第零話 ナイトメア・シティ 〜悪夢の中で〜
山神刹那は恐怖した。
目の前に転がり落ちる魔物の頭。辺り一面には血が飛び散っている。魔物の目は、黒く鈍い光を放ち刹那の方を見つめていた。
刹那は呼吸が速くなるのを感じていた。
空にぽっかりと開いた“穴”からは、魔物が一匹、また一匹と出てきた。
「くそっ、まだ出てくるか……」
刹那の目の前に立っている少女は、右手に握り締めている剣に付着した血を一振りで払い、刹那に向かってくる魔物を斬って斬って斬り続けた。
鮮血を身にまとう少女。その手に握り締めた剣で今まで何人の人を斬ってきたのだろうか。妖美な光を放つ剣は尚も魔物を斬り続ける。
「おい刹那とやら、まだ意識はあるだろ。今のうちに早く逃げろ」
少女の剣からは血が滴り落ちる。刹那は、その時初めて少女の顔を見た。少女の横顔から見える目には優しい光が宿っていた。
しかし、少女のコートには魔物の血が大量に付着し、優しい目とは対照的に、少女の身体はただ血に狂ってしまっただけの生物のように見える。
「何をしている。聞こえなかったのか? 早く逃げろ」
少女が刹那のほうを振り向き怒鳴った。瞬間、魔物が少女に向かって急降下してくる。少女がそれに気づき魔物の方を向こうとしたが間に合わない。少女が息を呑んだ瞬間、刹那は立ち上がり一目散に少女の前に立ちふさがった。
魔物の頭に生えている角が刹那の腹部に突き刺さる。鮮烈な赤色が辺り一面に飛び散り、刹那は意識を失った。