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9.夢の中では微笑まない 前編

 異例のお茶会から帰ってきたその日の夜、とても眠くなったシェリーはいつもより早くベッドに入った。横になって3秒でシェリーは夢の世界に旅立ったのだった。



☆☆☆☆☆



「ふぁぁ よく寝たわ」


 シェリーは寝ぼけながら周囲を見渡した。そこはベッドと机しか無い質素な部屋で、何処かの宿屋の一室と思われた。


(そう言えばお兄様の依頼で魔物の調査に来たんだったわ)


 シェリーはここ地の領主で公爵である兄ランクレスから正式な依頼を受けて魔物の調査に来ていたのだ。この地は希少な鉱石のとれる山脈があり、公爵領の中でも重要な地だ。しかし山には魔物が多い。だから常時冒険者に討伐依頼をかけている。今まではそれで上手く回っていた。魔物が多いと言ってもそこまで強力な個体がいなかったからからである。

 ところが最近、採掘所の近くに強力な魔物が住み着いてしまい、採掘を中断せざるを得ない状況に陥った。冒険者ギルドに討伐依頼をかけたが魔物を討伐どころか追い払う事も出来なかった。

 公爵領に限らないが、魔物が多く出る地を領地にもつ領主や国境に接した領地をもつ領主は、私兵及び騎士団を持つ事を認められ、有事の際は自身の裁量で兵を動かす権限を有している。尤も周辺国とは友好関係にあり、長らく戦争のない時代の為、各領主達の私兵は魔物討伐が主な役目となっていた。だから今回の場合、兵を動かすべき場面なのだがランクレスの私兵団は今まで強力な魔物を相手にした経験が無かった。だから魔物討伐の経験豊富な冒険者に依頼をかけていたのだが成果が上がらなかった。

 ランクレスが犠牲者が出るのを覚悟して自ら討伐隊を組織しようとした時、それを止めたのがシェリーだ。シェリーは公爵令嬢でありながらSのランクの冒険者。シェリーは社交や政治のアドバイザーとして皇帝の呼び出しに対応するため、皇都にいたが自身の情報網で領地の危機を知るや、急ぎ兄の元に向かったのだ。

 ランクレスはシェリーを危険な目に合わせたくなかった。だから今まで黙っていたのだが、シェリーに兵を無駄死にさせてはいけない、まずは強力な魔物の正体を探り、十分な対策を練るべきと諭されその調査をシェリーに依頼したのだった。

 そして今シェリーは鉱山の麓の街来ていたのだ。

 

 手早く身支度を済まし、宿屋から出ると冒険者の相棒アルが待っていた。



「お早うシェリー」


「アルおはよう。早いのね」


 にこやかなアルの挨拶にシェリーは真顔で挨拶を返した。


「つれないなシェリー。挨拶くらいにこやかにしないか?」

 

「とても穏やかでは居られないの。それに遊びに来たのではないわ」


 シェリーは兄の心労を思うととても笑顔を見せる気にはなれなかった。悲しげな表情を浮かべたシェリーに相棒のアルは肩をすくめた。


「だからさ。シェリーはすぐ思い詰めるからな。もう少し気楽にいこうぜ。俺だってお前の重荷の半分は背負ってやれるさ。相棒だろ?もっと頼ってくれよ」


「ありがとうアル……でも皇太子の貴方に何かあっては」


「おいおい。今更だって」


 ところで誰だコイツらと思いたくなるので一応説明すると冒険者であり公爵令嬢のシェリーフィアスと冒険者としてのシェリーの相棒でこの国の皇太子のアルデルンである。

 身分が高い2人が冒険者になれるのかと云えば答えはYesだ。なにせ此処はシェリーの夢の世界。身分に関係なく冒険者ギルドは門戸を開いているのだ。冒険者の世界は実力と自己責任の世界でそこに身分は関係ない。だから身分と責任を考えれば褒められた事ではないが冒険者になることは出来た。

 しかしこの2人はそれに留まらずあっという間にSランクまで上り詰めたのである。皇太子と公爵令嬢だから勿論影の護衛はついている。しかし2人は護衛の手助けを借りずに正真正銘自身らの実力でSランクになったのである。皇太子アルデルンと公爵令嬢シェリーフィアスは今やこの国の英雄なのだ、あくまでシェリーの夢の中で。


「大変だ!魔物の大軍が!!みんな隠れるんだ!!」


 とりあえず朝食でもと近くの食堂に向かう途中、緊急を告げる鐘がなり、大声で叫びながら男が街の広場に走っていった。


「ち!飯もまだだっていうのに」


 舌打ちするアルに対し、シェリーは無表情のまま指をパチンと鳴らした。すると一瞬で半球状の結界が街を覆った。


「こんな事もあろうかと昨日の内に結界の準備をしていたのよ」


 こともなげにシェリーは言った。驚きつつアルはいつものセリフを言う。


「流石だなシェリー」


「お世辞はいいわ。それよりお願いね」


「ああ、時間稼ぎは任せろ」


 シェリーがアルに向かって手を翳すとアルの体が光った。


「いつもながら力が漲るぜ」


 シェリーが使ったのは強化の魔法で一時的に攻撃力と防御力、素早さ、瞬発力、知覚力などなど諸々強化される。ここまでの強化魔法が使えるのも、広く強固な結界を張れるのも古今東西で唯一人シェリーだけである。

 アルは結界の外に飛び出していった。目的は魔物の群れを一箇所に集めて置くことだ。アルは剣士として一流だがシェリー程では無いにしろ魔法も達者だ。補助魔法の効果を十二分に発揮し、高速移動や攻撃魔法や幻覚魔法などを駆使して魔物を一箇所に誘導していく。それはまるで羊の群れを支配する牧羊犬の様に鮮やかな手腕だった。そうして魔物を一箇所に集めたアルは紅炎の魔力弾を無詠唱で空に向かって放った。

 

 シェリーはアルの活躍を眼下に見ていた。今シェリーは世界に唯一人、彼女しか使えない飛翔系魔法『上空浮遊』で上空にいたのだ。アルの放った紅の炎を確認すると魔物の群れに向かって手をかざし呪文の詠唱を始めた。

 

「光よ不浄を拒む防壁となれ!聖域結界!」


 すると魔物達を囲むように光の壁が出現した。

 壁は淡いながらも光っているので結界の中の様子は見えにくいが、魔物たちは光の壁を破ろうとしている様だ。しかし壁は薄いのにびくともぜず、魔物達は光の囲いの中に閉じ込められて出ることが出来なくなった。これまた世界に唯一シェリーしか使うことが出来ない聖魔法『聖域結界』は、街を覆った『守護結界』より強固な結界魔法で、本来は結界の中を邪悪なるモノから守るための魔法である。それをシェリーは裏返しに展開し、魔物を閉じ込める檻にしたのである。

 次にシェリーは天にむかって手をかざし、更なる魔法の詠唱を開始した。


「天よ聖なる光で悪しき存在を滅し給え 滅魔光雨!」


 シェリーが呪文を唱えた直後、魔物達の頭上にちょうど光の壁の囲いを覆う大きさの光の円盤が出現た。そしてその円盤から無数の光の筋が魔物達へ降り注いだのである。光の筋は魔物達を貫き内より灼いた。抵抗できる魔物は居なかった。降り注ぐ光の雨に無数に貫かれ、灼かれて立っていられる強力な個体はいなかった。瞬く間に魔物は殲滅された。


 魔物が全て倒れた事を視認するとシェリーは地に降りて全ての魔法を解いた。もちろん『守護結界』『聖域結界』『滅魔光雨』そして『上空浮遊』4つの最高位魔法を同時に制御できるのは世界に唯一以下略である。


「相変わらず派手だなシェリー」


「速やかに殲滅すべきだったもの、仕方がないわ」


 シェリーは相棒の茶化しにニコリともせず真面目に答えたのだった。


続く

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