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バス停(短編)

作者: 臼井ゆら

初めて書きました。

5分くらいで読めるので、読んでください。


ここはどこだろう。


気づいたら僕は見知らぬところに立っていた。


ここはどこだろう。


僕の前には木でできた看板と3人くらいが並んで座れる大きさのベンチがある。

看板は古くなっていて、文字がかすれて読めなかった。


ここはどこだろう。


周りを見回すと、枯れて黄色くなった草原が広がっている。それらは風に煽られるとサラサラという音を立てる。ここはどうも寒くて、僕は静かな風が吹くたびに身を縮める。


ここはどこだろう。


遠くの方から音がした。何かがやってくる音が。遠くを見ていると次第にそれがはっきり見えてくる。一台のバス。それは当然のようにこのバス停の前に停まると、扉を開けた。中には1人のお婆さんが乗っていて、他にお客さんはいなかった。吸い込まれるように僕はそのバスに乗ると、バスは扉を閉めてまた動き出した。


バスは進む。


僕は席に座った。どこに向かうかもわからないバスの席に。バスの内装は至極普通で、乗っているといつもの学校に向かっているみたいだった。


バスは進む。


バスはしばらくどこに停まることもなく進み続ける。電光掲示板を見てみると、次に停まる駅は書いてなくて、少し不安になった。


バスは進む。


バスに乗っているお婆さんはどこか見覚えがあって、目でチラチラと見てしまう。するとお婆さんはこちらに気づいて柔らかに笑った。その笑みを見て思い出した。あのお婆さんは、自分の祖母だ。


バスは進む。


ハッとして目を見開くと、祖母はそれを見て優しく笑う。そしてゆっくりと口を開いた。

「このバスはね。過去と未来をつなぐバスなんだよ」祖母はそういってまた柔らかに笑う。その様子がなんだか懐かしくて、目頭が熱くなる。僕は、祖母と反対側に振り向き体の震えを抑えた。


バスは進む。


祖母が僕に笑いかけてくれる。それはとても嬉しくて、心が幸せに満ちるけれど、やっぱり僕は祖母を正面から見ることができない。見る資格がない。だって僕は、最低だから。


バスは進む。


僕がまだ小さい頃、祖母はいつでも僕のことをとても気にかけてくれた。いつでもあの笑顔を見せて話しかけてくれた。でも僕は日に日に弱っていく祖母が嫌で、どうしようもなく嫌で。それでついに病院のベッドに寝そべる祖母に向けて行ったんだ。「大嫌いだ!!」って。


バスは進む。


本当は大好きだったけれど。すぐに謝ろうと思ったけれど。病院から駆け出して行った僕の足は止まってくれなくて。結局その日は会えなかった。だから、次に会うときに謝ろうって僕は誓ったんだ。でも。その機会は訪れなかった。祖母はその日の夜に、死んだ。


バスは進む。


僕は何も言えなかった。そのまま僕は祖母と反対側を向きながら、じっと黙っていた。祖母が今どんな顔をしてるのかわからなかったけれど、きっと笑っていてはくれないだろうと思った。


バスは停まった。


徐々にバスの速度が落ちていき、一つの駅に着いた。そこには「未来」と書いてあった。僕はここが僕の降りる駅だと感じた。僕は無言で席を立った。祖母に背を向けて。そして扉まで歩いて行った。


バスは動かない。


僕は出口の前に立った。一思いに降りようとしたけれど、やっぱりそんなことはできなかった。僕は少し泣きそうになりながら祖母の方を振り向いた。祖母は僕のことを見ると、また笑ってくれた。それがたまらなく嬉しくて。たまらなくつらくて。


バスは動かない。


僕は祖母のことをじっと見つめた。もう会うことはできないのだろう、と思った。あの時のことを謝ろうと思って、口を開いたけれど、何も言葉が出てこなかった。


バスは動かない。


それになんだか違うような気がした。そうじゃない。僕が伝えたいのは。僕が本当に伝えたいことは。


バスは動かない。


僕は祖母に背を向け、バスを降りた。そしてもう一度祖母の方を振り向いた。祖母はまだ笑ってくれていた。


バスは動かない。


僕は溢れそうになる涙をぐっとこらえた。これで最後だから。僕は笑顔を作った。きっと自然じゃなかったけれど、笑顔を作った。祖母そっくりの柔らかな笑みを。そして伝えた。「おばあちゃん。大好きだよ」

祖母は一層嬉しそうに笑った。そして僕らの間の扉は閉まった。終わりを告げるかのように。そしてバスは行ってしまった。


バスはもう戻ってこない。

感想くれたら、嬉しいかもです。

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