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10.夢の中では微笑まない 後編

 シェリーの夢の中の世界。そこでシェリーと相棒のアルは街を襲おうとした魔物の群れを殲滅した。しかし、それは本来の目的ではなかった。本来の目的は鉱山の近くに居付いた強力な魔物の調査だった。


「シェリー、この魔物達は関係あると思うかい?」


「そうね、無関係と考えるのは難しいかしら。でも住み着いた強力な魔物に追われた……にしてはおかしな群れよね」


 シェリーの指摘通り、魔物達は多種多様で統一性が無く、本来なら群れを成すはずの無い一団だった。それが意味することを勿論シェリーは理解っている。


「おいおいシェリー。本当は理解っているんだろ?教えてくれよ」


 もったいぶるのはシェリーの悪い癖とばかりにアルは先を促した。


「アルはせっかちさんね。もう少しだけ待って。そろそろ答えが出る頃だわ」


 シェリーは答えを言わずに魔物の屍に視線を向けた。アルは答える気のないシェリーに問うのを止め、彼女の視線の先を見つめた。

 すると、魔物の屍の内の一体がまるで空気と同化するかのように薄くなって消えた。その一体を皮切りに魔物だったものはスーっと消えていき、一体残らず消え去ってしまった。そして代わりに何か光にキラキラと反射するが残った。


「ダンジョンモンスター……」


「ええ」


 正解にたどり着いたアルにシェリーは頷く。ダンジョンモンスターでなければ先程の雑多な組み合わせの群れはあり得ない。だからシェリーは既に正解にたどり着いていた。

 ダンジョンモンスターがいる以上近くにダンジョンがある。しかしこの近辺のダンジョンは無いはず。ならつい最近出来たのだろう。それは何処か?おそらくは坑道だ。坑道がダンジョン化したに違いない。森羅万象の理を女神から教わったシェリーの知る限り、ダンジョンは自然にできるものではない。それを作った存在が必ずいる。ならばそれを行ったのは強力な魔物と考えるのが妥当だ。それができる存在など多くはない。一つはこの世界を作り給うし女神。しかし女神にダンジョンを作る動機が無い。魔王もダンジョンを作れる存在だが現在は封印されている。最後に残るのは一つだけ。それが強力な魔物の正体だ。


「ダンジョンが近くに出来たってことか…坑道か」


「調べて見るわね。光よ!我に知るべき光景を示せ!『遠景投影』」


 答えを言わずにシェリーはアルを誘導し答えに導く。それは相棒を尊重するゆえ。アルは聡明な男だ。だからいきなり答えを教えるのではなく一緒に考えるのだ。

 シェリーは遠見の魔法を使った。何処にいるのかはっきりしない相手には使用できないが。位置がはっきりと理解っている坑道の様子は魔法で探る事ができる。ただ知るだけなら風の魔法でも良かったし、その方が魔力消費が少ない。その上で映像に出す魔法にしたのはアルに見せる為だ。

 シェリーの魔法により2人の前方に四角い光の幕が現れ坑道の入り口を映してした。


「入るわね」


「ああ、頼む」


 暫く進み外界の光が届かなくなった辺りで坑道はダンジョン化していた。光源は無い筈なのにぼんやりと明るかったし、急に通路が広くなった。なにより魔物が彷徨いていた。


「成程、ダンジョンから魔物が溢れたってことか?」


「どちらかと言えば近隣の人間を追い払う為にダンジョンモンスターをけしかけたってところじゃないかしら」


「つまり今回探るはずだった魔物がダンジョンを作って操っているって言いたいのかい?」


「ええ、手っ取り早くダンジョンを作る為に坑道を利用したのね。ねえアル、ダンジョンを作れるような魔物って?」


「……古龍か」


「ええ、そうなるわね」


「どうする?相手が悪い。俺達でも追い払えるかどうか」


 古龍はもはや自然災害レベルの魔物だ。戦えばいくらSのランクの二人でも只では済まない。その上で勝つのは不可能に近く、アルの言う通り追い払うのさえ難しい。


「そうねえ、とりあえず戦利品を拾いましょう」


 そういってシェリーは映像魔法を消すと、魔物が落とした戦利品を回収しだした。アルもそれに従う。


「これは凄い。希少鉱石ばかりだ。これはサファイヤか、こっちはダイヤ、エメラルドもあるな」


「プラチナ、ラピスラズリ、瑪瑙、ミスリル、あら、アダマンタイトまであるのね。坑道のダンジョンだからでしょうけど凄いわ」


「シェリー、これらはどうするつもりだい?」


「アル欲しい物があったら持っていってね。残りはお兄様に任せてこの街の保証に宛てるのがいいと思うの」


「アダマンタイトだけくれ。後はシェリーの考えたとおりが最善だな、あとシェリーは要らないのか?」


「私は既に多くの物を貰っているもの。だからなるべく民に還元してあげたいわ」


 シェリーがそう言った時、遠くからシェリーを呼ぶ声が聞こえた。見れば馬で駆けてくるシェリーの兄ランクレスだった。ランクレスは単騎で2人の近くで馬を降りた。


「殿下、ご無礼の程」「いや、今はいいから」


 馬で駆けてくる無礼を詫びようとするのをアルは遮った。今はSランク冒険者アルだから構わないと言う意味だ。


「お兄様、どうして此処へ?単騎では危ないわ」


「兵を率いてきたさ。結論はさて置き、討伐なら早いほうがいいし、この街の民を早く安心させてやりたくてね。街の近くに来た時シェリーの魔法が見えたから単騎で来たんだ。兵は近くで待機させているよ。街側に一報入れないとならないしね」


「流石はお兄様。でも街の防備を固めるに留めて欲しいの」


「シェリーの言うとおりだ」


「魔物の正体が理解ったという事でしょうか?」


 いくら今のアルデルンが冒険者の立場でも、ランクレスは領主としてこの地に来たので皇太子殿下にこれ以上の無礼は働けない。シェリーにではなくアルデルンに話しかけた。


「魔物の正体は古龍だ。どうしたものか」


 アルは端的に言った。シェリーはそれをカバーする様に古龍と断じた理由をランクレスに説明した。


「ーーーーという訳で古龍しかあり得ないの。お兄様」


「古龍が何処からか流れてきて此処で新たに巣をつくるのに坑道を利用したのか。これは打つ手がないね。ダンジョンを利用すればこの街は困ることはないだろうが…鉱脈を新たに一からか」


 鉱脈を見つけるのは簡単ではない。時間もお金もかかる。到底領の運営資金だけでは賄いきれない。急には新たな産業は育たぬし、新たなダンジョンから入るお金でも賄いえないだろう。今からダンジョンの街に変更するには冒険者受け入れる施設が少な過ぎでこちらにもお金がかかる。結果税と言う形で領民に負担をかけるしかなくなる。

 ランクレスの思わず頭を抱えたくなった。古龍が相手ではもはや坑道を取り返すのは不可能だ。


「お兄様、恐らく古龍は未だダンジョンに入っては居ないと思うわ。入られてしまったら最奥にたどり付くまでに古龍の作った護りを突破するしかなく、それを古龍は許さないでしょうから戦うしかなくなる。でも今なら話し合いの余地があると思うの」


「何故まだダンジョンの中ではないと?」


「ダンジョンのモンスターにこの街を襲わせたのは恐らく人間を警戒して。そして殲滅させられたのももう知っているわ。実は先程の戦いを見られている感覚があったの。古龍は今考えている筈よ。折角つくったダンジョンを踏破できそうな者がいるのにそれでも入るか、ここは諦めて別の地に行くか。だから今が交渉のチャンス。今を逃せば打つ手は無いわ。だから私に任せて欲しいの」


☆☆☆☆☆


 シェリーは風の魔法で古龍の位置を探り出すと、直ぐにアルと共に古龍の元に向かった。アルが一緒に行く言って聞かなかったからだ。

 高度な魔法が使えるシェリーは古龍の言葉を数種類話せる。古龍の言葉は人間には発音出来ない音と音に乗せた魔力が必要になるのだ。古龍は人語を解するが古龍の言葉を話せる可否は、交渉という事を踏まえれば大きなアドバンテージだ。外国人が自国語を話してくれるだで友好意識が高まるのは人も龍も同じとシェリーは知っていたのだ。


 交渉の結果、古龍はこの地のダンジョンに入った。それを邪魔せず、シェリーがこのダンジョンを踏破しない事を条件に新たな鉱脈を古龍に探って貰った。聞けは今の坑道はもうじき枯渇するのが見えていたので巣に改造しようと思ったらしい。新しい鉱脈は今より埋蔵量が多量かつ豊富で今と同じ算出量なら1000年以上分だという。古龍語を話せるシェリーを気に入った古龍はシェリーとアルに最奥の古龍の住処までの直通で行ける権利を与えた。

古龍としてもこの国の次期皇帝と話をつけておけば煩わしいこと事態にならず済むという打算があった。

 新たな鉱脈とダンジョン、これらのお陰で公爵領は一層栄える事になったのは言うまでもない。



☆☆☆☆☆



「お早う御座います。シェリーお嬢様」


「お早うリア。今日も宜しくね」


 いつもの様に専属侍女リアーナに起こされたシェリーは、今日もまたいつもと同じ様にリアーナに微笑みながら寝ぼけた頭で考える。


(夢の中であれだけ派手に魔法を使ったんだもの。今日はゆっくりぼーっとしていましょう)


 今日もいつもと同じ様に何も考えないシェリーの一日が始まるのだった。


続く

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― 新着の感想 ―
[良い点] 微笑んでいるだけで全て周囲がそれを良いように捉えて解決してくれる、まるで夢の世界のような。 一人苦労していた王子様が最終的に報われて何よりです。 沢山のエピソードがあるのに結果的に悪人らし…
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