33 勇者vs魔王
相手はモンスター──だが今日のアドリアに後退の二文字はない。
切り札を切る時が来た。
「迅雷」の型で踏み込む、同時にそれを発動した。
ここまで隠し続けた奥の手──『超加速』!
闘技場に一筋の光芒が走った。
白いドレスが光と見まがうほどの速度で駆け抜けた。
ガギィン!
人体を切ったものとは思えない音がスタジアムに高く鳴る。
アドリアはメリルの脇腹を斬って抜けた。
「!?」
メリルすら反応し損ねた。
メリルは即座に折れた肋骨を再生、その後を追いかける。
しかし既にアドリアは砂を大きく巻き上げながら方向転換完了、同じ速度でメリル目がけて斬りかかる!
ドッ!
ドドッ!!
二人が踏み込むたびに砂が爆発して巻き上がる。
激しい激突音が鳴り響く。
オオオオオオオッッッ!!!
観客席が爆発するように沸き上がった。
「スッッ、スゴイッッッ!!凄いぞアドリア様ッッ!あのメリル候補を相手に一歩も負けていなぁぁぁい!!!」
準決勝の戦いを途中から見た。
メリルの異様な耐久力──エリスのあの常軌を逸した攻撃で倒せないならアドリアの魔法ではなおさら無理だ。
魔法で可能性があるのはマリエラのダメージ・トレードくらいだろう。
ならば通常攻撃魔法は捨てて加速魔法につぎ込む!
加速を使ってようやく同じ速度だがそれで充分、攻撃が通る!
腕を折った、即再生。
さらに横胴、体全体がくの字に折れ曲がる。
軽い、これは蝶の呼吸──カウンターで蹴りを受けた。
しかし蹴りもまた軽い。
「むー」
メリルは不満そうだ。
わかったことがある。
亀の呼吸とやらは攻撃中には、というより動いている間は使えない。
攻撃に対して攻撃を合わせる型、カウンター技を主体とする南流は相性がいい。
とはいえ打撃で打倒できないのも承知の上。
たった一つの勝機に繋げるために斬って斬って斬り続ける。
腕を軽く押さえて「燕返」、顔を狙うがスウェーして避けられた。
右斜め上からの打ち下ろしに右足を引いて腰を落としつつ右脇を斬り上げる「坂落」の型、これも蝶の呼吸で無効化。
即座の切り返し「霞切」、今度は亀の呼吸、剣が弾かれる。
「村雲」、「白縫」、「押車」、「無明」、「蜉蝣」、「登竜」、「不入」──
メリルの動きに型を合わせ続ける。
突き出された拳に「横雲」の型──
「それはさっき見た」
メリルは肘をカクンと下に折り曲げた。
剣が空振って行き過ぎる。
直後、左の拳が顔面に突き立った。
アドリアは吹き飛ばされて転がった。
「アディ!」
王子が叫んだ。
スタジアムが静まり返る。
顔を真っ白にしたマリエラは拳をギュッと握りしめた。
半病人の主人を隣で支えていたイオンは気づかわしげにその顔を見た。
「これで終わり?」
メリルは腰に手を当てて首を傾げた。
昨日入場通路で王子とアドリアの様子を覗き見ていたメリルは二人の思いを知っていた。
だから、煽るためにこう言った。
「王子様もらっちゃおうかなー」
ググ……
大地に両拳をついてアドリアは上半身を起こした。
ポタポタと鼻血が落ちて砂に染み入る。
観客席がどよめいた。
よろめきつつも立ち上がる。
アドリアは自分から飛んでいた。
裏拳の威力は半減している。
それでも鼻血が止まらない。
呼吸が苦しい、激痛で目の奥がガンガンする。
鼻骨が折れたかもしれない。
鼻を片方押さえて詰まった血を噴き出した。
顔の下半分から白いドレスの胸元まで真っ赤に染まった。
そしてアドリアは剣を構え直した。
五年前──十年前──いえ初めて出会った時からずっと──アルス様に恋をしていたのに!
「あなたみたいな横入り女に渡してたまるものですか!」
「アハハ、そうこなくっちゃ!さあかかってきなさい!」




