13 第一回戦第八試合「女騎士と精霊使い」
「さあ一回戦もこれで最後、注目の選手が登場です。エリス候補は今大会最年少の十三歳!予選以前の戦歴は一切ありません。現王妃陛下と同じく精霊使いのようです。剣を持たない純粋な魔法使いながらここまでまったく無傷で勝ち上がっているとの情報が入っております。──あ、無傷というのは負けたことがないという意味ではありません。文字通り一度も、かすり傷すら負ったことがないのです」
「にわかには信じがたい話ですが、本当なら今大会のダークホースになるかもしれませんね」
「対するカティア候補は雷撃魔法の使い手として知られております」
「ええ。とはいえ雷撃魔法一辺倒ではありません。剣術の技量も高く評価されております。何を隠そう私も去年から指導に携わっておりますのでよく知っておりますが、遠近共に隙がないと言えるでしょう。これまでの試合でもほとんど速攻で相手を沈めております」
「さあエリス候補はカティア候補の雷撃に対応できるのでしょうか?注目の一戦が始まります」
カティア・リダ・アスコートは子爵家の令嬢である。
十九歳168cm64kg、雷撃魔法をメインに筋力増大や知覚拡大など複数の魔法を使いこなし、試合のレベルに留まらない強力な戦士として知られている。
子供の頃から高い評価を得て去年からは王国軍に入隊していて、将来的には近衛師団への配属が期待されている。
胸当てと小手を着けているのは同じ騎士剣術のティナと共通している。
ただしドレスだったティナと違いこちらはパンツに脛当てで、ほとんど騎士の姿だ。
伸ばした髪をきっちり編み込んで後ろでまとめているところだけは女性らしいポイントだろうか。
カティアがこのトーナメントに出場した理由はどの選手と比べても、ユリエルやメリルと比べてさえかなり自主性に欠けたものだった。
友人たち二人が参加するというので自分も参加してみたのだが、強かったので本選まで進出してしまったのである。
見た目は男の子みたいだが天性人のいいカティアは、予選で当たった人生を賭けていた子たちに悪かったかなぁ、でも自分に負けるようなレベルで本選に進出して大怪我するよりは良かったかなぁ、などと妙な後ろめたさを抱えてここに立っていた。
まあ少なくとも異様なやる気を見せているマリエラの邪魔はしないでおこう、と思っていた。
「子供相手だが手加減はしねぇぞ」
などと言って自分を奮い立たせているが子供相手だと本当にやる気が出ないカティアだった。
それに優勝する自信はあってもあの王子の隣に座る自信はなかった。
あの顔の隣に置いて絵になるのはアドリアくらいなものだろう。
(それとこの子か)
カティアは開始線の向こう、9m先の子供に目を向けた。
十三歳という年齢よりも幼く見えるのは線が細い、というより痩せているせいだろう。
食事が足りていないように見えた。
ちゃんと食べてるのかな大丈夫かな、と心配になるほどだが、にもかかわらず顔が素晴らしく整っているのは見て取れた。
五年後のこの少女ならあの王子と並べても見劣りしないだろう。
エリスは十三歳。
実はまだ誕生日を迎えていないので満年齢では十二歳である。
もっとも本人は自分の誕生日を知らないため十三歳だと思い込んでいるのだが。
148cm37kgは大会参加者中最年少にして最小最軽量だ。
先に大きな宝玉のはまった魔法の杖を持ち、直径30cmほどの水の玉を四つ体の周囲に浮かべていた。
白いブラウスシャツに臙脂色の膝上丈のスカート、金糸で縁取られたショートローブも口の開いたショートブーツも黒を基調としている。
つばの広い三角帽子もやはり黒く、桜色の柔らかな髪がその下で光を放つようだった。
「始めぇッ!」
「チッ!」
試合開始の合図と同時にカティアは雷撃魔法を飛ばした。
ちょっと痺れるくらいの弱いやつを。
しかしエリスには読まれている、一瞬早く影が盛り上がってつるんと丸くエリスを包み隠していた。
バシュッ!
かすかなオゾン臭を残して雷撃は影に吸い込まれた。
カティアはしかし雷撃の効果を確かめる前に動き出していた。
魔法による身体能力の向上だけではなく、微弱な雷撃を身に纏い筋肉の反応を底上げすることで候補者中屈指の速度を実現している。
速い、既にエリスは間合いの内──突然足元の砂がせり上がった。
砂が無数の棘となってカティアに襲い掛かり、馬防柵のように行く手を塞いでいた。
しかしカティアには見えている。
卓越した身体能力で飛び上がってかわし、剣に雷撃を纏わせ上空から襲い掛かる。
かすりでもすればそれで気絶!
(優しくノックアウトしてやるぜ!)
しかしエリスはそれも読んでいた。
薄い影の球体の向こうで、右手に杖を持ったまま左手で指鉄砲を作ってカティアを狙っていた。
バチッッ!!
(!?)
エリスが何かを呟いた、次の瞬間シールドのない背後からカティアを雷撃が貫いた。
カティアのそれとは原理の違う雷撃、雷の精霊による攻撃だった。
まったく意識の外からの攻撃だ。
雷撃魔法の使い手であるカティアに雷撃魔法はダメージにはならないが、少なくとも一瞬意識がエリスから逸れた。
同時に目の前の空気が爆ぜた。
風と火の精霊の力だ。
「グアッ!」
攻撃が読めない、対応が後手後手になる。
叩き落されて地面に転げたカティアが跳ね起きる前に砂が蠢いて剣ごと腕を取り込んで固定した。
同時に水球が一つ飛んできてカティアの頭を飲み込んだ。
(呼吸が……ッ!)
動けない。
自由な左手で水を掻いてもまとわりついて離れない。
苦し紛れに撃った雷撃も影に阻まれてしまう。
さらに足も、胴体までズブズブと砂の中に沈み込んでゆく。
窒息したカティアはほどなく意識を失った。
「勝負ありッ!」
ワアアアアアッ!
スタジアムが沸騰した。
「つッ……強────いッッ!!弱冠十三歳、開始線から一歩も動かず大勝利だあッ!!」
「いやこれは……聞きしに勝るとはこのことですね」
想像外の圧勝劇に実況席の二人も興奮してしまっている。
「あのカティア候補に何もさせませんでしたよ。実況が間に合いませんでした」
「驚きですね。王妃陛下が優勝されたあの二十年前の大会を彷彿とさせます」
「これは一気に優勝候補に躍り出ましたね」
「ええ。次の試合も楽しみです」
名前:カティア・リダ・アスコート
年齢:19歳
称号:雷帝
身長:168cm
体重:64kg
地位:子爵令嬢
流派:騎士剣術、雷撃魔法
HP:920
MP:510
握力:53kg(利き手)
走力:100m12.15秒 10,000m37分52秒(いずれも魔法未使用時)
知能:96
装備:騎士鎧(軽量)、盾と剣
特技:『トールハンマー』大雷撃魔法、雨の日のみ使用可能。
メモ:魔法のせいで髪が全然まとまらない。




