骨折の比ではない。

先を潰したはずのレイピアは服と皮膚を突き破って腹から背中まで突き抜けていた。


──即死でなければ動ける!


リゼは試合巧者だが人を殺傷することに慣れているわけではなかった。

自分が傷つけばリゼは動揺するだろう、イオンはそう読んでいた。

事実対戦相手の命にかかわる傷を見てリゼは試合のことが頭から吹き飛んだ。

慌てて剣を引き抜こうとする一瞬の隙、イオンはそれを見逃さず首筋に剣を叩きつけた。


「あうっ!」


よろけたリゼに肩からぶつかって押し倒す。

馬乗りになって拳を振りかぶり──顔面に振り下ろす!


「ブッ!」

鼻血が飛んだ。

もう一発!

もう一発!

もう一発!

イオンはひたすら殴り続けた。


「勝負ありッ!勝負ありだ、やめたまえ!」

後ろから審判に引き剥がされた。

リゼは顔中を殴りつけられて気絶していた。


イオンは何とか立ち上がった。

息が苦しい。

硬い顔面を殴りつけた両手の指が何本も折れている。


落とした剣を拾おうとしたがつかみにくかった。

苦労して剣をようやく鞘に納めた。

と、そこで腹に剣が突き立ったままだったことを発見し、また苦労して引き抜くと担架に乗せられたリゼに返し、一礼してよろめきつつ退場した。


「あ、あー……これは何と言ったらいいか……何とも凄惨な試合でした……」

「勝ったイオン候補の方が重症のようですね……」

実況席も声を失っている。


観客たちのざわめきは歓声にも称賛にも変わってはゆかなかった。

名前:リゼ・アスティ

年齢:21歳

称号:アリーナに響くカリヨンベル

身長:165cm

体重:62kg

職業:剣術師範

流派:アルド流剣術

HP:860

MP:520

握力:53kg(利き手)

走力:100m10.76秒 10,000m35分19秒(いずれも魔法未使用時)

知能:93

装備:ドレスとコルセット、レイピア

特技:ビールの飲み比べで負けたことがない。

メモ:妹に先に結婚を決められて焦っている。

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