04 公爵令嬢と王子
メリルはインパクトの直前に脱力した。
そうでなかったらキアラの顎は観客席へとすっ飛んでいただろう。
王子は「ちょっとした怪我ならその日のうちに治してもらえるから大丈夫だよ」と言っていたけれど、その「ちょっとした」というのが骨折程度だと言うので、手加減したのだ。
とはいえ脳を揺らすには充分な一撃だった。
顎先を打たれ一瞬で意識を手放したキアラは垂直に崩れ落ちた。
「勝負ありッ!」
ドワァァァァ……!
審判が試合終了を告げると少し遅れて観客席が沸き上がった。
気絶したキアラが担架で退場する中、実況席の二人の声がスタンド中を駆け巡った。
「いやー、驚きましたね。一瞬の出来事でした。どうですか、解説のレナンさん」
「強い──非常に強い勝ち方ですね」
「と言いますと」
「キアラ候補は刺突術の使い手ですからね、速い攻撃には慣れています。これまでの試合を見てもやはり速度も反射も一流です。今大会最高レベルと言っていいでしょう。その彼女があの間合いからの一撃でやられるとは驚きです」
「つまりメリル候補は今大会最高の速度を持っていると」
「そういうことですね。キアラ候補に油断がなかったとは言いませんが、この勝ち方は見た目以上の意味を持っています」
「なるほど」
「殿下は一体どこでこんな闘士を見つけて来られたんでしょうね」
「今後の展開が楽しみになってきましたね」
その少女は次の試合に出場する順番であり、選手入場口へと続く通路を歩いていた。
アドリア・ヴェダ・カルミールはカルミール公爵家の一人娘である。
深い青の瞳の真っ直ぐな眼差しは内在する強い意志を感じさせる。
ストレートの銀髪をハーフアップで軽くまとめ、瀟洒な白いドレスに身を包んでいる。
腰に吊るした剣がなければこのまま夜会にでも出られそうだ。
眉目秀麗であり、高い身分の生まれであり、何より武勇に優れることから国民の間での人気は絶大なものがあった。
この国では一種アイドル的な存在で、彼女が出場する大会は観客の数が倍になる、などと巷説かしましい。
「アディ」
愛称で呼び掛けられてアドリアは足を止めた。
行く手に待ち受けていたのはアルス王子だった。
席から抜け出してきたのである。
アドリアに手で制されて、セコンドを務めるお付きのメイドが無言で脇へと退いた。
「あら殿下、ごきげんよう。でも王太子が候補と事前に接触することは禁止されておりますわよ?」
澄まし顔のアドリアに対して王子は苦い顔をしていた。
「君が出るとは思わなかった」
「私が出ることで何か不都合でもおありかしら?」
「そうじゃない」
「私が妃ではお気に召さないかもしれませんわね」
「そうじゃない」
そうでなければ何なのか──それ以上王子は口にせず、またアドリアも問いもせず。
アドリアはメイドを呼び返して再び闘技場へと足を進めた。
そしてじっと立ち尽くしたままの王子の横をすり抜けざまに一言だけ声を掛けた。
「精々見守ってくださいませ。王太子としてではなく幼馴染として」
名前:キアラ・リダ・オルランド
年齢:19歳
称号:幽幻闘士
身長:175cm
体重:65kg
地位:男爵令嬢
流派:アルド流刺突術
HP:780
MP:325
握力:51kg(利き手)
走力:100m11.89秒 10,000m35分15秒(いずれも魔法未使用時)
知能:95
装備:ブルボン王朝の近衛連隊みたいな服、レイピア
特技:歌と踊りがとても上手くプロにならないかと誘われたことがある。
メモ:低血圧で朝起きるのが辛い。




