#01 だんだん会話できるようになってきた
彼の言葉を、僕はだんだん聞けるようになってきた。
「君の準備が整ってきた証拠だよ」
彼は地球外生命体だ。生命体といっても、肉体は持っていないらしい。性別の概念もないようだが、なんとなく男っぽいので僕はその人のことを「彼」と呼んでいる。
彼はほんとうに存在するのだろうか。僕の妄想が生み出したものにすぎないのかもしれない。
「私は君の思考のなかに情報を送っているんだ。それを言語化するのは君の役目だよ」
「それがなかなか難しいんですよね」
「完ペキな言葉にしようとしなくてもいいんだよ。そもそも完ペキな言葉など存在しない」
「なんか小説の冒頭みたいですね」
「あと、別に敬語を使わなくていいよ」
「それもわかるんですが、僕自身が、僕の言葉なのかあなたの言葉なのか、区別しやすいかなと思いまして」
こんなふうに、僕は少しずつだけど、彼と会話する練習をしてきた。
彼からのメッセージを僕なりに翻訳する作業は、少なくとも僕自身を救うことにつながっている。
そして、彼とのやりとりを小説のような形で文章化することで、読む人に何が得るものがあればいいと思う。
「それでは、何かありがたいお言葉をいただければと思います」
「無茶ぶりはやめてほしいな。私は全能の神とか、そういうのではないんだから」
彼についての情報は、これから少しずつ記していこうと思う。
今のところ、彼は精神生命体であり、年齢は地球人の感覚でいうと何千歳とか、何万歳とからしい。とはいっても、老人じみている感じはしない。
今のところ、僕の脳の処理能力では、この程度の説明しかできない。
彼は自分のことを「私」といい、僕のことを「君」と呼ぶのだけれど、これは彼が情報として送ってくる「なんか」を、僕なりに言語化しているにすぎない。
「君が私と対話することは、君自身のなかにすでにある答えを、思い出すことにつながるんだ」
「……そうなんですね」
わかるような、わからないようなことを言ってくる彼なのだった。
ところで、彼には「名前」のようなものがあるのだろうか?
「名前? あるといえばあるし、ないといえばない」
「つまり、それはどういうことですか?」
「掘り下げてくるのか。その時その時で私はどう呼ばれるか変わるんだ。呼び方は君が自由に決めればいいよ」
「そんなこと言われても、いい名前が思い浮かびません」
「では今は、私のことは仮に『宇宙存在』とでも呼んでおけばいいさ」
というわけで、これから僕はその「宇宙存在」に、様々なことを教えてもらうことになるのだった。
僕は宇宙存在とのやりとりを、ゲーム感覚で楽しむように心がけた。
彼のほうは、やっと僕のほうから反応が返ってくるようになったと喜んでいる。
というのも彼は永い間、僕にメッセージを送り続けていたのだけれど、僕がほとんど気づいていなかったらしい。そう思うと何だか申し訳ない気持ちになってくる。
「今まで気づかなくって、本当にごめんなさい」
「別に謝ることはないよ。私のメッセージに気づくかどうかというのは、努力でどうこうできるものでもないし」
「努力が関係ないとなったら、なぜ僕は急にあなたと会話できるようになったのですか?」
「それは成り行きというしかないな。あるがままでいれば、なるようになるのさ」
【#02に続く】




