4 味方軍と共に奮戦せよ!!
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無茶ぶりされた寧々子は無事に秀吉たちに合流できるんでしょうか!!
“ 一定時間、最前線で奮闘してください ”
それが、半兵衛が私に課した命令だった。
一応、私が半兵衛の主の嫁であることを確認したが、知っていますよ、と笑顔で返された。
つまり、私は主の嫁であることよりも一兵士たることを要求された。
しかもお手伝い兼護衛としてつけられた人は、たった五人。
めちゃくちゃ引き腰だし。
どう考えても死亡フラグしか立っていない。
――はっ。
まさか、この作戦の真の狙いはそこだろうか!?
秀吉の死を回避するために私を死なせる作戦!?
代理人を用意するなんてさすが軍師。それが主の嫁であっても迷わず指名とは容赦がない。
絶対生きて戻ってやる。
そんなやけくその気持ちのまま朝倉軍へ突撃して屍の山を築いているとさっきまで後ろで、引き腰でいたお手伝い兼護衛の兵士たちがなぜか奮起していた。
「お前たち、無理するな」
「いいえ! あなたの戦いぶりを見て、我々は己の小ささを恥じました!!」
「私達も尽力します!」
「必ずや、織田に勝利を!!」
うぉぉぉぉぉぉと声を張り上げて再び迫り来ている朝倉軍へ向かう五人の兵士。
半兵衛……君の人選は間違っていなかった。怒ってごめん。
反省の意を念で伝えるためにも、私もより一層奮起せねば!
彼らに続いて私もまた、新たに迫る朝倉軍へ突っ込んでいった。
追撃できた二軍までを半分ぐらいまで削ったあたりで、私は半兵衛の次なる策を思い出した。
“ 一定時間奮闘したあと、退却できるタイミングができたときに全力で逃げ惑うようにこの場所まで逃げてきてください ”
そう言って地図で指さしたところは殿武将の一人・池田勝正が守る地。
そこで彼が率いる鉄砲隊を伏せておく、と言われていた。
私は五人に視線をやって全員の生存を確認し、持っている槍で撤退の合図を送る。
全員それに俊敏に反応して、首を縦に振る。
私たちは不自然にならないように、苦しまぎれの撤退を装って残っている体力を注いで約束の地まで駆ける。
その道中から続々と伏せていた味方軍が現れ、次々と朝倉軍の足止めをする。
私達の撤退を援護しているようだ。
おそらく半兵衛の指示。
見捨てたわけではない、という安心感に心が温まる想いがした。
約束の地には鉄砲隊を準備させた池田勝正が待ち構えていた。
「池田様!」
「半兵衛殿の言っていた部隊か! 早くこちらに」
彼の指示に従って急いで鉄砲隊の後ろへ駆け込む。
私達の撤退を援護していた伏兵たちも下がり、敵を誘い込む。
ギリギリまで織田軍の伏兵が善戦したことで鉄砲隊がいることに気付かなかった朝倉軍は突然現れたものを見るかのように驚いて勢いづいていた足を急ブレーキがかかるかのごとく止まる。
それでも十分鉄砲の範囲に入る。
「撃てーー!!」
池田勝正の指示と共に鉄砲が放たれた。
前にいた朝倉軍は次々と崩れる。
鉄砲の範囲外にいた後ろの朝倉兵士が「下がれ下がれ!」と声を張り上げるも、後ろに控えている朝倉軍の武将が進めと命じてきて朝倉軍は混乱している。
無理に押されてくる朝倉軍へ容赦なく鉄砲を撃つ指示を下す池田勝正。
迫っていた兵士はそれにほぼほぼ崩れ、相手は「援軍はまだか!」と後方へ叫び出している。
時間稼ぎは十分なようだ。
その間に池田勝正は味方へ退却指示を仰ぐ。
私もそれに続いていった。
次の退却先には秀吉と明智光秀の二人が共に控えていた。
半兵衛の姿も見える。
ということは、現状ここがデッドラインとなるのか。
私は連れていた半兵衛から預かっている兵士と共に彼に合流するため、池田勝正の手勢から離れる。
半兵衛もこちらに気付いて、ニコッと一笑み向けてくる。
「無事でしたね」
「死ぬかと思ったわりとマジで」
「まじ?」
「本気という意味」
「不思議な言葉を使いますね。まぁ今は置いておきましょう。状況ですが、信長様が少し離れた位置に足止めを食らっているため、ここが今の最終防衛地です。ですが、利家殿の奮闘もあっておそらくそう経たないうちに突破できると予想されます。ここはもう策でどうにかできる範囲外なので実力勝負です」
「なるほど、分かりやすい。なおかつ、あの人には目を光らせればいいわけね」
「ええ」
二人で話しているうちに、朝倉軍がチラチラ見え始めている。
私や池田勝正の鉄砲隊の影響で部隊はバラバラ、統率もあまりとれていないのか兵はまとまりがなく、命令を仰ごうにも近くにそれができるものがいないのか戸惑っている様子。
その隙を秀吉と光秀は見逃さなかった。
光秀が伏兵へ出るよう、秀吉はこの場に残っている兵士に攻めの指示を下す。
「私達も行きましょう」
「ええ」
ふと、半兵衛の装備に違和感を覚えてジロジロ見てしまう。
それに対し、半兵衛がわざとらしく照れる仕草を取る。
「こんな死と隣り合わせの戦中に何をそんなに情熱的な視線を向けているのですか?」
「違う! なーんか装備がいつもと少し違うような気がして。なんかチリンチリン音とかしない?」
「僕だって装備を新調したりしますよ、失礼な」
「ええー? 高い馬だと戦中に置いていくことになったときに気になって仕方ないとかいって安い馬しか選ばないあなたが? 特に聞いてないんだけど」
「なんで装備を変える度にわざわざ報告しなくてはいけないんですか。いいから早く行ってきてください!」
ドンと強く背を押されてバランスを崩しそうになるのをうまく受け身をとって体制を持ちなおす。
すると目の前には死にかけの朝倉兵士。
――ホラーか。
「ほんとに私のこと主の嫁だって思ってる!?」
逆ギレしつつも、その兵士にトドメをさして勢いのまま前に出ていく。
だから私はこのとき半兵衛が言った独り言に気付かなかった。
自分に押された後、一人で混乱の渦中へと飛び込んでいく寧々子を少し離れたところから半兵衛は見ていた。
その瞳は暗く、感情などない。
表情も読めないものになっており、誰にも見せたことのないまさに軍師といえる残酷な顔つきでいた。
「……目ざといなぁ、おねね様は」
そういって己の鎧や服を一撫でする。
寧々子が感じ取った違和感は正解で、半兵衛の今日の装備は特別製だった。
あまり目立つ大きさではないものの、所々に勾玉や鈴がついており、神社の祈祷でも使われる大麻なども少量装飾としてつけている。
中に着ている服には上質な絹が使われている。
これは半兵衛の簡易祈祷装備だ。
彼は今回、最初から自分の命を差し出すつもりでいたのだ。
実はこれまで半兵衛が視てきた未来に、人の生死にかかわる夢は、実は一つもなかった。
人の生死にかかわる未来視は秀吉が初めて。
自分の能力を自覚して以来、あらゆる書物を読み漁り、自分の能力を把握まではできたものの、実際の所大した運命を見たことはなかったので命をかけて変えようとしたことがなかった。
方法は知っているが、実行させるまでに至る気持ちへ半兵衛を突き動かした者はいなかった。
でも。
木下藤吉郎、彼に僕は明るい未来を感じた。
だからこそ、命をかけて守りたいと考える。
「おねね様、ごめんなさい。これ、初めてなので上手くいくか賭けなんですが」
そう独りで呟き、空を仰ぎ見上げる。
持っていた脇差を抜き、己の髪へそっと添える。
「あなたがここにいることが異端であるなら、きっと成功しますね」
そう、静かに呟いて、半兵衛は膝ほどまであった長い己の髪を肩のあたりでバッサリと切りおとした。
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