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霊戦  作者: 悠布
25/36

23:敵との初邂逅

       ◇


 一旦閉じた目を、数秒後に開いた玲史は中身が代わっていた。

 忌々しそうに顔を歪めたあと、周囲を見回して舌打ちをする。


「よく神界を張れたものだ。術者は…全員外か」


 入り口に歩き出そうとした彼の前に、数名が立ちはだかった。


「外には出るな」

「...」


 喋るのも面倒だとばかりに、夜刀神は目を細めて彼らを睨む。仮にも神の邪眼に射すくめられ、霊能者たちは意思とは別に身体の動きが止まってしまった。

 

 その脇を通り抜け、無造作に扉を開け放とうとした彼に、後ろから声がかけられる。



「開けたら撃つぜ」


 宗弥が、柱にもたれて立っていた。その体内で霊力が螺旋球状に巻き上がっている。


「依代の身体壊されちゃ困るだろ?

 この神界内じゃ、完全な防御はできないよな」


 実際その通りであった。

 それに――


 壁際で胡座をかき、膝に肘をついてこちらを観察している要と目が合った。

 だらしない姿勢だが、いざとなればおそらくこの場の誰よりも迅速に迷いなく()を止めに入るだろう。それこそ、殺してでも。


「貴様ではなく別の者だったら、今の事態は避けられたのだろうな」

「そうかもね」


 挑発されても、微塵も動じない。

 彼の周囲だけ風が凪いだような静謐さを漂わせている。


「無能な師の元につく事ほど、哀れなことは無い」

「僕のことはどうでもいい。...気づいてる?」


 要が下から見上げる。


「君は一度も、思い通りに玲史に勝てていないことに」

「...黙れ」


 痛い所を突かれたのか、表情こそ微塵も変えぬままだが彼の瘴気が濃くなった。


 神社の外に出るためには、まず拝殿を出なければならない。その為にはこの場にいる者を排除してから、外の者たちを倒す。単純な理論だ。


 だが、厄介な状況に置かれているのも確かである。

 今の弱体化している彼の脅威となり得る者たちが、この場に複数存在している。

 彼らの妨害を受けないままの突破はできない。しかし。



「...大人しく潜むのも流石に飽いた頃合いだ。いいだろう、久方ぶりに――…」


 夜刀神が、自らでも抑えていた邪神としての力の根源の蓋を開けた。

 彼の周囲に紫黒の瘴気のヘビがとぐろを巻き、彼らによって神界からの影響が遮断される。ヘビは次々に消滅してゆくが、それでも無尽蔵に湧き出て形作る霊力(ヘビ)は玲史のものだ。


「なっ……」


 まるで室内の空気全ての重力が何倍にも増したような、想像以上の重圧に、誰かが思わず声をあげる。



 ――まずは弱い者から。

 

 狙いを定めた霊能者たちに近づく。

 彼らはかなり強固な結界を自分たちに張っていたが、それでは保たないと判断し、距離を取ろうとした。おそらくヘビのバリアに触れただけでも、相当削られる。


「人間の力も落ちたな。それ(・・)でも優れたと言われる程度なのだろう?

 以前ならば、小さな村落にもゴロゴロ見られる程の霊力の持ち合わせにも関わらず」


 莫迦にしたような、残念そうな表情で前の人間に手を伸ばすが、


()


 湊 (はじめ)命令(ことだま)によって動きを止めた。


「外に出て、結界の維持と強化に手を貸すんだ。

 君たちでは危ない」

「…わかりました」


 告げられ、彼が相手を止めている隙に退避する。

 続いて、なんと彼自身も退出した。


「念のため外で待機する。絶対に中に留めるのだぞ、皆」


 そう言って無情にも扉を閉める。

 同時に、夜刀神が動き出した。


「…一番面倒そうなのが消えるとはな」


 口の端を吊り上げ、手を宗弥の方へ翳す。

 それを受け、彼も無言で同じ仕草をした。


「宗弥、ダメだ」

「なに?」


 要の言葉に、彼が視線を動かさぬまま反応する。


「一撃の威力は君の方が高い、けど速度は向こうが上だ」

「…だろうな。本来おれは隠れた所から撃ち込むのに適してるんだから」


 なんで堂々と中に居るんだっつーの、と小さく呟いた。



 夜刀神が嘲り笑う。


「そういうことだ、残念だったな――」


 躊躇うことなく放たれた攻撃はしかし、途中で乱れた。

 宗弥に到達する時分には、殆ど害を及ぼしていない。



「なりません」


 凛とした声がした。

 涼やかな水の香りにも似た、その気配。


 両眼に静かな光を(たた)えた梨生が、拝殿の隅にきちんと正座をしたまま夜刀神に焦点を合わせていた。


「神域にて人の子を(あや)める罪咎(ざいきゅう)(ゆる)しはしません。(わきま)えなさい」


 ハッとした要と宗弥が、急いで身体ごと彼女の方に向き直る。


「...随分と偉そうだな。表立って祀られる貴様らは」


 低く呟いた夜刀神が大股で歩み寄り、梨生の襟元をガッと掴んで引き起こした。


「!」


 咄嗟に対応しようと立ち上がった要は、玲史の中身がたった今、再び変わりつつあることに気づく。それと同時に宗弥が、練り上げてあった攻撃をかまそうとしている事にも。


「あ、ちょっ待っ…」

「はん、油断したな! 背を向けるとは!」


 止める間もなく、唸りを上げてぶっ放された不可視の砲弾の向かう先に、玲史? が驚いて振り向くのが見えた。





 麻多智はびっくりした。

 1500年ぶりに目の当たりにした現世でいきなり、己が若い女性の襟元を掴んで恫喝しているかのような現状にもだが、すぐ近くから大出力の霊力砲が飛んできたことにも。


 これを食らったら、相当マズい。

 だが避けると、気配からしてその先に本殿が。神様を怒らせる方がマズい気もする。


(しか)らば、何も無い方に流そうぞ!」


 飄々とそう言った時には既に、霊力でツルンとした盾を作り出して、上方へと綺麗に受け流した後であった。


「なっ…なんだと…!?」

「宗弥、たぶん大丈夫だから」


 愕然とこちらを見つめる青年をよそに、片手で掴んだままだった梨生を丁寧に床に降ろし、おろおろと問う。


「怪我はないか、後帯(御嬢さん)夜刀神(きゃつ)(はなは)だしき失礼をしたようで申し訳ない」


「あっ……はい、大丈夫です」


 いつ戻った(・・・)のか、彼女はきょとんとしていた。

 宗弥が彼を見て少し引いている。


「こいつ、三重…いや二重人格なのか…?」

「わははは、そうかもな!」


 にこにこ笑って、灰色一色以外の景色を嬉しそうに眺めている麻多智に要が問いかけた。


「玲史から聞いていました。箭括(やはず)様ですね?

 彼は、どこに...」

「うむ。

 玲史はな、我に魂と身体の主導権を預け、夜刀神との戦いに赴いた」


 どことなく自慢そうに告げた彼が、急に奇妙な顔をする。

 焦ったように両腕を触り、角を触り、叫んだ。


「いかん、漏れる!」

「手洗いならあっちにあるぜ」

「たわけ! 内部の余波がだ!!」


 言葉の通り、彼の周囲の空間が歪んで霊力が滲む。

 玲史と夜刀神が衝突したのだろう。

 使える霊力は全て玲史に流れ、麻多智が自らで結界を張るなどして抑えるのは不可能になった。

 

 矢継ぎ早に指示を出し始める。


「娘、鎮火用意!」

「は…い!」

「小僧、物理全般を抑えよ!」

「畏まりました」

(かわや)、その他を任せる」

「誰が便所だ!」


 宗弥が喚いた瞬間、麻多智を中心として四方の空中に炎の道が伸びた。

 次いで、小さな火の玉がランダムに飛ぶ。


 宙にある段階では霊力撹乱で、壁や床に引火したら水鉄砲で、梨生が着実に消火してゆく。

 

 そして麻多智の周りから順に、畳が次々に持ち上がっていった。難しい顔で胡座をかいて腕を組み、目を閉じて集中していた本人もひっくり返る。


「ぬおぉっ!」


 舞い上がる畳の動きを鎮めるので精一杯の要に代わり、宗弥が畳を回収して一箇所に積み上げていく。

 

 宙を飛び交う炎と水と畳、さらに他の物体で視界がめちゃくちゃなせいか、地面まで動いている気がする。


「…人数不足にも程があるだろ!

 ――もう2人くらいヘルプ! 今は安全だから!」


 畳の襲来の方が、夜刀神よりはまだ安全である。

 そう考え、扉の外に向かって叫んで助っ人要請をした宗弥だが、返ってきたのは彼の片割れの怒号だった。


「何が安全!? 危険極まりないわ!

 歩く拝殿なんて聞いたこと無いんだけど!!」

「...へ?」


 さすがに、中にいる全員が唖然とする。

 

 その通り。

 内部の大混乱のせいでわからなかったが、外から見ると、傾きながらテッケテッケと拝殿が歩いていた(・・・・・)

 木にぶつかり、本殿にぶつかり、幸いにもそこまで遠くには移動していないが。



       ◇



 片手の人差し指を見つめ、少しだけ念じると、小さな炎が灯った。

 やっぱり、この空間でも霊能力が使える。夜刀神の技量ではなく、自らの力で。

 さすがに何日も乗っ取られたままだったからな、使い方の感覚は盗めた。


「とりあえずアイツが来たら、隙をついて一斉に突撃してほしい。

 やってみないとわからんが、俺が祓いまくってみるから」


 とんでもなくアバウトな仮説だが。

 彼らの魂をくっつけた夜刀神を、カケラとはいえ元の持ち主達が引っ付いた状態で祓ったら、彼らの分だけは引き剥がされるのではないだろうか。


「もしかしたら、消滅する危険もある。だから勿論、やりたい者だけでいい」


 取り込んだ魂の力が抜けたら、その分、敵は弱体化するかもしれない。



 言い終えた所で、夜刀神の気配を感じた。


「――来るぞ」


 皆がもう一度頷いた。

 無いも同然の微かな表情の中に、静かな覚悟を確かに読み取った。


 俺がやられては元も子もないので、敵の姿が見える前に、自らに結界を張る。もはや使用霊力を惜しむ事なく、全力で。

 すると特殊な空間のせいか、今までになくはっきりと可視化した。赤く光る膜を、3重、4重、5重に重ねる。外側から破られることは前提に。


 次いで、利き手に剣をイメージすると、タイムラグなく想像した通りの剣が現れた。

 ぐにゃりと刀身の曲がった、根元に十字のモチーフのある、手の甲に嵌めるタイプの武器だ。我ながらなんと歪な、センスの無い…と思うが、直接物理で攻撃する訳でもないし、多分コレが一番効くはずなのである。

 攻撃力=イメージの力だから、と要が言っていた。



 ズン……と空気が重くなる。


 角の生えた俺の(なり)をした夜刀神が、姿を現した。ニヤリと笑む。


「今、代わったという事はやはり…貴様の方だったか、残ったのは。つくづく、阿呆だな」


 こんな口調だったのか、コイツは。

 いかにもヘビらしい、ネチネチした物言いだ。


「おまえが俺の姿をとっているだけでも不快なのに、余計な事を喋るな」


 初めて奴を目の前にし、無意識に怒りがふつふつと静かに沸き起こる。

 ...好都合だ。無理に押し込める事なくそのままに――



 5重の結界がひときわ強く発光し、ボッ! と炎を吹いた。

 赤く霞む視線の先に、僅かに面食らったような夜刀神が見える。


「…俺が存外に穏やかだったから驚いたか?

 簡単に倒せる、意思の弱い素人だとでも思っていたんじゃないか」


 不快気に目を細めた敵が放った霊弾が、一番外側の炎の結界を破り、2枚目の結界を巻き込んで消滅した。

 すかさず、内側に二重に張り直す。


「――今、初めてわかったんだがな。俺は...怒りを内部に溜め込み、溢れるまで気付かないタイプだったらしい。

 本人も知らないんだから、おまえも知るはずが無いよな」


 それは、全てにおいて不甲斐ない自分への怒り。その自分の形をした敵が、眼前に居る。


 右手の剣が、炎を帯びた。

 相手の視線が動く。


「...今だ」


 合図に反応し、静かに漂っていた犠牲者たちがフラフラと、だが素早く夜刀神に殺到し始めた。

ちなみに、玲史がイメージしたのはドラクエのスネークソード×破邪の剣×ドラゴンキラーです

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