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異世界から日本に帰ってきたらなぜか魔法学院に入学 この際遠慮なく能力を発揮したろ  作者: 枕崎 削節


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295 伊豆旅行 3日目

美咲と一夜を過ごしたまま夜が明けて……

 朝っぱらから部屋でイチャイチャしていた聡史と美咲であったが、ふと我に返るとこのままでは不味いと気が付いた模様。どうせだったらこのままイチャイチャし続けて1、2年生全員の噂の的になってしまえば面白いのに…



「美咲、さすがに一晩俺たちが一緒だったとバレるのはあらぬ噂になってしまう。俺は一旦部屋に戻るから、美咲は適当な時間になったら朝食会場に顔を出してくれ」


「は、はひ」


 キスの嵐の余韻が抜けていないのか、美咲はボーっとした表情で返事を噛んでいる。だが昨夜とは打って変わって、その顔色はすっかり元通り。強いて言えば昨日から何も食べていないせいで空腹を感じているのが健康上の問題に相当するくらいだろうか。



「それから美咲は今日はどうするつもりだ?」


「み、みんなに迷惑をかけるから、このままこの部屋で待っている」


「そうか… それじゃあ俺も残ろうか?」


 一緒にいるという聡史の提案は美咲にとって嬉しいはずなのだが、美咲はフルフルと首を横に振っている。自分のせいで聡史の行動が制限されるのは、どうやら彼女にとっては好ましい方向ではないよう。



「やせ我慢はしなくてもいいんだぞ」


「が、我慢はしていない。わ、私はひとりでゆっくり休みたい」


「そうか… それだったら俺は予定通り他の生徒と出掛けるが、何かあったらいつでも連絡してくれ」


 コクコク


 美咲にもひとりで気持ちの整理をする時間が必要だろう… などと考えつつ、聡史はベッドから起き上がって自室に戻る。ひとり残された美咲はしばらくボーっとした後にゆっくりと起き上がって、顔を洗ってから食堂に向かっていくのであった。





   ◇◇◇◇◇





 旅行の3日目、この日は各自が希望するアクテビティが予定されており、それぞれのコースに別れて行動する予定となっている。幹事の頼朝が用意した各種アクテビティは以下の通り。



・天城山でのパラグライダー体験コース


・シュノーケリング体験コース


・水上バイク体験コース


・釣り船に乗って沖釣り体験コース


 とまあ、以上の4コース。どれも中々魅力的で、特に人気を集めたのはパラグライダーとシュノーケリング。どちらもインストラクターが丁寧にやり方を説明してくれるとあって初心者でも安心。生徒たちは普段中々目に出来ない大空から見下ろす風景や水中の光景に未知なる期待感を抱いている。



「ねえねえ、伊豆の海にもサンゴ礁があるよ~」


「海岸の近くでも小魚がいっぱいみられるんだね~」


 シュノーケル使用による魚介類の採取は禁止されているのでもっぱら見るだけではあるが、海中に長時間顔を付けたまま両足のフィンを巧みに動かしつつ、生徒たちは色とりどりの海底の景色に目を見張っている。




 水上バイクもそこそこの人数を集めてはいるが、ここに桜が混ざっているのは唯一不安な点かも…


 生徒たちはインストラクターが操縦する水上バイクの後部に跨って、波を横切って疾走するスピード感に酔っている。それだけではなくて水上バイクがけん引するバナナボートに十人一組で乗り込んで、遠心力で振り落とされるスリルを味わいながら楽しげな歓声が上がる。


 そんな盛り上がっている光景をよそに、桜はひとりのインストラクターに話を持ち掛けている様子。



「これをやってみたいですわ」


「えっ、ウエイクボードですか? これは難易度が高いから初心者では乗りこなせないですよ」


「誰に物を言っているんですか。私がヤルと言ったら絶対にヤルんです。準備をしてください」


「わ、わかりました。バランスを失って転倒した際に溺れないように救命胴衣だけは着用してください」


「これでいいですか」


「はい、オーケーです。それではこっちのモーターボートで引っ張りますから、沖に出るまでは船内で待機してもらえますか」


 インストラクターは「初心者がいきなりどうなっても知らないぞ」という表情で桜を案内するが、当の本人は自信満々。精々ド派手に乗りこなしてやると言わんばかりの表情。


 ちなみにウエイクボードとは、両足をサーフボードに固定してモーターボートで引っ張る水上スキーの派生形で、よりトリッキーな動きが楽しめると欧米では人気が高い水上のアクテビティ。とはいえモーターボートに引っ張られる際には絶妙なバランス感覚が必要で、更に平らではない海面の水の抵抗に合わせて体全体でボードの角度を調整しなければならないため、未経験者には相当ハードルが高いのも事実。


 そのまま桜が乗り込んだモーターボートは波を蹴って沖合に出ていく。ある程度の外海に出ると速度を落として、サーフボードを足に取り付けた桜が水に入る。最初ということもあって一応牽引用のロープを両手で握ってボートの発進を待つ桜。



「準備オーケーですか~?」


「いつでもいいですわ」


「それではカウント3で発進します。3、2、1、ゴー!」


 ボートのエンジンが徐々に高音を鳴り響かせながら桜の体を強い力で引っ張り始める。停止時には水中に半分ほど没していた桜だが、徐々に速度が上昇するにつれて海面へと浮き上がる。その頃にはボートにも十分に加速がついており、20ノット以上の速度を出しながら桜を引っ張り始める。



「もっとスピードが出ませんの?」


 対して引っ張られている側の桜はまったく余裕の表情で体のバランスを保っている。ボートが舵を切るとロープで引っ張られた桜は遠心力で大きな弧を描いてカーブしていくが、初心者とは思えないバランスの取り方で難なく波飛沫を上げながら進んでいく。時折大きな波がやってくると水の斜面に沿ってプロ並みのテクニックでボードを滑らせて、さらに大きくジャンプをしながら空中でひらりと1回転。



「世界選手権に出ても通用するレベルだ」


 船を操縦するインストラクターはこれにはビックリ。助手がビデオカメラを取り出しては、桜の豪快なライディングを撮影開始。


 海岸では桜の目が届かないチャンスに気付いていち早く売店でソフトクリームを購入した明日香ちゃんとクルトワが、桜の豪快なウエイクボード操作を眺めている。



「また桜ちゃんが調子に乗っていますよ~」


「今のうちにしっかりとアイスを味わいましょう」


 頭上から照り付ける日差しがカンカン照りの真夏日。そんな中で口にするソフトクリームはさぞかし美味しいに違いない。だが沖合でウエイクボードを楽しんでいる桜の尋常ではない視力は、ソフトクリームにうつつを抜かしている明日香ちゃんとクルトワの姿を捉えている。



「まったくしょうがないですわ。岸に戻ったら海岸を走らせてやりましょうか」


 などとブツブツ呟きながら、引き続きライディングを楽しむ。むしろ桜としてはもっとスピードを上げてもらいたいくらいなのだが、モーターボートの性能でこれが限界という点が実に残念そう。確かに人間離れした運動神経の持ち主だとは知っていたが、初見のウエイクボードをプロ並みに乗りこなすとは誰も想像していなかった模様。



「さすがはボスだな。人類を軽く超越しているぞ」


「どんな運動神経とバランス感覚なんだ?」


「ここまで来たらボスには不可能はなさそうだ」


 元原と横田が、水着撮影も忘れて桜の姿を遠目から眺めている。命よりも大切なお宝ビデオ撮影を中断するくらいだから、その衝撃は相当なものであったよう。


 かれこれ20分以上ライディングを楽しんだ桜は、サーフボード外して船に乗り込み岸に戻ってくる。



「お客さん、午後からもう一度ライディングをしませんか? 今度は最初から撮影したいんです」


「構いませんが、撮影してどうするんですか?」


「うちのスクールで使用するイメージビデオと、上級者講習の教材にさせていただきます」


「そんなことでしたらお安い御用ですわ。ぜひともいい画を撮ってください」


 こうして桜は午後ももう一本ライディングに臨むのであった。



 今回聡史は沖釣りコースを選んでいる。子供の頃に何度か父親と船釣りを楽しんだ経験があるので、日がな一日海に糸を垂れようと考えてこちらのコースを選んだよう。


 とはいえ船に乗っての沖釣りは今ひとつ人気がないようで、参加者は全部で8名となっている。だが集合場所に集まったのは色が濃い面々。聡史の他には、美晴、頼朝、足立、その他1年生男子が四人という構成となっている。



「師匠、海の上では私が一枚も二枚もベテランだからバッチリ任せてよ~」


「ああ、そうだな。美晴には期待しているぞ」


 美晴にとっては釣りではなくて「漁に出る」という感覚のよう。朝っぱらから漁師の血が荒ぶっている。この調子では普通に釣りをするレベルでは収まらないかもしれない。海は美晴の縄張りだけに、何を仕出かすか予想不可能。


 釣り船が停泊する港までホテルのマイクロバスで案内されると、船長がロープを解いて出向の準備に余念がない。



「船長、今日一日お世話になります」


「「「「「お世話になりま~す」」」」」」


「ああ、こちらこそよろしくお願いしますよ。今日は潮の加減が良さそうだから、沖合の底釣りになるよ。今の時期はキンメダイが一番の狙いだね」


 夏の時期の伊豆のキンメダイは全国的にも有名で、握り寿司や刺身にすると脂の乗りが抜群で美味ではあるが、なんといっても一番はしょうゆ味での煮付け。トロリと溶けるような身が極上の味わいを提供してくれる。するとここで美晴が…



「船長、ポイントまではどのくらいかかるの?」


「沖合3キロの地点だから、20分も船を進めたら到着するよ」


「今日は夕方の6時が大潮だっけ」


「そうだな。大潮になる前… 大体3時頃には上がる予定かな。たぶん以降は魚が根に潜って出てこなくなるだろう」


 どうやら本日の上りはまだ日も高い時間となりそう。それまでにある程度の釣果を挙げたいことろ。


 沖合まで出ると、船長から竿と仕掛けを手渡される。



「底までは70メートル、おもりが着底した感触があったら1~2メートル巻きあげてあとは竿をシャクリながら待っていれば食い付くぞ」


 ということで、聡史たちはエサを付けて糸を垂れ始める。竿には自動巻きのリールが取り付けられており、デジタルで糸が何メートル繰り出されたのか表示されるので、底釣りにはうってつけのギアといえる。



「それにしても聡史が釣り好きだとは知らなかったぞ」


「好きというほど経験はないけど、子供の頃にオヤジと何度か船に乗ったんだ」


 隣に並んで他愛もない話をしながら糸を垂れている。するとどうやら頼朝の竿に当たりがあったよう。



「おっ、さっそくのファーストヒットだ」


 タイミングを合わせて竿を大きくシャクッてから、自動巻きリールが糸を巻き始める。しばらくすると海中に赤い姿が見て取れて、更に巻いていくと海面にプカリと白い腹を見せて浮かび上がってくる。



「いい型のキンメだ。網を出すから待ってな」


 船長がタモ網で掬い上げると、食べ頃の30センチサイズのキンメダイ。本日の第1号を釣り上げた頼朝の顔が綻ぶのも当然か。このヒットを皮切りにして、船のあちこちで歓声が上がって上々の釣果となる。


 だがそんな中でも美晴はひとりでマジックバッグから取り出した自前の仕掛けを海に放って、ひたすらアジを狙って釣り上げている。しかも竿など使わない手釣りで、その表情はまさに漁師そのもの。



「お嬢ちゃん、せっかくのキンメのポイントなのに、なんでアジなんか狙っているんだ?」


「船長、こう見えても清水港の宝永丸の船長がうちのオヤジなんだよ。子供の頃からずっとこうやって漁をしているから、まあ見ていてよ」


「なるほど、どおりで口振りが素人とは思えなかったぜ。いいさ、好きにやってみろよ。アジは生き餌だろう。ここの生け簀を使いな」


 どうやら船長にも美晴の意図が汲み取れたよう。船に備え付けの獲物を生かしたまま保管する生け簀までわざわざ用意している。



「ありがたいね~。遠慮なく使わせてもらうよ」


 糸を手繰りながら美晴が返事をしている。その手つきは間違っても素人には見えない。そして糸を全て手繰り寄せると、針には型のいいアジが2尾掛かっている。慣れた手つきで針から外して、釣ったアジはそのまま生け簀に放り込んで再びエサを付けて海中に投げ込む。その繰り返しでアジが10尾ほど集まったら、いよいよ美晴にとって本番の漁が開始。


 仕掛けをより大きな獲物狙いに変えて、針の先にはアジの鼻の部分を通していく。そのまま海に放って泳がせながらアタリを待つ。1尾目はダメだったようで、引き揚げてみると頭だけが残った姿で戻ってきた。再び生き餌のアジを交換して海に放る。美晴の両手は軍手を嵌めているが、右手の人差し指だけは先が切り取られている。この指先で糸から伝わる微妙な手応えを感じ取るらしい。



「これもダメだったな」


 と言いながら再び両手で手繰って仕掛けを回収。やはりアジは頭だけの姿になっている。今度はアジの背びれの付け根に針を通して海に流す。人差し指に伝わる感触に集中しながら待っていると…



「よ~し、きやがったぜ~!」


 思いっきり糸を引っ張った美晴だが、どうやら大物がかかったらしくて中々重そうな感触が伝わる。その後はしばらく美晴と針に掛かった獲物の間で駆け引きが続くが、最終的には美晴が勝利して青く光る影が徐々に釣り船に近づいてくる。



「そりゃぁ~」


 掛け声一閃、美晴が思いっ切り糸を引くと、ついに獲物は海面に浮かび上がってくる。とはいえ聡史たちが釣り上げたキンメとはその迫力が大違い。



「お嬢ちゃん、ギャフを打ち込むからちょっと待ってな」


「船長、よろしく」


 予想外の大物が釣り上げられて、船長もテンション大幅上昇中。大急ぎでギャフを手にすると、さすがはベテランらしくエラの部分に引っ掛けて船内に引き上げる。



「嬢ちゃん、カンパチの大物だぜ。刺身にすると百人前は取れるな」


「船長、シメるから包丁を貸してもらえるかな」


 美晴は受け取った包丁で尻尾の部分にさっくりと切れ目をつけてから、次にエラに包丁を入れて血抜きを始める。更にエラの内部にホースを突っ込んで水を流して血を洗い流す。こうしておくと生臭さが発生せずに魚の味わいを最大限に引き出せる、いわば漁師の知恵というものらしい。



「これはまたずいぶん慣れた手つきだな。さすがは宝永丸の娘だ」


「覚えてもらってありがとよ」


 活ジメしたカンパチはすぐに大量の氷が敷かれた大型発泡スチロールの箱に収められる。このままホテルに運んで、夕食の活け造りで供される予定。もちろん聡史や頼朝が釣り上げたキンメダイは、煮付けにされて同様に夕食の一品を飾る。


 こうして午後三時になると、かなりの釣果を挙げた一行は沖合から港に戻ってくる。キンメダイが30匹、カサゴや他の魚が50匹以上、更には美晴が釣り上げた130センチ級の巨大なカンパチと、最後のトドメに午後に釣り上げた1メートル級のシマアジが追加されている。



「いや~、楽しかったよ。船長、お世話になりました」


「嬢ちゃん、ウチのセガレにしたいくらいにいい腕だよ。機会があったらぜひまた来てくれな」


 さすがの美晴も船長から「ウチのセガレ」と言われて苦笑いを浮かべている。とはいえ男気に溢れる性格なだけに悪い気はしていないよう。この大らかな態度こそが、ザッツ美晴とでもいうべきであろうか。


 ということで、釣り上げた魚は聡史がすべてアイテムボックスに仕舞い込んでホテルへと戻る。聡史以下頼朝や1年生たちも頑張ってそこそこの成果を上げたのに、すっかり美晴に主役を奪われた形だった。





   ◇◇◇◇◇



 

 

 潮風でベタ付く体を温泉で洗い流すと、いよいよ夕食の時間。もちろん本日の主役を務めるのは美晴が釣り上げたカンパチとシマアジの活け造り。特大の舟形に豪勢に盛り付けられた威容は嫌でも人目を引き付けて止まない。ここで頼朝がマイクを握り締めて…



「本日の夕食のメインは、漁師の娘である美晴大先生が釣り上げたカンパチとシマアジの活け造りだ。ついさっきまで海で泳いでいたから、新鮮さは折り紙付きだぞ。あとは俺たちが釣ったキンメダイの煮付けも絶品だから、とくと味わってもらいたい」


「「「「「ワ~イ」」」」」


「いいぞ、よくやった!」


「謹んでいただきま~す」


「最高に豪華だぜ」


「美晴ちゃんってすごい特技の持ち主なんだね」


 歓声とともに様々な声が上がっている。もちろんその他にも桜提供のローストビーフやホテル側が用意した通常の料理も並ぶので、3日間でも最高の食事内容となっている。今日一日部屋に引き籠もっていた美咲も無事な姿を見せており、全員が心置きなく旅行最後の一夜を迎えている。


 こうして楽しい夕食の時間が流れていく。生徒たちの食欲は衰えることなく、この日も用意された料理をキッチリと食べ終わっていた。ちなみに昨日美咲が残した夕食はそのまま聡史が保管しており、最終的には「まだ物足りない」とほざく桜の口に入って消えていった。 






   ◇◇◇◇◇





 午後9時を回って、聡史は頼朝たちと共に部屋で飲んだくれている最中。いい感じにアルコールが回って、酔っていない聡史以外の男子全員が超ハイテンションで酒を酌み交わしている。そこに…



 ブオブオブオブオオォォォォォォォン


 バリバリバリバリバリバリバリバリ


 パパラパラパラパパラパラパラ


 窓の外から聞こえてくる爆音。何事かと元原がベランダに出てみると、目の前の市営駐車場に改造を施した見るからにガラの悪そうな車3台とバイク20台近くが集結して騒音を撒き散らしている。



「せっかく楽しい夜が台無しだな~」


「放っておけば、そのうちいなくなるんじゃないか」


「まったく、はた迷惑な連中だよな~」


 などという会話を交わしながらさらに飲み進めていると、20分経っても30分経っても車とバイクは駐車場を占拠したまま。そもそも市営駐車場は夜8時以降はチェーンで閉鎖されるにも拘わらず、無法者たちはわざわざチェーンを切って侵入しているよう。これはかなり悪質な連中だと思われる。


 耳障りな騒音は継続しており、「そろそろ短気な桜がシビレを切らす頃合い」と聡史が懸念し始めたちょうどその時、スマホが着信を告げる。



「もしもし、お兄様ですか」


「桜か、大体予想はつくが何の用件だ?」


「そこに信長たちがいたら代わってもらえますか」


「わかった」


 相変わらず頼朝の名前を間違って覚えている桜に呆れながらも、聡史はその頼朝にスマホを手渡す。



「ボス、何の御用でしょうか?」


「外が騒がしいので、うるさい連中を帰らせてもらえますか。物は壊してもいいですが、怪我人は出さないようにしてください」


「イエッサー」


 桜の命令は絶対。頼朝は桜からの指令を伝えべく、アルコールの酔いもどこへやらと勢い込んで立ち上がる。その目が少々据わっているのは気掛かりな点であろうか。



「全員注目。ボスからの指令だ。外の連中を成敗するぞ。怪我人は出さずに、車とバイクは二度と乗れない程度に破壊する」


「「「「「「イエッサー」」」」」


 頼朝の指示が伝わったと同時に、変なテンションで残りの7名が立ち上がる。その様子を見た聡史といえば…



「頼朝、俺も一緒に行こうか?」


「聡史、これは俺たちがボスから与えられた命令だ。お前の手出しは無用。ベランダから見ていてくれ」


「いいのか? いつでも手伝う用意はあるぞ」


「その気持ちだけはありがたく受け取る。全員、外に出るぞぉぉ!」


「「「「「イエッサー」」」」」


 こうして気勢を上げた頼朝たちは、聡史ひとりを部屋に残したままゾロゾロと姿を消していく。先行きがどうなるのか心配した聡史は、13階のベランダから地上を見下ろすのであった。






   ◇◇◇◇◇






 市営駐車場に無断で侵入した上に、我が物顔で改造車やバイクで騒音を撒き散らす輩たちは…



「おい、お前たちをボコった女というのは本当にこのホテルに泊まっているのか?」


「はい、仲間の口からハッキリと聞き出しました」


「そんなに血の気が多い女だったら、これだけ挑発すればそろそろ姿を現すはずだぜ」


 確かに美晴もかなり血の気の多い部類ではあるが、魔法学院にはまだまだ彼女よりも上がいるという点にこの連中は気付いてはいない。ともあれこの輩たちの正体が知れてきたよう。おそらく岩場で遊ぶ1年女子たちをナンパして、ひいては美咲のトラウマを呼び覚ました連中とその仲間か先輩に当たる男たちのよう。



「そうだな、もうちょっと待ってみるか」


「おい、もっと大きな音を出してやれ」


 調子に乗った輩たちは更に改造車やバイクを空ぶかしして近所迷惑な騒音を引き起こしている。桜が送り込むヒットマンが接近しているとも知らずに、実に危機感が薄いたわけた連中だ。

 

 しばらくすると…



「おい、ホテルから人影が出てきたぞ」


「やっと出てきたか。どれどれ、どんな顔をしているんだ?」


 輩たちのリーダーらしき男が車から出ると、ホテルの入り口に目を遣る。てっきり美晴がやってくると思っていたが、こちらに向かってくる人影はどう見ても男の集団。しかも先頭を歩いているのは190センチを超える頼朝だけに、とんでもなくガタイのいい集団が近づいてくると泡を食っている。



「おい、全然話が違うじゃないか。プロレスラーみたいな男が何人もこっちに来るぞ」


「お、おかしいです。確かに俺たちをボコったのは女でした」


 先輩に泣きついたナンパ野郎のひとりだろうか? 確かにこの男をボコったのは美晴に違いないが、魔法学院の生徒は基本的に男とか女とかいう概念は戦闘時においてほとんど区別されてはいない。とにかくひたむきに強さを日々追及している戦闘のエリート集団。ことに2年生ともなればダンジョンの魔物に殲滅をもたらす人間兵器級ともいえる強大な力を保持する。そんな怪物が一歩一歩近づいてくる点においては、この輩たちの運命はもはや風前の灯火かもしれない。


 そしてついに頼朝に率いられた男子生徒が市営駐車場に姿を現す。



「何だテメーらは? 俺たちは後輩をボコってくれた女に用があるんだよ。痛い目に遭いたくなかったら、さっさと連れてきやがれ」


「女? ああ、話は聞いているがあいつは今頃気分よく寝ているだろう。昼間の漁ですっかり満足しているからな~」


 頼朝には例の美晴が浜辺で大暴れした一件だと見当がついたよう。だったら尚更この場で力の違いを見せつけて、二度と近づかないようにしておくべきと、相当酔いが回った頭で判断している。すると連中のひとりが声を上げる。



「あ~、お前は元原だろう。総長、あいつは同じ中学だったヤツです」


 元原の実家もこのホテルからそこそこ近い場所にある。つまり元原にとっては顔見知りが多い地元というわけ。名前や家の位置がわかれば、暴力集団というのは何かと付け込んでくるケースが多々見受けられるのは世間の常。



「そうか、名前が割れた以上は、俺たちに盾突くとこの街にはいられなくなるぞ。なにしろ俺たち下田ドラゴンは容赦ないと知られているからな~」


「下田ドラゴン? 耳にしたことはあるけど、いつ聞いてもなんとも安っぽいネーミングだな。仮に俺の家族に手を出したら、命をもらい受けに参上してやるぜ」


 元原も相当酔いが回っているせいか、普段よりも威勢がいい発言。だがこの元原のセリフは、男たちの怒りに火を着けた模様。元々沸点が低く冷静な話し合いなど成立しない連中なだけに、一概に元原の責任とは言い切れないが…



「このヤロウがぁぁ! 俺たちのチームをバカにしやがってタダではおかねえぞ。おい、徹底的にボコってやれ」


「「「「「「おう」」」」」


 ということでリーダーの号令の下、男たちはバイクのリアシートに括りつけていたり、車のトランクに仕舞ってあった鉄パイプや金属バットを手にする。



「オラぁ~、死ねや~!」


「くたばりやがれぇぇ!」


 総勢三十人近くが、手に武器を持って頼朝たちに無差別に襲い掛かる。対する頼朝たちは、口を真一文字にしたまま両腕を組んで微動だにしない。不動の姿勢で振り下ろされた鉄パイプやバットか頭部や背中を襲っても、身じろぎ一つしないままでその場に仁王立ちしている。



「蚊に刺されたほうがまだ幾分ダメージがあるな。こんな生ヌルイ攻撃ではゴブリンにも勝てないぞ」


「なんだと~、バカにするものいい加減にしやがれぇぇ!」


 などと叫びつつ何度も鉄パイプを振り下ろすが、頼朝たちは相変わらず無表情のまま立っているだけで、特に抵抗らしい抵抗を見せる素振りすらない。



「チクショウ、こいつら何者だ?」


「鉄パイプで殴っても平気な顔していやがるなんて、有り得ない奴らだぞ」


 散々殴りかかっても一向に効果が見当たらずに、逆に連中の中でも下っ端クラスは怖気づくような様相を呈している。


 すっかり下田ドラゴンのメンバーの腰が引けてきた頃合いを見透かしたかのように、ここに至ってようやく頼朝が命令を下す。



「武器を奪って、そっと地面に転がしてやれ。怪我をしないように優しくするんだぞ」


「「「「「「イエッサー」」」」」


 頼朝の許可が出たとあって、ようやく男子生徒の反撃が始まる。とはいってもさほど大袈裟なものではなくって、単に振り下ろされる武器に片手を伸ばしてひったくるように奪うだけ。その際の引っ張られる力によって、バットを振り下ろした男たちは次々に地面に転がされていく。あまりにも格が違いすぎて、転がされた男たちは呆然自失で頼朝たちを見上げるだけ。



「足立はこいつらが動かないように見張っていろ。残った全員、今から神輿を担ぐぞ~。祭りの始まりじゃぁぁぁ!」


「「「「「「セイヤァァァァ」」」」」」


 地面に転がされた男たちは呆然としながらこれから一体何が始まるのかと不安げに見ていると、その目の前で頼朝たちはとんでもない所業を開始し始める。



「この車から行くぞ~!」


「「「「「「セイヤァァァァ!」」」」」


 酔っぱらって変なテンションになっている頼朝たち。どうやらまったく歯止めが利かない状態のよう。そのまま足立以外の七人が車の側面に手を掛けると、力を込めてあっという間に横転させる。さらにもう一度力を込めると、車は腹の部分を夜空に向けて引っ繰り返っている。



「神輿じゃ~、しっかり担げよ~!」


「「「「「「セイヤァァァァ!」」」」」」


 掛け声とともに七人で逆さになった車を担ぎ上げる。普段ならばさすがにここまではしないのであろうが、酔ったテンションが変な方向に働いて駐車場で意気揚々と車を担ぎ上げる頼朝たち。



「「「「「「「ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ!」」」」」」」


 そのまま威勢のいい掛け声を挙げつつ、ご丁寧に駐車場をひと周り。逆さになった改造車は、本物の神輿のように軽々と持ち上げられては、掛け声に合わせて盛んに上下されている。


 こんな光景を目の当たりにした輩たちはもう真っ青。神輿代わりに車で遊び始めている頼朝たちに逆らう意思などとうに無くしている。



「よ~し、この場にやぐらを組むぞ~!」


「「「「「「セイヤァァァァ!」」」」」」」


 ということで逆さまにしたまま車を地面に下ろすと、今度は車のタイヤの間にバイクを二台ずつ交互に積み上げていく。どうやら頼朝が言っていた「やぐら」とは、車とバイクを積み重ねて作るらしい。



「あっちの車でもやぐらを組むぞ~」


 ということで車をひっくり返して、同様に腹の部分にバイクを積み上げていく。さらにもう一台にも同様の措置を敢行。その結果、市営駐車場にはひっくり返された車に数台のバイクを積まれた奇怪なオブジェが出来上がる。こうしておけばクレーン車でも持ち込まない限りは元通りの修復は不可能であろう。



「どうだ、中々いいセンスだろう」


「は、はい」


 リーダと思しき人物に頼朝が上から見下ろしつつ押しつけがましい発言。だが心の中はどうあれ、あんな人間離れした行動を見せつけられては、男たちはひとりも文句を言えない状況。さらに頼朝が畳み掛ける。



「なんだ、お礼の一言もないのか?」


「あ、ありがとうございました~!」


「「「「「「「「「ありがとうございました~!」」」」」」」」」


 ここまでくると、頼朝によるお礼の押し売り状態。男たちに無理やり礼を述べさせるとは、頼朝も中々やりおる。というか、桜の教育の賜物かもしれない。



「よ~し、世間の皆さんには迷惑をかけるなよ。これに懲りたら真っ当な道を歩め」


「はい、本当にありがとうございました~!」


「「「「「「「「「ありがとうございました~!」」」」」」」」」


 こうして桜からの頼朝たちへの指令は誰ひとりケガを負うことなく果たされる運びとなる。以降下田ドラゴンという暴走族は解散し、近辺の街中を騒音を立てて我が物顔で走行する車やバイクを見かけることはなくなるのであった。 


夜の駐車場に響く威勢のいい掛け声と神輿のように担ぎ上げられる改造車。迂闊に魔法学院に手を出したのが運の尽きで、ひとつの暴走族チームが解散の運びとなりました。桜が自分で出張るのではなくて頼朝たちに一任したのは、もしかしたらファインプレーかも知れません。ということで次回は楽しかった伊豆の旅行も終わって、学院や実家に戻っていく生徒たちのお話になります。家に帰るまでが遠足ですから。


この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!


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