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03 トーナメント開始

いよいよ本日から王太子妃選考会が始まる。


十六人プラス一人は石造りの円形闘技場にいた。

参加者たちのお披露目である。


メリルを除く十六人は各地での予選を勝ち抜いてきた猛者たちだ。

十七人のお妃候補たちは会場の真ん中でぐるりと円になって関係者の、あるいは無関係な観客たちの声援にこたえていた。


ワァァァァ……


観客席をいっぱいに埋め尽くした人々の無秩序な歓声はスタジアムどころか町中を揺るがすようだった。


ここは王国自慢の五万人を収容できるスタジアムだ。

正面のいいところに貴族席があって、その真ん中に国王王妃と今大会の名目上の主催者である王太子がいた。

貴族席の両隣が準貴族やお金持ちの上流階級席、その他の大半を占めているのが平民席だ。


(あ、来てる)

その平民席の中に家族や友人知人の姿を見つけてメリルは手を振った。

席から弟妹たちが手を振り返した。


「なんだ、随分余裕だな?」

隣のでかい女が肩を叩いてきた。

メリルと比べたら頭一つ分どころじゃなくデカい。

長身の王子様よりさらに背が高く、横幅ときたら倍ほどもある。

「その落ち着きっぷり、こういう大会は初めてじゃなさそうだな」


しかし聞かれたメリルは全然関係ないことを考えていた。

(人とゴリラとどっちに近いかって言ったら、ゴリラかな?)

などと失礼なことを。

ちなみにメリルはこの手の試合に出るのはこれが初めてである。


(そりゃ王子様も嫌だよね……あ、でも一人だけすごい美少女がいる。あの子なら王子様もOKじゃないかな?)

──などと考えかけて、そうではなく他に好きな子がいるから嫌なのだと思い出した。




さて大会実行委員会の面々は王子の推薦で急遽参加することとなった候補者を日程の中に捻じ込むために頭を悩ませた。

試合の時間なども全部決まっていたのに迷惑な話である。


ブツブツ文句を言いながら相談した結果、候補者たちの中から一人を選んで第一試合の前に一試合を追加し、戦ってもらうことにした。

十六人の中から厳正なくじ引きで選ばれたのはキアラ・リダ・オルランドという少女だった。


対戦が一回増えるというのは相当なハンディキャップとなる。

委員たちは本人にその是非を聞いた。

もし断られたらもう一回くじ引きだ。


「いいですよ」


しかし少女は事もなげに答えたのだった。




お披露目は終わりいよいよ本選の開始である。

王侯貴族と五万人の国民たちが観衆となって見守る中、二人の少女が正反対の入場口から同時に姿を現した。


どよめきの止まらないスタジアムに実況席の二人の声が『拡声』の魔法で運ばれてゆく。

「それではアルス殿下のお妃様を決定する、王太子妃選考会がいよいよ始まります。実況アナウンサーは私マウル・ドーズ、解説者として王国軍闘技教官筆頭のナイアル・レナンさんをお呼びしました。えー、本日からの五日間、よろしくお願いいたします」

「レナンです、よろしくお願いします」

「さあ一回戦第一試合──の前に、キアラ候補と新登場のメリル候補の対決です。何とも急に決まったこの試合ですが、レナンさん、いかがでしょうか」

「そうですね、まずキアラ候補ですが、こちらは言わずと知れた実力者です。彼女の読心魔法はもはや達人の域ですね。戦歴も厚くこれまでに闘技大会の優勝経験もあります。今大会においても優勝候補の一角と言って差し支えないでしょう」

「一方王子の推薦によって追加されたメリル候補ですが──」

「うーん、彼女に関してはまったくデータがありませんからね。公式戦に登場するのはこれが初めてのようです。ただ、殿下は人を見る目だけは確かです。そこは軍でも定評があります。その殿下がわざわざ連れてこられたからには何かがあると見て間違いないでしょう」

「ありがとうございます。それでは試合開始の時間となりました」




キアラ・リダ・オルランド、十九歳。

リダのミドルネームが示す通り貴族である。

読心魔法とアルド流刺突術を使いこなし、今大会でも屈指の実力者と目されていた。


運動が才能であるように魔法もまた才能である。

キアラ自身複数の魔法を使うことができたが中でももっとも才能があったのは読心魔法だった。


相手の思考を読み、攻撃をかわし、華麗なカウンターで勝負を決める。

一切の攻撃を近寄せず一方的に勝利するスタイルから彼女は「触れ得ざる令嬢」「幽幻闘士」などとあだ名されていた。


この国の貴族の家柄に生まれつき、戦いの才能を持って生まれて来たからには、強くなることこそが彼女の目標だった。

この大会はその集大成だ。


参加資格は十三歳から二十三歳までの女性、全国のこの年代の女性がこぞって参加するこのトーナメントは事実上の世代最強決定戦だ。

その中で自分こそが最強であることを示す。

王妃の地位はついでである。


キアラは闘技場の反対側から近寄って来る対戦相手、メリルを見た。

つい先日急に参加が決まった候補者……今までの大会では見たことのない顔だ。


キアラは身長175cm、対するメリルは160cmにギリギリ届かないくらいか(※この国で採用されているのはメートル法ではありませんがわかりやすさを優先しています)。

容姿──顔の良し悪しではなく闘技者として、特に目立ったところはない。


今大会出場者でいえば「マイア」のように鍛え上げられた肉体を持つわけでもなく、「マリエラ」のように強大な魔法の力を漂わせているわけでもなく、「アドリア」のように高貴なオーラを身にまとっているわけでもない。

どこにでもいそうな普通の町娘だ。


魔法が強いのだろうか?と思ったが着ているのは町民のする何とかいう健康体操の運動着である。

髪の毛だって、そんなに長くない麦藁色の髪を後ろでまとめて、その先をくるんと上に向けて結んでいるだけだ。

他の候補者たちは皆一世一代の晴れ舞台のためにとそれぞれ趣向を凝らしたきらびやかな服を誂えているというのに。

キアラだって乗馬服をベースにした青いジャケットと白いパンツの華麗な立ち姿である。


(王子は何を思ってこの少女を参加させたのだろうか?)


9m先、開始線の少し向こうでメリルは足場を確かめた。

キアラも爪先で地面を蹴ってみる──いつもそうであるように、闘技場の地面は砂を押し固めたものだった。

キアラのように機動力が重要となる戦闘スタイルの選手には多少不利となるが、その不利をものともしない実力と自信がキアラにはあった。


次にメリルは自分を見た。

キアラはその思考を読んだ──


(スラッと背が高くてカッコイイかも!顔もちゃんと人間だし。どっちかっていうと女の子に人気が出そう)


これから決戦する相手に対するものとも思えない感想にキアラは困惑した。


「キャー!」

「キアラ様──!!」

まあ、事実キアラがクルクル剣を回して試合前の礼を取ると、スタンドからは少女たちの黄色い声援、というより絶叫に近い金切り声が飛んできたのだけれど。


「両者、前へ」

審判が二人に開始線まで進むように促した。

そこからのメリルの思考はシンプルだった。


(まっすぐ行ってぶっ飛ばす。右ストレートでぶっ飛ばす)


言語的なメッセージも肉体のイメージも、本当に真っ直ぐ突っ込んできて殴ろうとしている。

(何だこいつは……)

今度こそキアラは本格的に困惑した。


「始めぃッ!」


困惑しつつもキアラは試合開始の合図と同時にレイピアをメリルの進行経路上に置いた。

試合用に先が丸められているとはいえ当たれば命にかかわる危険もある。

実際に何をするかは定かではないが「真っ直ぐ行って」などという芸当はまず不可能だろう。


次の瞬間地面が爆ぜた。

メリルの足元の砂が爆発的に弾け、その肉の塊が拳を突き出しながらとんでもないスピードですっ飛んできた。

見えていたのはキアラだけだっただろう、反射的にレイピアを突き込んでいた。


メリルはそのレイピアを首だけ動かしてかわした。

読んでいたのではない、見てからかわしたのだ。

クロスカウンター気味の右ストレートがシールド魔法を打ち砕きキアラの顎にめり込

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