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異世界から日本に帰ってきたらなぜか魔法学院に入学 この際遠慮なく能力を発揮したろ  作者: 枕崎 削節


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292 伊豆旅行一日目

水着回のはずが…

 滝壺に放り込まれた聡史はカレンのおかげで一命を取り留め、びしょ濡れになった服を着替えてなんとかバスに乗り込んでいる。散々な聡史の口からは恨み言のひとつも零れてくるのは当然の成り行き。



「ヒドイ目に遭った」


「お兄様、私の寛大な計らいに感謝していただきたいですわ」


 旅行の初日から三途の川を目の当たりにした聡史に対して妹から辛口な発言。一歩間違えば本当に帰らぬ人になっていただけに、おそらくは世界で最も危険な兄妹喧嘩であろう。いくら聡史でも、桜のお怒りを正面から叩きつけられるとさすがに分が悪いよう。



「桜ちゃん、楽しい旅行ですから、もうちょっと抑え目にしてもらえると助かります」


「カレンさん、お言葉ですが、私の番長席はお兄様の命よりも尊いですわ。この席を守るためでしたら私は鬼になります」


「桜ちゃん、そこはもうちょっと大人になってもいいんじゃないかしら?」


「美鈴ちゃん、私はつまらない大人になるつもりはありませんの」


 どうやら女神の説得や大魔王の忠告であっても、桜の耳を右から左に通り過ぎていくだけらしい。相変わらずジャイアン気質は健在の模様。最近は「ずいぶん聞き分けが良くなってきた」とか「人間が丸くなった」といわれていたが、一皮剥くとその唯我独尊たる本性が顔を覗かせる。


 それはそうとして、ようやく復活した明日香ちゃんが口を開く。 



「あまり驚かさないでください。桜ちゃんのせいで心臓が止まるかと思いましたよ~」


「明日香ちゃん、その時にはとっても効果がある薬がありますから」


「絶対に飲みません」


 どうやらあの苦~いポーションのトラウマは、いまだに明日香ちゃんの記憶から薄れる気配はないらしい。あれだけお世話になったのに…


 兎にも角にも、バスはその後も下田のペリー記念館などを巡ってからホテルへと到着する。駐車場を降りた一行の目の前にはデ~ンとそびえる地上15階の建物が。



「ようこそいらっしゃいました。どうぞごゆっくりおくつろぎくださいませ」


「「「「「「「「お世話になりま~す」」」」」」」」」


 ずらりと並んで魔法学院の生徒を出迎えるのは、若女将に率いられた仲居の皆さん。昨年Eクラスが宿泊した老舗旅館の女将であった元原の伯母さんの娘に当たる若女将は、元原とは従姉の関係に当たる人物と聞き及ぶ。


 従姉とはいっても年齢は元原よりも15歳上で、10年以上母親の下で修業を積んだ筋金入りのしっかり者。新たにオープンした別館の若女将に抜擢されただけでなくて、元原と親戚とは思えないくらいの色気漂う別嬪さん。既婚者という点が実に残念。



「美千代お姉さん、大人数ですがよろしくお願いします」


「なに言っているのよ、こちらこそ団体さんが宿泊してくれるのは大助かりよ。精一杯おもてなししますからね」


 あの元原が日頃の無節操なエロガッパ振りを封印してまともに挨拶をしている。この姿には、普段の元原を知っている生徒たちは目を白黒するばかり。さすがに親族の前で日頃の行状を発揮するのは、元原としても気が引けるのだろう。


 フロントで部屋ごとにキーを受け取ると、仲居さんに案内されて1年生は12階、2年生は13階の部屋に通される。



「景色も最高じゃないか」


 ホテルの前は国道を挟んで向こう側に市営駐車場が設置されており、その先は見渡す限り太平洋が広がっている。すぐ目の前にある初島だけではなくて、遠くには霞に浮かぶ伊豆大島の影も映る絶好のロケーション。窓を開けてベランダに出れば、寄せては返す波音が心地よいリラックス感をもたらしてくれる。


 生徒たちがそれぞれの部屋に通されている間に、桜は元原と若女将を捕まえて調理場へ案内されている。



「夕食にぜひとも提供してもらいたい食材を持参しましたの」


「まあ、どのような食材か楽しみです。ねえ、板長」


「はい、さっそく拝見させていただきましょうか」


 若女将と板長の興味深げな視線が注がれている中、桜は調理台に次々にロングホーンブルのモモ肉とバラ肉のブロックを取り出す。ひと塊がたっぷり40キロはあるブロックが都合8つ。桜ならではの豪快な提供方法ではあるが、質量ともに予想外の食材を目の当たりにして若女将と板長は目を白黒。



「ずいぶん質のいい赤味肉ですね。こっちのバラ肉は、脂がしっかり乗っていますよ」


「ダンジョン産のロングホーンブルの肉ですの。夕食の時にローストビーフにしていただけると嬉しいですわ。もちろん料金はキッチリ請求していただいて構いませんの」


「仕込みに時間がかかりますから、さすがに今夜の夕食には間に合いそうもないですが、それでよろしいでしょうか?」


「ええ、明日と明後日で結構ですの。それから…」


 まだ何かあるのかと板長が目を凝らしていると、桜はコカトリスのモモ肉を取り出す。ニワトリの肉とそっくりだが、サイズは普通の牛のモモと同サイズ。



「こ、これは何の肉でしょうか?」


「コカトリスの肉ですわ。チキンと味は変わりませんから、こちらもローストにしてください」


「わかりました。これは腕の振るい甲斐があります」


 初めて見るダンジョン産の肉は板長の料理人魂に火を着けたよう。肉の端っこの部分を指で押して弾力を確認したり、裏っ返して肉質を目視しながら最適な調理法を頭に描いている。ホテルがオープンしたてということもあって活気に満ち溢れた調理場に板長の指示が響く。



「この肉は明日と明後日の夕食でローストにして提供するから、ハーブ塩を馴染ませてから野菜と一緒に仕込んでおいてくれ」


「はい、それにしてもすごい量ですね~」


「食べ盛りの学生さん方だ。腹いっぱいになるまで食べてもらわないとな」


 ガハハと豪快に笑いながら、数人掛かりで大量の肉を下拵えし始める部下の様子を頼もしそうに見ている。



「それではよろしくお願いいたしますわ」


「お任せください」


 どうやら桜も満足顔。食事には一切の妥協を許さない性格だけに、キビキビと動く調理場の従業員たちの姿には申し分なさそう。そのまま若女将に案内されて13階の宛がわれた部屋へと向かうのであった。





   ◇◇◇◇◇




 暗くなるまでの時間に温泉で汗を流してサッパリしたところで、この日の夕食が始まる。


 最寄りの漁港直送の海の幸がふんだんに盛られた舟形の活け造りが各テーブルに置かれて豪華な海鮮三昧のお食事に舌鼓。さらにこの日のメインを飾る本マグロの解体ショーまで開催される充実のサービスぶり。宿泊費をかなり奮発しているので、修学旅行のような学生向きの料理ではなくて本格的な食事が提供されている。こんな大サービスの裏には元原のコネが生きているのは言うまでもない。


 食事が終わると自由時間となって、再び温泉に向かう者や部屋でのんびりとくつろぐ者など、めいめいがゆったりしたひと時を楽しんでいる。ある部屋では男女で集まってカードゲームを楽しんだり、スナック菓子を持ち寄ってお喋りに花を咲かせるなど実に健全な光景。


 だがこの部屋だけはちょっと雰囲気が違う。



「聡史、さっそく一杯始めようぜ」


 頼朝が部屋備え付けの冷蔵庫から取り出すのはキンキンに冷えた缶ビール。ついこの間寮の個室を点検されて大量の酒類を押収されたにも拘らず、彼らは性懲りもなくこの旅に持ち込んでいる。ちなみに聡史は男子生徒五人の部屋に収容されている。



「それじゃあ、一学期が無事に終わったことを祝して、乾杯!」


「「「「「「「「カンパ~イ」」」」」」」


 むさくるしい男たちだけが集まって部屋に声が響くと、あとはもうグダグダになるまで飲み続けるだけ。こんな調子では、いつになったら女子とまともに付き合えるのかと、こちらが心配になってくる。とはいえこうして男だけでワイワイ騒ぐのも、それはそれで楽しいもの。



「明日は待ちに待った海か…」


「1年ぶりにカレンさんの水着姿を拝めるな~」


「カメラの準備はバッチリだぜ」


「楽しみすぎて今夜は眠れないかも」


 元原と横田はすっかり明日のビーチに想いを馳せている。たとえ1年女子から拒絶されようとも、オッパイに懸ける彼らの執念は一向に変化はないよう。というよりも、昨年の伊豆旅行でゲットしたクラスの女子たちの水着姿は、今でも彼らの最高の宝物といえる。今年はさらにコレクションを増やそうという意気込みは何者にも邪魔はさせないという強い決意に満ちている。


 酒を酌み交わしながら男だけのバカな話は一向に止むことはなく、聡史は時折相槌を打ちながら楽しい時間を過ごす。と、ここで頼朝が…



「それにしても今日の聡史は災難だったな」


「ああ、完全に油断していた」


 頼朝が口にしているのは、例の滝壺に叩き込まれた一件。妹に完全にしてやられた聡史は頭を掻きながら苦笑い。



「だが聡史よ、ボスのあの程度のお灸は俺たちからすれば軽いジャブだぞ」


「そうだそうだ、俺なんかアッパーを顎に食らって、薄れゆく意識の中で地面がはるか遠くに見えた経験が10回では効かないからな」


「俺はケツを蹴られて体が水平に飛んで、そのまま演習場の壁に激突したぞ」


「俺は壁を越えて観客席に突っ込んでいったな」


「俺は空高く放り上げられて地面に落ちたら、体が半分芝生に埋まっていたぞ」


 まるで桜被害者の会の告発のよう。日々これだけ荒っぽく鍛え上げられていたら、レベル100オーバーも頷けてくる話。というよりも、よくぞここまで命があったと褒めてやりたい気分になってくる。



「お前たちも苦労しているんだな~」


「いやいや、まだまだだ。もっとボスに鍛えてもらって強くなるのが俺たちの目標だからな」


「そうそう、この前吸血鬼と戦って思い知ったんだよ。ボスや聡史と並んでまともに戦うには、俺たちではまだ力不足だって」


「2学期になったらいよいよ覚悟を決めて、ラスボスに挑むことにしたんだ」


「ラスボスを倒したら、俺はあの子に告白するんだ」


「おい、変なフラグを立てるんじゃない」


 とまあこんな調子で、男どものくだらない話が尽きることはない。するとここで聡史のスマホにメールの着信が… 


〔聡史君、潮風に当たりたい気分なんだけど、一緒に付き合ってくれるかしら?〕


 メールの内容は美鈴からの誘い。もし断ったりしたら、明日以降大変な事態を招くのは明白。というよりも聡史自身もせっかく海に来たんだから、夜の散歩でもしたい気分であった。さっそく返信した内容は…


〔わかった。ロビーで待っている〕


 スマホを仕舞い込むと、聡史は頼朝に一言声を掛ける。



「すまないが呼び出しだ。ちょっと出てくる」


「そうか、俺たちはずっとこの調子で続けているから、いつでも戻ってこいよ」


 どこに行くのか詮索するのは野暮というもの。頼朝は何も聞かない態度で聡史を見送る。そのままエレベーターに乗って1階まで降りていくと、すでに美鈴が待っている。ノースリーブのワンピース姿で、お気に入りのグリーンのサンダルを履く姿はいかにも夏らしい佇まい。



「美鈴、待たせて悪かったな」


「いいえ、全然大丈夫よ。それじゃあその辺をブラブラ歩きましょうか」


 並んでホテルを出ると、極々自然な雰囲気で聡史の右腕に手を絡めてくる。そのまま道路を渡って駐車場の方向に行くと砂浜に降りる階段があるので、二人は腕を組んだまま白い砂が敷き詰められた夜のビーチに。



「聡史君、体はどこにも問題はない?」


「ああ、すっかり元気になった。というよりも、頼朝たちに飲まされた」


「どおりでお酒臭いと思ったわ。未成年なんだから大概にしないと」


「いや、大丈夫だ。スキルのおかげで飲んだそばから排出されるから、一向に酔わないんだ」


 二人で腕を組んだまま歩いていると、聡史が何やら考え込む風。珍しいこともあるものだと美鈴が…



「急に考え込んでどうかしたのかしら?」


「いや、その… 今日桜にブッ飛ばされただろう。今のままでは全然妹に敵わないと思っただけだ」


「桜ちゃんに敵わない… プッ、急に何を言い出すかと思えばそんな話なの」


 美鈴は期待していた話ではなかったせいでちょっと膨れっ面。もちろん本心から拗ねているわけではない。さらに続ける。



「そもそも私だって、ルシファーの力を全開にしない限りは桜ちゃんに対抗する自信はないわ」


「そうなのか? ルシファーさんだったら何とかしそうな気がするけど」


「そういうものではないのよ。学院長が神殺しと呼ばれているように、人間でも神を超える存在というのがごく稀に出現するの。その希少な例が桜ちゃんなのよ」


「そういうものなのか。美鈴が言うんだから、きっと間違いないんだろうな」


「気になるのはそれだけなの?」


「実はもうひとつある。これは美鈴というよりもルシファーさんに訊きたかったことなんだが」


 ちょっとだけ迷った素振りを見せつつも、聡史は心の内を正直に明かしている。今更美鈴に隠し事をする必要を彼自身感じていなかったよう。



「そうなの。じゃあちょっとだけルシファーを呼び出しましょうか。あそこに座って話をした方がいいわね」


 歩きながらではゆっくり話がしづらいであろうと、美鈴は本日の営業を終えた海の家のウッドデッキに繋がる階段に腰を下ろす。もちろん聡史もその横に座ると、美鈴の両目が怪しげな光に満ちていく。



「若造よ、我と話がしたいとはいかがな用向きか?」


「ルシファーさん、久しぶりだな。実は先日からずっと気になっていたことがあるから教えてもらいたい」


「よいであろう。何が気になっておるのか申してみよ」


 相変わらず上から目線の横柄な態度。だが銀河を統べる神々の一角ともなれば、まあこんな態度は当然といえば当然。



「実は先日異世界に行った折に世界樹に触れる機会があった。その時にこのように言われたんだ。『そなたが目覚めるにはいましばらく時間が必要』って感じの神託があった。一体俺は何に目覚めるのか… それ以来ずっと考えていたんだがサッパリわからない」


「ホホホホ、なるほど… 我が行く末に不安を持つのは生きとし生けるものの宿命。だがその疑問には直接答えるわけにはいかぬ」


「何も教えてくれないのか。せめてヒントとか」


「自らの道はその手で切り開くがよかろう… とはいえ、現在のそなたはいかにも知識が乏しすぎて、まるで目を閉じたまま歩いているに等しい。仕方がないゆえに、知っておくべき知識だけをこの場で提示して進ぜよう」


「それは助かる」


「さて、以前この世界における人類の歴史について述べたかと思う。ことに現生人類発祥の地であるムーについて覚えておるか?」


「もちろん覚えている。それに実際に宇宙から飛来した輸送船もこの目にしたから、過去の地球で起こった現実の出来事だと認識している」


「ふむ、良かろう。さて、ムーについて事細かに述べるにあたって、この国には古事記という神話時代の伝承が残されているのを存じておるか?」


「中身をしっかりと読んだことはないけど、表面的に薄っぺらくは知っている」


 聡史の言葉通り、日本人であっても古事記を隅から隅まで目を通したという人は少数派ではないだろうか。


 一応解説しておくと、日本最古の歴史書で712年に大安万侶おおのやすまろが編纂したとされている。天地開闢の神代から始まって、推古天皇の時代までの変遷を辿った日本最古の史書こそが古事記の概要。



「実に嘆かわしい話であるな。自国の歴史書くらいは諳んじるくらいの知識が欲しいものよ。してこの古事記であるが、もちろん何もない所から創り上げたものではない。数多の伝承や風土記のように実際に文書にしたためられた民話を繋ぎ合わせて編纂してある。それゆえに、所々で話が噛み合わぬ部分も存在する」


「古い時代のものだから、記録が抜け落ちている部分もあるだろうな」


「まあそれならいいが、大事な部分に改竄が加えられると、往々にして真実が隠されてしまうものよ」


「改竄されているのか?」


「時の為政者に都合が悪い部分は隠すしかなかろう。ということで、古事記がすべて真実というわけではないと念頭に置いて我の話を聞くがよかろう」


「わかった。しっかり聞いておく」


「まず冒頭に出てくるは〔高天原〕という地名であるが、これは何処を指し示すと思うか?」


「山の上とか、空の上という漠然としたイメージしかないかな」


「まことに呆れたものよ。そなたはあれなる輸送船を目の当たりにして、いまだその程度の認識しか持ち合せておらぬのか?」


「ああ、そうか。宇宙のことか」


「あまりに漠然とした認識すぎるが、正解に近いといえよう。広義に置いて高天原とは、宇宙全体を指す場合がある。狭義においては我々が存在する銀河、もしくは銀河の文明圏と解釈するのが適切」


「なるほど… 宇宙から地球に文明がやってきたと考えれば、高天原は銀河文明か。そこまでは理解した」


 普通に考えれば荒唐無稽な話ではあるが、現実に伊勢原駐屯地に今でも姿を隠したまま輸送船が停泊している以上、はるか昔に宇宙の高度な文明が地球にやってきたと考えるしかない。



「より狭義に高天原を解説すれば、銀河の中央部から発祥した文明が太陽系の外郭まで到達するのに2億年が経過しておる。太陽系外周の天王星を足掛かりにして、木星の衛星、火星、月の順でコロニーを創り上げ、長い時間を経てようやく地球に銀河文明が到達した。したがって時代によって高天原は外宇宙から移動してきたと考えるがよかろう」


「ずいぶん壮大な話だな」


「なに、銀河の歴史から比べればほんのわずかな時間の経過に過ぎぬ。ここまではよいな?」


「大丈夫だ。まだ脳内のキャパシティーは十分だ」


 のっけからルシファーさんのすごい話が飛び出した結果、聡史は頭をフル回転させる必要がある。しかしまだ話は序の口にすぎない。



「さて古事記の記述によらば、天地開闢の折、天之御中主神あめのみなかぬしのかみ高御産巣日神たかみむすひのかみ神産巣日神かみむすひのかみの3柱が生まれたとあるが、この記述に隠された意味がわかるか?」


「まったくわからない」


「これらは宇宙の真理を現しておる。すなわち三重螺旋構造こそが宇宙の根本原理といえる」


「まったく意味がわからない」


「まあよかろう。そんなものだと覚えておくがいい。さて次に生まれたのが天之常立神あめのとこたちのかみだが、これは何を指し示すかわかるか?」


「わからん」


とことこである。そなたは床柱という言葉を聞いたことがあるだろう。床を立てる… すなわち天の中心を築くという意味だ。つまりは長い年月の中で銀河の中心軸が出来上がったと解釈するべきであろう」


 確かに銀河は渦を巻いて回転している。その中心軸が出来上がって初めて銀河という巨大な構造が成立するのは当たり前の話であろう。



「そうか、回転する中心が出来上がったのか。ちょっとわかってきた」


「次に国之常立神くにのとこたちのかみが生まれた。この意味はどうなる?」


「地球の回転軸か?」


「左様、地球がその形を成して自転軸と公転周期が成立したという意味に他ならぬ。さて、ここまでの話で古事記の記述が何を暗に指し示しているかわかったか?」


「時代の変遷?」


「もちろん時間軸の経過も示しておるが、それよりも重要なのは記述における視点がより焦点化されている点だ。当然ながら銀河の中心に近い部分から恒星や惑星が形成されて、それがようやく銀河の中心からかなり距離のある太陽系の第三惑星に及んだという意味となる。早い時代に銀河の中央部で成立した文明が、長い時間を掛けてようやく地球まで到達したという証拠ともいえよう」


 ルシファーさんの言葉を借りると、百億年もある銀河の歴史をほんのわずかな記述で表現するからこのような記載になっているらしい。というよりも栄光あるムー時代の文明が失われてしまって、徐々に再起した奈良時代の人間の頭脳で銀河の歴史を表現した結果、このような曖昧な記述になってしまったと考えるべきであろう。



「それにしても長い銀河の歴史を簡潔に教え込むのは、いかに暗黒の支配者といえども中々骨が折れるものよ。さて、次に参ろうか。古事記の記述ではイザナミ、イザナギの二柱の神が登場するな」


「その話は知っている」


「ではこの二柱の神は何者だと考えるか?」


「神話によると日本列島を創ったと神様だと言われているが」


「それは単なる作り話に過ぎぬ。そもそも地球の大規模な地殻変動が終わってしばらくしてからこの二柱の神が登場したのだ。実際には地球上での拠点を定めて、遺伝子操作によって現生人類を創り上げた技術者集団とでもいうべきであろう」


「身も蓋もない言い方だな」


「それが現実だから仕方がない。この技術者集団は何代にもわたって類人猿の遺伝子に操作を加えて、現生人類を創り出した。むろんその間には多くの失敗もあったようだ」


「失敗って、どうなったんだ?」


「古事記では『蛭子として海に流した』と表記されておるが、実際には遠くの陸地に放ったようだな。ほれ、ネアンデルタール人とかデニソワ人とか、すでに絶滅した人類との近種がこれに相当する」


「結構残酷な話じゃないのか」


「尊い犠牲だな。ともあれ現生人類を生み出して、この技術者集団は地球での役割を終えた。古事記においてその後に登場するのが、いよいよアマテラス、ツクヨミ、スサノウとなる。ここまでが前フリとなるが、そなたは理解が追い付いているか?」


「たぶん大丈夫だ。以前聞いた話によると、アマテラスは太陽を体現した豊饒の神で、ツクヨミは月を模った知識や精神を司る神だったよな」


「まあ大体そうなっておる。実際には生まれたばかりの人類を統括するアマテラスシステムと地球環境の円滑な運用を司るガイア機構を運用するオペレーターに過ぎぬが」


「ますます身も蓋もないじゃないか」


「そう言っても、事実には逆らえぬ。実際にはもっと多数のコンピューターや高度な機器を取り扱う技術者が当時の地球における高天原… つまりはムーに赴任した。言ってみれば、彼らが八百万の神に相当する。その取り扱う技術は、誕生したばかりの現世人類の目からすれば、さぞかし神々の領域の御業に映ったことであろうな」


「まあ大体わかった」


「まことにアテにならぬひと言に聞こえてくるな。我はいまだ本質を語っておらぬぞ」


「これだけ長講釈を垂れて、まだ本題に入っていないのか?」


「然り。我が言葉の中に何か重大なキーワードがあったのに気づいていないか?」


「キーワード? 何かあったか?」


「たった今我が口にしたばかりではないか。スサノウとは何か?」


「そういえばそうだな。アマテラスとツクヨミはわかったが、スサノウって一体何者だ?」


「伝承では海の支配者とも黄泉の国の統治者とも言われておる。他にも軍神やら医薬の神やら多岐に渡っておるから、その本質は正確には伝えられていないのが実情」


「何でも屋なのか?」


「正確には人型アンチウイルスプログラムといえばよいであろうか。時に我欲に駆られてアマテラスの権限を所持したオペレーターが不義を働いたとしたら、それを止めるのは誰になる?」


「それがスサノウの役割なのか?」


「然り。天の岩戸の伝承は、ムーにおいて不正を働いたオペレーターをスサノウが廃して、新たな人物を呼び寄せた話が後世に伝わった結果に過ぎぬ。よってスサノウは、ムーにおける銀河連邦の総督のような役割といえよう。その権限は強固にして万能。あらゆる問題を排除可能」


「それじゃあ、そのスサノウがいたにも拘らず、なぜムーはアトランティスと血みどろの戦争をしなければならなかったんだ?」


「古事記に記載されておる一節に『カイコを育てている小屋にスサノウが生皮を剝いだ馬を投げ込んだ』という表記があるのを知っておるか?」


「初めて聞いた」


「さて、カイコとは何か?」


「繭を作って糸を生み出す虫じゃないのか?」


「繭は繭でも、もしそれがプルトニュームを覆った金属製の繭だとしたらどうする?」


「それって、もしかしたら核兵器か?」


「然り。アトランティス陣営は戦争の終結を急ぐあまりに禁断の兵器に手を出してしまった。放置しておけば地球全体が破壊されるとあって、当時のスサノウは一命を賭してプルトニューム精製施設を破壊した。その結果スサノウ不在のままムーは海中に沈む運命を辿っていく。当時の戦争は確かに綺麗事では済まされぬのっぴきならない状況であったのだが、その際のスサノウの判断は地球環境の保全という側面では評価できるであろう」


「地球が無事だった大恩人だな」


「そうなるであろうな。スサノウを失ったムーの民は滅びを前にして懸命に銀河連邦にその復活を願った。だが時の流れは残酷で、蘇りしスサノウが生み出された折にはすでにムーは海中に没し、その新たなスサノウ自身も行き場を失い出雲の国に流れていく。そののちに寿命を迎えて歴史から消え去っていった」


「そうか、間に合わなかったんだ」


「ムーが海中に没してから現在に至るまで約1万2千年、人類の運命は混迷を極めている。正常な状態に戻すには、新たなスサノウの復活が待たれるといったところであるな」


「それが俺とどんな関係があるんだ?」


「そこで先程の三重螺旋の話に戻るのだ。現生人類の遺伝子構造は二重螺旋から成っておるのを知っているな」


「絡み合った形をしているのは知っているが、詳しいことはわからない」


「まことに知識が質量ともに足りぬな。二重螺旋が人類の遺伝子構造であるとしたら、三重螺旋は宇宙の真理。すなわち神々の遺伝子情報に相違ない」


「神にも遺伝子があるのか?」


「情報精神体といえども、情報を取りまとめる形を創り上げる構造は必須」


「それが俺とどう関係するんだ?」


「さあ、関係があるのかないのかは、おのずと明らかになるであろう。だいぶ長い話をしてしまったゆえに我は去るとしよう。あとは若い者同士精々楽しむがよかろう」


「お見合いの仲人かよ」


 聡史のツッコミも聞かないうちにルシファーさんは美鈴の意識の中に潜り込んでいく。あっという間に人格が変化して、普段と何ら変わらない美鈴が戻ってくる。



「美鈴、大丈夫か?」


「ええ、すっかり慣れたから、何も問題はないわ」


「俺とルシファーさんの遣り取りは聞いていたか?」


「夢の中で聞いていた感じね~。あまり実感が湧かないけど、一応理解はしているわ」


「ルシファーさんが何を言いたいのかわかったか?」


「今一つ要領を得ないわね~。聡史君はどう捉えているのかしら?」


「よくわからない。でもなんだか〔スサノウ〕というキーワードは、俺の胸に引っ掛かるものがある」


「そう、今はそれでいいんじゃないかしら。さて、すっかり遅くなってしまったわね。せっかく誘ったのに全然ロマンチックな雰囲気じゃなくって残念」


「そういうの苦手だからな~」


「しょうがないわね。最初から諦めているわ。さて、戻りましょうか」


「ああ、頼朝たちはすっかり出来上がっているだろうな」


 こうして何の進展もないままに、旅行の一夜目は過ぎていくのであった。


ルシファーさんの長講釈で終わった一夜が明けて、いよいよ水着に着替えてビーチでパーッと。そしてカメラ片手に暗躍する元原たち…… この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!


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