【800文字小説】君と、宇宙の果てまでも。
きっと気のせい。考えすぎさ。自分でそう言い聞かせるのが習慣になっていた。
「花びら、ついてる」
髪に触れた瞬間、感じる拒絶。一拍遅れた微笑み。
「あ、ありがとう。杏の花、初めて見た。きれいね」
僕は感情を排除して、うっすら残る違和感を無視した。
なかったふりをし、向けられた笑顔だけを都合良く受け取る。
君の目に映るのは僕じゃないね。
何に見惚れていたか、もう知ってるよ。
だけど僕を愛しているふりをしていたいのは、君も同じ。
気付かぬままでいたい。麻痺し、鈍感でいられたらどんなにいいか。
君の視線を独占している男が振り返る。
「電話だ。先行ってて」
男は耳を塞いで背を向けた。
ここは花見客で騒がしい。
君は、親を追う幼児のような寄る辺ない表情で、男の背中を見送り、僕に向き直った。
「話があるの」
なんて思い詰めた顔をしてるんだ。
今、君の潤んだ瞳に映るのは確かに僕一人。
だけど、胸にいる人は違うね?
夢を見ていたかった。
ずっとずっと君の心にいたいと願う。
真実なんて受け止めたくない。
言い淀んで空を仰ぐ君の白い頬に、涙が伝った。
そういえば、昔から君はよく空を見上げていたよね。
「信じられないくらい、きれいな日」
僕の喉は、張り付いたように声一つ出ない。
「別れてください。……って言おうと思ってた。わかってたでしょ? ずっと。でも、とても言えない」
通話を終えた男が戻ってきた。頬を濡らす君の肩を抱く。
「花が散ったら、星に帰るんだ。俺たち」
「触わるな」
君は命令口調で男の手を払い除けた。男は、はっと敬礼する。君の目には思慕など欠片もない。
「星?」
「ええ。彼は部下なの。最初は偵察だった。侵略のための。ベタでしょ。でも……この星は美しいね。何より、あなたがいる」
君の瞳に映るのは満開の杏と、僕だ。紛れもなく。
くだらない思い込みで、勝手に絶望していたのが恥ずかしい。
「別れるもんか。何があっても」
空を見上げた。
現実は、僕の頭の中を軽く超える。
投稿後から、ちょっと改稿しています。