三吉ターン:僕が決めた道
三吉がはじめて己で人生をどうするか考える回です。
なかなか大きな目標を抱いて仕事しようなんて思う人はいませんよね。
みんな理由はほとんど身近なんですよ
平馬さんはあのあとすぐ「また会おう!」といって寺子屋を去っていった。
秀吉からの勧誘、平馬さんの問いを受けて僕は改めて自分の今後をどうするか、きちんと考えることにした。
といっても、前世で自分の道を自分で決めていたわけではないのもあり、果たして僕は自分にやりたいことがあるのか分からずにいる。
やりたいこと。それは何か。
それについてずっと考えていたらここしばらくの間、寺子屋の勉強に身が入らなくなり先生に時々叱られるようになった。
このままではよくないと思い至り、寺子屋をしばらく休むと決めてそれを先生に伝えに行くことにした。
「先生、お話があります」
「おお、佐吉か。ちょうどよかった。わしも佐吉と話がしたかった」
先生の話したいこととはもしかして説教だろうか、などと不安になりながらも先生と対面する位置に正座する。
先生も机からこちらへ向き直り、姿勢を正す。
そこで一瞬の間が生まれた。
どちらが先に話始めるか、お互いにタイミングを計っているようだ。
しかし先に静寂を破ったのは先生だった。
「佐吉、先日大谷平馬殿がいらしてからずっと勉強に身が入っていない。自覚はあるかね?」
「はい」
「では、原因も分かっているのかね?」
「はい」
「それを話してもらうことはできるかの?」
説教をするわけではなく、ちゃんと話を聞いてくれることに僕は一瞬の驚きを見せる。
先生は寺の和尚であるし、やはり前世の両親基準で大人を図るべきではないなと自分の悪いとこを反省して僕は口を開く。
「先日の平馬さんもそうですが秀吉様からの勧誘も受けまして、僕は自分が今後どうするべきか、自分を見つめなおしていると言いますか」
「なるほど。己の行く末を考えていたか。それなら説教をする必要はないな。むしろ相談を受けるべきであろう」
「相談……。これは自分のことです。人に話すことではないのでは?」
「確かに最終的には己が決めること。それは他人がどうこう言おうと曲げることではない。じゃが、決める前にこういう道がある、など選択を提示することもまた教える者として、和尚のわしとしてはしてやらねばならぬこと」
おお、まさにお坊さんぽいことをおっしゃる……などと感嘆した。
先生はそういうと、後ろの文台から筆と紙をとって何かを記した。
「お主は武より文が優れておる故、文を生かすことを前提に話したとしよう。
一つ目の道に、このまま父や兄に付き従う。
二つ目に、先日の秀吉様の申し出を受け、秀吉様へ仕える。
三つ目に、大谷殿にお願いし、仕える。
この三つがそなたに今ある選択肢と言えよう」
「そうですね。あと僕は次男ですから家を継ぐ必要もない。なので、すべてを捨てただの農民となるという手もあります」
「そうじゃの。農民である以上は上の取り決めにずっと従い続けると言うこと。逆に秀吉様や大谷殿のところへ行くと言うことは己で決めごとを作ることが可能になる。それは佐吉次第で人々の生活を救うことができるということ」
「人の生活を、救う?」
「うむ。秀吉様が先日長浜城主となったあと、政策に年貢等の免除を行ったであろう? それにより我々の生活はよくなり、皆もそうなりたくて近隣からも人が集まってきた。そういったことができるのは有力な大名の元でしかできまい」
確かに、そういったことをするなら秀吉かせめて平馬さんのところに行くのがいいだろう。
人の生活を救う、か。
確かにここ、近江国では今日までの数年間の間に浅井家が朝倉家へ味方して織田信長に反逆したことによって戦が多く起きた。
それにより近江の民が疲弊していたのも事実。
今後、またそれがここで起こらないとも限らないし、ここではなく他の地でもそういったことが起こるだろう。
そういったときに、自分が民のために役立つならそれをやるのもいい。
しかし僕はこれまで身近な者のために生きてきたからか、あまり見知らぬ他人のために行動したいという気持ちにはならない。
今の家族のために行動したいかと思えば、人が悪いわけではなくむしろいい家族なのだが、みんな自分のことはなんとかできているから自分が尽くす必要がない気がするのでその気持ちが起きない。
どうしたもんか……と悩んでいると、ふと先日平馬さんと話したときのことが浮かんだ。
“俺は大谷平馬。今は秀吉様に仕えている”
平馬さんは今、秀吉様に仕えているのか。
……そうだ!
「先生、決まりました!」
「ほう」
「僕は秀吉様に仕えたいと思います」
「それはなぜ?」
「平馬さんが仕えているので!」
先生の眉がみるみる「へ」の字に変わる。
僕もこんな単純な理由で仕事先を選ぶ日が来るとは思わなかった。
「平馬さんは僕にとって初めての友人です。勉強ばかりで人付き合いが下手な僕と友達になってくれる人はそうはいません。ですから、僕と友達になってくれた平馬さんが支える人を、平馬さんと共に僕は支えたい」
「な、なるほど。大谷殿に仕えようとはしないのじゃな」
「平馬さんは僕を友と言いました。友とは対等であるものだと僕は考えています。そこに上下関係は不要です。だから対等に並び、同じ主君を支えたい。
それに、秀吉様も先日、僕の掃除やお茶出しを大変評価してくださいました。農民であっても正当な評価を下してくださる方ならば他の大名たちより信頼できます。
仕えている間に、僕は僕にしかできないことを見つけ、それを生かして民のためになることができたら最終的にはよいのかなと思います」
先生は僕の決意に、最初唸っていたが、最後には「佐吉が決めたことじゃ。やってみよ」と言ってくれた。
かくして、僕は友達のために働くことを決意した。
結局誰かのために動くことから離れられないのはもはや僕の性なのだろう。自分のためにと行動していた姉とは正反対だ。
姉みたいにはなれないが、でも僕は、これはこれでいいという気がした。
きっと僕はそうやって誰かのために生きるために生まれたんだ。
ぜひブクマ、pt、よろしくお願いします。
次回は明日更新です!
そろそろ再会までのカウントダウンが年ではなくなってきた!




