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6.ライバル令嬢にも微笑む

 サンアレモーラ女学園は貴族令嬢だけが通える学園である。従って男子生徒など居ない。そもそもこの国では男女共学の高位貴族向けの学校など無い。男女の間違いが起こる可能性を最初から排除しているのだ。

 学園の中では身分に関わらず平等となっているが、それは在学中の3年間だけ、それ以降の人生の方が長いのだから平等を鵜呑みにする生徒は居ない。皆家名を背負っているのだ。迂闊な言動をしないように教育されている。しかしながらご令嬢達は婚姻によって身分が変わる可能性が令息達よりも高い。だから身分的に高位の者だからと言って身分を振りかざす事も無かった。家名を背負う以上、家名に泥を塗る行為をしそうな者を入学させる様な目が節穴な家長はいないのだ。

 そしてこの学園には平民の特待生制度など無い。平民が貴族のしかも高位の貴族の中に混じっても互いに良いことなどない。学園の中では平等という建前でも外はそうではないのだから平民の安全を考えればそんな制度を作る訳が無かった。


 デデルンビア皇国は強大で広く、数多くの貴族家がある。貴族名簿年鑑が1冊では納らないくらいだった。当然サンアレモーラ女学園に入学できない貴族令嬢もいる。この国で最高級の学園は、男爵家や子爵家など低位の貴族家には資金的に厳しい家も多い。そんな貴族令嬢、令息達が通う程度の落ちる学園ももちろんある。しかし、そちらでも貴族のみの学園だ。ただしこちらでは特待生制度があるので一応玉の輿が可能ではある。特待生になるには平民専門の学校で特別推薦枠に入る必要がある。只、入学できるのはそちらも大店の商会を営んでいる等裕福な家庭の子女達に限られた。もし特待生制度を本気での制度化したいなら特待生だけのクラスを作り、一般教養と常識、礼儀を教えた後は適正を見て各専門へと進ませるべきで、いきなり貴族がいる教室に放り込むなど問題外だろう。

 平民は通常、親だったり、教会だったり、奉公先だったりの中で色々な事を学ぶ、学校などに態々行かないし、その必要も無かった。


 こうして身分の区分けができているのだが、抜け道が無い訳ではない。平民の子が貴族と養子縁組してその貴族が伯爵家以上で財力を持っている場合である。そんなイレギュラーな存在が今年のサンアレモーラ女学園には1名だけ在籍していた。

 ジェンウェスニア伯爵家の養女になったプルパールである。プルパールは平民で有りながら可愛らしく整った容姿をしており、周囲の庇護欲をそそる、そんな少女だ。ピンクブロンドの髪は平民には本来表れないので貴族の血が混ざっているのだろう。容姿だけでなくプルパールは頭の回転が早い。そんな理由で貴族の養女になったのだが、普通それだでけでは貴族の養女になれる筈がない。平民が伯爵に会える機会など普通なら無いからだ。

 簡単に説明するならば、会う機会が無いから会える機会を持つ人との縁を作った、会って利害が一致した、そういう事である。貴族に直接会う機会はそうそう無いが少し身分が低い者であればハードルが少し下がるのだ。それを繰り返せば、高かったハードルは回数こそ増えるものの跳べるレベルまで下がる。そしてプルパールに鼻の下を伸ばした男達を手球に取るなどプルパールには造作もない事だった。

 それが出来たプルパールには出来るだけの理由がある。彼女だけの秘密であるが、実はプルパールには前世の記憶があった。流石に異世界とは言わないが、前世のプルパールは他国で高級酒場の接待嬢をしており、No1として夜の女の世界に君臨していたのだ。しかし最後は看取る者もなく寂しい晩年だった。

 プルパールとして生まれ変わったが今生でも平民の家だった。前回は貧しかったが今回はそこそこの商家の3女。なに不自由無くとは流石にいかないものの、飢えることもなく育った。そして前世の記憶をはっきりと思い出した6才の時、プルパールに野心が芽生えた。


(あんな惨めな死に様はもう懲り懲り。この人生では前の知識を使って表の世界でNo1の女になってやるわ!そして誰よりも幸せになるのよ!)


 それからのパルプールはひたすら自分の容姿に気を使った。自分の顔が可愛い系と認識するや、男を落とすのもっとも効果的な表情の作り方や所作や仕草を今生での体に徹底的に叩き込んだ。

 身だしなみや服装にも気を使い自身の好みではなく、男が喜びそうな清楚なイメージを作り上げた。

 どんなに容姿が良くても所作や言葉遣いが下品では男は萎える事をプルパールはよく知っている。男は自身の理想の女性を求めているのだ。男自身は不細工で粗野で下品であっても隣に置きたいのは美しく貞淑で、それでいて夜は淫ら、そんな女性を求めるものだと思っている。勿論世の中そんな男ばかりではないが残念ながら前世の記憶ではそんな男達としか縁が無かったのだ。


 14歳になる頃にはすっかり父親をも手懐け終えて、父より力のある商人が開くお茶会に連れて行ってもらった。そこで知り合った男達に気があるような素振りを見せつつも、靡かず、それでいて不快にさせずに虜にする。そうして色々な男と知り合い、数回のお茶会に参加するだけで貴族を呼ぶことができる大きな商会のお茶会に招待される様になった。そこで知り合った男爵家の嫡男に気にいられたがまだ14歳で夜会に出れないプルパールは男爵夫人の開くお茶会に参加させて貰った。


 なにもお茶会は女性だけのものではない。中には夜会に出ない、年齢的に出れない令嬢もいる。日中に開くお茶会ならばそれらの令嬢も参加しやすく彼女たち物色するために未婚の貴族令息も集まるし、その中に高位の貴族家の者がいれば縁を持ちたがる各家の当主が参加することもある。勿論単に妻のエスコートとして来る場合もある。 

 男爵夫人の開いたお茶会は、言わば男爵家の豊かさを示すための昼食会で、縁のある高位の貴族も招待されていた。そして男爵夫人の実の兄が現ジェンウェスニア伯爵でこのお茶会で最も高位の者だった。

 プルパールは即座に男爵家の嫡男に紹介を頼み、伯爵に挨拶をした。たった一度の挨拶、それだけでプルパールは結果を出した。

 幼少の頃から磨き上げてきた技術が全てこの一瞬の為にあった。プルパールは知っていた。最大のチャンスさえ掴みさえすれば一気に目的地への道が開けるということを。

 伯爵家の一員に成れさえすれば、一気に皇家へと至る道がどんなに細くとも開けて来るのである。

 男爵や子爵では駄目だ。本気で女の頂点、即ち皇后になる気なら最低でもサンアレモーラ女学園卒業は必須条件だ。だからどうしても伯爵家以上でなければならなかったし、その家の当主が野心家でなければならなかった。その2つの条件を満たす物件だと確信したプルパールは躊躇なくジェンウェスニア伯爵の養女になる道を選んだ。

 目移りや、もっといい物件などと言っていたらチャンスは失われるのも前世で嫌というほど思い知った。『山の天気と幸運の女神は移り気』というこの国の諺にもあるのだ。

 サンアレモーラ女学園では皇族との出会いは無い。しかし今年のデビュタントを迎えれば夜会には参加可能になる。だから出会いが皆無という事はない筈だ。最悪公爵家でもという妥協は考えない。目指すのはただひたすらに皇太子アルデルンの隣に立つ権利だ。


 サンアレモーラ女学園で情報を集め、皇太子の婚約者候補が数名いる中で一番有力なのがマークサンドス公爵家令嬢シェリーフィアスと確信した。男を知らない純真な貴族令嬢など恐るに足らず、とプルパールは思っている。しかし彼女を遠くからひと目見た時、一筋縄ではいかないと女の勘が告げた。


「マークサンドス様、前の席宜しいでしょうか」


 昼食時、食堂でプルパールは堂々とシェリーの前に立ち、若干冷たい口調で前に座りたいと言った。公爵家の令嬢の前に座るなど、他の令嬢達には考えられない事だった。しかも声のトーンは若干無礼だ。これは学園内は平等という建前を堂々と利用したプルパールの宣戦布告だった。


 「ええ、どうぞ」


 数泊後シェリーはそう答えながら何時ものように微笑みで返した。


(不快感を全く感じてない?シェリーフィアスなかなか強敵ね。でも最後に笑うのは私よ。貴女は私が皇太子の横に立つのを指を加えて見ていればいいわ)


 プルパールもまたシェリーの本性に気付けなかった。食事に集中していたシェリーは、プルパールの発する()は拾っていたが、聞いてはいなかった。


(なにかむにゃむにゃ言ってたけど、状況的に前に座りたいのかな?)


そう思って答えただけだったのだ。


続く

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