第壱話 ナイトメア・シティ 〜悪夢の中枢〜
その日も普段と何も変わらない一日だった。
夏休み。友人と遊びに出かけた。カラオケで熱唱して、ボーリングに行き友人とスコアを競った。そして晩御飯を食べた後、家に帰る途中のことだった。
ちょうど七時を過ぎたころだ。夏場は日が陰るのが遅いなとか、夏は蒸し暑くて嫌いだとかそういうことを考えながら自転車をこいでいた。
街の真ん中にある大きな坂道を下ろうとした時、突然変な臭いがしてきた。何かが腐ったような臭い。自転車を止め、辺りを見回したが、別に何か変わったことはなかった。
また自転車をこごうとした瞬間、後ろで何かが光った。
すぐさま後ろを振り向くと、空には大きな穴が開いていた。そして、その穴から奇怪な姿をした、なんと形容するべきなのか皆目見当もつかないような生物が姿を現した。
その穴から現われた生物は、辺りを見回し俺のほうを向いた。
俺の姿をゆっくりと確認した後、その生物は俺に向かって急降下してきた。
俺はその生物を右に交わして避ける。不思議だ、普段はまったく運動をしておらず、鈍ってるなと感じていた体が妙に軽い。
後ろで何かが地面に叩きつけられる音がした。その後に辺りに強烈な爆音が響く。
地面に叩きつけられたその生物を確認すると、首がひん曲り、顔がひしゃげていた。死んだかなと思いその生物に一歩近づき、二歩近づき覗き込む。目がピクリと動いた。まるで俺の姿を確認するかのように。
俺の姿を確認したのかしてないのかわからないが、起き上がったその身体は、俺に向かって突進してくる。俺はそれを左に避ける。右に避け、左に避け……。
「おいおい、いつまで追いかけ続ける気なんすか〜」
と、呟きながら角を左に曲がる。
行き止まり。
まずい、このままでは……と、後ろを振り返る。生物がもう目の前まで迫ってきている。俺は殺されると思い、その場にへたり込んだ。
あと5m……4m……3m……。俺は恐怖で全身が固まり、目をつぶってしまった。
「超速剣ルシオン」
後ろから囁くような声がし、何かが斬れるような音がした。死んだのかと思い目を開けると、目の前には少女が立っていた。風に揺れるコートが目をかすめる。
そこに日常は何一つ存在しない。ゆっくりと目の前に転がり落ちる魔物の頭。辺り一面に飛び散った血は、俺の顔すらも赤く染め上げていた。
魔物の黒く鈍い光は俺の方を見つめていた。
呼吸が速くなるのを感じながら、俺は魔物の顔をただ見つめていた。
「くそ、まだ出てくるか……」
少女は剣を振り、血を払い、魔物に斬りかかる。俺の顔に魔物の血しぶきがかかる。
そこから先の記憶は無い。