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5.悪役令嬢?に微笑む

 シェリーが投資した化粧水が発売されて数日後の昼下がり、高位の貴族のご令嬢が集まるお茶会が催されていた。見目麗しいご令嬢達が4人、優雅にお茶を楽しんでいる。しかし、その中にシェリーの姿は無い。理由は簡単で招待されていないからだ。それはシェリーを蔑ろにするためではなくシェリー抜きで話し合いをするためであった。


「皆様、このままではわたくし達は行き遅れてしまいますわ」


 カップを音もなく置き、主催者である侯爵令嬢は力強く言った。


「そうですわ、一向に婚約者を決める気配のない皇室に振り回されて他で婚約者を決めることも出来ませんものね」


「ええ、それでもチャンスがあるなら頑張って見ようとも思えますが……」


「私達は当て馬……ですものね」


 そう、この集まりは皇太子の婚約者候補のご令嬢の集まりなのだ。彼女達も馬鹿ではない。皇太子の思惑に気付いていたのだ。良し悪しは兎も角、自分達が選ばれる事など無いと実感として理解していた。それ故にこの場にシェリーは呼ばれていなかった。


「シェリーフィアス様は最近も新しい化粧品をお作りになって、しかもその利益を全て恵まれない方々に寄付なさるのだと聞きましたわ」


「なかなか出来ることでは有りませんわ。わたくし化粧水の先行販売品をいち早く使わせて頂きましたけど、もう手放す事ができませんもの。この化粧水はまるで魔法、間違いなく売れますわ」


 ゴクリと喉をならすご令嬢達、令嬢には在るまじきはしたなさである。


「シェリーフィアス様にお頼みすれば手に入るかしら」


 彼女達が集まったのは勿論化粧水についてではない。今後の皇太子の婚約者候補お茶会での立ち振舞についてだ。

 

「話が脱線してしまいましたわ。兎も角シェリーフィアス様の名声はますます高まるでしょう。ですが、それは今までもそうでしたわ」


「何故、お決めになられないのか不思議ですね」


「ええ本当に。世間では殿下がシェリーフィアス様を嫌っているからと言われていますけど」


「それが根も葉もない事なのはわたくし達は知っておりますもの」


「殿下のシェリーフィアス様へ向ける目は最初から私達とは違っておりましたもの。悔しい気持ちも湧きませんでしたわ」


「本当に何故お決めになられないのか」


「皇室の事情をわたくし達が憂いても仕方がありませんわ。ですがそれではいつまで経ってもこのまま。そこで、今日皆様に集まって頂いたのは今後についてご協力をお願いしたいからですの」


 頷く令嬢達。ここにいる者は言わば同志である。言いたいことなど言われるまでもなく理解っているし、むしろ激しく同意だ。


「ええ、言われずとも理解っておりますわ。このままでは行かず後家ですものね」


「では、次のお茶会で皆様も」


「そのつもりですわ」


「皆様、そういう事でよろしいですわね」


 満場一致でご令嬢達の企みは可決された。そうなれば後は噂話に花を咲かせるご令嬢達なのであった。

 


「ところで隣国に留学されていた彼方が先日帰国されたと聞きました」


「ええ、わたくしも聞きましたわ」


「彼方も候補者のお一人でしたわよね」


「次のお茶会に参加なされるのかしら」


「何事もなければ良いのですが」


 ご令嬢達の危惧は、帰国するご令嬢がシェリーと同じく公爵家のご令嬢で、数カ国語を操る才女であり、そして権力志向強く、まさに悪役令嬢という言葉は彼女の為にあると言っても過言では無いと噂されるご令嬢だった事にある。彼女の機嫌を損ない社交界に顔を出せなくなった下位貴族のご令嬢が多数居るとも、潰された商会が山程在るとも言われているのだ。正に悪役令嬢の中の悪役令嬢と畏怖される女、それがギャンガーケル公爵家令嬢、名をサマサリーヌという。


☆☆☆☆☆


 さて、実は皇太子の婚約者候補達のお茶会が行われている別の場所でもお茶会が行われていた。お茶会と言って参加者はホストとゲストの2人だけ。ホストは稀代の悪役令嬢と悪名高き公爵家令嬢サマサリーヌその人だ。悪役令嬢だからお茶会に一人しか参加しなかったのではない。一人しか招待しなかったのだ。


「…………………………」(ジー……)


「…………………………」(ニッコリ)



「…………………………」(ジー……)


「…………………………」(ニッコリ)


 お茶会が始まりすでに30分が経っていた。最初の挨拶以外お互いまったくの無言。ホストのサマサリーヌはお茶を優雅に飲みながら、ゲストは最初にお茶に口をつけたものの以降は無言で微笑んでいた。言うまでもなくゲストはシェリーだった。

 お茶会にしては派手な真紅のドレス、ブロンドの髪は巻き巻きだ。顔立ちは極めて整っているが吊り目の為、棘のある薔薇をイメージさせるそんな美人のサマサリーヌがずっと無言でシェリーを見つめている。

 対してシルバーブロンドが美しく輝く神秘的な髪をストレートに流し、優しげで柔らかい印象の笑みを浮かべる母性と慈愛に満ちた(と思われている)これまた極めて整った顔立ちのシェリー。

 サマサリーヌに無言で見つめられて何人の令嬢が耐えれるだろうか。しかしシェリーはサマサリーヌの視線を優しく受け止め微笑んでいる。が何時ものように思考が止まっているだけだだったりする。この光景を4人の婚約者候補の令嬢達が見たら直接対決かと恐れ慄くだろう。しかしこの場に緊迫した空気はなく、控えている侍女達にも緊迫感は無い。

 何故ならこの2人だけのお茶会はサマサリーヌが留学する以前は頻繁に開かれていたからだ。久しぶりに開かれた今日のお茶会は、以前と何ら変わらない、いつもの二人だけのお茶会だった。


「…………………………」(ジー……)


「…………………………」(ニッコリ)


「…………………………」(ジー……)


「…………………………」(ニッコリ)


「…………………………」(ジー……)


「…………………………」(ニッコリ)


「…………………………」(ジー……)


「…………………………」(ニッコリ)


「…………………………」(ジー……)


「…………………………」(ニッコリ)


「…………………………」(ジー……)


「…………………………」(ニッコリ)


 更に1時間経った頃、唐突にサマサリーヌが口を開いた。


「あ、あの……そ、その……シェリリン。きょ今日は楽しかったよ。また、よかったら、その、お茶会……しようね」


「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………(ニッコリ)ええ、とても楽しかったね。また呼んでねサマサマ」


 なんと2人は大親友だった。子供の頃、サマサリーヌがシェリーの微笑みに魅了されて、それ以来シェリリン、サマサマと呼び合う仲なのだ。そして実際のサマサリーヌは悪役令嬢ではなかった。彼女は只人見知りな為無口なだけだった。でも吊り目な美人に無言で見つめられると中々に恐い。しかも公爵家のご令嬢だ。サマサリーヌが悪役令嬢と言われてしまうのはこれが最大の理由だ。更に実際彼女に無礼を働いた令息が、彼女の知らないところで公爵家によって家ごと排除された事があり、それがサマサリーヌの指示によるものだと皆に思われてしまったのだ。



☆☆☆☆☆



「お嬢様、欲しがっておられました化粧水が手に入って宜しゅうございましたね」


 お茶会が終わった後、サマサリーヌは自室に戻って来たが、そこで侍女からシェリーの手土産である化粧水を受け取った。思わず笑顔が出てしまう。シェリリンの癒やし効果は以前より効果アップしていて見ていて全然飽きなかった。


「ええ、シェリリンなら必ず持ってきてくれると思ってたわ」


 サマサリーヌは気心知れた侍女には普通に話せるのであった。因みにシェリーに対して吃るのは、()()()()()が尊すぎるからだった。


「それにしても…時間が経つのが早すぎるわ。ずっとシェリリンの微笑みを眺めていられたらどんなに素敵でしょう」


 うっとりとした表情で目を細めるサマサリーヌ。正直変人間違いない発言だが、侍女は澄ました顔でいる。否定はしないが肯定も無い。


「そう言えばお嬢様、その化粧水で得た利益を彼方は全て恵まれない人々に寄付されるのだそうです」


「流石シェリリン。彼女こそこの世に唯一無二の聖女よ。あんなに素晴らしいのに何故皇室は皇太子妃にしないのかしら……折角シェリリンに譲る為に会えなくなるのを耐えて留学までしたのに」


 なんとサマサリーヌは皇太子妃候補から辞退しその座をシェリーに譲る為に留学したと言うのだ。驚くべきシェリー愛である。


「未だに候補者()を招いてお茶会を開いております」


「それが信じられないわ。シェリリン一択しかあり得ないのに。ここはわたくしが皇室の目を覚まさせてやるしか無いわ」


 力強く拳を握り、宣言するサマサリーヌ。人見知りなのに自室では気が大きいのだ。兎も角シェリーの知らぬところで勝手に外堀が埋まりつつあった。


続く

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