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34 救助

ダンジョンがおかしい……


 大山ダンジョンの3階層では、魔法学院の2、3年生による複数のパーティーが前進も後退もままならずに立ち往生している。



「おい、いくらなんでも、異常じゃないか?」


「魔物のリポップ率が、普段の5倍じゃ利かないな」


「どうするんだ? このまま引き下がるか?」


「出来ればそうしたいが、この場から動けないぞ」


 彼らがこの異常な状況に巻き込まれたのは約15分前から。そこまではいつも通りに通路を進んで、もう1階層か2階層下を目指して歩いていた。つい今しがたまでは、出現する魔物を7、8分おきに討伐すれば特に問題はなかったはす。


 ところがいつも通りに通路を進んでみれば急に次から次へと目の前で魔物が湧き出るこの状況に、巻き込まれた上級生もさすがに戸惑いを隠せない。ジリジリと2階層へ昇っていく階段を目指して後退しながら目の前の魔物をただひたすら屠っていくしか、この状況から抜け出す解決策は見当たらない様子が窺える。


 上級生の彼らにしてみれば、ほぼ1日おきに通っている見慣れた順路。今ではどの角を曲がれば最短で次の階層へ下りられるか、目を閉じていても頭に思い浮かぶ。


 だが今はそれが逆に仇となっている。3階層の通路を順調に進んだ分だけ、上層に戻る階段から離れた位置まで来てしまっているのだ。聡史たちが階段を降りた直後にこの異変に見舞われたのに比べると、無事に地上へ戻る難易度は格段に跳ね上がっていると言わざるを得ない。






    ◇◇◇◇◇





 階段にほど近い場所にいた聡史たちのパーティーは、次々と涌いてくるゴブリンを相手にしながらも、ひとまずは無事に撤退して2階層まで戻っている。ここはまだ特に変わった状況が及んでいる気配は感じられない。



「桜、すまないが三人を連れて外に出てもらえるか。それから1階層にいる連中に警告してダンジョンの外に出してくれ。もちろん事務所にこの異常を報告するんだ」


「お兄様は、どうなさるのですか?」


「3階層の奥に上級生のパーティーがいるはずだ。可能な限り救出してくる」


「わかりましたわ。報告を終えたら、私はもう一度戻ってまいります」


「無理をするなよ。まずは安全に撤退するのが第一だ」


「わかりましたわ。お兄様もどうか気を付けてください!」


「ああ、行ってくるぞ」


 桜から管理事務所発行のマップを受け取った聡史は身を翻して再び階段を下りていく。



「聡史君、気を付けて」


「お兄さん、待っていますから、絶対に戻ってきてください」


 美鈴と明日香ちゃんの心配する声を背に受けて聡史の姿は階下へと消えていく。



「桜ちゃん、聡史さんは本当に大丈夫なんでしょうか?」


「カレンさん、そんなに心配しないでも大丈夫ですわ。お兄様でしたら上級生全員助けてくれるはずですの。さあ私たちも仕事がありますから、ここで立ち話してはいられません」


 カレンの不安を努めて明るい声で払拭する桜は、もう一度だけ階段を振り返る。



(お兄様、桜も全力で駆け付けます。どうかご武運を) 


 心の中で兄の無事を祈ってから、桜は自らが託された使命を果たすべく来た道を戻っていくのだった。






    ◇◇◇◇◇





 階段を下りた聡史の前には、いきなり黒い靄が賓客を歓迎でもするかのように出現する。



「邪魔だ」


 聡史が手にするは魔剣オルバース、そのひと振りであっさりと靄ごと吹き飛ばす。いちいち魔物の登場を待っているのではなくて、登場する前に魔剣に宿る固有スキル〔分解〕で消し去っている。さすがは明日香ちゃんが手にするトライデントに匹敵する魔剣といえよう。


 そのまま通路を疾走していく聡史、眼前に立ち込める靄を次々に蹴散らしては無人の荒野を進むがごとくに前進していく。


 500メートルの距離をスキル〔神足〕を発動して魔剣を振りかざしながら突き進むと、前方には次々に現れるゴブリン上位種を相手にして懸命に戦う学院生の姿が、ほの明るい通路に浮かび上がる。


 

「助けに来たぞ」


 敵と誤認されないように大声を張り上げてから、聡史は上級生パーティーを取り囲んでいるゴブリンの排除を開始。


 右手に持つ剣を1体に振り下ろしながら左手で別のゴブリンの頭を鷲掴みにしていて壁に叩き付けるという空恐ろしい方法で、難なくパーティーに取り付いていたゴブリンをあっという間に殲滅している。



「助けに来てくれたのか。ありがたいぜ!」


「危ないところを感謝する」


 口々に礼を述べる先輩たちだが、今は礼儀など構っている場合ではない。聡史は今走ってきたばかりの通路の方向に向き直ると、左手に魔力を集める。



「ウインドカッター」


 ゴゴゴゴゴォォォォォォ


 聡史の左手から放たれた魔法はウインドカッターなどという可愛らしい初級魔法ではない。ちょうど竜巻を真横にしてそのまま直進させたかのような、途方もなく膨大な荒れ狂う暴風の刃が一瞬のうちに通路を駆け抜ける。



「掃除はしたから、今のうちに可能な限り階段方向に向かってもらいたい」


「君はどうするんだ?」


 目の前に発生した超級魔法にドン引きしながらも、上級生は聡史がこれからどうするのかを尋ねる。



「俺は、奥に進んで他のパーティーの撤退を支援する。グズグズしている時間はないから、手早く行動してくれ」


「わかった。すぐに階段に向かう。全員、急ぐぞ!」


 こうして最初のパーティーは、聡史が魔法で稼いだわずかな時間を無駄にしないように走って階段方向へ向かっていく。その後ろ姿を見届けると、聡史は再び通路を走り出す。


 次のパーティーの姿は進行方向200メートル先にあった。接近して様子がはっきりと聡史の目に映ると、彼らは2重3重にゴブリンに取り囲まれて、明らかに先ほどのパーティーよりも苦戦している状況が伝わってくる。



「魔剣スキル〔切断〕」


 聡史は、魔剣の新たなスキルを発動する。〔切断〕は、剣の刃が届く範囲にある物体を一つ残らず斬り裂くスキル。実はさらに上級の〔滅斬〕というスキルもある。これは、さらに広範囲に斬り裂くスキルなのだが、上級生まで真っ二つにしてしまうので、この場では使用ができなかった。



 ズシャ


 たったひと振りで、上級生に群がっていたゴブリンは10体以上まとめて葬られている。聡史の手でこちら側にいるゴブリンは残らず始末されて、上級生たちは反対側に群れ集う敵に集中することが可能となった。



「助けに来てくれたのか?」


「そうだ。そこにいるゴブリンは放置してすぐに階段方面に退避してくれ。まだ向こう側はここよりもマシだから、一歩でも階段に近い場所に向かうんだ」


「お前はどうするんだ?」


 懸命に剣を振るっては、ゴブリンの頭を叩き割っている上級生が声を張り上げる。



「このまま奥に進む。急げ、一刻も猶予は出来ないぞ!」


「すまない」


 こうして2組目のパーティーも階段方向へと誘導する。どうやら奥に進むにつれてエンカウント率が上昇しているようで、ここから先は相当危険な状況が予想される。



 聡史は上級生が残していったゴブリンの群れを一息で片付けると、再び奥へと向かって歩を進める。


 次のパーティも同じようにゴブリンの群れに取り囲まれて苦戦している。聡史は同様に群れを片付けると、これまでとは全く違う指示を出す。



「怪我人は中央に保護して隊列を組み直してくれ。俺が先頭を務めるから、このまま奥に向かって進むぞ」


「わかった。ついていく」


 この場から上級生たちを二階層に戻る階段方面へと向かわせるのは危険と判断した聡史は、自分の後ろをついてくるように命じる。聡史の意図を理解した上級生は素直に従ってくれている。この先に進んでいるパーティーも自分たちと同様の危機が降りかかっているのは、誰の目にも明らかであった。


 その後もゴブリンに取り囲まれているパーティーを数組救い出すと、ようやく4階層に降りていく階段を発見する。すでに隊列は三十人近くに膨れ上がっており、相当数の怪我人もいる。



「階段は安全地帯のはずだが、一応様子を見てくる」


 聡史が確認すると、やはり階層を繋ぐ階段には魔物が発生する気配はなかった。さらに聡史は階段を駆け下りて4階層を確認するが、こちらも異常に魔物が湧き出す気配は感じられない。普段と変わらぬ姿の4階層のように映る。


 再び聡史は階段を駆け上がっていく。



「階段は安全だ。それから4階層も大きな変化はないようだ」


「本当か。それは助かる!」


 上級生たちの偽らざる本心であろう。彼らは果てしなく湧き上がるゴブリンたちとの戦いで相当消耗していた。まだ肩で息をしている者もいるし、何よりも怪我の手当てが必要な人間が複数いる。


 消耗している者は階段へ、まだ余力がある者は4階層へと配置すると、聡史は怪我人にポーションを手渡す。



「味は最悪だが、効果は保証する。我慢して飲んでくれ」


 並んで腰を落として体を休めている怪我人にポーションを飲ませていく。まるで打ち合わせをしたかのように全員が顔をしかめているが、次第に怪我が治っていく様子にどんな奇跡なんだという表情で目を丸くする。



「どうやら異変の原因は3階層にあるようだな。調べてくるから、俺が戻るまではこの場を動かないでもらいたい」


 そう言い残すと、聡史は3階層の別の通路へと向かってその姿を消すのであった。 

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