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15 二回戦第一試合「南流vs南流」

三日目は二回戦の全試合が行われる。

第一試合は一回戦の第一試合と第二試合を勝ち進んだアドリアとイオンの対戦である。


「さあ初日に続いて二回戦も第一試合から登場です。優勝候補筆頭、アドリア・ヴェダ・カルミール候補!」


「忍耐と根性!そして知恵と勇気で奇跡を起こせ!イオン・ニール候補の登場です!」


二人が場内に姿を現すと観客たちの熱狂は朝一番にもかかわらず既に最高潮に達した。


「レナンさん、一回戦華麗に勝利を収めたアドリア候補、一方で凄まじい勝負を見せたイオン候補ですが、この試合をどう見られますか?」

「ええ、両候補が修めておられる南流というのはですね──」


南流は王国南部、カルミール地方で隆盛した剣術である。

カウンター技で知られた流派で、自分から打ち込むよりは相手の打ち込みに対応して返す術理を得意とする。

その返し技は全て型として構成されている。

つまり相手の攻撃に対応して反撃する、という返し技が型として無数に存在している。


型とは体に染み込ませて思考ではなく反射で行動するためのものだ。

思考という余計な時間を挟まないため会得すればその攻撃はまさに神速、余人の対応できるところではない。


ただし会得すれば、だ。

体に染みついた型が考える前に発動して相手を斬る、という境地に至るまでは相応の修練を必要とする。

そうなるまでの南流は見世物の踊りにすぎない。


「──ですので南流同士の決闘は相手の知らない型を身に着けている方が有利、同じ型でも深く修めている方が有利となります。私は現時点ではあらゆる要素でアドリア候補有利と見ますが、イオン候補が一回戦で見せたあの勝負根性を修業に費やしていれば、これはひょっとするかもしれません」

「なるほど、ありがとうございます。それでは試合開始の時間がやってまいりました」


「始めッ!」


審判の開始の合図と同時に二人は間合いを詰めた。

お互い魔力斬はなし、するすると近寄ったアドリアが正面から真っ直ぐに打ち込んできた。

アドリアの打ち込みを先読みして反応したイオンも同時に剣を打ち下ろす。

ただしイオンの剣はわずかに斜めに入っており、アドリアの剣を体軸の外へ弾き飛ばして自身の剣はその左小手へと向かった。

「死活」の型だ。


しかしアドリアもまた南流、「死活」の返し技も当然心得ている。

アドリアは左手を柄から放して小手にシールド、打たれた腕を逆らわず流す。

その分前のめりに顔が近づく──至近距離で雷撃魔法!

「雷神」の型だ。


これにイオンも即座に反応、魔法を撃たれる前に剣を地面に食い込ませている。

雷撃魔法はイオンの体表を流れて剣から地面へと流れていった。

全身にアンチマジックシールドを張り巡らせて雷撃を地面に逃す「避雷」の型だ。


しかしこの型は雷撃が逃げるまで硬直するのが欠点である。

アドリアはその隙に剣を引き戻し途中で左手を柄尻に戻し水平に保持、そのまま左足で大きく踏み込んで鍔元を首に叩きつけてきた。

「垣根」の型──


姿勢が悪くこれは返せなかった。

イオンは全身で後ろに跳ねて距離を取った。


この間わずか二秒弱の攻防である。


おおおおお……


イオンが再び構え直すと少し遅れて観客席から驚きの声が上がった。


「あーっと凄い攻防!ほんの一瞬の間に何度切り合ったのでしょうか!?」

「どちらも型を使いこなしていますね。かなり高度なやり取りでした」


ほんのわずかな呼吸を挟んで再びアドリアが仕掛けた。

踏み出しに『アクセルダッシュ』の魔法を重ねた神速の踏み込み、「迅雷」の型。


これをイオンは「石動」で受けた。

右足を右に踏み込むと共に体全体を『サイドステップ』の魔法で大きく左側へずらしている。

移動終了と同時にイオンの切り払いはアドリアの首筋目掛けて伸びている!


アドリアはこれを八双で受け、刃で峰を押さえた。

ほんの一瞬、峰を押さえてイオンの剣先を体の外に逸らした次の瞬間切り返した剣先が顎の下目掛けて跳ね上がっている。

「燕返」の型。


これは単に跳ねたのではかわせない、早すぎる。

イオンは左足を引いて重心を後ろにずらすと同時に自分の位置自体を後ろにずらす『バックステップ』の魔法を重ねた「地鏡」の型でかわした。


(良くない流れだ……)

イオンの背中を冷たい汗が伝った。


ここまで二度の攻防はどちらもアドリアの攻撃から始まり型の応酬を経てアドリアの攻撃で終わっている。

これはつまり単純に技量で負けていることを意味している。


一回戦と同じ手を使うか……?

しかしやはり警戒されているのだろう、アドリアはここまで一度も突きを使ってこなかった。


対手に悟られないように調息してイオンは覚悟を決めた。


この相手はきっとイオンの主人の障害になる。

何としても取り除く!


決意と共に今度はイオンから仕掛けた。


「山葛」の型に続いて一瞬の鍔迫り合いがあった。

イオンは反射的に「燕返」に入ろうとアドリアの剣の鍔元を押さえた。

そのほんの一瞬だけイオンの右側はがら空きになっていた。


ガッ!


世界が揺れた。

アドリアは押さえられた剣を逆らわず流し同時に柄から左手を外してイオンの顎に肘打ちをお見舞いしていた。

「横車」の型だ。


一瞬の意識の空白、その瞬間に今度は右手の剣が翻ってこめかみを打たれた。


世界が回る。

まずい──


パァン!


自分の頬を思い切り叩いて目を覚まし、力いっぱい大地を踏みしめて姿勢を正す。

青眼につけたときにはイオンは正常な思考を取り戻していた。

ダメージを受けたときにルーチンを取ることで無意識に体勢を立て直す術を心得ていたのだ。


間合いが近く鍔元での一撃だったために耐えられたが剣先で打たれていたら昏倒していただろう。

やはりイオンの剣はアドリアには及ばない。


彼女の主人にはそもそも出場自体を反対されていた。

主人の家の価値観に照らし合わせて、その部下を秘かに参加させるというのは卑怯の振る舞いに入る。

それにイオンの技量は同年代では抜きん出ているとはいえ選考会本選を勝ち抜けるほどとはとても言えない。

その上この忠実過ぎる侍女は主人のためとあれば無茶をしがちだ。

主人は大きな怪我につながることを危惧していた。


事実イオンは一回戦で死にかねない怪我をした。

しかしその怪我を癒した主人は諦めたように首を振って「頑張っていってらっしゃい」と言ったのだった。


期待はされていなくても応援には応えたい。

イオンは再び果敢に切りかかった。

アドリアもまた型で応じる。


「猿飛」、「浮舟」、「白雨」、「風神」、「調子」。


「松風」、「不落」、「玉霰」、「村雲」。


「清流」、「空蝉」、「霞切」、「白縫」、「無明」──


およそ一秒に三手の速さで型の応酬が続く。

それほどの速さでありながら約束稽古でもしているのかと思うほどに双方当たらない。


それは魔法が飛び交う派手な試合とは違ったが観客たちは目を離すことができなかった。

そのスピード感緊迫感はこれまでの試合の中で最高のものがあった。

きっと目を離した瞬間に勝負が決まる、皆そう確信していた。


次に初動を取ったのはアドリアだった。

滑るように間合いを詰めるアドリアの構えは八双。

イオンは剣を下段やや左側につけた。


対手は「高山」の型、魔力斬を伴う打ち下ろし。

ならば下段で打ち気を誘い、相手の切り下げより一瞬早く右斜め前へ移動してかわしつつ左脇を薙ぐ「登竜」の型で対抗する。


これが恐らく二人の最後の攻防になる、リゼはそう読んだ。

剣術の達人であり、また観客席から俯瞰しているリゼにはアドリアが何をしているのかよく見えた。


リゼならば対応できる、というよりあのような状況にはならない。

しかし──

(あの子には無理でしょうね)

リゼは軽く首を振った。


あの華麗なるアドリアお嬢様の、いっそ残酷と言える戦略にリゼだけは気づいていた。


アドリアの間合いに入る半歩手前、その天を目掛けて掲げた剣先がピクリと動いた。

(今!)

反射的にイオンは「登竜」の型に入った。

剣先を捻り返し、切り上げ、左足で送って右足を斜め前に進め、体中で伸びあがるようにして左脇へ打ち込む、すべての動作を一呼吸で──


衝撃が来た。


半歩遠い間合いからの神速の魔力斬がまだ切り上げを始めたばかりの右手首を打った。

さらに切り抜けた剣先が下段からV字型に跳ね上がって左腕を斬り上げた。

「高山」からの「燕返」の変形である。


イオンの剣が宙を舞う。

右腕を折られた、左腕も折れていた。

剣が落ちて砂に刺さったときには首筋に剣を突きつけられていた。


「降参しなさい」


オオオオオオッッッ!!


観客たちが一斉に立ち上がって絶叫した。


アドリアはここまでイオンの速度で動いていた。

アドリアが最初からアドリアの速度で動いていればイオンはもっと守りの堅い型に徹し、試合を長引かせただろう。

長引けばもしかしたら何かの紛れが起こってアドリアが逆転の痛撃を受けることもあったかもしれない。


しかしリゼが看破した通り、打ち気を誘ったつもりで誘われたイオンの動きは全てアドリアの掌の中。

そして少し遅い動きに充分慣れた今アドリアが突然速度を上げるとイオンは一瞬ついていけなかった。


痛む両腕を押さえることもできずぶら下げて、イオンは今窮地に立っていた。


イオンは思った。

あの飛び入り参加のメリルとかいう女、あれはどんなに速くて力が強くても対応できない相手ではない。

積み重ねがないからだ。

どう見ても素人同然の動き、南流が最も得意とする相手だ。


しかしこの公爵令嬢の強さは違う。

イオンが南流を選択したのは剣術のセンスがなかったからだ。

例えばアルド流などは凡才がどれだけ努力したところで天才には絶対に敵わないが、南流はやればやっただけ力になる。

努力の量がすべての流派だ。


言い換えれば南流の型はただひたすらに続けることでしか身につかないということでもある。

アドリアの強さは積み上げて、積み上げて、積み上げた者の強さだ。


家柄、財産、容姿、才能──イオンは目の前の何もかもに恵まれた少女が自分以上の修練を重ねてきたことを認めざるを得なかった。

積み上げずともすべてを持って生まれた令嬢が、何故こんなにも積み重ねなければならなかったのか?


「どうして……」


本来他人には意味不明な呟きであったが、しかしアドリアはその言葉の意味を正確に理解した。


「あなたと同じよ」


自分のためにする努力には甘えが入る。

他人のためにする努力には限界がない。


二人共に自分以外の誰かのために強くなったのだ。


(それでも──)

せめて一矢報いたかった。

イオンは自分から首に剣を刺しに行った。


普通なら怯む、怯んで剣を引く。

そこを押し倒す。

腕が使えなくても頭を叩きつける。

怯まなければ本当に首に刺して、筋肉を締めて剣を奪ってやる。


しかしアドリアは剣を引きもせず押しもせず、冷徹に魔力撃を二度撃った。

至近距離での強烈な魔力撃──一発目はシールドで防いだ。

二発目は耐えられなかった。


衝撃が全身を貫いた。


(マリエラさま……)


イオンは衝撃のままに仰向けに倒れた。


「勝負ありッ!」



「奇跡は二度起こらずッ!下馬評通りアドリア候補の勝利だァァァッッ!!」

名前:イオン・ニール

年齢:16歳

称号:忠節の剣士

身長:155cm

体重:54kg

地位:イフタール伯爵令嬢侍女

流派:南流剣術

HP:350

MP:420

握力:38kg(利き手)

走力:100m13.83秒 10,000m35分40秒(いずれも魔法未使用時)

知能:101

装備:少年みたいな服、大脇差

特技:メイド仕事全般。

メモ:得意料理は異世界風茶碗蒸し。

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