25 忘れ物
なぜ南国に来ているのかは、同シリーズ「その結婚お断り…」の「恋の危機編」を読むとわかります。
二晩の寝台列車の旅を終え、終着駅から馬車に乗り、一番隊南西支隊へ派遣される一行は支隊本部がある島へ向かうための港に到着した。
「わあ…… 綺麗だな」
青すぎる海を眺めて、ゼウスが感嘆の声を上げている。
「本当に綺麗だね……」
馬車から降りたハロルドもゼウスに並んで微笑みながら感嘆の声を漏らしているが、ゼウスが海に釘付けなのに対して、ハロルドは海とゼウスを両方見て、その上でゼウスを見ながら発言をしていた。
(海も綺麗だけど、ゼウスの方がもっと綺麗で素敵……)
二重の意味で言っていることは気付かれたくない。自分がそんな思いを抱えているだなんて知られたら気持ち悪がられて友達ですらいられなくなってしまう。
そうだね、と相槌を打ってこちらを向いたゼウスに、ハロルドはにこにこと穏やかな笑みを浮かべているのみだ。
元より付き合えるとは思っていない。一時期はゼウスがあまりにも女性嫌いを悪化させていたので、もしかしたらゼウスもそっちの気があるのではないかと期待したこともあったが、今は女性の恋人を得て幸せそうなので、自分も友人としてゼウスのそばにいられればそれで幸せだった。
「ふあー、やっと着いたか」
後方からあくび混じりのアランの声がする。振り返れば三人が荷物と共に乗っていた馬車の窓からアランが顔を出していた。
「うわー、海すごい綺麗じゃん! こっちは首都よりあったかいし泳ぎたくなるな! 海辺で新しい出会いが俺を待っている!」
アランは寝起きからすぐさま覚醒した様子で、海を眺めて目を輝かせていた。
「シトロン、遊びに来たんじゃないんだからな。迎えの船はもう来てるし近くで飯食ったらもう行くぞ。とりあえず馬車から荷物を降ろして船に移しとけ」
近くにいた先輩にそう声をかけられたアランは、えー、と不満そうな声を出しつつも、最終的にはわかりましたと答えていた。
周囲を見れば他の隊員たちも馬車から荷物を降ろし始めていて、船着き場に停船している客船に運ぼうとしている。
ハロルドとゼウスも荷降ろしのために馬車に戻った。中では広めの座席に置かれていた荷物をアランが抱えて持ち上げていた。
「何回か往復しないといけないな、これ」
「あ、アラン先輩、それ俺の荷物なので自分で持っていきますよ」
アランが抱えていた荷物の一つはハロルドのものだった。
「どうせ船の中でも俺たち三人一緒の部屋だろ。どれが誰のとか区別しなくていいからとりあえず持ってこうぜ」
ここまでの道中、ハロルドたち三人は同行する先輩たちから「年下三人組」という呼称でひとまとめにされていた。
「でも俺の荷物はたぶんすごく重いので自分で持ちます――」
「じゃよろしく」
瓶とか入っているので、と続けようとしたが、皆まで言わせずにアランがハロルドの荷物を放物線を描くようにこちらに放り投げてきたので、驚いた。
「ちょっ、雑に扱わないでくださいよ!」
(瓶とか入っているのに!)
投げられたずしりと重みのある荷持を受け取りながら叫ぶと、声と同時にゴトリとそばの床に何かが落ちる音がした。
「ん? これは……」
ハロルドのそばにいたゼウスが荷物から落ちてしまったそれを拾い上げたのを見て、ハロルドはぎょっとしてしまった。
「獣人用の手枷か。でも支隊で支給されるから別に自分では用意しなくて良かったんじゃなかったっけ?」
ゼウスが手にしているそれは、エリックと最後に会った日に、彼が落としていったものだ……
「あーと、ええと……」
首を軽く傾げながら手枷をしげしげと眺めているゼウスを見て、ハロルドは動悸がしてきてしまった。
「はっはっはー、実はえっちい目的で持ち込んでいた私物です、なーんてね」
お前は黙れ! とハロルドは心の中だけでアランを罵った。
「こ、これは…… と、父さんが現役時代に使っていたもので、お守り代わりみたいな感じで持ってきたんだ」
ハロルドは何とか理屈をひねり出す。
「へぇ…… でもこれ年代物じゃなくて結構新しいやつじゃない?」
ゼウスは何がそんなに気になるのか、鑑定士のように目を眇めながら細かい部分を注視している。
(ううっ、あんまり見ないでほしい……)
七年前の初対面の時にエリックがハロルドを拘束したものとは違うと思うが、エリックがそれ目的で購入したのは明らかなので、ゼウスにじっくりと検分されたくはなかった……
「じゃあ俺の勘違いかな。父さんに持たされたんだけど、父さんが昔使ってたやつじゃなくて、俺のために父さんがどこかから買ってきたやつなのかも………… はは…………」




