107 集団暴走の始まり
ついにダンジョンから魔物が溢れて……
小休止を終えて、神崎大佐に率いられた偵察隊が戻って報告をもたらす以前から集結を完了した部隊が布陣と陣地の構築を開始し始めている。
ダンジョン入口の正面に当たる広大な駐車場には約50両の戦車と装甲戦闘車が並び、その前方には土嚢で即席の陣地を構築して付近には大量の予備弾薬が運び込まれている。兵員輸送車から降り立った普通科連隊は同様に土嚢を積み上げた陣地の構築に汗を流し、小銃だけでなくて迫撃砲や無反動ロケット砲などが多数据え付けられる。
さらに局面制圧の切り札とも呼べる99式自走榴弾砲までスタンバイしている様子を見ると「魔物を絶対に逃さない、市街地を死守する」という自衛隊のこの一戦に懸ける本気度が窺える。
これだけではなくて宇都宮駐屯地及びダンジョンから15キロ離れた場所に設置された予備弾薬集積場には北関東と東北方面から応援に駆け付けた他の駐屯地の部隊も続々集結をしており、攻撃ヘリだけでもすでに15機が駐機という物々しい状況。整備員が弾薬の補充や機体の最終点検などに慌ただしく動き回っている。
このほかにも宮城県の松島航空基地と茨城県の百里基地には航空隊がスタンバイしており、いつでも戦闘機が発進可能な状態で待機中との報告もある。あたかも本格的な戦争が勃発したかのような、首都圏、北関東、東北の自衛隊各部隊は広域臨戦態勢を維持している。
「神崎大佐、各部隊の配置が完了しました」
「いいだろう。機械化部隊並びに普通科連隊はけっして無理をするな。魔物を魔法学院の敷地に追い込むことに専念してくれ。あとは我々が片付ける」
「本当に大佐率いる三人だけで片を付けるおつもりですか?」
「当然だろう。我々3名は魔物との戦闘のスペシャリストだぞ。そのために全国に設置されたのが魔法学院だろう。いいか、これだけは肝に銘じておけ。各部隊で手に余る魔物は我々が対処する。間違っても部隊の犠牲を出さないようにしろ。最前線に立つ将兵が損傷したらこの国を守れないからな。敵は魔物だけとは限らないんだぞ。周辺国も今回の自衛隊の戦いに注目しているはずだ」
「了解しました。大佐の指示を各部隊に徹底いたします」
やはりこの場で全体指揮権限を持っているのは神崎大佐で間違いない模様。宇都宮駐屯地から派遣されている部隊長は神崎大佐の指示によって各部隊の指揮をするに過ぎない。こうして刻一刻と迫るダンジョンからの魔物の氾濫を迎える準備が整うのであった。
◇◇◇◇◇
時間が経過するとともにダンジョン入口付近から地鳴りのような音が周囲に響き渡ってくる。間もなく入口から魔物が溢れてこようとする危機が迫っていることが誰の目にも明らかな様子に、待機する部隊全体に緊張感が高まっていく。その場にいる全員が今か今かと固唾を飲んでダンジョンの入り口に異常がないかと目を凝らす。
そんな最中でにおいて…
「聡史さん、桜ちゃんが目を覚ましてくれません」
カレンが聡史の元にやってくる。三人は自前のテントを張ってその中で休養を取っていた。桜と一緒に休んでいたカレンが桜の様子を伝えに聡史のテントにやってきている。
「この一大事に暢気なヤツだな。俺が起こしてみる」
聡史が隣のテントに入ると、桜は毛布を被ってまだグッスリと眠っている。魔物の氾濫が差し迫る状況に心の平静を少々見失っていた聡史は、迂闊にも桜の肩に手を掛けてその体を揺する。
「おい桜、そろそろ魔物が溢れてくるぞ」
だが依然として桜は目を覚まさない。時刻はそろそろ午後10時、快食快眠をモットーとする桜にとっては日常ではちょうど今から眠りにつく時間。とはいえこのままにはしておけないので、桜を目覚めさせようと聡史はなおも桜の体を強く揺さぶる。その時…
ブーン!
完全に油断していた聡史の鼻の先を、眠っている桜の右手が空気を振動させる唸りを上げながら裏拳となって掠めていく。無理に起こそうとすると桜は敵襲と判断して自動的に防御する。あまりにも危険すぎる桜の自動防御本能に、聡史の額に冷や汗が一筋…
「ヤバい! 次は絶対に食らう」
寝ていようとも強烈な威力の桜の裏拳を目の当たりにして聡史は心の底から恐怖を覚える。桜の攻撃は意識のタガが外れてまったく手加減していない分だけ訓練時よりも威力が倍増している。当たったら最後、いかに聡史といえども大怪我を免れない。
無理やり桜を目覚めさせるのは危険と判断した聡史は手を止めて一計を巡らす。夕方部隊に配給されたカレーライスをアイテムボックスから取り出すと、そっと桜の頭の近くに置く。そのまま様子を見ていると桜の鼻がヒクヒクと動きだすとともに、夢うつつで寝言が漏れてくる。
「うーん、何でしょうか? この芳しい香りは…」
眠気と食欲の狭間で桜は葛藤しているよう。だが最終的には食欲が勝る。ガバっと起き上がると、その目が傍らにあるカレーライスを発見!
「夢かと思ったら、本当に枕元にカレーライスが落ちているじゃないですかぁぁぁ! それではいただきま~す」
枕元にカレーが落ちているわけないだろうに… もうちょっと落ち着いて考えてもらいたい。
だがそんなことにはお構いなく、起き抜けにいきなりカレーライスを掻き込みだす桜。食べているうちにすっかり目が覚めて周囲の状況に気が付く。
「お兄様、なぜ私が寝ているテントにいるんですか?」
「そろそろ時間だから起こしに来たんだろうがぁぁ! 早く食べろ、もうすぐ魔物がダンジョンから溢れてくるぞ」
「はっ! そうでした。気持ちよく寝ていてすっかり忘れるところでしたわ。ああ、カレーライスごちそうさまです」
ようやく桜が目を覚ましたので兄妹はテントを出ると、カレンを伴って学院長が待機している本部のテントへと向かう。
「大佐、休養を取ってきました。我々はどこで待ち受けますか?」
「カレンは救護所で待機してくれ。楢崎准尉と桜准尉は私についてこい」
カレンと別れた三人はそのまま建設中の第10魔法学院へと向かう。
「屋上で魔物の動きを観察してから動き出すぞ」
「了解しました」
三人が地面を蹴ってジャンプすると、4階建ての校舎の屋上に軽々と飛び乗る。これが異世界からの帰還者の能力。学院長のジャンプ力は兄妹と全く遜色ない。というか、むしろ余裕すら感じさせる。
屋上から眺めると、ダンジョンの入り口を中心にして周辺は多数の投光器で明るく照らされている。配置されている各部隊の動きまでこの場から手に取るように見渡せる絶好の位置。
「大佐、かなりの数の重装備部隊が集結しましたね」
「果たしてこの戦力だけで魔物の暴走を押し留められるかどうかは、やってみないと分からない。最終的には我々三人の働きに懸かっている」
「大佐、この私にお任せくださいませ! 5万だろうが10万だろうが、外に出てきた魔物はきれいに片づけて差し上げますわ」
桜の自信は頼もしい限り。こうして三人は真夜中に近づいて気温が下がった屋上で、ダンジョンに変化がないか観察を続けるのであった。
◇◇◇◇◇
ダンジョンの異変は突然始まる。地鳴りが急激に高まったかと思ったら、入口付近の山肌が突如内側から崩れだす。山の斜面が吹き飛ぶような衝撃でもって大穴が開いて、そこから数体の巨人が姿を現す。この巨人たちが強引に狭い入り口を破壊して内部から大穴をこじ開けたのであろう。
聡史たちはヘルメットに内蔵された通信機で本部や各部隊の通信を聞いている。
「普通科連隊、射撃開始!」
陣地に待機していた歩兵部隊が一斉に小銃の安全装置を外すと、夥しい数の銃口が火を噴く。十字砲火の猛烈な銃弾がダンジョンの入り口から出てきたばかりの巨人に向かう。
グオォォォ!
ガガガァァァァ!
数発の銃弾ならば耐えられるであろう巨人たちも、その身に数百発の銃弾を受けると一溜まりもない。体がボロ雑巾のように破壊されて倒れていく。だが倒れた巨人の体を乗り越えて後から後から次々に魔物が姿を見せる。
それは入り口付近の階層で見受けられるようなゴブリンであったり、オークであったり、爬虫類型の魔物のように映る。
対峙する自衛隊は巨人を倒すと銃弾の雨を停止して、代わりに戦車の砲口が火を噴く。
ドガーン!
耳をつんざくような爆発音と共に魔物の先頭集団は跡形もなく消え去っている。だがこの程度では次々に外に出てくる魔物をすべて討伐など不可能だし、入口から出てきた少数の魔物を倒しているだけでは甚だ効率が悪い。
「ある程度引き付けてから掃討せよ」
司令部からは外に出てきた魔物をまとめて倒そうという方針が各部隊に伝達される。一時的に攻撃を停止して、続々とダンジョンから出てくる魔物を待つ各部隊。次々に溢れてくる魔物たちの様子を見つめながら、銃を握る隊員たちの額にはジットリと汗が滲んでくる。
「榴弾砲、撃ち方開始!」
戦車に代わって自走榴弾砲が火を噴く。155ミリの砲口から打ち出される砲弾の火薬が炸裂すると、無数の破片が飛び散って周囲を広範囲に殺傷する。入口から溢れてきた魔物が徐々に管理事務所前の広場を埋め尽くす真ん中で炸裂した榴弾は、小型の魔物の体を引き裂いて周辺を地獄絵図に変えている。
「今のところは想定通りにいっているな」
「まだ油断はできません」
司令部でもこの様子に意見が分かれる。いまだダンジョンから出てきた魔物はほんの序の口であり、この先どうなるか誰にも予想がつかない。
こうして序盤は自衛隊優位に魔物の殲滅が進む。だが次第に本隊というべき強力な魔物が出現すると自衛隊の火力が追い付かなくなる。その原因は各銃士の弾丸の装填であったり、戦車や榴弾砲の弾薬の補給が追い付かなくなったせいであろう。司令部は大慌てで待機している後方部隊に増援を要請する。
「想像以上の魔物の数だ。後方部隊は至急応援を頼む。攻撃ヘリも発進しろ!」
増援が到着するまでは、勢いを増してダンジョンから溢れてくる魔物を辛うじて抑えるという厳しい状況にこの場の戦力で耐えるしかない。だがここで、神崎大佐からの指示が伝わる。
「各部隊は無理をするな! 弾薬を節約しながら魔物を所定の位置に追い込んでいけ。集団の右翼に射撃を集中して、左方面に魔物の流れをを誘導しろ!」
神崎大佐の指示がレシーバーを通じて流れると、各部隊の射撃は魔物を魔法学院に誘導する如くに射線を変えていく。こうして魔物集団は真正面と右側を避けて、左に左にと動き出す。その結果として、大量の魔物が魔法学院の敷地に雪崩れ込むこととなる。
この状況を校舎の屋上から観察している学院長は…
「楢崎准尉、結界を展開できるか?」
「はい、可能です」
「敷地全体の5分の4の位置に、魔物の侵攻を押し留める結界を展開してくれ」
「了解しました」
聡史は魔力を集中すると、校舎から300メートル離れた位置に結界を展開する。校舎を取り巻く壁から壁まで横に広く聡史が展開した結界によって、その地点で魔物の前進が一旦阻まれる。後続が次々に魔法学院に押し寄せているので、学院の敷地内には見た感じでは2万以上の魔物の集団が押し合いへし合いしている。
「さて、まとめて片付けるいいチャンスだな。立候補する者はいるか?」
「俺がやります」
真っ先に手を挙げたのは聡史。桜も立候補し掛けたが、この場は珍しく兄に譲っている。
「よし、楢崎准尉に任せる」
「了解しました。一旦下に降ります」
そう言い残すと、聡史は屋上から飛び降りて地面に着地する。スラリと魔剣オルバースを引き抜くと、右手に掲げて魔力を込める。きっかり2分掛けて十分な魔力を込めると、聡史は魔物を押し留めていた結界を一旦消し去る。
結界が突然消えたことで、今まで前進を阻まれていた魔物たちは目前に立つ聡史に向かって一斉に襲い掛かろうと動き出す。だが聡史は剣を右に大きく引いたままの構えで仕掛けようとはしない。
万に及ぶ魔物が聡史に向かって牙を剥き出して襲い掛かろうと殺到する。あと3、4秒で魔物の手が届くところまできたその時… 聡史の目がキラリと光りを帯びる。それは彼の称号である〔星告の殲滅者〕としての危険な光そのもの。
「悪足掻きは終わりだ。この場で屍を曝すがいい。究極滅殺、断震破ぁぁぁ!」
聡史が手にするオルバースが真横に振り切られる。聡史の体から180度に渡って放たれた断震破は、かつて大山ダンジョンでゴブリン・ロードとの戦闘において一度だけ聡史が見せた剣技。空間すら切り裂く強烈な斬撃が魔物たちへと向かっていく。だが今回はあの時とは違う。2分にも渡って魔力を魔剣に込めた隔絶した威力の断震破が、密集する魔物を斬り裂いていく。
ズバズバズバズバズバズバズバズバ!
地上1メートルの高さで魔物の体が広範囲に両断されていく。その波は1秒ごとに広がって、魔法学院の敷地に大量に群がった魔物を個々の防御力など一切無視して絶ち斬っていく。空間ごと切断するのだから、どんなに硬い外殻を持とうとも断震破の前に魔物は無力。これこそが究極の破壊をもたらす聡史の秘技。
敷地内には、上下に両断された魔物の夥しい死骸が見渡す限り転がっている。現代兵器すら凌駕するこの破壊力こそが本気になった聡史の能力。
こうして聡史の攻撃によって、魔法学院に密集して押し寄せた魔物の先頭集団は一掃されていく。だがこれはあくまでも前哨戦に過ぎない。魔剣を仕舞った聡史のレシーバーには司令部から新たな報告がもたらされるのであった。
圧倒的な剣技でひとまず学院に満ちた魔物を一掃した聡史、だが彼らの前には次々に手強い敵が…… この続きは明日投稿します。どうぞお楽しみに!
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