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寧々子ターン:決戦!桶狭間の戦い

いつもありがとうございます。

ここまで読み進めてもらって感謝が絶えません。


これまでにも幾度かあったのですが、今回の話は今までで特に、より自分の中の何かを出しながら書いた気がします。

なにか舞い降りて、寧々子になった、感じ。

今後もそんなふうに書けるようにしたいです。










 織田陣営・善照寺砦。


 信長様の出撃令を受けて現在大体二千~三千人以上の兵士が集まった。

 対する今川軍は二万以上もの大軍でそのうちの一部は他の砦を攻めており、こちらはそれに押されているようだ。


 途中から不本意ではあるものの、あの有名な桶狭間の奇襲作戦実行の場にいると思うと少し心が高鳴る。

 しかし私は未だ、人を殺すということに覚悟を持っていない。


 一瞬、殺さず気絶させるのはどうだろう? と考えたが、それがのちに災いの種にでもなってしまったら味方に申し訳がない。


 気持ちに踏ん切りがつかずにいると、信長様が皆の前に進み出た。

 とうとう、始まる。




「よいか、皆の者。これより、今川義元の本陣へ奇襲をかける」




 信長様の言葉を聞いて兵士の間に衝撃が走り、ざわつきはじめる。


 ほんとに奇襲が始まる。ああ、どうしよう。




「迷うな」

「!」




 己に言われたかのような言葉が聞こえて反射的に顔を上げる。

 バチッ、と信長様と目が合ったような気がした。




「迷えば死ぬのはこちらだ。生きるために決断せよ」

「……!」

「己を生かし、周囲を生かすのだ。その論に基づき、余は、余が生きるために今川義元を討つ!」




 己を生かし、周囲を生かす。

 この言葉が、私の心に深く、深く、刺さる。


 他の皆もきっとこの言葉に心を動かされたのだろう。

 ざわついていた空気は消え去り、決意を秘めたような顔つきへと変化している。


 そうだ。

 自分が生きなければ、守りたいものを守れない。

 生きたい。生きて、守りたい。


 でもそれは相手も同じ。

 己を生かして周囲を生かし、守る。

 きっと、その想いの衝突がこんな争いを、戦国時代を生んでいる。


 戦国時代だけではない。

 どの時代の戦もどんな理由や狙いがあったとしても、根源にはこれがあるのだ。




「……己を、生かすため」




 私は、生きなくてはいけない。

 ねねさまから受け取った願い。

 その願いの過程にある、前世で守れなかった弟を今度こそ守るため。


 私は無意識にしていたグーの手により力を込めて覚悟を決めた。


 もうここは、私が生きていた戦争と無縁となった時代ではない。

 生きるために、殺す時代だ。


 とても、恐い。

 怖くないわけがない。

 殺された経験はあるが、殺しの経験はない。

 今日だけでどれだけの人を手にかけるか分からない。

 これから先、人を殺す機会がまた訪れる可能性もある。

 殺した分だけ、生きたかった人の願いを背負い、引きずって、自分がそれ以上に強く生きる気持ちを持たなければ自殺することだってあるかもしれない。


 ああ、ほんとに嫌な時代だ。

 泣き出したい。

 泣いて、今すぐこの場を離れて、家にも戻らず、山奥にでもこもって農作業でもして隠居暮らししながら余の情勢を仙人の気持ちにでもなって眺めていたい。




「敵は長旅で疲れている。今が好機! 余に続け!!」




 信長様の一声に皆が「オオーッ!!」と声を張り上げる。

 それに呼応するかのように、降っていた雨がさらに勢いを増す。


 あれ、鎧に時々鈍い音がするし、布の部分がチクチク痛い気がする。

 これ、雹では?

 あ、雹だな。




「おい、お前早く馬に乗れ」

「は、はい!」





 雹入りの雨に打ち付けられながらも信長様は先陣をきっていった。

 それに皆が続き、私も馬を走らせた。

 例の崖が近づいているが、信長様がスピードを落とす気配はない。


 ほんとに、すごい人だ。

 怖いものなどないかのよう。

 それでこそ、推せる。


 崖から馬と共に飛び降りる覚悟を固めて私も信長様と同様、スピードを落とさずに行く。




 ザッッ。


 崖を、飛び出した。


 一瞬、羽が生えたかのようにふわっと浮いた気がした。

 今なら、私、飛べるかも。


 でもすぐに現実に引き戻された。

 馬がギリギリの受け身で地面に着地しようとしたが失敗して私は馬上を投げ出される。




「――くッッ!!」




 とっさの反射神経で受け身をとってなんとか打ち付けずに済んだ。

 ガバッと勢いよく顔を上げて立ち上がると、目の前には今川軍。

 状況を分かっていないのか、こっちをポカンと見つめて何もしてこない。

 私はすぐに背負っていた槍を手に持つ。




「……生きるためだ」




 小声で自分に言い聞かせ、私は集中した。


 前世で、試合をしたときと同じように。

 いや、それ以上に感覚を研ぎ澄ませ。


 瞬時に気を整え、武器に触れる前の今川軍を槍で、突いた。







 初めてなりにがんばって自分を守りつつ戦えているが、そうは言っても……。


 私は前に出すぎていた。


 おかしいな。崖を飛び降りたときは後ろの方だったはず。

 もしかして結構強いのかな、私。

 それでもあまり目立つのはまずい、ちょっと下がろう。




「藤吉郎殿!!」

「!」




 味方が秀吉を呼ぶ声が聞こえる。

 声の方へ目を向けると、戦っている秀吉の後ろから襲い掛かろうとしている今川軍が。




「ッ!」




 キン。

 金属の重なり音が響く。

 そこだけまるで一瞬時が止まったかのようだった。

 咄嗟に走り出していた私は槍を伸ばして秀吉を斬ろうとしていた刀を受け止める。

 しかしこのままでは力で負ける。


 秀吉がすぐに前で相手していた者を斬り、襲い掛かってきたそいつも斬る。




「助かった。礼を言う」

「いや、無事でなにより」




 一息つこうとしたが、秀吉の肩越しにまたこちらへ来る今川軍が見える。

 そして私の後ろからも来ているのか、秀吉が私のうしろを見てまた顔色を鋭いものへと変える。

 私達は無意識に背中合わせになって構えた。




「槍の方、背中はお任せしても?」

「勿論。あなたも私の背中を預けます」

「ああ!」




 不思議だ。

 戦の最中だというのに、今、とても安心している。


 私の記憶にある秀吉は浮気ばかりで女にだらしない印象が強すぎて忘れていたが、秀吉はバカではない。

 この時代に転生してからも真面目で、出世欲に溢れていた。

 仕事にはとても一途だ。

 友達とか同僚として仕事を手伝うとかならアリだな、などと思ったことがあったな。

 まさに、今がそのときかもしれない。


 私はこのとき、無意識に笑っていることに全く気が付かなかった。














「今川義元、討ち取ったりーーー!!」




 遠くで義元討ち取りの声が上がった。

 これにより今川軍は戦意喪失。

 織田軍は勝ち鬨をあげた。



 桶狭間の戦いが、終わった。



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