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19 二回戦第三試合「超人vs鉄人」

この世界の魔法の使用には、ということは武術一般には、神との交信のためにアンテナを必要とする。

すなわち剣や杖などの細長く尖ったものである。


従って武器や武術としてそれらやそれらを使うものが発展したが、マイアの修めた空道という格闘術は徒手空拳を以て任ずる。

手に何も持っていない故に流派名に空の字を冠するのである。


では魔法を使わないのかと言うとそんなことはない。

空道では己の体をそのままアンテナとして神との間に直接チャンネルを開く。

己を尖らせて尖らせて依り代にするのだ。


無論誰にでもできることではない。

しかしそれを可能にした者は拳足を剣や槍と変わらぬ強力無比の武装へと変ずるのである。


「素手VS素手!力VS力!一撃VS一撃ッ!!共に一回戦をパンチ一発で勝ち上がった強者同士の対決です!」


二人が開始線に立った。


メリルはいつも通りの体操服姿。

予選を通さず出場したメリルだったが既にその実力を疑う者はいない。


マイアは一回戦で全身Ⅱ度の熱傷を負った。

そちらは治したものの、焼け焦げた髪は戻らなかったのでバッサリ切っているのが一回戦と違うところだ。


「始めぇーッ!」


「さァ来いッ!」

マイアは両手を広げて大の字で立った。

メリルは意に介さず真っ直ぐ突っ込んで右ストレートを繰り出した。


ここで初めて前二回と違う光景が広がった。


拳が腹筋に突き立っていた。

マイアは一瞬顔を歪めたが小揺るぎもしない。

メリルが想起したその感触は、分厚い竜の皮を幾重にも巻き付けた巨大な樫の古木──


ガバッ!

マイアがメリルに覆いかぶさって引っこ抜いた。

──垂直落下式のパワーボム!


「ふぎゅっ!?」

叩きつけられたメリルに追撃の踏みつけが来た。

腹に足がめり込む、二発目は受け止めて押し返した。

マイアが軽く跳ねて後ろに飛んだ隙に起き上がる。


(いない?)

空が翳った。

一瞬見失ったマイアは高く宙返りして、胴回し回転蹴り!


「へぶっ!」

脳天に直撃、さらに着地と同時に振り上げた左足先蹴りが腹にめり込む。

くの字に折れ曲がったメリルの顎を右膝蹴りがカチ上げた。


あ、目の前にマイアが──この距離なら届く──右ストレート!

ガツン!

左上段突きがメリルの顔面に突き立った。


(!?)


後から出したはずのマイアのパンチの方が先に当たっていた。

のけぞった側頭部に右後ろ回し蹴りが入ってメリルは木の葉のように飛ばされた。


(体の使い方が何か違う……)


右上段正拳突き──左中段正拳突き──右下段後ろ回し蹴り──左中段回し蹴り──その脚で太腿を踏んで、右上段膝蹴り!

火を噴くような連打は一向に途切れない。

メリルは堅くガードして亀になってひたすら耐える。

耐えようと固まったところへ肩をつかんで崩して中段膝蹴り、同じ足で突き飛ばし──


ダンッ!


必殺『音速拳』!

全身の筋肉と魔力を瞬間的に爆発させマイアは音の壁を超えた。

神速の正拳突きの威力を乗せた魔力撃が超高速でメリルを貫いた。

メリルは弾き飛ばされて仰向けに倒れた。


オオオォォォ……


観客席がどよめいた。

誰も予想していなかった一方的な展開……これで終わりなのか?


「まさかこれで終わりじゃないだろうね!?」


マイアが叫んだ。

観客の目には一方的に見えたが、マイアの手足に伝わってきた感触は、まるで人の皮を被った鋼の塊──


これで終わるはずがない。


「血の小便流して習い覚えた技をさァ、人間相手に思う存分使ってみたいと思うじゃない?でもさ、アタシが本気出すと相手が壊れちゃうんだよね」


マイアはこれまで対戦相手を気遣って全力を出すことがなかった。

しかし、同世代の最強選手が一堂に会するこの選考会に出れば──

(もしかしたら本気で殴ってもいい相手がいるかもしれない)

……そう思っていた。


その相手がここにいた。


「アンタが初めてなんだ」


「似ている……」

寝転がったメリルはよっ、と勢いをつけて跳ね起きた。


「あなたと私は少し似ている」


「おい、普通に起き上がったぞ……」

「効いてないのか?」

観客席がざわめいた。


「いっくよー!」

メリルはいきなり助走をつけて前方倒立回転、後方倒立回転、高く跳ね上がって前方二回ひねりからの右踵蹴り!

「くっ!」

マイアは全身で踏ん張って十字受け、猫のようなしなやかさでするりと着地したメリルは間髪入れず左足先蹴り、これもかろうじてガード。

ガードした瞬間に右飛び膝蹴りが顎に迫っていた。

これも手を挟んでガード。

全身で突きあげるような左上段突きが顔面に──掌で受けてガード、右後ろ回し蹴りが側頭部に──腕を挟んでガード。

正拳、正拳、蹴り、蹴り、腿を踏んで膝蹴り。

連撃が止まらない。

ガードはしているものの威力が強すぎる。

それに技の繋ぎが速すぎて反撃に繋げられない。

115kgのマイアが右に左に嵐の中の小舟のように揺さぶられる。

「くそっ……!」

一瞬の動揺を逃さずメリルは手を伸ばして肩をつかんで崩して膝を入れ、同じ足で突き飛ばした。


ダァンッ!


音速拳!

魔力を乗せた正拳の威力がマイアを襲う。

シールド魔法が砕け散ってなおも残った衝撃に弾かれ、マイアが踏ん張った足跡が砂に5mも軌跡を描いた。


「クッ……!」

マイアはその場に膝をついた。


オオオォォォ……!


観客席に再びどよめきが上がった。

驚愕と感嘆の声だ。


「な、何とメリル候補、ここに来て初めての武術!空道の使い手でした!」

「はい、正統の空道ですね。あのような選手がいたとは恥ずかしながら知りませんでした」


両手でおいでおいでと促すメリル。

「これで終わりじゃないよね?ほら立って立って、ようやく面白くなってきたんだからさ」

「お前……その空道、どこで習った?」


困惑があった。

マイアの知る限りメリルなんて空道の格闘家はこの国にいなかったはずだ。


「私って格闘技教えてもらえなかったんだよね。私がやると危ないからって」

「何言ってんだお前」

今メリルが使ったのは紛れもなく空道、マイアの鏡映しのような正統派の空道だった。

絶対にどこかで誰かに教わったはずだ。


「私が格闘技を覚えたら相手が壊れちゃうんだって。でもおかげさまで──あなたの技を目で見て、体で受けて、覚えさせてもらいました!ありがとう、私の格闘技の先生!」


ゾクゾクッ!

恐怖と感動の戦慄がマイアの全身を貫いた。


マイアが十五年かけて研鑽した武術を、今の一瞬で見て覚えた!?


「──ハハッ、バケモンかお前!」

「チェスってあるじゃない?あの世界だと弟子が師匠に勝つことを『恩返し』って言うんだって。というわけで先生──」


「恩返しさせてもらいます!」


サク……

サク……


砂を踏む音が歩み寄る。

観客が固唾を飲んで見守る中、スタジアムの中央で示し合わせたように邂逅した二人は、示し合わせたように体ごと捻じって拳を溜め──


バァンッ!


音が砕け散ってスタジアムを揺るがした。

二人同時に──至近距離での音速拳!

互いの拳が互いの顔面をスマッシュヒット、大きくのけぞった二人は同時に姿勢を元に戻してその勢いのままに再び殴り合った。


バァンッッ!!


「ハハッ!」

「たーのしー!」


190cmと158cm、大人と子供並みの体格差の二人が互角の力で殴り合う。

いや、マイアにしてみれば『物理攻撃力アップ』『物理防御力アップ』『クリティカル率アップ』『速度アップ』『回避率アップ』『命中率アップ』『肉体硬化』『ダメージ追加』『スタン効果追加』──バフ魔法を目いっぱい使ってようやく互角だ。


(こいつ本当に人間か!?)


しかしモンスターを相手にしてマイアに恐怖はない、歓喜が恐怖を塗り潰す。

生まれて初めての……全力!


これが闘争の喜び!


ドゴォッ!

ベチィッ!


鈍い殴打音が、激しい炸裂音が響き渡る。

人体が人体を殴ったものとはとても思えない。

二人は鼻血を宙に散らしながら防御を捨ててひたすらに殴り合い、蹴り合った。


マイアの拳がメリルの頬を打ち抜き、メリルの拳がマイアの鼻を叩き潰す。

メリルの直蹴りがマイアのみぞおちに突き立ち、マイアの後ろ回し蹴りがメリルの脇腹にめり込む。


二人の表情は奇妙なほど一致していた。

戯れる子供のように、猫の子がじゃれ合うように。


二人共に楽しそうな笑顔を浮かべていた。


「せいやぁっ!」

マイアは再び大地から引っこ抜いてパワーボム、しかし今度は両手をついて軽く受け身、その手を横に滑らせ両足を払って下がった顎に両足蹴り!

「グッ!」

全身の筋肉に力を入れて耐えたマイアは跳ね起きるメリルの動きを見越してその頭に回し蹴り!


しかしメリルはマイアの蹴りを身を沈めてかわした。

メリルは初めて先読みを使った。

さらにその蹴り足を押して半回転させ背中を取る。

そしてガッチリと腰をホールド、マイアの全身から緊張を伴う汗が噴き出した。


(クラッチッッ切れね────)


「ぃよいしょおっ!」


空が回った。

マイアの巨体が宙を舞っていた。

メリルの爪先を支点にジャーマンスープレックスが芸術的なアーチを描いた。


爆発じみた砂煙が巻き上がった。


やがて砂煙が収まると、そこに美しいブリッジでフォールを決めるメリルの姿があった。

マイアは落ちていた。


「勝負ありッ!!」


ウオオオオオオッ!


大歓声がスタジアムに響き渡った。


「起きてー」

メリルはそう言いながらペチペチと頬を張った。

マイアはようやく目覚めて瞬きし、寝ころんだままぐるりとスタジアムを見回して状況を把握した。


「あー、負けたか……」

そしてマイアは引っ張って起こしてもらいながら笑った。


「でも楽しかったァ!またやろうぜ!」

「うん!」

名前:マイア・スマル

年齢:20歳

称号:鉄拳鉄壁

身長:190cm

体重:115kg

地位:石工組合代表スマル家の令嬢

流派:空道

HP:1200

MP:280

握力:100kg(利き手)

走力:100m12.50秒 10,000m35分12秒(いずれも魔法未使用時)

知能:95

装備:女子プロレスみたいな服

特技:素手で石を彫刻できる。

メモ:どうしても泳げないので水面を走ることで解決した。

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