エデルカーネは目を覚ます
一般的ななろう小説を、自分でも書いてみたいと思ったので。こう書くとキノちゃんチックですね。
今回は主人公の人物像を描写するテスト
――あなたの名前を教えてください。
どこからともなく、そんな声が聞こえた。尊敬する父が与えてくれた名だ。恥じ入るものではない。私は素直に答えた。
――あなたの誕生日を教えてください。
同じ声だ。何かのアンケートだろうか。特に隠すものでもないので、これも正確に答えた。……42にもなれば、誕生日を喜ぶ歳ではない。だが、愛する子どもたちから「誕生日おめでとう」と笑顔で言われるのは、それは至上の喜びである。
――あなたの得意なことを教えてください。
私はここで、少し懐かしい気持ちに囚われた。そう、これはまるで面接のようだった。今、私は役所に勤めているわけだが、あの時は何とも言えぬ緊張を感じたものだ。今となっては、そこそこ社会経験も積み、面接の目的なども理解できるようになった。だからこそ、それほどの緊張もない。
私が人に合わせるのが得意だ。元は決して明るい正確ではないが、飲み会の席では酒を煽り、司会から宴会芸の一つもやってやれる。後輩が辛そうにしているときは、それにあわせて神妙な面持ちで話を聞いてやることもしばしばだ。
――最後に。
やはり面接だったらしい。最後とあらば、事の本質に関わる質問がくるはずだ。私は、少しかつての緊張を取り戻し、固唾を飲んで声の続きを待った。
――あなたの家族のことを教えてください。
……簡単なようで、難しい質問だった。幾らでも答えようはある。宝と形容してもいい。私の生きる源だと断言してやってもいい。しかし、どうにも足らないのだ。私の考え付く、あらゆる語彙を使い尽くしても、これと言える回答は見つからなかった。
声は、私が言い淀んでいる間、一言も口を開かなかった。やはり重要な質問だったのだろう。私が答えない限り、いつまでも待ってくれるような気さえした。相手もなかなか誠実な姿勢を見せてくれている。とあれば、私も何とかして誠実に返さねばなるまい。
そして、私はたった一つのある意味妥協的な言葉を思い付いた。
「私の全てだ」
「全て?」
「そうだ。あれらを失えば、私は自分を失うだろう。辞書に書かれているどんな言葉も、私の前では意味をなさなくなるだろう。だからこそ、全てだ。私の家族を形容できる言葉はそれしかない」
すると、一瞬の静寂の後、声の主は蚊がなくようにたった一言。
「ごめんなさい」
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目が覚めると、見覚えのない天井が視界に入った。さて、記憶にはないが、出張にでも出ていただろうか。固いベッドに寝転んだまま、首だけで辺りを確認すると、いかにも古めかしい宿である。
重い体をなんとか持ち上げ、暫しぼんやりと思考を巡らせた。
――なにか、不思議な夢を見ていた気がするのだが。
夢の中では特に疑問を持たなかったが、真っ白な空間で相手にも自分にも実体はなく、声だけが響く空間が舞台であった。誰かと対話していた気がするが、姿が思い出せない。対話の内容も、いまいちおぼろげである。
だが、どうしても気になる言葉が、これだけは頭にはっきり残っていた。
――「ごめんなさい」とは?私は何を謝られたのだろう。
しかし、ぼんやりとした頭ではうまく思考が纏まらない。ここは、コーヒーの一つでも飲んで気持ちを引き締めるとしよう。なに、どんな安宿でも、茶の一つは部屋にあるだろう。……私は、ベッドから降りようとした。
違和感である。床が、妙に近い。踏みしめる足にはどうも力が入らず、何より全身が怠くてしょうがない。
「風邪か?」
独り言である。しかし、その声は自分のものにしては妙に甲高いものだった。
焦りを感じる。自分が自分ではないように思えてならない。私は急く思いのまま立ち上がり、とにかく水分を求めた。ただの水でもよかった。落ち着くためにも、頭を切り替えるためにも、水分を摂取する必要があった。
――ガターン!
気がつけば、私は床に転がっていた。動くことができない。バタバタと足音が近づいてくるのがわかる。
「誰かいるのか!?」
やって来たのは見知らぬ男であった。貧しい家なのか、近所ではまず見ないような、ボロボロの服を着ている。
男は、私と顔を合わせると、驚いた表情を見せ……そしてすぐ、笑顔を浮かべた。
「〓〓〓〓〓!目が覚めたんだな!」
男は、涙さえ浮かべて私を強く抱き締めた。最初、私はこの男の気が狂っているものだと解釈した。強い嫌悪感を覚え、何とかその手から逃れようと足掻いた。しかし、体は思うように動かず、体力はすぐに尽き、もはや私は全てを諦める他なかった。この男が猟奇的な殺人鬼ではないことをただ祈るしかなかった。
しかし、諦めてしまえば意外にも頭は冷静になるもので、その男の言葉をよく聞くことができるようになった。
「ああ、『エデルカーネ』!よくぞあの病魔に打ち勝った!お前は勇者だ。世界一立派な、父さんの『娘』だ!」
……娘?エデルカーネ?聞こえた言葉の意味はわかるが、理解が追い付かない。この男は、誰に話しかけているのだ?
暫くして、その男の妻らしき女が部屋にやって来た。
「エデルカーネ!」
その女も、私をエデルカーネと呼んだ。私は、二人の大人にもみくちゃにされながら、何とか必死に頭を使う。脱水症状だろうか。額には嫌な汗が浮かび、意識が朦朧とする。
――おかしな要素は多々ある。「私をエデルカーネと呼ぶ(暫定)夫婦」「見知らぬ天井」「やたら甲高い自身の声」。夫婦をよく見れば、髪は染めた様子のない綺麗な金色で、目の色は青い。日本人ではない。……確定ではない。しかし、予想は十分ついた。
「ちょっとよろしいですか」
やはり、甲高い声は幻ではなかった。水を飲めず、がらがらの喉でこれだけの高音ならば、普段はもっと美しいソプラノの声をしているはずだ。
「エデルカーネ……そんな仰々しい物言いをしないでおくれ。ほら、もっと気を楽にしてくれていいんだよ」
「申し訳ありません。今の私にその権利はないのです」
「な、何をいっているんだ、エデルカーネ」
男は、困惑した様子を見せた。女は口を引き結んで、一歩離れた位置に立っていた。
「私の知る限りの全てを話します。ですが、その前に、この体が限界です。なにか、飲み物をいただけませんか」
何とか言いきったところで、私は二度、咳をした。それだけで肺が苦しくなり、私は力なく床に横たわった。脱水症状以前に、この体はかなり病弱らしい。
☆エデルカーネのステータス☆
○基礎ステータス
HP42
攻撃23
防御14
精神33
敏捷19
○スキル
病弱 レベル3
愛嬌(顔) レベル3
明日への希望 レベル5
注) 本ステータスは本編とほとんど関係がありません。