18 夢は素敵なお嫁さん
まるで一回戦の焼き直しのような光景だった。
フィリルは近距離から魔力斬を連射、それらは全てシールドに阻まれる。
ようやく腕を治したマリエラの杖もまた振れども振れども空を切って当たらない。
しかしその杖の扱いを見た観客席のマキナは呟いていた。
「メナス流じゃないか」
「ええ」
隣でユリエルも相槌を打った。
マリエラの杖捌きはユリエルが見せた棍法に酷似していた。
正統の杖術だ。
切れ目のない連打は当たらずともフィリルに警戒させるだけのものがあった。
互いに変わることのない攻防が一分、二分と続くとフィリルは不審を覚え始めた。
(魔法が効いていない?)
マリエラの動きは一向に衰えようとしなかった。
こと戦闘に関してはイフタール家は記録の宝庫だ。
二回戦が始まる前に、前々回の花嫁トーナメントという古い記録の中からマリエラとイオンはフィリルの技の正体を探り当てていた。
短剣の二刀流を目くらましにしたバステ攻撃。
攻撃の種類がわかっていれば対処は可能だ。
知らなければ引っかかったかもしれないが、マリエラはフィリルの魔法を察知し、ずっと状態異常回復魔法を使い続けていた。
そしてフィリルは相手の動きが変わらないという異常に続いて自分自身に起こった異常に気が付いた。
(体が重い……!?)
マリエラの魔力は半減してなお常人より多い。
同時に使える魔法の数はさらに多い。
このときマリエラが使っていたのは
『物理防御力ダウン』『魔法防御力ダウン』『体力ダウン』『速度ダウン』『魔法力ダウン』『集中力ダウン』──
状態異常回復魔法だけでなく、試合開始直後からずっとデバフ攻撃を掛けていた。
接近戦に応じたのはデバフ攻撃のためだ。
さすがに回復魔法を使いながらでは一度に強力に、というわけにはいかなかったが、少しずつ少しずつ重ね掛けて。
杖は当たっていなくてもその一振りごとにフィリルの戦闘力は削られていた。
ここに至ってフィリルはいつも自分がやっていることをやられていることにようやく気づいた。
目に見えて動きが鈍った。
一度距離を取って態勢を立て直そう、そう思った瞬間マリエラが鋭く踏み込んできた。
「チッ!」
かろうじて杖をかわす。
フィリルの力量をもってすればまだ対応できないわけではない。
しかし杖の打撃はフェイントにすぎない。
マリエラは杖から右手を放しフィリルの腕をつかんだ。
『ドレインタッチ』!
ドクンと脈動があって力が抜けた。
とっさに振り払ったが体力を持っていかれた。
「くっ!」
しかしマリエラは接近している、短剣の間合いだ。
フィリルは左右の連打を首筋と脇腹に叩き込んだ。
叩き込んだのだが──確かに痛打を与えたはずだが、マリエラは揺るぎもしない。
魔法で痛覚を消しているのである。
その上即座に回復魔法を使っている。
足の鈍ったフィリルは逃げきれず至近距離での攻防になった。
この間合いであればここまで鈍ってもまだフィリルに分がある。
マリエラが一回触れる間にフィリルは五発は攻撃を叩き込んでいる。
しかしマリエラはフィリルの短剣が当たることをまるで意に介していない。
自分が当てることだけを考えている。
(化け物め……!)
デバフによる相手戦力の低下。
回復魔法に相手からの吸収を加えた無尽蔵の回復。
痛覚のカット。
痛みも疲れも感じず永久に動き続けるその姿はまるで伝説にある不死の怪物だ。
フィリルは泥沼の消耗戦に引きずりこまれていた。
令嬢にあるまじき、華麗さとは無縁の泥臭い戦いの果てに、ダメージが蓄積したフィリルは反応が少し遅れた。
パシッ、フィリルの右腕をマリエラの左腕が捕まえた。
今度は振りほどけない。
ドクン!
ドレインで力が奪われる、同時に頭突きが来た。
「ブッ」
鼻血が噴き出す。
マリエラはフィリルを腰に乗せて投げ、さらに心臓目掛けて踏み砕きを入れた。
「グブッ……!」
肋骨が砕けた。
フィリルの両手から短剣が落ちた。
「勝負ありッ!」
フィリルは倒れた。
まるで一回戦の裏返しのように。
オオオオオオッッ!
大観衆の大歓声が二人の上に降り注いだ。
「謎の負傷からの大逆転ッ!強いぞマリエラ候補ッッ!!」
「いやこれは凄い、一回戦とまるで戦法が違います」
「戦術、できることの多彩さは今大会随一かもしれませんね。どうでしょう、まだこの先があると思われますか?」
「ええ。正直底が見えません」
名前:フィリル・グラム
年齢:17歳
称号:夜光蝶
身長:162cm
体重:57kg
地位:宝石商グラム家の令嬢
流派:二刀流、バステ付与
HP:530
MP:780
握力:45kg(両手)
走力:100m13.86秒 10,000m31分55秒(いずれも魔法未使用時)
知能:97
装備:スカートにダイヤモンドの縫い込まれた黒いウェディングドレス、短剣二本。
特技:1等星以上の星は全部わかる。
メモ:机の引き出しの奥に書き溜めたポエムが封印されている。




