第参話 父の、面影
再び目を覚ますと、そこは……先ほどと何一つ変わらないベッドの上だった。唯一つだけ変わっているということは、今が夜中だということくらいだ。
窓の外に目をやると、桜の木がライトアップされていた。
気づかないうちに眠ってしまってたのか。そういや、今日は何日なんだろう。目を覚ますまで何日ぐらい眠っていたんだろうか。日付感覚狂うな……。なんてことを考えていると、突然部屋が明るくなった。
急に目に差し込んできた光に、俺は一瞬戸惑う。
「久しぶりだな……刹那」
その声を聞くのは、何年ぶりだろうか。できれば二度と聞きたくなかった。声の主を見るまでもなく、声の主がわかった。
……親父だ。
五年前、仕事のために母親を裏切り、家を出て行った……くそ親父。
「……なんだよ、何でお前がここに居るんだよ。どうやって俺の居場所を突き止めたんだ」
俺の怒鳴り声が病室いっぱいに広がる。しかし、あのころと同じ表情を浮かべたままのくそ親父は動じない。
「……二日前、お前がここに搬送されたと聞いたんでな。せっかくだ、久しぶりに顔でも見てやろうと思ってな」
くそ親父は、子憎たらしい笑顔を浮かべながら、ベッドの横の椅子に腰掛けた。
俺が怪我をしてなかったら速攻で追い出しているところだ。
「シェリムの言っていた通りだ。やはりお前は俺の息子だな」
「うるさい。お前の血が流れてるだけだって忌々しいのに、これ以上俺の人生にかかわってくるな。……出て行け」
俺は、どんな表情だったのだろうか。腹の傷さえ痛まなければ手元にある本を何冊かぶつけてやるのに。
「シェリム、入って来い」
親父は、ドアの方向を向いて言った。ドアの向こうから、あの少女が入ってきた。
シェリムと呼ばれた少女は親父の側まで行き、威勢よく立ち尽くした。
「実はな、こいつがお前の面倒を見たいと進言してきてな。俺としてはお前の面倒を見ている者もいないことだし、任せようと思ってるんだが……」
俺は、その言葉を聞いた瞬間に、親父の方を見、そしてシェリムさんの方を見た。
くそ親父はとんでもないことを言い出した。俺の母さん、世話を見てくれる人を殺したのは、自分だろうが。俺は、もう頭にきて血管が切れそうになった。
「悪いけど、出てってくれ。くそ親父も、そっちの……シェリムさんも」
俺は、そのまま布団にくるまり、窓のほうを見る。窓ガラスに反射して親父とシェリムさんが映る。
親父は肩をすくめ病室から出て行く。シェリムさんも、それに付き従うように病室から出て行った。