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10 金ヶ崎撤退戦、終幕

撤退戦完結です!


無事、術は成ったのか。そして半兵衛の命は……!?







 竹中半兵衛が視たという金ヶ崎撤退戦において主・木下藤吉郎こと秀吉が死ぬという未来。


 撤退戦開始時、寧々子を囮にしたり常に前線に身を置かせたりして秀吉の代わりに危険に晒す機会を増やすことで運命対象が変わることをひそかに狙っていた半兵衛。


 対象が寧々子へと変化すれば、彼女は半兵衛の手勢に所属する一兵であるし、また自分の事情も知る唯一の存在。

 そちらを守る方が、都合がよかった。


 しかし運命は半兵衛の狙いを叶えてはくれず。

 運命も変わることがなければ、寧々子も何故か命令違反的行動を起こしており、人間とは本当に思い通りに動いてくれないものなのだと改めて痛感した半兵衛だった。



 そして、ついに迎えてしまった金ヶ崎城での籠城戦。

 ここが、半兵衛が視た、秀吉最後の地である。


 浅井軍が向かっていると言う伝令が来たとき、半兵衛は覚悟を決めた。


 覚悟とは、命を失うことではない。

 最初から命を捧げる覚悟はあった。

 それとは別に運命を変えるための術がうまくいくかの不安があったので、できることならやらずに済ませたかった。


 ここまで状況が完成されてしまった以上、やることを強いられていることと同義。




 ――だから。



 長政が寧々子の隙を突き、吹き飛ばすのを目視したのと同時に横にあったはずの影が飛び出していくのを気配で感じた。


 立場ある人間なら一兵士を切り捨てることがあっても不思議はない。

 でもうちの主はそれをしない。

 こうして飛び出していく人なのだ。




「――だからこそ、命をかける価値がある」














 そうして、運命が変わるあのシーンへ突入したのだった。


 半兵衛が己の髪を纏わせた刀を振り下ろした瞬間、空間が、まるで鏡が割れるような感覚に襲われる。


 それと同時に寧々子に激しい頭痛が襲い掛かる。




「いっっっっっっっっっった!!」


“ うっっっっ!! ”




 寧々子の中にいたねねさまにも痛みが襲ったのか、中で苦しみの声をあげている。


 心配したいところだが、寧々子自身にも苦しみは襲っているので気に掛ける言葉をかける余裕がない。


 しかしその痛みは唐突に収束した。

 先程までの痛みが嘘かのように引いていったことに驚いて勢いよく顔をあげる。


 そこで同時に、寧々子は己の体がさきほどまでものすごく重くしんどいものだったのにそれが無くなって軽くなっていることにも気づいた。


 まるで、戦の前のような心地。




「はっ、半兵衛は……!?」




 肝心の人物である半兵衛を探すために周りをキョロキョロと見渡す寧々子。


 それらしき人物は少し離れたところで地に倒れているのを発見した。




「半兵衛!」


「――」




 遠くから呼びかけるが返事もなければ動く気配もない。


 命を全て使い果たして変えた運命なのか、と焦って急いで半兵衛の元へ駆けよる寧々子。




「半兵衛! 半兵衛!」




 ゆさゆさと激しく半兵衛の体を揺り動かして意識を呼び起こそうと試みる。

 しかし全然起きる気配がない。

 さらに激しく揺さぶる。




「う、う、ゆ、揺らさないで……」

「半兵衛!!」




 船酔いでもしているかのような気持ち悪そうな表情と青を通り越して白くなっている肌を見てより心配する気持ちが増していく。




「半兵衛、命全部使ったの!?」




 発言することが厳しいのか、否定の意を、手先をぶらぶら振って伝えてくる。


 全部ではないならまだ半兵衛は生きていられる。

 そのことに寧々子はとてもホッとした。




「よかった……。生きててよかった」

「……成功、した?」

「え? していないの?」

「……初めて、やった、から」




 初めて。

 その単語に寧々子はギョッと目を剥いた。


 初めてで、成功の確信がないことに命かけたのかこの人。

 失敗したらということを考えなかったのか。

 いや、軍師なのだから考えないはずがない。きっとほんとに最終手段だったのだ。


 役に立てなかった自分が不甲斐なくて、寧々子はしょんぼりと落ち込む。




「……なにを落ち込んでいるんです?」




 か細い声で心配そうな目を向けてくる半兵衛に、寧々子は申し訳なさそうに謝った。




「ごめんなさい半兵衛。私、結局役に立てなかったわね」

「…………………………………………そんなこと、ないです」

「間が長すぎたかなー。少しそうだよって絶対に思ったよね!?」

「失敗したけど、僕の無茶、ぶりに、付き合ってくれた、ので」

「無茶ぶりの自覚もちゃんとあったようでよかった。今後は別の手段をお願いしたいな」




 真面目な謝罪がボケとツッコミみたいな会話になってしまった。


 しかし半兵衛が「フフ」と小さく笑ってくれたのでよしとすることにした。




 そこで寧々子はようやく周りの状況をよくよくみた。


 共にいたはずの秀吉と戦っていたはずの浅井長政はどうなったのか。


 半兵衛のいる場所から離れたところで、膝を地につけて屈している長政と何かを斬ったらしいポーズでいる秀吉がいたことにそこでようやく気付く。




「かはっ!」




 先に声をあげたのは浅井長政。


 秀吉に脇腹を斬られたらしく、手を当てて血を止めようとしている。

 そんな長政の意志とは裏腹に血はどくどくと溢れ続けている。


 先程、声をあげたときに同時に口から血も吐いていた。




「長政殿、お引きなされ」

「……私を逃がす、と?」

「今はわしらが信長様を逃がすために戦っとるんじゃ。ここで儂らを超えて行かないのであればわしらの勝利。故に殺さずに済む」

「……甘いな。義兄上の元にいるのに、その甘さのままでいて許されるのか」

「儂が儂であることに、信長様は怒ったりせん!」




 そういってニカッと秀吉は長政へ笑いかける。

 長政は苦しそうな表情の中に、少し優しい目をしてフッと笑う。

 しかしすぐに目をきつく閉じ、次の瞬間には顔をあげる。




「浅井全軍、撤退だ! 朝倉殿への義理は果たした!」




 自身の手勢へ向けてそう号令をかけると、長政はゆっくりと立ち上がって斬られた側の半身を引きずりながら歩いていく。

迎えに駆け寄ってきた自軍の兵の手を借りて馬に乗り、全軍を連れて金ヶ崎城を去っていく。



 浅井軍が撤退したいくのとほぼ同時タイミングで伝令が秀吉の元へ現れた。




「伝令! 信長様、無事京へ帰還されました!」

「おお! そうかそうか。ではわしらも全速力で京へ戻るぞ!」

「はっ!」




 金ヶ崎城にいた他の織田軍武将・池田勝正と明智光秀の元にも知らせは届き、三人は残っていた織田軍を引き連れて信長と合流するために京へ戻っていった。






 半兵衛が命をかけた運命を変える術は成功。


 どうやら、寧々子と長政の間に割って入った時に咄嗟の判断で身を低くして長政の腹を狙い斬っていったようだ。

 長政の攻撃をまともに受けない形になったことで秀吉は無事生き延びた。

 一兵士であった寧々子は秀吉に怪しまれない程度に適度にお礼を告げてそそくさと立ち去った。

 その先で半兵衛に呼ばれることになる。

















 京へ戻るまでの道中、寧々子は半兵衛につきっきりで看病していた。

 看病といっても共に馬に乗って体を支えていただけなのだが。




「しんどいと思うけど、もう少し我慢してくれ半兵衛」

「はい……ご迷惑をかけます」

「それはこっちだ。私が役立たずだったからそうさせてしまった」




 周りに悟られてはいけないので小声かつ手短に言葉を交わす二人。

 しばらく無言の時が訪れる。


 二人は寧々子が馬を引き、後ろに半兵衛が座る形で乗っている。

 無言でいる時間が長かったから、半兵衛が眠りに落ちたかと勝手に解釈して寧々子はこっそりと小声で独り言を呟く。




「命を削ってしまうから術は使ってほしくはないけど、使うときの半兵衛は美しかったなぁ。全身を月明かりに照らされて、白く淡く輝いて見えて、儚いけど秘めたる強さが見えるような、ほんと美しい姿だったな~」


「――それはそれは」


「えっ!? 起きてたの!?」

「こんな全速力で走っている馬の上で眠れるほど無神経な気質ではないです。だいぶ、体調も落ち着いてきましたしね」

「……今の聞かなかったことに」

「しませんね」

「くっっ、油断した」




 バッチリ聞かれていたことにショックと恥ずかしさを感じて寧々子はそのまま黙り込んでしまう。

 それを分かってか、肩を少し震わせながらひそかに笑う半兵衛。


 失ったものは大きいが、寧々子に美しいと言われて悪い気がしなかったのか、半兵衛は少しだけ満足そうな笑みを浮かべていた。













 ――そして部隊は、姉川の戦いへ。


読了ありがとうございます。

ブクマ・pt引き続きよろしくお願いします!


次回から金ヶ崎の戦いから連なっている姉川の戦い突入です!

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