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26 王妃とサティア

二か月前のことである。

王妃は公務での地方巡察中に「選考会の予選にすごい子供がいる」と噂を聞いてお忍びで見に行った。

興味本位の予定にない行動だったが国王は二年前からこの手の公務を放擲してしまっていたので王妃一人での巡察で、身軽なものだった。


予選の決勝の舞台に立っていたのは片や華やかなドレスに身を包んだ筋骨隆々の女性。

もう一方は粗末な古着のちっぽけな少女だった。


お忍びでも貴賓席に通された王妃は呆れたように案内役の行政官に尋ねた。

「あれ、本当に十三歳になってるの?」

「はあ……」

行政官は曖昧に答えた。


しかし試合が始まってみればその子供の戦いぶりは想像を超えていた。

仮にも予選の決勝、つまり対戦相手も本選に出場してもおかしくない手練れのはずだ。

それがまるで勝負になっていなかった。

子供が大人を子供扱いしていた。


興味を持った王妃はその優勝者を秘かに招いた。

総督府の貴賓室に現れた少女を見て王妃は目を見張った。


王妃は若い頃から評判の美人だった。

前回の大会で王妃が優勝した時には王室関係者がこっそりバンザイしたという逸話が残るほどである。

そして四十歳を目前に迎えた今もまだその美貌を保っている。


(か……かわいいぃぃぃ!)

その王妃の目から見てもとても可愛らしい……まさに「鄙には希な」という言葉がぴったりな少女だ。

ちょっと栄養が足りてなさそうだけど、あれで足りたらどうなっちゃうのかしら?


おまけに王妃と同じ精霊使い、それも稀有な力量を持つ精霊使いだ。

精霊使いは希少である。

王妃には子供が男ばかり三人いるが精霊使いの素養を見せたのは末っ子だけ、しかし精霊は見えても思うように動いてくれない。


王妃はずっとあんな娘が欲しかったのだ。


(あの年であれだけできるというのは本当にすごいわ!将来は私より強くなるかもしれないわね)


エリス推し限界王妃と化した王妃は密かに彼女を支援した。

選考会のルール上違反となるため公表されていなかったがエリスの後見人は王妃である。

エリスのセコンドについているのは近衛師団から派遣された軍人だし彼女の衣装はこっそりと王妃が与えたものだ。

候補者の服は全員支給品と偽ってまで。

洗うがごとき赤貧のエリスに服を新調するような金などあるはずがなかった。




「ちょっと失礼」

王太子に続いて王妃が席を外した。

護衛も置き去りに、靴を鳴らしてはしたなくも廊下を走る。

途中で面倒くさくなって風の精霊の力でわずかに浮いて滑るように移動した。

スタジアムの上を飛んで行った方が速いのにと思いつつ。


ようやく反対側にたどり着き、息を整えて呼び掛けた。


「サティア」


試合会場を見つめていたその女性は呼びかけに振り向いた。

思った通りだった。

王妃は席から向かい側に懐かしい顔が見えたので慌てて飛んできたのだ。


サティア・グリル。

前回選考会の決勝で王妃と優勝を争った相手だ。

争ったとはいえどうも勝利を譲ってもらった観があり王妃はあまり納得していなかった。

事実選考会出場者なら高位の貴族にでも嫁入りできるのに彼女は興味を示さず行方をくらませてしまったのだから。


「あら王妃様、お久しぶり」

振りむいたサティアは王妃の顔を認めてさすがに驚いた表情を作った。


「久しぶりね。本当に……。二十年ぶりかしら?」

「ああ……。もうそんなにもなるのね」

「どうしてここに……?」

「教え子が出てるって聞いたものだから見に来たの」

「教え子?」

「あれ」


サティアが指さしたのはメリルだった。

会場には既に次の試合の二人が入場して、そろそろ向き合おうとしていた。


「あなたの弟子だったの?」

「弟子というか……やっぱり教え子?」

どう表現したものか考えあぐねているようだった。


サティアは軽く自分の事情を説明した。

彼女によれば大会後しばらくは現役で地方を転々としていたが、引退してからはグリースに戻って来て剣術の道場をやっていたということだった。


「もちろん本気でやろうって子たちがメインなんだけどね?本格的に剣術を学びたいっていうんじゃなくて、ちょっとした運動でやりたいって人もいるの。近所の子供たちとか、老人たちとかね」

サティアはそういう人たちを集めて健康体操を教えていたのだという。


「半分ボランティアみたいなものだけど。その中にあの子がいたの」

「……健康体操?」

「私が彼女に教えたのは導引術よ。剣術でも魔法でもなく、ね」


導引術とは民間人が健康のためにする体操である。

文字通りの健康体操だ。

サティアは一人訥々と語り続けた。


「今は健康体操なんだけどね。本来は魔力によって肉体を強化し、人を超えた存在に至ろうとするものだったの」


「彼女は天才よ。私、彼女には剣術も格闘術も教えられなかったわ。怖かったから」


「あの子、目と勘が異様にいいのよ。一度でも見たら覚えちゃって二度と通じないし、自分でも使えるようになるの。もしもあの子が剣術を身に着けたら手に負えないと思った」


「でも残念ながら本当の天才っていうのは違うのね。健康体操だけでも人間の限界を超えてしまったのよ、あの子」


「彼女の肉体はもはや人とは呼べない。高密度に練り上げられたそれは芯までみっしり詰まった鉄のようなもの」


「熊?竜?そんなものじゃないわ。鉄騎兵とか鬼神とか、そういう伝説上のモンスターの方がずっと近い」


「あれは神様が気まぐれで作った悪魔の子。誰も勝てないわ」

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