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86 桜の初戦

デンジャラスクイーンの登場です。

 八校戦近接戦闘部門のオープントーナメントには他の部門と同様に各校2名の代表選手が合計16名出場している。


 個人戦においてこのオープントーナメントが最も注目を浴びる理由は、各魔法学院対抗の総合ポイント争いで学年トーナメントの2倍の点数が与えられているため。そのため各校とも最も優秀な生徒をこのトーナメントに送り込んで少しでも多くのポイントを稼ごうと目論むのは当然のこと。


 各校を代表する腕に自信がある選手が出場しているだけに第1試合から熱戦が繰り広げられており、スタンドには大勢の観客を集めて大きな盛り上がりを見せている。


 参加している各校の生徒が多くの試合を観戦できるように近接戦闘部門のオープントーナメントは時間をズラして開始されているので、他のトーナメントよりも大幅に進行が遅くなっている。


 その第3試合が行われている頃、人気のない屋外訓練場の裏手に兄妹がこっそりとやってきて何やら声を潜めて話をしている。



「お兄様、このような場所にわざわざやってきて、いったい何をお話ししようというのですか?」


「決まっているだろう。トーナメントでどういう戦い方をするか桜に聞いておきたかったんだ」


 校内の模擬戦週間でもこのような調子で二人が談合したおかげで、あのようなド派手でなプロレスが行われた経緯がある。聡史はこの八校戦をどのように安全に終えるかを念頭に置いて妹とこの場で話をしているよう。



「私の戦い方ですか?」


「そうだ、桜はどのようにトーナメントで戦うつもりなんだ?」


「それは決まっておりますわ。圧倒的な力の差を見せつけてこの場の全員の度肝を抜くのですの」


「そこまでする必要はないだろう」


「お兄様は甘いですわ! 圧倒的な力を以って万民をひれ伏せさせて…」


「ひれ伏させるなぁぁぁぁ! いいから普通にやるんだぁ!」


 兄の頭ごなしの意見に桜はややむくれた顔をしている。内心大いに不満を抱えているのは間違いなさそう。



「まったくお兄様は頭が固いですわね。せっかくの機会ですし、ちょっとくらい力を見せてもいいじゃありませんか」


「いや、その力を見せつけるのが不味いんだ。ほらこの前、俺が外国のエージェントに襲われただろう。あんな事件が今後とも起こらないという保証はどこにもないんだぞ」


「ああ、お兄様の手によって死者14名、重傷者1名を出したあの件ですか。まったく… 私が知らないところでいい気になって暴れてくださいましたわね」


「ほほう、誰かが理事長一派の拠点にガサ入れに入った結果、死者18名重傷者33名というとんでもない被害が発生した事件がついこの間起きたような気がするな」


「はて、いったい何のお話でしょうか? 私にはまったく記憶がありませんわ」


 桜は基本的に嘘がつけない性格。明らかに目が泳ぎだすのですぐにバレてしまう。



「だから、なるべく力を隠して戦ってくれ」


「お兄様、私は外国のエージェントなど恐れませんわ。それこそいいカモとして心から歓迎して差し上げますの」


「狙われるのは俺たち本人だけではないぞ。両親や友人を人質に取られる可能性もあるんだ」


「それはさすがにちょっと不味いですわねぇ~」


 桜も事の重大性と危険にようやく気が付いたよう。家族にまで何らかの被害が及ぶとなったら、さすがに慎重にならざるを得なくなる。


 

「分かってくれたか?」


「ええ、仕方がありませんわね」


「トーナメントでは美晴に稽古をつける程度のレベルでやってもらえるか? もちろん衝撃波や爆裂技は禁止だからな」


「お兄様も同様に力を抑えるつもりですか?」


「ああ、近藤先輩との試合で発揮した程度にする。その他の注意事項としては…」


 こうして二人の間では今回の八校戦を無難に乗り切る方策が決定するのであった。





   ◇◇◇◇◇





 オープントーナメント第6試合には、満を持して桜が登場する。



「ただいまからオープントーナメント第6試合、第1魔法学院楢崎桜対第5魔法学院並木栄治の対戦を行います」


 会場のアナウンスが流れるとホスト校の選手の登場ということもあってスタンドからは大歓声が沸き起こる。第1魔法学院の生徒も応援の声を送っているのだが、多勢に無勢でその声は掻き消されている。桜からしてみれば完全アウエーの環境でトーナメント初戦を迎える状況。


 観客席にはこの日の試合を終えた美鈴、カレン、明日香ちゃんの他に、個人戦では出場機会がないブルーホライズンの六人も顔を揃えて、これから始まる試合の行方に注目している。



「桜ちゃんの試合が始まるのね。今回はどんな戦い方を見せてくれるのかしら?」


「美鈴さん、いつものように秒殺してお仕舞ではないでしょうか?」


「桜ちゃんのことですから、いつものように非常識な戦い方をするに決まっています!」


 美鈴の問い掛けに対して、カレンと明日香ちゃんが自分の予想を述べている。ことに一番の桜の親友である明日香ちゃんの発言はいつもながら手厳しい。他人には厳しくて自分には優しい明日香ちゃんがここにいる。

 


 青い入場門からは桜が、赤の入場門からは対戦者がフィールドに登場してくる。大歓声がスタンドを包むが、大半は相手に送られている応援で間違いない。


 だが桜の鋼鉄の神経はその程度の会場のムードで左右されるようなヤワなものではない。むしろ降りかかってくる相手への歓声を自分へ送られているものと勘違いして、会場全体に向かって手を振っている厚かましさまで発揮している。


 

「やっぱり桜ちゃんはいつも通りですね。あの動じない神経は誰にもマネができませんよ~」


「このアウエーのムードを完璧に自分への応援だと勘違いしているわね」


 明日香ちゃんと美鈴の呆れた声が交わされているが、カレンはノーコメントを貫いている。


 対戦する両者は開始戦で向かい合って審判の注意を聞いている。そして注意を終えた審判は両者の表情を見て右手を上げる。



「オープントーナメント第6試合、開始ぃぃ!」


 その声とともに、両手剣を扱う対戦者は正眼に構えた剣を桜に向けつつジリジリと前進していく。対する桜は、いつものようにオープンフィンガーグローブを両手に嵌めて特に構えを取らずに自然体で立っているだけ。その様子を見た対戦者は…


(なぜだ? 武器を持っていないばかりか構えも取らないのに、どこにもスキがないぞ)


 入場してきた桜の姿を見て武器も持たない女子生徒が相手ならばこの試合は簡単に勝てると考えていた相手は、開始の合図で雰囲気が一変した桜の様子を見て戸惑っている真っ最中。


 なまじっか剣の腕がそこそこあるただけに、桜から押し寄せてくる無言のプレッシャーを意識と無意識の両面で感じている様子が窺える。剣を振るう前から桜が発する圧力に飲まれている感が否めない。


 得体の知れないプレッシャーを感じながらも、自らを励まして対戦者はジリジリと前進していく。試合開始の時点から彼我の距離は半分まで縮まっているが、相変わらず桜は構えも取らずに立っているまま。


 押し潰されそうなムードにこれ以上耐えられなかった対戦者は、剣を振り上げて桜に斬りかかっていく。吸い寄せられるように桜の頭上から剣が振り下ろされていく。


(やった! この一撃は決まるぞ!)


 これまでの対戦者の経験ではこのスピードの踏み込みと剣を振り下ろす勢いであれば必中のひと振りだったに違いない。通常ならばこのひと振りで勝負が決する手応えを彼は心の中で感じながら全力で剣を振り切る。


 ガキッ!


 だが空を切った対戦者の剣は桜の姿が急に掻き消えて無人の地面に深々と突き刺さっているだけ。


(なにっ!)


 急に目の前から消えた桜の姿を彼の眼は追い求めるが、その姿は視界のどこにもない。だが…



「まあまあの剣筋ですが、踏み込みの勢いがまだまだ足りませんね」


 声が聞こえてきたのは対戦者の真後ろから。その声に反応した対戦者が首だけそちらの方向に向けると、相変わらず立っているだけで構えも取らない桜の姿がある。


(一体どうやって移動したんだ?)


 彼の背中に一筋の汗が流れる。どう考えてもあり得ない一瞬で自分の正面から真後ろまで移動した桜の動きがまったく読めないよう。桜が能力を思いっきり抑えているにも拘らず、第5魔法学院を代表するこの生徒には桜がどのような動きで背後に回ったのか理解不能だった模様。


(こうなったら攻め続けるしかない)


 動きが捉えられないのであれば、どこから攻められるか予想がつかない。事実この時点で桜に簡単に背後を許しているとなると相手に攻められる前にこちらから打ちかかるしか彼にとって残された手段はない。


(いくぞ!)


 意を決して剣を振り上げて桜に迫る。だがその一閃も空振りに終わる。今度は桜が自分の真横に立っている姿を彼は視界の隅に発見。


(クソッ! 今度は横か)


 体の向きを変えると、再び彼は桜に向かって剣を振り上げて迫る。だが今回は剣を振り下ろす先に最後まで桜の姿を捉えている。


(やったぞ!)


 今度こそ当たってくれと念じながら剣を振り下ろしていく。すると…


 バキッ!


 両手に大きな衝撃が伝わってくる。彼の目は最後の最後まで桜の姿を捉えてはいなかったよう。それだけならまだしも、剣に対して急激な横からの力を感じてあわや取り落とす寸前。


 実は桜は剣が振り下ろされる軌道から瞬時に2歩右に移動して、裏拳で振り下ろされる剣の横腹を叩くという離れ業を演じている。この試合が始まって初めての桜による攻撃だったが、それはまるで奇跡のような芸当。



「それではそろそろ、こちらからいきましょうか」


 今度は桜から踏み込んでいく。相手は懸命に剣を引き戻して対処しようとしているが、そんな悠長な時間を桜が与えるはずがない。


 ズドン!


 ガラ空きの脇腹にまずは桜の1発目が決まる。軽く撃ち込まれた一撃であったので防具の助けもあって対戦者はギリギリ持ち堪えてはいるが、その表情は明らかに苦悶に満ちている。


(ク、クソォォォォ!)


 歯を食い縛って再び桜に向けて剣を振るうものの、当然その先に桜の姿はない。



「こっちですよ!」


 再び背後から桜の声が響く。そちらのほうに向けて有りっ丈の力を込めて対戦者は剣を横薙ぎにしていくが、すでに桜の姿は消え失せた後。


 ズドン!


 再び背後から気配が迫ったと思った瞬間、対戦者にとんでもない衝撃が走る。フック気味に横から放たれた桜のパンチが彼の脇腹を抉っている。



「く、くくく」


 声にならない声を上げると、対戦者の体はゆっくりと芝生が敷き詰められた地面に崩れ落ちていく。



「勝者、青!」


 盛んに声援を送っていた自校の代表が呆気なく敗北した様子にスタンドはシンと静まり返る。



「おかしいですねぇ~… 私の勝利を喜ぶ声が足りませんよ」


 フィールドでは相変わらず桜が勘違いしたまま首を傾げている。最初からお前の応援じゃないんだと、どうか早く気が付いてもらいたい。



「やっぱり桜ちゃんでしたね」


「どこをどう動いているのか、こうして外野から見ていてもわからないんだから、相手は対処しようがないわ」


「でも事故もなく、無事に桜ちゃんの1回戦が終わってよかったです」


 スタンドで観戦しているパーティーメンバーのそれぞれの意見がコレ。下手をすると死人が出るのではないかと危惧していただけに、3人はホッとした表情を浮かべている。そもそも桜が模擬戦を行うなど、これ以上ないほどデンジャラスな行為にあたる。


 こうして疎らな拍手を受けながら、いまひとつ納得がいかない顔で桜は退場していく。もちろん納得がいかないのは拍手の少なさであるのは言うまでもなかった。

皆様にいつものお願いです。


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