1 姉川の戦い開始まで
今回から金ヶ崎撤退戦に連動して発生しました姉川の戦い編です!!
よろしくお願いいたします。
激動の金ヶ崎撤退戦では激しくもスピーディーな行動を要求される戦ではあったものの、織田軍の被害はごくわずかで済んだという。
織田軍の動きが統一されており、迅速な撤退が行われたこともだが、浅井・朝倉軍の動きがそれに追いつけなかったこと、統率が取れていなかったこともその勝利を決定づける要因となった。
また、寧々子は接触していなかったものの、この合戦には徳川も参戦しており、信長と共に戦線を離脱していた。
途中、前田利家と共に戦場へとどまり、信長の撤退道中を阻む者を奮戦し撃退。
後追いする形で信長のいる京へと戻っていた。
殿を引き受けた三人も信長の撤退成功の報により、戦線を急いで離脱し、ここに織田信長最大の敗北戦は終わった。
束の間の休息タイムではあるが、金ヶ崎から戻った二日後に寧々子は半兵衛の休んでいる部屋へ訪れた。
「半兵衛、失礼しますよ」
京にはねねがいることになっているので、ねねの姿で堂々と現れる。
部屋にいた半兵衛は未だ布団の上で、上半身を起こした状態で読書をしていた。
入ってきた寧々子の顔を見るなり、物腰柔らかな笑みを浮かべて挨拶をする。
「すみません、布団の中からで」
「いや。二日経っても未だに調子はよくない様子ですね」
「きっともうすぐ織田信長から岐阜への帰参命令が全軍宛に出ることでしょう。このまま浅井・朝倉を放っておくわけがありませんから。それまでには動けるようになりたいのですがね。まさかこんなに響くものだとは思いませんでした」
「半分ほどの髪を消費したのですよね? それでどれくらいの年数が消費されたのです?」
「正直そこまでは分からなくて。そもそも自分の寿命が実際どれくらいあるのかなど、分からないものでしょう? 平均年齢というものが存在はしていますが、皆が平均であるはずがありませんから」
ごもっともな意見である。
あれさえなければもっと生きることが可能だったのかもしれないと考えると寧々子は後悔しかなかった。
術の構えに見惚れて、ぼーっとしている場合ではなかったのだ。
寧々子の知る史実において、半兵衛は三十六歳という若さで病を患って亡くなっている。
それが病ではなく、この能力を駆使したことによっての死であったなら……。
その場合、秀吉の死を救う代わりに半兵衛がその死を背負ったことになる。
結局誰かの犠牲の上で成り立つ術であることに変わりはない。
しょぼーんと暗い表情を浮かべて沈む寧々子へ半兵衛はやれやれと呆れ顔と軽く息を吐く。
「そのように辛気臭い表情をされては困りますね。僕は武士として当然のこと、主を守ることをしただけだというのに責められているようです」
「責めてはいないのですが、こういうことが今後ももしかして度々起きて何度も駆使してあなたは……」
――それで亡くなったのではないか。
その続きの言葉を発することは寧々子にはできなかった。
それを見て何かを察したのか、半兵衛が問いかける。
「僕は、いくつで亡くなっているのですか?」
「…………」
「あなたはこの先の時勢を知っているのでしょう? ということは僕がどこまで生きていられるかも知っているのでは? それとも僕の死はさほど影響がないような小さなことだったのでしょうか」
「――最後までいてくれたら、きっと、もっと平和な時代は長かったかもしれません」
それが寧々子に言える精一杯のことだった。
それだけでも半兵衛は自身が主の最後の時までいられないことだけは察して「そうですか」と一言だけ呟いて目を閉じる。
しかしふと、何かに思い当たるようにそっと静かに目を開けると寧々子を見つめた。
「おねねさまは、藤吉郎様の最後までおそばにいたのですか?」
「え? ええ……」
「それは羨ましい。 ……おねねさま」
「はい?」
「もう少し戦が落ち着いたら、聞きたいことや話したいことが山ほどあります」
「お待ちなさい。そういうのはほんとうに落ち着いたら言ってください。フラグです」
「ふら?」
「なんでもありません。それではあまりここに居て体力を使わせても申し訳ないのでお暇させてもらいます」
また油断して現代語が出てしまったので追求を逃れるためにそそくさと部屋を立ち去ろうとする。
それを直前で「待って」と止める半兵衛。
「おねねさま、このあと浅井・朝倉軍を叩く戦はきっとこの撤退戦以上に激戦になると予想されます。そこで」
「参加前提になっていることを私は嘆くべきなんでしょうね」
「しないのですか?」
「します」
「では続きを。信長の盟友である徳川家康殿と接触していただきたい」
「えっ、このあとの合戦までにですよね!? 時間的に結構厳しいかと……」
渋めの反応を見せる寧々子に、半兵衛はニコーッとした笑みを顔に張り付ける。
その圧力に押し負けた寧々子はガクッと肩を落として「ハイ」と小さく返事をした。
相変わらず無茶ぶりは止まる気配を見せなかった。
「浅井・朝倉を討つ! みな、急ぎ準備を進めよ!!」
京で全軍が合流、一休みも済んだだろう? というタイミングで織田信長は家臣一同へ号令をかけた。
半兵衛が予想した通りだった。
義弟の裏切りを受けたのだ。信長がこれを見逃すはずがないと分かっていた家臣たちは何も反論することなく「はっ!」と承諾する返事だけした。
まずは信長の本拠地・岐阜城へ戻ることになり、全軍率いて京を後にする。
道中はもちろん一筋縄ではいかなかったものの、ここでもまた敵の連携がとれておらず被害は最小限のまま信長は岐阜城へと帰還を果たす。
信長の岐阜城帰参により、襲撃を恐れた朝倉軍は国境付近に位置する砦、長比・苅安尾を修築し備えたが、ここに守護を任せた武将は調略により織田軍へ降り、たやすく陥落した。
この二つの砦陥落の知らせを受けて信長は準備が整った全軍を引き連れて岐阜城を出陣し、長比砦に入った。
その後、信長は虎御前山に布陣すると主要家臣たちへ浅井長政の居城・小谷城の城下町を焼き討ちにすることを一部家臣へ指示した。
小谷城の城下町の焼き討ち現場には、寧々子の夫であり、竹中半兵衛の主である木下藤吉郎こと秀吉も参加していた。
いつものごとく、こっそり半兵衛の手勢として参加している寧々子は秀吉の命じるままに火矢を城下町へと打ち続ける。
もしかしたら民はすでに逃げているのかもしれないが、残っているかもしれない可能性を思うと矢を引く手にあまり力が入らなくなる。
戦を多々経験していても、罪のない民を殺めるような行為には気が進まない。
「そんなにやる気ないようにやっていると怪しまれますよ、おねねさま」
いつの間にか近くに来ていた半兵衛に小声で話しかけられた。
一応戦、場において半兵衛は寧々子の上司であるので、言うことには素直に従ってやる気ある風に火矢を再び放ち続ける。
「でも罪のない民がいるかもしれないのにこういうことするのはあまり気が進まない」
「それが織田信長という人間のやり方であり、戦です。こういうことをあまりしたくないから彼の勧誘を断ったのですがね」
「注意してきたのに言っていることが少し私と被ってるし。藤吉郎様が信長様に仕えている以上はそれを望むのは厳しいでしょうに」
「だからこそ、さっさと藤吉郎様に天下人になってほしいものですね」
他の部隊から火刑完了の知らせが届き、秀吉は前線からの後退の命を出す。
木下隊に属する寧々子と半兵衛もそれにならって共に後退。
そして城下町の焼き討ちから二日後。
ついに姉川の戦いは本戦の幕をあげた。
読了ありがとうございます。
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次から、みなが知るあの武将と接触しますよ~!




