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霊戦  作者: 悠布
29/36

27:責任の意味

 つまり。


「みんな…消えちまったのか…?」

「はい。終わりのない悪夢のような空虚から、解放されました」

「...」


 当事者たちに言われると、何も言えない。

 彼らは正面から俺を見つめると、一斉に頭を下げた。


「運良くも奇跡的に助けていただいた私たちの方から、彼らの分まで御礼を申し上げます。

 ありがとうございました」


「...ああ。…役に、立てたのなら……よかった」


 …彼らが助かって、良かった。

 最初に少しずつ削らずに、一気に…と考えもしたのだが、それをやらなくて…正解だった。



 今度こそ、鹿狼に先導されながら不思議な空間を戻る。

 その間、何かを考えていた少女が、ごく自然に話しかけてきた。


「ねえマスター。例えばの話なんだけどさ」

「…うん?」

「ジエイタイっているよね。国民を助けるための軍隊。彼らが開発した防衛のための機械が暴発して、国民を傷つけたら、どう思う? その時は完全に機械の誤作動で、操作した人は全く悪くなかったとするね」


 うーん...


「不幸な事故、かな?

 誰の責任でもなかったって事だろ?」

「うん。でも、操作した人は「自分がスイッチを押したことには変わりない」って気に病むんだ」


 客観的には「おまえのせいじゃないだろ?」と言ってしまうが、本人だったらそうかもなぁ。


「気が済むまで、その人なりの償いをすればいいんじゃないかな。無理にその人の思いを否定するのは可哀想だ」


「...そうだね。アタシたちも手伝うから」

「―――え?」


 その意味を聞こうとした瞬間、身体を浮遊感が襲い、意識が遠のいた。



       ◇



 ――現実に戻ってきた、とわかった。

 もう、夢の中のようなフワフワ感は無い。


 辺りを見回すと、神社の中なのにいつの間にか結界が解け、再び光る輪郭だけになってしまった鹿狼たちが傍にいた。

 その内の一頭がどこかに駆けていき、要と梨生を連れて戻ってくる。


「戻ったの玲史!? …あ、角が消えてる。それに…第三の眼?」

「よく無事で。本当に良かったです、お疲れ様でした」


 そう言う二人の顔色は良くない。要なんか、今にも倒れそうに見える。


「なんとか。夜刀神を取り込んだら、身体が戻ったみたいです…」


 告げながらも、建物の向こう側がなんだか騒がしい。

 ...何だ? …すごく嫌な感じがする。


 ふと、建物の反対側から、誰かが言い合う声が聞こえていることに気づいた。


 要に連れられてそちらへ向かうと、宗弥と弥月が元気の無い様子で言い争っていた。


「...だから、何があったってわたしが離れちゃダメだったんだって、言ってるじゃない…

 その為に呼ばれてたんだから。わたしが…一番強く神界を支えてたんだから...」


「お前が完璧に防げれば、こっちは呼ばれてねぇよ。

 おれこそ、絶対に気を緩める訳にはいかなかったんだよ。誰よりも早く想定外の事態を察して事前に止めるのが、役目だったんだから…」


 その様子は、よく似ている。きょうだいだったのか?

 いや、それより、一体何が...


「玲史が戻ったよ」


 要が声をかけると、二人ともハッとしてこちらを見た。

 だが、なんとも言えない表情を浮かべている。


「...たった今?」

「そう。まだ…」


「――……玲史」

「はっ、はい…」


 弥月に射抜かれるように見つめられ、思わず姿勢を正して返事をする。


「...誰のせいでもないから…ね」




 そのまま二人を残して建物の正面に回ると、神社の周りには救急車と消防車とパトカーが停まり、黄色いテープが張られ、色々な隊服を着た人たちが忙しなく動き回っているえらい騒ぎだった。

 それよりも...


 引き抜かれそうになって傾いた大木、全て割れて砕けた石灯籠、地面に散乱する枝や岩の破片、よく見れば壊れかけている建物、倒れた鳥居、そして。焦げた地面と血の跡。


 何人もいた、着物の人たちが誰も居ない。


 ......。


「君が箭括様と交代した後、しばらくずっと、軽く物が飛んだり火を飛ばしたりしていた。内部の戦いの余波だ。

 霊力は玲史が使っていたため、彼は自分で結界を張るなどして防ぐことはできなかったらしい」

「...はい」


「箭括様による昔の貴重な話が聴けるとの噂を聞きつけ、人が増えていた。皆で交代して、霊力の消費の激しい彼ーーひいては君に、エネルギーを渡していた」

「…はい」


「そのうち、ぴたりと物も火も飛ばなくなった。皆油断して...僕たちも、結界の外にいた鹿狼たちの所まで出ていた。そしてーー最後に、とても大きな余波が、きた」


 ...。


 ……余波なんてものが、外に出ていたなんて。

 ...どう、しよう、何も考えられない。


「結界のお陰で、神社の外にまでは被害が及びませんでした。だから…私たちも、無事でした」


 梨生はそう言うが、裏を返せばそれは。


「ぐ……宮司さんと、要のお父さんと、他の人たちは...」


「父は、神社の外で騒いでいた連中を別の場所に届けていたから無事だ」

「――結界の中にいた人たちは、全員救急車で運ばれていきました」


 今すぐ入院が必要そうな顔色の要ですら、この場に残っている。

 ――あの、地面が焦げ付いた跡と、血痕。参道の外は土の地面だから、パッと見える以上の惨状なのだろう、本当は。



 それを俺がやった。


 …どうすればいい、なんて言えばいい。

 いや、そもそも。


 謝ることができる人が、どれほど残ったか。

 


 頭が真っ白になって凍りついていると、梨生が静かに口を開いた。


「私たちは、箭括様より、余波の鎮圧を任されていました。

 私は消火を、要は物の安定を。なのに他の方にそれを任せ、結果的には自分たちだけ安全な場所でサボっていたんです」


 ...さっき、似たようなことを聞いたな…

 

 腕時計を見ると、最初から何時間も経っていた。

 ――麻多智を囲む人たちが多かった中で、ずっと気を張りっぱなしで警戒し続けられるわけがない。

 

 それにあの(・・)余波だ。

 なるほど、仮に弥月が中に居て、宗弥と要と梨生がいくら素早く反応しても...どうにもできなかっただろう。


 誰のせいでもない、か。

 だな。止められなかった・防げなかったのは、全く彼らの気に病むところではない。

 それは元凶である俺の……いくら、悪気はなかったとは言ったって、引き金を引いたのは―――


「れーし…」

 『自分がスイッチを押したことには変わりない、って』



 愛らしい鹿狼の声が、重なって聴こえた。



 『俺がもし、周りに――、――止めてほしい』

 『いえす!』


 『その人なりの償いをすればいい――』

 『アタシたちも手伝うから』



 ...ああ。

 なんて難しい、ひどいことを気軽に「お願い」してしまったんだろう。

 今はただ、彼らの無事を喜び、その行いに感謝をするしかない。



 俺は無言で、倒れてしまっていた神社の説明の立て札を引き起こした。創建の由来などの他、祭られている神様の名前が記してある。

 

 それをしっかりと頭に入れ、半壊した拝殿に入った。

 最初よりもより斜めになった本殿の方向を向き、傾いて畳の取れた板張りの床に正座して深く頭を下げる。


「申し訳、ありませんでした。

 そして無事だった者…いえ、全ての者をお助けくださり、ありがとうございました」


 さらに深く祈る。

 今の自分にできることは、それだから。


「お怒りのところを、無理を承知でお願いします。

 どうか……神社で傷ついた人たちを…助けて下さい。

 間に合わなかった人たちを…迷わないよう、お導きください...」


 霊体の存在がわかるようになって、現世にはかなりの数の幽霊が彷徨っていることを知ったから。


 全員が助かった・助かるとは思っていない。

 亡くなって迷ってしまっても、魂の居場所を見つけ出して謝り、俺が成仏させる。



 悔やんでいる暇は無い。

 もう二度と同じことを繰り返さないよう、尽くすだけだ。




 ふと話し声が聞こえて振り返ると、拝殿の入り口で、警察官と梨生が話していた。


「――ですから、もうお話しました。重要な儀式があったから、偉い方たちが集まっていたんです。それが失敗したのでしょう」

「しかし、そんな非現実的なことを言われても…

 本当に、爆発ではないと?」


「あの規模の爆発でしたら、神社のすぐ外の木や建物にも被害が出ているはずです。結界があったから、外にいた私たちは助かったんです」

「だが、ねぇ…」


 どうやら、結構ありのままに説明をしたらしい。

 こちらが何を言おうと、警察は爆発として処理するのだろうが。

 でも...そんな不名誉を、これ以上雲訪神社に授かってほしくない。

 

 警察官に、向き直る。


「建物は、爆発以外でも飛ぶんです」

「玲史…」

「お見せします。ですから、どうか……局所的な地震とそれによる二次被害ということにしてください」


 変な人を見る目で俺を訝しげに眺める警察官の横を通り過ぎ、外に出た。

 梨生が小走りに、建物の裏に回って弥月たちを連れてくる。


 宗弥が、俺の肩に手を置いた。


「建物の位置を直すんだってな。

 エネルギーまだ戻ってないだろ、これ使ってくれ」


 そうして渡された霊力は、なんとか建物一つを浮かせてずらすくらいには足りる。 


「ありがとう」

「私も手伝います。とりあえず拝殿の向きだけでも戻しましょう」


 梨生が隣に進み出た。

 

 ――そうだった。彼女は、そもそも。

 もう飛べるだろう、って要にも言われてたしな。では、有り難く。


「わかった、一緒にやろう」

 


 荒れて、皆がいなくなった境内で。代わりに緊急車両と隊員の人たちが行き交う中で。爆発じゃないと証明するために。

 こんな状況で、これを行うことになるとは。


 ――『すぐに、余裕で...』


 

 片手を伸ばして拝殿へと向け、僅かにクイッと指を上へ動かした。それだけで、ミシミシと音をたてながら建物が数十センチほど持ち上がる。

 背後で、警官が息を呑んだ。


 俺の腕にそっと手を添えた梨生から、何か――指令のようなものが流れ込み、指先を通して飛んでいく。

 

 ゆっくりと、建物が水平を保ったまま回転した。

 入口が正面を向く。


 それを確認し、もう一度同じ仕草をする。今度は下に。

 殊更(ことさら)丁寧に降ろされた拝殿は、ほぼ振動を立てることなく静かに着地した。


 ――『元に、戻せるように...』

 

 ……戻せるように、なりました。

 貴方の、見ていないところで。



「信じ...られない...」


 呆然と呟いた警官に、頷く。


「はい。ただ、爆発以外の原因だったと、信じていただければ」


 今やれるだけのことはやった。



 その様子を、傾いた木に背を預けて立っていた要が、黙って見つめていた。





――― 雲訪神社・人的被害結果 ―――


中軽傷:3名

 重傷:7名

 死亡:13名

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