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100 情報交換

ついにこの小説は、節目となる100話を迎えました。これも皆様の応援のおかげだと、大変感謝しております。特に企画はございませんが、記念の100話をお楽しみください。

 第1魔法学院の総合優勝で幕を閉じた今大会は表彰式が無事に終わって夕方の6時から懇親晩餐会の時間を迎えている。明日香ちゃんが表彰式以上の金色の光を放つ時間がようやく到来。



「今大会も皆様の協力を得て大成功に終わるとともに、各自の技術や魔法能力に大きな進歩が見られました。来年はさらにレベルの高い八校戦が開催できますように、ホスト校の第5魔法学院を代表しまして各校の大いなる努力に期待しております。それでは全員の今後の健闘を祈って、乾杯!」


「「「「「「「「「「カンパーイ!」」」」」」」」」」」


 第5魔法学院生徒会長の発声によって、会場に詰め掛けた今大会参加選手と役員が手にするグラスを掲げる。


 と同時に、料理が居並ぶテーブルに向って気配を消して忍び寄る二つの影が…



「桜ちゃん、さすがは大会最後の晩餐会と銘打つだけあって、並んでいるメニューがグレードアップしていますよ~」


「明日香ちゃん、今が絶好のチャンスですわ。皆さんが喋りに興じている間に、しこたま料理を確保しましょう」


 あたかも盗賊の様な会話を交わしながら皿に山盛りに乗せられた料理の数々を片っ端からアイテムボックスに放り込んでいく桜と、デザートの山に埋もれそうなぐらいに大量のカロリーを確保している明日香ちゃん。この二人にはせっかくの他校生徒との交流であろうが晩餐であろうが何ら意味を持たない。他の生徒が和やかに談笑している間に、ひたすら自らの食欲を満たすことに専念している。


 すでに二人の予想通りの行動を諦めているデビル&エンジェルの面々は、桜と明日香ちゃんの行動には口を出さずに放し飼い状態… というよりも「私たちは関係ありません! あれは赤の他人です」とでも言いたげな態度で視線を桜たちの方向には絶対に向けないようにしている。殊に聡史としては血の繋がった身内があのような恥ずかしい行動に出ているだけに、穴があったら入りたい気分のよう。


 桜と明日香ちゃんはひとまず横に置いて、デビル&エンジェルの活躍で総合優勝を果たしたとあって第1魔法学院の生徒会役員や上級生たちが代わる代わる聡史、美鈴、カレンに声を掛けにくる。しばらくはその対応で追われていた聡史ではあるが、やや離れた場所に遠慮がちに立っている見慣れない男子生徒の存在に気がつく。


 彼こそが、昨日の準決勝が始まる前に大山ダンジョンに関して話が聞きたいという一風変わった相談を持ちかけてきた第8魔法学院の生徒で間違いない。



「どうも待たせて申し訳なかった。やっと体が空いたからダンジョンの件に関する話を聞こうか」


「覚えていてくれてありがたい。僕は第8魔法学院の野原達也だ。今度ともよろしく!」


「ああ、俺は楢崎聡史だ。よろしく頼む。それで、具体的には何が知りたいんだ?」


 相変わらずどんな意図で達也が声を掛けてきたか見当がつかない聡史だが、ひとまずは話を聞かないと始まらないという態度で彼が切り出すのを待っている。



「実は僕は冒険者になりたくて魔法学院に通っているわけじゃないんだ」


「どういうことだ?」


「僕の本当の目的はダンジョンの調査なんだよ。文字通りのダンジョン調査員を志望しているんだ」


 冒険者の公式名称は〔ダンジョン調査員〕であるのは前述した。その上で達也はダンジョンの調査を目的とした活動に携わりたいと口にしている。意外な将来の希望を述べた達也に対する興味が聡史の胸中に芽生えたよう。



「政府が専門家をダンジョンに送り込んで調査をしているんじゃないのか?」


「確かに実施しているけど、まだ日本にはダンジョンの専門家と呼べる存在はいないのが実情だよ。今調査にあたっているのは建築や土木工学の専門家や地質学、地球物理学の学者で、本物のダンジョンの専門家ではないんだ。それに彼らには戦闘技術がないから、自力でダンジョンの深い階層には入れないという欠点もある」


「確かに、言われてみればその通りだ。学術的にダンジョンを専門に扱う研究者というのは、まだ日本には存在していないのか」


「そうなんだ! だから僕はダンジョンを研究する本物の専門家を目指しているんだよ」


 実に面白い発想だと聡史は感心する目を達也に向けている。ダンジョンは魔物を倒して最終的な攻略を目指す場だと思い込んでいた自身に新たな切り口でダンジョンを考えるきっかけを与えてくれた達也という存在は、聡史にある種のサプライズを与えている。



「その考えに俺も賛同したい。ダンジョンを専門に研究する… 素晴らしい発想だな」


「そんなに褒めないでもらいたい。何も僕が日本で初めてというわけではないからね。それで楢崎君に説明と確認をしたいのは僕の仮説に基づく話なんだ。大山ダンジョンは1つの階層の面積が広くて冒険者には敬遠されがちだと聞いている。実は阿蘇ダンジョンもまったく同じ傾向で冒険者から敬遠されているんだよ」


「それは全然知らなかったな。確かに大山ダンジョンは各階層の広さだけなら日本一かもしれない。といっても、俺は大山と秩父と葛城の3か所しか知らないけどな」


「阿蘇もかなり広いよ。ダンジョン管理事務所発行の資料を比較すると大山とほぼ同じ広さだね」


「それで、その広さがどんな仮説に繋がるんだ?」


 聡史には達也が言わんとすることがこの時点ではまったくわかっていない。より詳しい説明を求める眼で達也に話の続きを促している。



「実は面積だけではなくて、阿蘇ダンジョンと大山ダンジョンでは各階層ごとの魔物の分布にも共通点があるんだよ。というよりも、現段階で分かっている11階層まではまったく同じと断言できるレベルなんだ」


「魔物まで一緒? どういうことだ?」


「これだけなら偶然で済まされる話かもしれないけど、僕が調べた限りでは四国の伊予ダンジョンと関東の筑波ダンジョンも類似性が確認されているんだ」


 ここまで聞いた聡史の脳裏にはひとつの閃きが湧き起る。それはついこの間葛城ダンジョンに入った時に何気なく感じた極々小さな感想に過ぎないのだが。



「そういえば秩父ダンジョンと葛城ダンジョンはなんだか似ている感じがしたな。葛城には5階層までしか入っていないが、各階層に出てくる魔物もほとんど同じだったような記憶がある」


「本当なのかい! 階層マップには共通点があると思っていたけど、こうして実際の双方のダンジョンに潜った経験者が証言してくれるのはとても役に立つよ」


「それで、仮説というのは?」


「ああ、そうだったね。僕の考えでは日本にあるダンジョンはほぼ同じ造りの2つのダンジョンが6ペアあって、それで合計12か所のダンジョンを形成しているんじゃないかというものなんだ。どうしてこのようになっているのかは依然として謎のままだけどね」


「遠く離れたダンジョン同士が2か所ずつペアになっているというのか! 荒唐無稽な話に聞こえるが、俺自身がなんだか似ているという感想を感じただけに否定しにくいな」


 聡史は考え込む表情になる。12か所のダンジョンがペアになっているなんて仮説は俄かには信じ難い。だが自身でも感じた厳然たる事実の前に、聡史としても上手く考えがまとまらないよう。そこで聡史は達也にひとつの提案をする。



「どうせだったら海外のダンジョン事情を聞いてみないか?」


「海外だって? どこの国もダンジョンの正確な情報は国外には公表していないから簡単にはわからないはずだけど」


「ところがこの場にはすぐ間近に海外ダンジョンの情報を知っている人物がいる。そこの留学生三人、俺に話があるんだろう」


「ずいぶん長話をしているから今か今かと終わるのを待っていたのよ!」


 聡史が声を掛けたのは、いつの間にか近くに来ていたマギー、フィオレーヌ、マリアの三人。マギーのセリフ通りに、彼女たちは聡史と話をするために近くに控えていたよう。  



「俺たちの話は聞こえていただろう。よかったら、それぞれの国のダンジョン事情を教えてもらえないか?」


「ええ、いいわよ。聡史には後から色々と聞きたいことがあるから素直に答えてくれるという条件を飲んでくれたらだけど」


「いいだろう、答えられる範囲で答えよう」


 聡史とマギーの間で話がまとまる。この成行きに海外のダンジョン事情が聞けると、達也の眼は好奇心と探求心でキラキラに輝いている。



「それじゃあ、私の母国アメリカの話からしましょうか。日本には伝わっていないかもしれないけど、世界各国にあるダンジョンって思いの外少ないのよ。あれだけ広いアメリカでもわずか4か所しかないわ」


 マギーの話に聡史と達也は意外そうな表情を浮かべる。日本にあるダンジョンは知っての通り12か所、日本の何十倍もの国土を誇るアメリカにはさぞかし多くのダンジョンがあるだろうと思っていたところに、意外ともいえるマギーの答えが返ってきて驚いた表情を浮かべる。



「私の母国フランスでも確認されているダンジョンは2か所です。他に西ヨーロッパでは、ドイツには1か所、スイスとオーストリアの国境に1か所、イギリスに2か所のダンジョンが確認されているだけです」


「東ヨーロッパでは私の母国であるセルビアに1か所と、ハンガリーに2か所のダンジョンがありますぅ。他の国にはまだ確認されていないですぅ。噂ではロシアに3か所のダンジョンがあると聞いていますが、本当かどうかはわからないですぅ」


 続くフィオレーヌとマリアの証言は聡史と達也にさらなる驚きをもたらしている。世界各国には思いの外ダンジョンが少ないという事実に二人して衝撃を受けている。そこへさらにマギーが続ける。



「だからこそ、日本が異常なのよ。狭い国土に12か所のダンジョンが存在するなんて絶対におかしいのよ。だからこそ私たちは数多くのダンジョンを求めて留学してきたわけ」


 なるほどと、納得顔をする聡史と達也。わざわざ海外から留学生が日本にやってくる事情が理解できたらしい。ここで聡史が何かに気づいたような顔になる。



「ほら、世界各国の火山の何割かを日本が占めているし、地震の発生率も圧倒的だろう。そんな地理的環境が影響しているんじゃないか?」


「確かにダンジョンは山間部に発生するケースが多いわね。その可能性も否定できないけど、ミシガンのダンジョンなんか低地のど真ん中にあるから一概にそうとも言い切れないわね」


「なるほど… 思っていたよりも世界各地のダンジョンには多様性があるようだね。とっても参考になったよ。いま聞いた点を含めて色々と考証したいから今日のところはこの辺で失礼する。もし何か新たな発見があったらこれからも情報交換していきたいけど、いいかな?」


「ああ、いいぞ」


 聡史とアドレスを交換すると達也はこの場から去っていく。マギーたちの話が現在の彼の思考の大半を占領しており、心ここにあらずという表情で自校の生徒が待っている場所へと戻っていく。



「さて、この場では落ち着いて話ができないから、よかったら私たちに付いてきてもらえるかしら?」


「いいだろう」


 聡史はマギーたちの後についてこの場から離れようとすると、彼を呼び止める声が聞こえてくる。美鈴とカレンは、聡史の話が終わるのを待っていたよう。



「聡史君をどこに連れて行こうというのかしら?」


「よかったら、私たちもご一緒いたします」


 留学生三人にやや挑戦的な視線を送る二人を見て、聡史はマギーに許可を求める。 



「大体の事情はこの二人も知っているから、同席しても構わないか?」


「ええ、どうぞこちらへ」


 聡史は美鈴とカレンを伴ってマギーの後に続く。桜と明日香ちゃんは完全に放置プレーで、いまだにデザートと料理を漁っている姿を横目にしながら、聡史たちは晩餐会場に隣接した個室へと入っていくのであった。






   ◇◇◇◇◇






 個室へと入ると、マギーがいきなり用件を切り出す。



「桜はとぼけたけど、聡史とはさっきの約束があるからハッキリと答えてもらえるわね。私たちが聞きたいのは、あなたたち兄妹の秘密についてよ」


 マギーが追求する表情を浮かべながら聡史に迫ると、美鈴とカレンはやや動揺した表情となる。もちろんそんな様子をマギーは見逃さない。この二人も知っているようだから、さっさと白状しなさいと目で促す。



「いいだろう、その件に関して正確な情報を伝えよう。その代わりとして、君たち自身に関して日本へやってきた正確な事情をこの場で打ち明けてもらいたい」


「私はいいわよ。どうせ桜にはバレているし」


「私も構いません」


「大した秘密ではないですが、お話しするのは別に構わないですぅ」


 マギー、フィオレーヌ、マリアの3名が同意すると、聡史はひとつ大きく頷いて話を始める。



「想像はついているだろうが、俺と桜はついこの間まで異世界に召喚されていた。俺たちの能力のほとんどは異世界で身に着けたものだ」


「やはりそうなのね… そうでなければあの異常な能力は説明がつかないわ」


「そういうマギーはどうなんだ?」


「お察しの通りよ。私も異世界から半年前に戻ってきたの。もちろん聡史たちとは別の世界でしょうけど」


 マギーも自身の異世界経験を素直に白状している。そしてフィオレーヌは…



「私の能力は異世界とは関係ありません。皆さんはローゼンタール家をご存知でしょうか? 中世ヨーロッパで発達した錬金術に端を発して、ヨーロッパに現在でも息づく秘匿された魔術を代々受け継いできた家系です。ローゼンタール家当主の娘というのが、この私なのです」


「そうなのね… 魔術の名門に相応しい見事な術式だったわ」


「ありがとうございます。でも今回の結果ではあなたが上回りました」


 美鈴との対戦はフィオレーヌにとって忘れられない敗戦として受け止められているよう。留学生三人の活躍を見て世界は広いと多くの魔法学院の生徒が感じたように、フィオレーヌ自身も日本の魔法術式に大きな刺激を受けている。



「私は孤児院で育ったですぅ。面倒を見てくれたシスターがブルガリア正教会の秘術を身に着けている人だったですぅ。私の魔法の才能を見込んで色々教えてもらったですぅ。日本に来たのはロシアからお金をもらったからですぅ。孤児院の子供たちに美味しいものを食べさせてあげたかったですぅ」


 マリアはロシアに雇われて日本の様子を探るように言われてきたらしい。



「そもそも私たち3人が集まったのは偶然よ。アメリカ、フランス、ロシアの政府は、日本に多数のダンジョンがある点に注目していたの。何か秘密が隠されていないかダンジョンの状況調査が元々の目的だったわ。その後から急に聡史たちの調査という困難なミッションが加わったのよ。最初はどうしようかと思ったけど、こうして直接腹を割って話をするのが一番簡単だったわね」


「そんな何もかもブッチャケて大丈夫なのか?」


「大丈夫よ。すでに聡史たちには敵わないとアメリカ政府に報告を済ませてあるから」


「私もフランス政府に報告済みです」


「ロシアの機関はどちらかというと最初から聡史たちを手に入れるのを諦めている雰囲気だったですぅ。聡史たちの能力を詳しく調べて、政府の首脳が勝手に手を出さないように説得する材料にしたかったようですぅ」


 

 こうして互いの事情が明らかになると、後はより詳しい情報交換が行われる。各国の現状が知れて聡史には中々有意義な機会となったよう。その最後になって…



「聡史たちは、ぜひとも今度筑波ダンジョンに来てよ。いま12階層を攻略中だけど、私たちが案内するわ」


「そうだな、さほど遠くないし、時間があったら顔を出してみようか」


 桜が聞きつけたら明日にでも飛んでいきそうだと考えながら、聡史は苦笑を浮かべて答える。



「私たちも機会があったら大山ダンジョンに行ってみたいわ」


「いつでも歓迎するぞ。ただし覚悟してくれ。桜が張り切って一気に20階層まで連れて行くから、相当厄介な魔物が待っている」


「20階層ですって! 美鈴とカレン、あなたたちも一緒に攻略しているの?」


「ええ、桜ちゃんが強引に引っ張っていきますから」


「あの勢いには絶対に逆らえません」


 20階層と聞いてマギーたち三人は目を丸くしている。だが美鈴たちが平然と答えている様子に、今回第1魔法学院が勝利の栄誉に輝いた理由が何となくわかってきたよう。


 こうして再会を約束して、聡史たちは第1魔法学院の生徒が待っている場所へ、マギーたちは第4魔法学院の生徒の中へと、それぞれ戻っていくのであった。


この話で八校戦の話題は終わって、次回から舞台は魔法学院に戻ります。凱旋を果たす聡史たちを迎える学院生たちは…… 明日はお休みして、この続きは金曜日にお送りいたします。どうぞお楽しみに!


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