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無限にヒトは夢幻する  作者: 雪時雨
プロローグ
2/9

大戦


ある小説家は言った、十分に発展した科学技術は魔法と見分けがつかなくなる、と。


ある詩人は言った、事実は小説よりも奇なり、と。


そしてある科学者は言った、心や感情が人を動かす、と。







┃星歴127年┃ 第七次世界大戦



「こちらδ隊通信員、敵魔法機甲隊との接触を開始。砲撃戦に移行します。」


耳に装着する型の通信機を通して、緊迫した男の声が聞こえ、戦闘開始の旨を伝えられた。


「こちらコマンドポスト-ランド、了解しました。検討を祈ります。」


同様に緊迫した管制室に、そう返答する女の声が聞こえた。すると、同時に通信が切り替わり、今度は管

制室の別の人間に、あまりよろしくない一報が入ってきた。


「こちらμ艦隊指揮官!予想より潜水母艦の数が多くて潜水攻撃が激しい!さらに向こうは空中空母も動員してきやがった!出来れば援護を求めたい!」


連絡してきたのは通信員ではなく、女性の指揮官だった。それだけ緊急事態なのだと察し、聞き手にはさらなる緊張が走った。しかし、そこは選ばれた戦術と状況判断のプロ。慌てず落ち着いて、敵の戦力とそれに対応する戦力の計算を頭の中で瞬時に行い、応答する。


「こちらコマンドポスト-オース、了解しました。予備のλ艦隊をそちらに回します。さらに、近くの陸上基地から魔導航空機と空中空母2隻を発進させます。確かカンゼイ海のロバッツ島付近でしたよね?それだと、艦隊が到着するまで最低でも2時間かかります。」


手元のホログラムに映る開戦海域と艦隊の状況を加味して、予想到着時間を伝えた。

しかし、それでは時間が遅いといわんばかりに、指揮官が到着時間を早まらせるよう催促をしてくる。


「ああ、よろしく頼む。だが、一刻も早く支援がほしい。ちと数で押されてる。」


「了解しました。では先に、待機している魔法支援γ部隊に早急にゲートを開いてもら…はい?分かりました!…えーと、β艦隊が別海域の制海権を奪取したので、そちらの援護に回れるそうです。」


即座に指揮官の言葉に応対して迅速な対応を取ろうとした管制官だったが、いきなり味方の別の艦隊の吉報と再出撃可能の報告を受けて、一瞬驚きと戸惑いを見せた。しかしながらも、すぐにそれに対応し、出撃部隊を変更した。


「β艦隊か?まさかもうあの海域を制圧したのか!?信じられん。さすが多くの精鋭と最新兵器を含む艦隊だ…まぁ、支援がもらえるというのであればありがたい。是非頼む。」


「了解しました。それでは御武運を。」


事務的ではあるが、しかし力強い言葉でそう言い放った。

すると、ちょうど通信が全部終わったころあいを図って、管制室の責任者らしき眼鏡をかけた男が、優しい声で休憩を促す。


「みんなご苦労。通信がない人は、脳と魔力の回復のため、しっかり休息をとってくれ。かなり魔力を消耗した人は、魔宝核を消費してもらって構わない。」


彼の手を見ると、そこには紫色の淡い光を放つ透明な正十二面体があり、ふぅとため息をつきながらそれを握りつぶした。


そうすると、握りつぶした正十二面体の破片が、ホログラムのようにキラキラと質量の感じさせないものとなり、それらが男の周りへ行き、吸収された。

どうやら手のひらにある、淡い光を放つ透明な正十二面体が魔力を回復する魔宝核と言うらしい。


「やっぱ、長時間通信は結構来るなぁ…。」


そう責任者の男が言った後、続くように他の管制官も腰元のポーチから同様の魔宝核を取り出し、それらを握りつぶした。

きれいに輝く魔宝核の破片によって、管制室に幻想的な光景が作り出される中、それを見ながら責任者の男はこんなことを物思いにふける。


この世界大戦も今回で七度目。さらには、すべての国家が二大勢力に分かれて参加しているため、今までの大戦の中でも規模が一番大きくなっている。

このローリェ権国は魔導国家であり、科学技術と真性魔法が融合した、技術魔導による戦力を主体として部隊編成されている。

しかし、最近は他国の科学技術と真性魔法の発展が目覚ましく、今まで優勢であった国家戦力が傾きつつある。

だが、精鋭部隊の個々の戦力を見れば、まだ優位性は保たれているので、こうして2国とのつばぜり合いに、何とか勝っている。

今回の同盟は裏切れるものではないから、このままじりじり勝利していけば今回の大戦は勝てると思うのだが。

しかし、敵の精鋭魔法部隊の情報がいまいちつかめてないのが気がかりだ…。


管制室にいるその責任者は、自分が戦場にいるわけでもないが、そう考えると自然と手に汗が滲み、焦燥感に駆られる。


休憩を終えた他の管制官が、スムーズな情報通信をすぐに行えるようにするため、いつでも耳元の通信機に集中していると、ある一報が耳に飛び込んできた。


「こちらθ魔導航空ーーー、敵の対航空機魔法に多数やられーー…さらに敵の航空機も多数ーーし、こちらは不利ーーーため撤退を要求したーーー。」


かなり航空官の焦っている様子と、通信妨害のためかところどころ聞こえなかった。しかし、その様子からもかなり切羽詰まっている状況だということはすぐに感じ取れた。


また、通信妨害対策は万全に行っている隊なので、さらにそれを妨害するとなると、敵戦力がかなり大きいこともすぐに予想できた。


しかし、θ魔導航空部隊がいる空域は、陸上巡洋艦やレーザー魔導砲などの別の陸上部隊の進行ルートであったため、必ず押さえなければならない場所であった。

そのため、すぐには撤退を受け入れることができず、苦虫を噛み潰しながらも管制官は応答した。


「こちらコマンドポスト-スカイ、了解しました。撤退は…申し訳ありませんができません。そこの制空権を失うと前線への信仰経路がふさがれてしまいます。増援部隊をなるべく早く送るので持ちこたえてください!」


もしかしたら、と撤退の可能性を抱いていた航空官であったが、その希望は裏切られ予想通りの反応に思わず歯噛みした。しかし納得いかず、再度感情的になりながら訴える。


「くそっ、やはりかっ!しかし、この空域が重要なのはわかるがこちらは消耗しきってる!相手はおそらくオーノル王国の魔法師だ!俺の部隊じゃ対処できねぇ!」


確かに、航空官の言っている通り、彼の部隊は対物理・対魔導に重点が置かれているので、相手が純魔力部隊だとかなり相性が悪い。

しかし、θ魔導航空部隊は全体で言うと中の上くらいの実力なので、相手がある程度強くてもしばらく粘れるはずだが…。

さらに、余剰戦力を送り込むにしても戦闘地域へ到達するまでは時間を要するし、魔法部隊のゲートで速攻行ったとしても、敵の魔法戦力の方が大きいことが予想されるため、ゲートを開いた時点でゲートを潰され、結局労力の無駄遣いになってしまう可能性がある。

そもそも、その地域は魔力探知を行っており、大きな魔力反応があった場合はすぐに報告があるはず。

その報告もなかったということは、こちらの魔導航空部隊が一方的に探知できなかった状態で、敵魔法師に会ったということになる。

さらに言うと、戦闘に入った時点で反応から戦闘状況がある程度わかるのだが…先ほどの通信妨害も関係しているかもしれない。

その事実を考慮しても、接触している魔法戦力はかなり大きいものである。ひょっとすると敵の最精鋭魔法部隊なのでは…。


そんな風に管制官が思案しながら、かける言葉を考えて、少し慌てていた。


「そ、それはわかっているのですが、ええと……。」


管制官が言葉に詰まっていた矢先に、ある一報が専用回線で入ってきた。


「私はコントワール・アイという参謀戦務です。業務中に申し訳ないのですが、そちらにオーノル王国の精鋭魔法部隊が確認されているので、すぐにω部隊を派遣します。対処中の残存航空部隊は全て撤退させてください。」


通信機の向こうからは、コントワール・アイという有名な女性参謀戦務の落ち着いた声が聞こえてきた。

その月のように美しく輝く銀色の髪、人並外れた冴えた思考、異常に落ち着いていてかつ頭に残って離れない声などから、名前はローリェ権国で知らない人はいないくらいだと言われている。


管制官は通信者との情報収集や、所定の予備選力を足りない部分に移すだけで、事務的な作業に過ぎないのに対し、参謀戦務は一から作戦の基盤を作っているため、本当に頭の冴えた人間にしかできない代物である。

その参謀戦務が専用回線を使ってまで直接言ってきたので、この敵戦力がかなり重要なのだろうと、その旨を受け取った管制官は考えた。

さらにω部隊という、敵大規模部隊や精鋭部隊に直接ぶつける部隊を動かすというので、ますますその重要度があがる。


「はっ、はいこちらコマンドポスト-スカイです…え?コントワールさんですか!?嘘!!…あ、取り乱してすみません。ω部隊が出撃するのですか?。それほど重要なのですね!」


その管制官は、有名な人間と直接会話できたことに対する驚きと、確かに頭に残って離れないような声に呆けて、一瞬固まったが、取り直して話を進めた。


「はい、よろしくお願いします。加えて言いますと、軍種は航空魔導士です。大丈夫だとは思いますが、一応支援部隊の空間爆撃機なども発進しておいてください。」


「えっ、航空魔導士なのですか!?…まぁ、コントワールさんが言うなら。…了解しました。邀撃部隊として就いてもらいます。」


先ほどのコントワールからの意外な言葉に対してかなり驚いたものの、業務に関する冷静さを取り戻し、疑問を浮かべながらも航空官への応答の続きを行った。


「撤退の準備をしてください。全魔力を総動して機動力に割いてもいいです。邀撃部隊を送ります。」


「助かる…。各員へ次ぐ、直ちに撤退の準備をせよ。魔動力は機動力に極振りだ。…ところで管制官さんよ。どういった部隊が支援にくるんだ?」


その管制官の言葉に対し、死なずに済んだという安心感をからなのか、とても安堵した表情で、しかしはっきりとした口調で撤退の指示を行った。

加えて余裕が生まれたからなのか、興味が引かれたことに対して疑問を投げつける。


「航空官さんは勘違いされていますが、"支援"ではなく"邀撃"です。ω部隊の航空魔導士が出撃します。」


航空官の質問に対し、少し訂正を加えながら、どの部隊が出撃したかを伝えた。


「本当か!やっぱり敵は、一番危惧されていたオーノル王国の精鋭魔法部隊のようだったな…。だが、これで拮抗以上に持ち込めるだろう…ん?今航空魔導士といったか?」


航空官は、今度は純粋な興味ではなく、単に自分が聞き間違いしたのではないかという疑問を投げつけて

きた。


それもそのはず。本来陸戦魔導士以外の海兵魔導士・航空魔導士は火力がそもそも低く、戦争の前線では集団ならまだしも、部隊という小さな規模では運用されない。

さらに魔法師という相性最悪の敵と戦うので、耳を疑いたくなるものだ。

おそらく、魔法師は低空を飛行しながら戦闘しているので、航空魔導士の高度差は生かして戦うことがで

きる。

しかし、魔導士全般に言えることだが、魔力エネルギーを物体に乗算・転換させて攻撃するので、実際は魔力よりの攻撃となってしまう。

そんな純物理エネルギーに乏しい魔導士の攻撃では、魔法師の防御魔法をやすやすと貫通できない。

だからと言って、純粋に武器で戦おうとしても、そもそも魔導士は機動力が売りであって、重装備をつければ結局長所をつぶしてしまうことになる。

それならもとから、重装備の兵器を利用するか、対魔力で相殺すればいい話であって…

さらに、ローリェ権国は魔導士主体の国ではあるので、魔導士がω部隊に選ばれる場合も多々あるが、常識的に考えて編成は陸戦魔導士になるはずなのだ。


以上のことからも、話を聞いた航空官や本当は管制官も、精鋭のω部隊に航空魔導士がいて、さらにそれらが今から魔法師と戦うことが信じられなかった


航空官のその疑問に対し、管制官は少し自慢げにしながら答える。


「航空魔導士よ!あの、コントワールさんから直接指示をもらったのよ!あの人ならきっと色々考えた上での戦略だと思うわ。」


管制官は、どうしても納得できないという表情をしながら、あのコントワールさんが指示をしたならと受け入れる。


「あのコントワールさんの指示か…。なら任せよう。そろそろ撤退準備が整ったので撤退する。要請応対に感謝する。」


「いえいえ、それでは無事に撤退してください。」


そう言って通信を切ると、長期通信と同時通信による魔力減少のためか、管制官はポーチから魔宝核を取り出し、親指と人差し指でパリンッと割った。


初めての投稿です。よろしくお願いします。

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