おまけ マキナと槍の女王蜂
メリルは約束通り合コンを開催した。
男性側には自分と自分の婚約者の友人たちを動員した。
女性側は選考会に参加していて、しかし貴族との結婚を狙ってない平民組が集まった。具体的にはリゼ、ローダ、デボラ、マキナ、マイアである。
「みんな、ようこそ! いい人が見つかるといいんだけど」
「今日はよろしくね」
「わー、ドキドキする……」
「わ、私、こういうの初めて……」
「俺の相手が務まる男がいればいいんだけどな? なあ!」
「まあな」
「よろしくお願いいたしますわね」
「……」
……が、その中に何故か異物が混入していた。
場違いな令嬢──ユリエル・リダ・カルトゥール伯爵令嬢がそこにいた。身なりこそ裕福な平民といったものに変えているものの、身についた所作、貴族らしい雰囲気は隠しきれていない。
(というかお前、そのぴっちりしたセーター絶対狙ってんだろ!)
マキナは心の中で毒づいた。
六人の平民はそれぞれ何度も顔を見合わせて、結局一番近しいマキナが代表する形で物言いをつけることになった。
「何でアンタがここにいんだよ!」
「だって、面白そうなんですもの」
「貴族がこんなとこ来んな! 帰れ!」
「貴女『来る者拒まず』っておっしゃったじゃありませんの」
「それは槍の話だろ! これとは話が別だ!」
他の四人もうんうん頷いている。
メリルが横で肩をすくめた。
「みんなが言いたいことはわかるよ。この人おっぱい大きいし、頭フワフワで誘われたらホイホイついて行きそうな雰囲気あるもんね。いっぱい男の子たち呼んだのにみんなこの人のところに行っちゃいそう」
「……選考会の時から思ってましたけど、この方ナチュラルに失礼ですわね」
「まったくだ! おい、みんな思ってても言わねぇんだからお前も黙ってろよ!」
「え?」
「あ」
失言である。ユリエルはすごい顔でマキナを見た。
「す、すいません……」
怒髪天を衝くユリエルを前にマキナは委縮し、もはや物申せる者は誰もいなくなってしまった。
「おぉー……」
七人が合流地点に到着するやいなや男たちから感嘆の声が漏れた。
(絶対こうなると思った)
マキナは憤慨した。
案の定である。男たちに奢らせようと思ってメリルは女性の倍の十人を集めたのだが、全員の視線がある一点に集中していた──セーターの、本来縦のはずのラインが描く曲線に。
「えーっと、じゃあお店行くね。あ、一応釘刺しとくけど、私に恥かかせるような真似はしないでよね。意味わかるよね?」
「へーい……」
メリルが旗を振って誘導すると男たちは大人しく従った。恐怖は選考会で直接戦った令嬢たち以上に身に染みていた。
予約していた会場はおしゃれなバー……ではなく居酒屋だった。
「えーそれでは、今日の出会いを祝してカンパーイ」
「乾杯!」
メリルが音頭を取って開宴するとほとんど同時に男たちはユリエルに殺到した。いや紳士協定なのかなんなのか、群がりはしないで三人ずつ順番にユリエルに声を掛けに行った。
ユリエルお嬢様は大変ご機嫌であらせられて男たちの矢継ぎ早の質問に答えている。ちなみにその手に持たれているのは遠慮なく注文したこの店で一番高い酒である。
今はマキナとしゃべっている男もチラチラとユリエルの方を見ている。
「もういいや、あっち行け」
「あ、じゃあ」
マキナが追い払うと男はあっさりユリエルの方に行ってしまった。マキナはヤケになって料理に専念した
……宴もたけなわである。気が付くと、すごい気合を入れた格好をしてきたリゼはセンスのいい感じの服で固めた男と二人きりで、隣あって座って腰に手なんか回されて、何だかいい雰囲気になっている。
デボラとローダは同年代の二人の男とおしゃべりしている。どこに行きたいあそこに行きたいと、今度四人でデートしようみたいなことを言っているようだ。
マイアは髭面の熊みたいな大男と腕相撲を取っていて、他の席からやってきた酔客たちが熱い声援を送っている。テーブルが軋んでいるが大丈夫だろうか。
ユリエルは残りの男たちに囲まれて、まるでこの居酒屋に君臨する女王様のようになっていた。
マキナだけがメリルと差し向かいで料理の品評会をしているのである。
「いやおかしいだろ!」
「何が? あ、この芋の煮たのおいしい」
「そうかー、お前こういう味が好きかー……って何でお前の味の好みに詳しくなってんだよ俺は!」
完全に流れに乗り損ねた。
「……あーもう男なんかどうでもいいわ」
あれは針の代わりに槍を手にした女王蜂だ。男たちを支配し場の空気も支配し、女たちをも支配して蜜を捧げられる女王蜂だ。
自分なんかどうせ尖兵として遣わされるだけの働き蜂にすぎないのだ。
今後は槍一筋に生きることを誓うマキナだった。




