9 運命の刻
めっちゃキンキンと金属がぶつかり合っている回です~!
まさに戦って感じ!
心身共に疲弊状態にあるが、未来視で秀吉の死を見た竹中半兵衛曰く、もうそろそろ時が迫っていると言われた寧々子。
ほぼカラカラの体力を無理やり奮い立たせて秀吉の側に控えながら戦場へと身を置く。
それをお願いしてきた半兵衛は後方へ下がり、秀吉の軍にテキパキ指示を出している様子。
その光景を遠目から確認しているとふと思う。
私をストーカーしている場合ではなかったのでは? と。
きっとそういうことを言うとまた黒い微笑みを向けられながら説教されるのかもしれないことは容易に想像がついたので心の内にそっとしまうことにした。
門前が騒がしくなってきた。
どうやら浅井軍がやって来たようだ。
「浅井がきた! 皆、あと少しだ。きっともうすぐ信長様が京へつく! それまでふんばるんじゃ!」
「おおーー!」
味方軍は最後の力を振り絞って再び襲いくる敵軍を迎え撃つ。
激しくぶつかり合う金属音、どちらの物とも知れぬ悲鳴や雄たけび。
激戦ではあるが、浅井軍は盗賊に襲われて疲弊していることと一部兵士は鎧がはがされていることから、バラバラで統率されてなかった朝倉軍同様の力加減だ。
寧々子は迫りくる浅井軍を交わしながら、大将である浅井長政の姿が見えないことを不審に思った。
「ねねさまが賊をぶつけたときは先頭にいたはずなのに、なぜ……」
何か嫌な予感を覚える。
近くにいるはずだが、もう一度秀吉の姿を確認する。
秀吉はちょっとだけ離れたところで浅井軍の一兵と戦っていた。
ひとまず近くにいることと生きていることに安心する。
しかしその秀吉の先でキラリと光るものが寧々子の視界に入る。
なんだ? と思考したのも束の間。
光の見えた方向から突撃してくる人が一人。
――浅井長政だった。
「藤吉郎様!」
「……ねね?」
寧々子は咄嗟に素のまま叫ぶ。
それに反応した秀吉は、聞こえるはずのない声音を聞いた気がしてすぐにハッと反応する。
素のまま叫んでしまったことを後悔する間もなく、寧々子は地を蹴る。
長政と秀吉の間に立ち、突撃してきた長政の槍を受け止める。
「ぐぅっ!」
「あっ!」
受け止めた攻撃の重さに体が耐え切れず後方へ飛ばされてしまう寧々子。
それに驚いて声をあげる秀吉。
そこでようやく、自分の後ろから浅井長政が迫っていることに気付いた様子だった。
「浅井長政か……!」
「木下藤吉郎殿、ここを通してもらおう!」
「へっ、お断りじゃ! 信長様を裏切り、妻であり信長様の妹君であるお市様を悲しませるお前なぞ、絶対に通さん!」
「これもまた戦国の世の定め。あなたには分かるまい!」
「分かりたくないねぇ!」
キンキン、と金属のぶつかり合う音が続く。
長政の槍をうまく刀で交わしていく秀吉。
二人とも身長差が激しいが、秀吉は己の低身長をうまく利用して身軽に動いていた。
飛ばされた寧々子が急いで戻ると、うまいことやりあっている二人の姿が視界に映る。
こういうとき、秀吉はほんとに武将なんだなぁと実感する寧々子である。
加勢するために、気配をできるだけ薄くして秀吉の背後に隠れながら長政を狙う。
秀吉の肩越しに寧々子の存在を認知した長政は一瞬で受け身の体制を構えて寧々子の攻撃を受け止める。
女である寧々子と高身長で槍と大きな盾を持てる長政。
力の差は歴然。
しかし辞めるわけにはいかないので、ひらりと後方に戻って体制を立て直す寧々子。
寧々子が後方へ跳んでいる間に横からすれ違って長政へと攻撃を仕掛ける影が二つ。
秀吉と半兵衛だ。
「「はあっ!」」
声を揃え、長政へ攻撃を仕掛けるも盾に防がれてしまう。
受け身をとった半兵衛の側に駆け寄り、寧々子は小声で声をかけた。
「身長差とあの盾のせいで全然刃が通らないよ。傷一つつけられない」
「あと、今のねねさまでは体力も限界であることも要因ですね。普段の身軽さなら、もう少し動けたはずでしょう?」
「買いかぶりすぎ。でも確かに今よりは動けたね」
「藤吉郎様も限界が近い。僕も体力派ではないのでこのまま持久戦は望ましくないなぁ」
だが、手がない。
きっとそう言葉を続けようとしたようだが、攻勢にでた長政にそれを阻まれる。
「この程度で私を止めようというのか?」
「ハアハア、全くいい腕してるってのに、朝倉軍にはもったいないぐらいじゃ。どうじゃ、このままこちらへ寝返らないか?」
「今更寝返っても義兄上からのお叱りで首が跳ねよう。ならばどちらについても同じこと」
「戻ってきてくれるならわしが便宜を図るぞ!」
「あるがたい話だが、断ろうッ!」
秀吉が長政へ話しかけて注意を逸らそうと試みるが、あまり効果がないようだ。
賊投入で長政の手勢をボロボロにすることはできても長政自身へのダメージはさほどなかったようだ。
三人相手に一人で攻撃をかわし続ける長政。
まさに守護者の称号がふさわしい人間だ。
こうして実際に戦ってみると分かる。
ほんとうに、信長様は長政が敵に回ったこと、悔しいだろうなぁ。
そんなことを考えながら攻撃を仕掛けたり、避けていた寧々子。
だが、それが油断となった。
「隙ありッ!」
「あっ!」
ふいに見せることになってしまった隙を突かれて薙ぎ払われる寧々子。
咄嗟の反射神経で致命傷は免れられたが、大分槍の攻撃が効いた。
身を投げられ、地に打ち付けられる。
そこをすかさず攻める長政。
避けるために体を動かそうとする寧々子。
しかし間に合わない。
その二人の間に、秀吉が割って入ってくる。
避ければ寧々子に攻撃がいってしまうので、秀吉は自身の刀で長政の攻撃を受け止める気だ。
しかし一度長政の攻撃をまともに受けた寧々子には分かる。
それはまずい。
「っ! ダメ!」
同時に、寧々子は悟った。
今が、その時。
半兵衛が未来視した瞬間だ。
このままでは秀吉に死が確実に訪れてしまう。
スローモーションで世界が動いているように見える。
――変えられなかった。
そう、寧々子が絶望した瞬間。
「まぁ、こうなる予感はしていましたよ」
やけにハッキリと、半兵衛の声が、
響いた。
バッと寧々子は勢いよく、声の聞こえた方へ顔だけ向ける。
寧々子の視線の先には、白くぼんやりとした光りを放つ存在が見える。
月明かりを全身で受け止め纏う刀。
その刀に纏わりつく黒い影。
それを掲げ、とても美しい構えを取っている一つの影。
――竹中半兵衛である。
鎧を外したのか、中に着ていた着物と装飾を晒して髪を風に遊ばせており、とても戦場に似つかわしくない姿だ。
しかし寧々子は半兵衛がほどいている髪の長さに変化があることにすぐ気づいた。
「半兵衛!?」
「――大丈夫。きっと成功する」
「ダメ!」と寧々子が声を張るよりも早く、半兵衛が構えている刀が煌めきだした。
刀に纏わりついている髪を喰らったのか、髪はみるみる光の残滓となっていく。
そうして刀が光り輝く。
「かの者の運命を変えよ」
そう一言呟いて、半兵衛は刀を振り下ろした。
空間が、切り裂かれる。
読了ありがとうございます。
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ついに半兵衛は、初の運命替えを実行……!




