はじめての街につきました
「リュウマさん!朝ですよ〜」
床の上の寝袋で寝ていた俺をゆさゆさと揺らすサヤカ。
「ん〜もう朝か、久しぶりにぐっすり眠れたな、おはようサヤカ」
寝袋から這い出すとサヤカがテーブルから手招きしてくる、周囲に食欲を刺激する匂いが漂っていた。
「朝食は私が作ったんですよ、卵を茹でてパンを焼いただけですけどね、褒めて下さい!」
ドヤ顔で出来る女アピールをしてくるサヤカ、正直ちょっとムカついた、頭を撫でろとばかりに俺の方に頭をを近づけてきたので軽くチョップしておいた。
「う〜、せっかく女子力発揮して頑張ったのに〜」
恨めしそうに俺を睨みつけてきたのでスルーしておく、今の話に女子力高い要素あったかな?
「おはようさん、朝から仲が良い事で、俺がソファーを使って悪かったな」
ゼルさんが苦笑いしながらこっちを見ていた、先に朝食は済ませたみたいだ。
「おはようございます、俺は居候なんで気にしないで下さい、それにしても昨日のツインタートルは絶品でした」
昨夜は料理の鬼ことゼルさんの料理を堪能した、食後に火酒を一口飲み酔っ払ったサヤカが急に上着を脱ぎ始めたり、「一緒に寝ましょ〜」などと言いながらベッドを占領して騒ぎ始めたのでゼルさんの催眠魔法【スリープ】で無理矢理寝かしつけてから俺達はそれぞれソファーと寝袋で寝る羽目になったのだった。
「サヤカは今後酒は飲まない事、約束だ」
昨夜の様な事がまた起きれば理性を保つ自信はない、昨日はゼルさんが居たからなんとか我慢できたが2人だけの時にあんなことをされると俺はル◯ンダイブをするかもしれない、でもサヤカは俺の嫁(仮)だし年齢も200歳を超えてるから問題はないのか?しかしキチンと順序は守りたいし…決して俺はヘタレな訳ではない、ロマンチストなのだ。
「ん〜ご飯を食べたまでは覚えてるんですが…私何かやっちゃいました?昔のパーティメンバーにもお酒はダメ!って言われてたんですよ」
「俺からもお願いする、特に知らない男がいる時は絶対に酒を飲まない様にする事」
ゼルさんと2人でサヤカに飲酒禁止を約束させ朝食を食べ終わると昨日サヤカが用意しておいてくれた旅に必要な道具をストレージにしまった。
「ありがとうなサヤカちゃん、おかげですぐに出発出来る、足りない物は無かったか?」
「はい、ゼルさんのメモに書いてあった物は全部用意できました」
「他にも必要な物もあるがそれは街に着いてから買い揃えよう、それじゃあ出発するか」
3人で家を出るとゼルさんが玄関の扉に鍵を閉める。
「次に帰ってくるのはいつになるだろうな、流石に10年以上住んでいたから感慨深い気持ちになる」
「ゼルさん、本当に一緒に来てもらっていいんですか?」
「昨日も言っただろ?それに俺もお前さん達と一緒に行きたい理由があるんだ、今はまだ言えないがな」
「おーい!はやく行きましょー!」
少し離れた場所からサヤカが手を振りながら呼んでいる、俺達は苦笑いしながら街へと続く道を歩きはじめた。
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昼間のジャングルは相変わらず蒸し暑かったので俺の生活魔法の中にある【温度調節】を使う、身の回りの気温をある程度なら調整する事ができる便利な魔法だ、昨日の狩りの時もお世話になった魔法で1度使うと丸1日効果が続く優れモノである。
途中レッサーゴリラの群れに襲われたが探知の指輪で襲撃を予測していたゼルさんがあっという間に倒してしまったので何も被害は無かった、俺も1匹だけスキルポイントを使い習得した風魔法でレッサーゴリラを倒す事ができた、【ウインドボール】と言う魔法で命中した対象を風の刃で切り刻む下位魔法だ。
レッサーゴリラの死体ををストレージに回収した俺達は適当な木陰で昼食を取りまた道を進む、しばらく歩くとジャングルを抜け出た、遠くに外壁に囲まれた街並みが見えている。
「あれがメジハテの街ですか?大きな街ですね」
「この辺りの領主は貴族なのに珍しく出来た人物でな、他の貴族領よりかなり税が安い上に農作物の一大産地って事で他の貴族領からの移住者が後を絶たないんだ、そうした移住者達の為に作られたのがあのメジハテの街さ」
良く見ると外壁の一部はまだ工事中な様で作業している人が動いているのが見れる、まだ新しい街なんだろう。
「この辺りの領主さんは優しい人なんですね、なんだかとても嬉しいです、私の時代にもそんな貴族中々いなかったんですよ」
「サヤカちゃんの時代も似たようなモンだったんだな、今の時代も国王派の領地以外は酷いモノさ、王令を無視してやりたい放題やっていやがる」
ゼルさんが忌々しげに話す。
「そうですか…」
「嫌な話をしてしまったな、あと少しで到着だ、先を急ごう」
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それから30分程で俺達はメジハテの街の入り口に到着した。
「おおっ、ゼル殿!久しぶりですな!」
入り口に立っていた中年の兵士が笑顔でゼルさんを出迎える。
「ようトマス、この前会ったのは2ヶ月前くらいだったかな、特に代わりはないか?」
「特に異常はありませんな、隣のケイダ子爵領からの移住者が想定以上に多く居住区の拡張が決まった以外は平和なものです!ところでそちらのお二人は?」
中年の兵士、トマスさんは俺とサヤカに視線を向ける。
「それがちょっと訳アリでな、その話をする為にモラスに会いに来た」
「はじめまして、俺はリュウマでこっちはサヤカです」
「はじめまして、とっても素敵な街ですね」
「そう言ってもらえると嬉しいです、私の名前はトマス、メジハテの街で警備の任に就いている兵士です」
トマスさんは優そうな人で街が作られ始めた時からメジハテの街を警備しているそうだ。
「この2人も通してもらっていいか?身元は俺が保証する」
「ゼル殿のお連れ様ならばもちろん大丈夫です!モラス殿へ使いを向かわせましょうか?」
「あぁ頼む、明日朝一番で行くからギルドに居るように伝えてくれれば助かる、あと今晩空いてそうな宿に心当たりはないか?」
「それなら『清らかな水瓶亭』に泊まっていた商隊が今朝街を出たので空きがあると思います、大きな商隊だったので空き部屋もまだ残っているでしょう」
「清らかな水瓶亭か、何度かあそこに泊まった事が有るが飯も美味いし良い宿だ、ありがとうなトマス」
『美味い飯』の時にサヤカの体が一瞬ピクッと動いたのを俺は見逃さなかった、前々から思っていたがどうや美味い食べ物に目がないみたいだ、細い体のどこにそんな量が入るか不思議だ、昨日の夕飯も半分以上1人で食べてしまっていたしな、お前はピンクの悪魔の親戚か?
「いえいえ、それでは良いご滞在を」
そう言ってトマスさんは街の中に俺達を入れてくれた。
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街の中は夕方という事も有り仕事が終わり家に帰る人達や街の外から帰ってきた人でごったがえしていた。
「ふぁ〜すっごい活気ですね〜」
「そうだな、圧倒されてしまう、本当に異世界に来たんだと実感するよ」
街の大通りを行き交う人の中には頭に動物の耳が生えたような人、アニメやゲームに出てくるドワーフの様な姿の人がチラホラと混ざっている。
門の外にでも何組かの集団を見かけたがその集団は俺と同じ普通の人間様な見た目だったので特に気にはならなかったがこの光景はここは異世界だということを実感させてくれる。
「賑やかな街だろ?色々見て回りたいだろうがまずは宿に急ごう、部屋が埋まってしまったら大変だ」
「行きましょうリュウマさん!美味しいご飯が待っていますよ!」
俺達は夕暮れの大通りを進み今夜の宿を目指した。
初登場スキル、魔法
【スリープ】ゲーム等でお馴染みの相手を眠らせる魔法、格上のある敵にには通用しない事が多い。
【ウインドボール】ボーリング大の風の球を敵にぶつける魔法、球は命中した物の周りに無数のカマイタチを発生させる。
【温度調節】対象の周りの気温を調整できる、あくまで生活魔法なので過信は禁物、ちなみに水を風呂の温度に出来たりもする、便利。