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23 公爵令嬢の秘密

子供の頃から奇妙な夢を見ていた。


夢の中の彼女は見知らぬ家に住んでいた。

今の邸宅とは比べようもない、箱のような小さな家。

なのに生活はずっと快適だった。


水もお湯も使い放題、暑い夏には涼しい風が、寒い冬には温かい風がひとりでに吹き出す。

おなかが空けば気軽に温かい料理が出て来る。

どれだけの召使い、どれだけの魔法使いを抱えていたらこんな生活が再現できるのだろうと思うのだが、家の中には彼女の小さな家族しか住んでいなかった。


幼い頃には多くても年に数度だったその夢を見る頻度は成長するにつれて増えていった。

十四歳の彼女の夢の中で、彼女はよくわからない娯楽に夢中になっていた。


彼女の目の前で板に描かれた絵が、彼女の知る油彩画とも水彩画ともまるで違う技法で描かれた絵が動いていた。

いや、それは彼女が動かしていた。

彼女が手に持つ奇妙な道具に触れると、絵の中の景色は彼女が思った通りに動いた。


人物画がアップになった。

太陽を受けて輝く白銀の髪、白いドレス、手には刀を構えたその人物は、戯画化されてはいたものの──


どう見てもアドリアだった



目が覚めた。


入り混じった記憶の中でそこがどこだかしばらくわからなかった。

とりとめもなく散らばった頭の中の必要な要素を追いかけて拾い上げてゆく……


(そう、私はアドリア・ヴェダ・カルミール──)

そしてここはグリースの一角に構えられた公爵邸の自室のベッドの上だ。


ようやく自分が自分であることを思い出した。

同時に夢の中の自分も自分であることも思い出した。

あれはただの夢ではなく、アドリア自身が体験したことだ。


あれはもう一人のアドリアが体験した世界──そして今自分がいるここは彼女がプレイしていたゲームの舞台と酷似した世界であるということに気がついた。


その夢の中の世界で彼女がどういう人物であったかということはよくわからない。

家族構成や友人関係、自分自身の名前すら思い出せない。

しかし、それは現在に関わることだからだろうか、ゲームについてはかなり詳細に思い出すことができた。


対戦型格闘乙女ゲーム「Sixteen Cats Fight!」。

王太子の妃の座を巡って十六人の花嫁候補が戦う、というコンセプトの格闘ゲームだ。


アーケード版では対戦モードしかなかったがコンシューマ版ではオンライン対戦に加えてストーリーモードが追加された。

ストーリーモードでは選択したキャラクターの抱える事情が大会を勝ち進む中で語られてゆく。

選択しなかった他の十五人は敵役として立ちはだかる、という設定だ。


しかし……本当にゲームと同じ世界なのだろうか?

現在のアドリアの知識を基にした夢や妄想である可能性は否定できない。


確認しておきたいところだが何しろ格闘ゲームということもあって世界設定は曖昧だった。

ゲームの舞台はガーランド王国で政治体制は君主制だった、それくらいしかわからない。

とりあえずそこは一致している。

選考会が行われるのもその通りだし王子の名前も一致している。


ちゃんと乙女ゲームだったならその辺りはもっと詳しく語られていただろうに。

この方面から探るのは難しそうだ。


ゲームの情報で一番詳細なのはやはりキャラクターだ。

そちらから確認してみよう。

まずはアドリア本人だ。


アドリア・ヴェダ・カルミール。

ガーランドでも最も有力な貴族、カルミール公爵家の公女。

ゲームの時点、つまり王太子妃選考会の時点では十七歳。

才色兼備の令嬢として国内外に令名を馳せる。

ゲームでは主人公的な立ち位置でキービジュアルでも真ん中にいた。

恵まれたデザインから人気も高くプレイヤー数は最大、ファンアートの数も最多だった。


……自画自賛が過ぎて恥ずかしくなってきた。

やはり妄想かもしれない。


本人の知り得る事情からゲームと同じ世界か否かを判断するのは無理があった。

知らないはずの事情、具体的にはアドリアが知るはずもない人物が実在しているのなら、この世界はゲームの世界であるという確信にぐっと近づく。


アドリアは忠義の家人たちにお願いした。

彼女の権威は父に付随するもので自身には何の権限もなかったが、「王太子妃選考会のライバルとなり得る令嬢たちについて調べたい」と言えば積極的に動いてくれた。

皆アドリアこそが将来の王妃であると信じて疑っていないのだ。

父である公爵には跡継ぎがアドリアしかいないことから出場を反対されているにもかかわらず。


マリエラ・リダ・イフタール。

ユリエル・リダ・カルトゥール。

アウラ・リダ・メルランド。

この三人の伯爵令嬢については調べるまでもない。

よく知った相手だ。


カティア・リダ・アスコート。

キアラ・リダ・オルランド。

この二人の貴族も当然知っている。


ティナとリゼ、この二人は平民だが実家が有力なのでやはり社交の場で顔を合わせたことがあった。


デボラとは実際に試合で対戦したことがあるしマイアとマキナの二人についても著名な選手であるので耳にしたことがある。


マリエラの侍女であるイオンについては他家の侍従とあって調べてもはっきりとはわからなかった。


エリスは見つからなかったが彼女の出身地がどこなのかはゲームでも具体的には語られていなかったので仕方ない。


この十二人についてはアドリアの妄想と片付けてしまっても矛盾はない。


ただ、まったく無名のローダが実在したことはアドリア自身驚きだった。

かなりゲームの世界に近づいたと言っていいだろう。


フィリルもそうだ。

上流階級とはいえフィリルの活動範囲は北部に限定されていてアドリアは一度も会ったことがないし噂すら聞いたことがない。

しかしその通りの人物がそこにいた。


決定的なのはネルリの存在だ。

このホテル王の娘はアドリアが調べさせた時点ではまだ家にいたのに、翌年にはゲームの通り勘当されて行方不明になっていた。

これがゲームの知識でないのならアドリアは予言者だ。


ここは『Sixteen Cats Fight!』の世界と見て間違いないだろう。



もう一人の彼女は残念ながらアドリアのストーリーをプレイしていないのでゲームの彼女が何を思ってこの選考会に参加していたのかはわからない。

しかしゲームのキャラクターではない、生身の自分としての動機は明らかだった。

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