第四話 夢、母への思い
夢を見た、夢か現実かもわからないような夢を。
五年前に死んでしまった母さんと幼いころの俺が二人で手をつないでいた。母さんの手には荷物が握られていた。ネギや大根といった野菜が入っているから、多分スーパーに買い物に行った帰りだろう。
「ねぇねぇお母さん。なんでお父さんは家に帰ってこないの?」
幼いころの俺が母さんの顔を見上げて言う。後ろの夕陽が母さんの顔をかすめさせる。
「お父さんはね、仕事が忙しいんだって。……だから、当分帰ってこないんだって」
無理に笑って見せた母の声は、なんだか寂しそうだった。
そこで目が覚めた。
俺は、何の夢を見ていたのか忘れていた。どんな夢だったのかも思い出すことができない。
ふと、壁にかかっていた時計に目をやると、針は五時半を指していた。
「まだ五時半か……」
呟いた俺は、そのまま布団にくるまって再び夢の世界へと落ちていった。
「お前は俺に似ている……」
くそ親父の声が脳内でこだまする。どんどんと大きくなり続ける声が鬱陶しくてしかたない。
うるさい、うるさい……うるさい!
再び目を覚ますと、隣に雄治が座っていた。
「どうしたんだ? ずいぶんうなされてたじゃないか」
「あぁ、ちょっと夢を見てね」
「夢? どんな夢をみたんだ?」
「……わからない。覚えてない……けど、酷い夢だったことだけは確かだ」
「そうか……。それはそうと、どうだ、久しぶりにオレの家に来ないか?」
雄治は、嬉しそうに言った。
「雄治の家に? ……行きたいけど、こんな状態だしな」
俺がそういうと、雄治は嬉しそうに笑い、持っていた鞄の中から一枚の紙を取り出した。その紙を俺に差し出すと、雄治はいっそう大きな笑いをその顔に浮かべた。
「……特別外出許可証?」
「そう、特別外出許可証。その名のとおり、特別に外出を許可する証だ」
雄治は誇らしげにそう言った。
「特別許可証か……」
「なんだよ? オレの家に来るのが嫌か?」
「そういうことじゃないんだけど」
「じゃあ決まりだ。早く着替えて行こうぜ」
そういうと雄治は、トランクの中から俺の服を取り出した。
俺はその服を受け取り、病院での部屋着を脱ぐ。
たった数日振りなのに、何ヶ月も自分の服を着ていない感覚がした。
「それはそうと、何年ぶりだ? 雄治の家に行くのは」
「そうだな、もうかれこれ二年ぐらいじゃないか?」
「そんなにか……。そういや、瀬場さんは元気してんのか?」
「あぁ元気だぞ。今も執事長をやってるよ」
雄治の手から靴を受け取る。
「オッケー。さぁ行こう」
そう言って靴を履くが、靴が少し大きく感じる。
「あれ? この靴、俺の靴か?」
「お前ので間違いないぞ。どうかしたのか?」
「なんか大きい気がするんだ……。まぁいいか。さ、行こうぜ」