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霊戦  作者: 悠布
34/36

32:帰省練習

 数日後。

 俺と梨生は夜の公園で、自然に身体から滲み出る霊力を抑える研究・修行をしていた。モクモクと虫除け線香を焚きながら。


 なぜ夜かと言うと、昼間は単純に暑いからってのと、周りが暗い方が二人とも霊力を視認しやすいからである。家同士も多分そこまで離れていないので、何もない公園でも集まりやすいのだ。

 客観的に見た言動が怪しいが、そこはご愛嬌。


 まず俺が、自分でもよくわかっていない手本をみせる。


「今のこれが、無意識に普段から抑えている程度の放出量な」


 特に何もしない時は、おそらく万人がイメージする「ザ・オーラ」といった光が、身体に近い部分ほど濃く漂っている。内部が赤、外部が緑色だ。


「自宅で気を抜いていても、家の外に出ると無意識に少しだけピシッと振る舞うだろ?

 その程度かな。殆ど意図せずに抑えているみたいだ」

「なるほどなるほど…」


 ブランコを囲む鉄棒に座っている梨生が頷く。


「で、これが...いつも寝る前とかに、自然に解除していたらしい本来の状態」


 睡眠モード(仮)になるように気を抜くと、ぶわり…と光が広がった。半径数メートルはある、ほぼ均一の濃さの、ちょっと禍々しい感じの霊力だ。緑が消えて、暗めの赤紫になっている。


「うわぁ…この感じ、少し久しぶりです。やっぱり、かなり抑えてたんですね。

 私はもう慣れましたけど、普段からこれで街を歩いたら…霊感のある人や動物はそっと逃げ去るでしょうねぇ」


 彼女は目を見開いて、俺の周囲の宙空に視線を向けている。

 

 確かに、生き物だけじゃなく弱いオバケすらも逃げ出しそうな威圧だと自分でも思う。ただし鹿狼は逆なようで、


「れーし、ぶわー!」「れーりょく、どわー」

「うまうま…」「げんきー!」


 と、喜んで霊力を食ってる。

 ...それを見た梨生が唾を飲み込んでいるのが怖いから、程々に、な…?



 そして今度は、元に戻す。

 外出モードに、ほんの少しだけ気を張るように。


 それで適度に穏やかなオーラになった。

 ...。


「わっからん! どうやってんだコレぇ!」

「至極簡単そうにやってのけますね玲史…」


 梨生がやる気を燃やしている。

 因みに彼女の霊力の色は、青とレモン色のマーブルだ。混じって緑色になること無く、綺麗に共存して流動している。

 

 クリスマスカラーの俺は、この夏らしい色に敗北感を覚えるぜ……早く冬にならないかな…


 霊力を抑えている普段の俺よりも、やはり抑えていない彼女の周りに広がる範囲と濃さの方が強い。初めて視えるようになった時と比較しても大きくなっているので、数ヶ月も会っていない家族にはそりゃあ丸わかりだろう(既に理由は聞いた)。


 梨生が目を閉じて、両手で拳を作ってプルプルしている。

 

「ど、どうですか…? 引っ込んでます…?」

「うーん...広がってる範囲は狭まったけど、代わりに凝縮されて濃くなってるな…」


 ならば、と次は目を開けて拳を解いた。

 ふわーん…! と範囲が広がる。


「えい! どうですか!」

「うっすら光る、謎の巨大な発光体になったぞ」


 うー、はぁ…、と息をついた彼女が質問してくる。


「玲史は引っ込めている分の霊力を、どこかに収納しているんですか? それとも、そもそも作り出していない?」


 え。どうなんだろう…

 抑えている時は色が違うから、単純に引っ込めているという訳ではないのかもしれない。

 モードチェンジというか――


「制服と部屋着を着替える感じか……?」


 なんとなくそう言うと、梨生が少し赤面した。


「今纏っているのが部屋着だと思うと、急に恥ずかしくなってきました。早急に…対処します」


 そして、公園の離れた所のベンチに座っているカップル、外の道を歩いていく通行人、犬を散歩させている人などをじっくりと観察して――

 

 スッと、青と黄の光が消えた。

 

 次いで、じわじわと、一般人以上・最初に見た頃の梨生未満の大きさの紺色の光を纏っていく。

 


 ……すげぇな。まじで早急に対処しちゃったよ。

 女子舐めてたぜ。

 

 スマートなスーツを着ているみたいだ。益々、俺のクリスマスカラーの制服が恥ずかしくなってきたんだが、どうしてくれる。


「…変わりました?」

「色も形も変わって、小さくなったけど…

 そっちの方が、明らかにバレるだろうな...」


 抑える事ができるようになった、と知られたら本末大転倒だ。

 だが、彼女はめげない。


「じゃあ部屋着を薄く、サイズを小さくします。

 …ほら、玲史も一緒にやるんですよ!」

「へっ、へい!」


 自分の部屋着がダボダボの分厚い赤紫カーテンだと思ったら、なるほど…恥ずかしくなってきた。

 外でも着れるように仕立て直す!!



 

 ―――さらに数日の後。


 俺たちは、部屋着の内側の部分をインナー(身体内の霊力)に見せかけるという、半分無茶なごり押しに成功した。

 皮膚の下に仕舞うのだ。もはや自分でも理論などわからん。


 だがその過程で、霊力操作が相当上達した。オーラの形を、何種類もの着ぐるみに変化させられる程度には。…いずれ役立つ事を願う!


 夜の公園で「部屋着」だの「皮膚」だのを連発するだけでも怪しい奴らなのに、昨日今日、梨生はサングラスまで掛けてきている。

 お陰で公園から人が消えた。そして分散されていた蚊が集中してきたので、ついでに習得した物理用(フィジカル)霊力(オーラ)結界(バリア)で完全ガードした結果、俺たちは網戸も蚊帳(かや)も虫除けスプレーも不要の鉄壁のボディを手に入れた!

 

 という冗談のような副産物が、一番の成果であった。




 俺は昼間に何をしていたかというと、新しいバイト先でカツ丼を出す仕事をやっていた。

 捕まった呪詛集団を前にして、背後関係を読める霊視能力者や普通に思考を読める読心術者と組んで、ひたすら「田舎の母ちゃん泣いてっぞ?」と――…間違えた、『上の組織に関する事を正直に話せ』と繰り返すだけの単純な作業である。…分析機関とやらの仕事じゃないのかよ。

 

 と言っても、一人の取り調べにも結構な時間がかかるので、俺は時折言霊を使う時以外は殆どやる事がなかった。


 自然に湧き出る霊力は尽きず、疲れはしないのだが。

 皆んな…どうでもいい情報ばかりペラペラと喋るものだから……あまりにも手応えが無くて精神的にゲンナリくる。うぅぅぅ...

 


 休憩中にグデーッと伸びていると、わらわらと人が集まってきて、


「人材の無駄遣いだ!」「本宮はどこ!?」

「結界の測定したいから来て…」「それはダメだ」

「浄霊に興味ない?」「君ならきっと人命救助が…モガッ」


 …などと大騒ぎをしていた。

 皆が一度に押し寄せるものだから、新しい事は逆に何もおきなかった。それでいいのか本部...


 そういや、ここの正式名称は「日本心霊能力発展協会」だそうだ。但し、誰も使っていない。

 通称は「拝み屋総合連」、もっと略して「拝連(はいれん)」と呼ばれているらしい。

 ――おや、時間だ。


「...休憩上がりまっすー」


「うぇぇぇ!? ちょっと、邪魔されたせいでもう…」

「本宮はどこへ行ったー!」

「散れ散れ! 騒しい」


 また、わらわらーっと解散していった。



 一気に静かになって、一緒に作業をしていた二人が苦笑いしている。今日組んでいるのは、鬼級読心術者(霊視部)の女性と霊級霊視能力者の男性だ。


「すんません、休まなきゃいけないのに…」

「いや全然。おもしろいからいいよ、気にしないで」

「そうそう。見てたらなんだかリフレッシュできたわ」


 自分のせいで人を集めてしまった事を謝ると、快くそう言ってくれた。

 ありがたや…

 …――リフレッシュできるほど面白かった?



 伸びをしていると、次の取調べ者が部屋に連れてこられた。

 無精髭を生やしかけた、冴えない感じのこのおっさんは...


「あれぇ。バスの中で包丁持ってた人じゃないっすかー」


 まだ居た、というか捕まってたのか。

 疲れた表情で下を向いていた彼は、俺の声に聞き覚えがあったのだろう、訝しげにこちらを見やった。


「…変な格好の奴か。まさか、取り調べる当人だったとはな…」

「本物の虚無僧に失礼だな。…まぁいいや、やっちゃってくだせぇお二方」


 先ず二人が視て、それから俺が喋らせて、その後にもう一度視るという3段構えのスタイルなのだ。だから彼らの方が、一言『話せ』と言うだけで済む俺よりも余程疲れているはず。素早く終わらせようぜ。



 じぃっと彼を視ていた2人は、ややして首を振った。


「これまでの奴らと同じように、知らないようだ。

 わかるのは、上の連絡先だけ」

「…ダメ、全く焦ってない。本当に知らないみたいね」


 ...神社に、チビクマの霊体を取り返しに来ていた連中の全員が、一つ上層の者たちに直通する詳しい情報を持っていないなんて事があるのだろうか。


 …ダメ元で。言葉を変えてみるか。


『おまえに掛かっている全ての術は失せた。

 思い出したことの全てを、正直に話せ』


 ――途端、霊力がグゥゥッっと持っていかれる。

 

 抜け出たエネルギーは今までとは違う動きをした。

 男の全身を包んで内部に入っていき……弾ける。


 驚いたように固まっていた男の様子や表情に変化は無い。

 ...しかし、彼はごく普通に口を開いた。


「一般人を利用して呪詛を掛けようとしていた、今回のターゲット。その者の名前は「アガタ サネマサ」。もし情報を知られた際には、与えられた霊力を使い、相手を道連れに自爆すること。依頼達成時の報酬は――…」



 その後も、おっさんは無表情で他のことも喋り続けていた。

 証言・情報記録係の人が顔を強張らせて、凄い勢いでメモを取っている。この部屋には何種類もの記録用の機械が設置されているのだが、頻繁に調子が悪くなるらしいので、最後は手書きの記録なのだ。


 邪魔にならないように身体を縮こまらせながら仲間二人をちらりと仰ぐと、彼らも恐ろしいような表情で男を凝視していた。

 

 …何が視えているんだろうな。

 彼を連れてきた係の人も険しい顔になっている。

 

 すっとぼけて目をパチパチさせているのは、バイトを始めたばかりでまだ色々とわかっていない俺だけのようだ。

 こういう時は、余計な事を言わずにとにかく周りの先輩たちに倣うべし。


 という訳で腕を組んで、難しい顔で真剣に「アガタって誰だろう」「どうやって自爆するんだろう」と考えていたら、男がひとまず喋り終えたのか、ピタリと黙った。


「......」


 

 ペンを動かす音も止み、部屋に沈黙が降りる。


 ――次の瞬間、皆がガタガタと椅子を動かして立ち上がった。


「今までに調べた全員をもう一度連れてきて!」

「まずは報告が先だ、誰でもいいからとりあえず主任に…」

「記録者を増やしますから少々お待ちを!」


 …なんだ、なんだ。

 ちょっと緊急事態っぽい雰囲気だけど…これで普通なのかな? わからん。


 急に忙しげに動き出した皆を横目に固まっていると、後ろから肩をポンと叩かれた。

 振り返ると、読心術者の女性である。


「アガタサネマサは、ここの会長。

 ――よく、相手に記憶操作の術がかかっていることを見抜いたわね。いくら私たちが心を読んでも記憶を辿っても、視えない訳だわ…」


 会長?

 つまり社長か!?


「いえ、もし俺が彼らを使う立場だったら…出来るだけ強力に隠匿するだろうな、と思っただけです」


 人の口に戸は立てられないからな。

 だったら記憶を消してしまえばいい。


 ...敵も言霊か何かで、それを行ったのだろうか。

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