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22 殺意の少女

着の身着と杖の他にはわずかなパンを握りしめただけのエリスはやっとの思いで西部地方の中心都市にたどり着いた。

見たこともない大きな町だった。

いや、三歳の時にきっとこの町を通り過ぎているはずだったが、エリスには養父母に拾われる以前の記憶がなかった。


初めての町でどこに行って何をしたらいいのかさっぱりわからない。

不安を押し殺しつつ、村人たちに言われた通りに用心しながら信用できそうな大人を探して尋ね歩いて、締め切りギリギリでどうにか予選にエントリーできた。

ようやく安心したエリスは、宿を取るお金もなかったので試合会場の空き部屋の隅を借りて眠った。


闘技場に立つと不安は収まった。

右も左もわからない町をさまようのと違って、いつもやっていることをやるだけなのだから。

代わりに困惑した。

エリスは人間と戦うのはこれが初めてで、普通の人間たちの力を知らなかった。


弱すぎる。


エリスは人間と戦ったことはなかったが試合ではない命のやり取りの経験は出場者の誰よりも豊富だった。

それ故に初めての試合でも冷静に対処できた。

エリスにとって戦いとは殺し合いのことで、殺す気のない相手なんて怖くもなんともない。


まあ殺意が乏しいのは「対戦相手を殺してはいけない」というルールがあるから仕方ない。

しかしそれを差し置いても動きが拙く遅く、攻撃が軽い。


土の精霊は対戦相手が大地のどこに立っているか教えてくれるし風の精霊は相手の一挙手一投足を教えてくれる。

エリスには見ていなくても見えている。

熊の速度は時速40km、虎の速度は時速50km、狼の速度は時速60km。

鉄骸兵という古代のゴーレムは破壊するまでの間時速150kmで動き続けた。

エリスの反応も魔法もそれらを遥かに凌駕する。

いくら魔法で強化しても人間の動きなんて捉えらえない速さではなかった。


それに魔力撃という技も、あるいは剣も魔法も威力が弱い。

かつて戦ったヘンケラスという魔物の突進を止めるにはサンドスリップに加えてサンドウォールを十枚連ねなければならなかったが、彼女たちはその一枚すら抜くことができないのだから。


不用意に踏み込んで来た最初の対戦者は下からの砂の突き上げで倒した。

彼女は顎が砕けていて意識が戻らず担架で運ばれていった。

その姿を見てエリスはいたたまれない気分になった。

まるで弱い者いじめをしたようだった。


エリスの対戦相手の中には本選に出場しても勝ち抜けそうな強豪も混ざっていたが、環境が育んだこの稀代の精霊使いに比肩し得る者は誰一人としていなかった。

エリスが予選で学んだことは戦い方ではなく手加減の仕方だった。




突如砂の蛇が形を崩した。

口が大きく漏斗状に広がって中にマキナを取り込むと同時に窄まって球になる。

圧して捕らえる!


(これで終わり)

エリスがほっとした瞬間、砂が爆発して弾け飛んだ。


ゴゴゴゴゴ……


『オーラバースト』──全身を覆う闘気がサンドワームを吹き飛ばしていた。

身体能力戦闘能力を飛躍的に高めるメナス流の奥の手だ。

魔力の消費が激しく何度も使える技ではないがもはや出し惜しみしている場合ではない。


「うおおおおおっ!」

マキナは一気に接近した。


全身から闘気を噴き上げながら急に速度を上げて突っ込んでくるマキナを見てエリスは思った。

彼女は体が柔らかくて回避能力が高く、動きも読みにくい。

根性があって粘り強い。

判断が早く対応力も高い。

力、スピード、技術、精神、魔法、いずれも過去最強クラスだ。


エリスは諦めた。

──手加減することを。

相手を傷つけずに倒すことを。


(おじいちゃんが死んじゃう)という不安と恐怖がエリスを突き動かす原動力である。

優勝して養父と村を救う、その目的の前に立ちはだかる者は、多少の怪我を与えてでも退いてもらう。


エリスの足元の影から生まれた闇が膨れ上がって会場を覆い尽くした。

『エクリプス』、すべての魔法を無効化する闇の精霊の魔法だ。

一回戦でカティアの雷撃魔法を防いだ魔法の範囲をエリスは一瞬だけ闘技場全体まで広げた。


エリスまであと少し、しかしマキナが闇に触れた瞬間オーラバーストが強制的に解除された。

急激な感覚と速度の差に瞬間的に制御を失った体が投げ出される。


直後空間を切り裂いて何かが走った。


「ッッ……!」

とっさに張ったシールドが砕け散った。


足に激痛が走りマキナは着地に失敗して転げた。

起き上がろうとして膝をつく。

左の太ももから二か所、ダクダクと血が流れ出ている。


(何をされた!?)

何かに突き刺されたがその何かがわからない。


試合開始後初めてエリスが口を開いた。

「降参して」

「誰が……ッ!」

膝をついたまま槍を振ろうとした瞬間エリスの周囲を飛び交う残りの水球の一つから糸のように細く絞り込まれた水が無数に吹き出し、マキナの右腕を貫いた。

先ほどの攻撃の正体、超高圧力で水を打ち出し相手を貫く『ウォーターニードル』の魔法だ。


「ツッ……!」

握力が抜け振り損ねた槍が飛んで転げた。

同時に無事な右足が砂に飲み込まれ、さらに目の前の砂が塊になって飛び掛かって来る。

かろうじて左腕でガードしたものの砂粒が目に入った。

目をつぶった瞬間水球が顔面を襲った。


「グボッ……!」

(何だこいつは……ッ!)

マキナはなす術もなく陸上で溺れた。


「勝負ありッ、エリス候補技を解いて!」


審判が宣告するとエリスは魔法を解除した。

水球が破裂して解放されたマキナはうずくまるように倒れた。


ドオオオオオッ!!!


歓声と足踏みがスタジアムを揺るがした。

場内の興奮たるや先ほどの第三試合以上である。


「……つッ!強すぎるぞ最年少ッッ!!メナス流を完封だァァァッ!!!」

「……いやあ強い。本当に強い。自分の目で見たことが信じられません。一体どのような鍛え方をすればこの年でここまでになるのでしょうか」

「エリス候補に勝てる候補が果たしているのでしょうか?」

「魔法の威力は間違いなく今大会最強ですね。さらに発想が柔軟でできることの幅が広く、冷静沈着で反応が速いです。これは本当に優勝してしまうかもしれません」

名前:マキナ・スメア

年齢:19歳

称号:黄風の猛虎

身長:167cm

体重:65kg

地位:材木商スメア家の令嬢

流派:メナス流槍術

HP:940

MP:250

握力:55kg(利き手)

走力:100m10.33秒 10,000m38分32秒(いずれも魔法未使用時)

知能:90

装備:チャイナドレス、十文字槍

特技:棍を地面に立ててその上で逆立ちできる。

メモ:よく頼まれて同門の男女の仲介をしているが、自分の橋渡しをしたことはない。

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