初めて魔物を倒しました
「お前さん達冒険者にならないか?」
いきなりのゼルさんの提案に俺とサヤカさんの頭上に?マークが浮かんだ。
「確かに関所や船に乗る場合は身分証明が必要だ、だが身分を証明するのに必ずしもステータスを開示する必要は無い」
ゼルさんはポケットから木の枝の様な物を取り出すと口に加えて机上の蝋燭から火を付ける、すると周囲に柑橘系の爽やかな香りが広がった。
「冒険者になってギルドカードを発行して貰うんだ、その時の政治情勢や魔物の発生具合によっても違うがある程度のランクになれば身分証明証として十分に認められる」
ギルドカード、そんなのもあるのか。
確かに大きな組織がその人間の身分の保証するなら国や教会だって認めざるをないだろう、俺の世界のパスポートだって自国民の身分を他国に証明する為にある様な物だ、それを信用しないという事は遠回しに「お前の組織は信用できない」とツバを吐いていると受けとめられる。
「はいはーい!先生質問がありまーす」
うんうんと話を聞いてたサヤカさんが手を上げてぴょんぴょんと跳ねる、小学生の時にいたなこんなヤツ。
「どうしました?サヤカ様」
「敬語も様付けも禁止!ゼルさんみたいな貫禄のある人からそんな扱いされたらなんか恥ずかしくなるからダメ!」
「分かりまし…分かった、サヤカちゃん?質問てのはなんだい?」
「そのギルドカードってのを作る時はステータスを見せなくていいの?」
サヤカさんの疑問はごもっともだ、証明証を作る為にも身分の確認は必要だ。
「その辺はちょっとしたツテがあってな、まぁ任せておいてくれ」
「任せておくって、そこまでゼルさんに甘えてしまっていいんですか?俺とサヤカさ「リュウマ君はさん付け禁止、呼び捨てにして下さい」
見るとサヤカさんがふくれっ面で睨みつけていた、そして俺の呼び方が変わっている。
「俺とサヤカ…の問題なのにこれ以上巻き込んでしまうのも申し訳ありませんし」
「目の前で世界が滅びる可能性が有るって話されてその鍵になるレベル1の小僧を『はいそうですか、頑張って』って追い出せる訳ないだろ、これでも腕には少し自信があるんでね、俺も旅に同行させてくれ、それがギルドカードを作る手伝いをする条件だ」
ゼルさんは本当にいい人だ、信用もできる、この世界に来て初めて会えたのがゼルさんで良かった、サヤカの方に目を配るとコクンと頷いた、同行を了承するという事だろう。
「分かりました、これからよろしくお願いします、ゼルさんが同行してくれるなら本当に心強いです」
「こちらこそよろしくな、今日はもう遅い、明日は1日旅の準備をして明後日の朝旅立つ、最初の目的地は近くのメジハテって街だ、朝出れば夕方には着くだろう」
その後3人で旅の行程やお互いの世界の話等をして眠りについた、こうして俺の異世界での1日目は終了した。
翌朝目が覚め軽い朝食を食べた俺は何故かゼルさんと2人、ゼルさんの家から少し離れた所にある小川で亀と対面していた。
サヤカは家でお留守番だ、こまごまとした荷造りをやってくれている。
「あの〜、今日1日は旅の準備に充てるんじゃなかったですかね?」
昨夜吸っていた煙草の様な枝をふかしながらゼルさんがニヤついている。
「コレがその準備さ、半日足らずの道中でもいつ魔物に襲われるかわからない、サヤカちゃんはまだステータスが分からないんで先に確実に戦力になるお前さんを少しでも鍛えようと思ってな」
「じゃあパーティ結成してパパッとゼルさんが倒すっていうのは…」
「うーん、それも考えたんだがまずはお前さんに『戦い』ってものを知って欲しくてな、お前さんの世界の話を聞く限り生きるか死ぬかの戦いなんてやった事ないだろう?いくらレベルが上がってもいざって時に動けなければ意味がないからな」
「それは…そうですね、それでこの亀ですか」
目の前にいる亀は中型犬くらいの大きさで呑気に甲羅干しをしている、俺の知ってる亀と違うのは首が2つあり足が6本ある事だ。
「ああ、こいつはツインタートル、見た目の通り動きは遅いが防御力は中々だ、今の季節は無害だが繁殖期には凶暴になり川の中に人間や家畜を引き攣りこみ喰いころす、噛まれない様にする事と後は口から吐き出す水球に気をつけろ」
そう言うとゼルさんはホレっと俺の背中を押し近くの岩に座り込んだ。
「やるしかないんだょなぁ…」
とりあえず使っとけとゼルさんに渡された剣と盾を構え一歩一歩ツインタートルに近づく
「人を食う様な魔物には見えないな、一方的にこっちから攻撃するのも可哀想な気がする」
そんな事を考えながら少しずつツインタートルとの距離を詰めていると2つある首の片方が俺の方を向いた。
「間抜け面だなぁ、お前本当に人間を襲うのか?」
「左に飛べ!」
ゼルさんの叫び声に反応し地面を蹴り跳躍する。
ドゴッ!!
着地してさっきまで俺がいた場所を見ると地面が少しへこみ辺りに水が散っていた。
「また来るぞ!」
慌ててツインタートルに視線を戻すと先程とは反対の口が俺の方を向き口の前にボーリング玉サイズの水球を生成していた。
「うぉぁ!?」
あんなもの当たると痛いじゃすまないだろう、死にはせずとも骨折は免れない。
慌てた俺は足をもつらせその場に転倒してしまった。
「なんのぉー!!!!」
倒れた身体を回転させ全力て地面を転がる、
パァン!!と破裂音を響かせ水球が着弾する。
「危ねぇなぁ!そっちがその気ならもう遠慮はしない!」
ツインタートルとの距離は5メートル程、遠距離攻撃の手段がない俺は接近するしかない。
「うぉぉぉッ!!!」
自らを奮い立たせる為雄叫びを上げながらツインタートルに突進する。
後4メートル
後3メートル
後2メートル
周りの景色がスローモーションの様に感じられる、たった5メートルの距離が果てしなく遠い。
「ギュアアア!!!」
残り1メートル程の所でツインタートルが鳴き声を上げた、2つの口を持ち上げ大きく口を開けている、噛まれれば肉だけでなく骨まで砕かれるだろう。
怖い、命を奪われる事が怖い、命を奪う事が怖い。
だがここで退いてはダメだ、アイツは俺を殺そうとしている、俺の命を奪う事しか考えていない、俺の命を奪う事に恐怖や申し訳無さを感じてはいない。
俺の命を搾取する事しか考えていない!
「社畜舐めんな!!!」
突撃槍の様に構えていた剣を頭上に構え直す、狙うは2つの首のどちらか。
残り50センチ
「!!!」
ツインタートルの首が1本俺に向かって勢いよく突き出された、なんとかギリギリの所で躱すが奴には首がもう1本ある。
もう一歩の首が少し縮んだと思った瞬間先程と同じ様に突き出された。
ここだ、殺られる前に殺る!
「ザシュッ!!」
構えていた剣をカウンター気味に突き出された首へ振り下ろした、俺を嚙み殺そうとしていた首は真ん中かは真っ二つに切り裂かれる。
スローモーションの様に感じていた周りの景色が急速に元に戻って行く、俺の前に迫っていた首は一瞬痙攣した力なくうなだれた。
「良くやったな、初めてにしては上出来だ」
安堵感から惚けていた俺はすぐ横に立っていたゼルさんに話しかけられるまで気づかなかった。
「命のやり取りって怖いだろ?」
ゼルさんは俺の頭をポンと叩き訪ねてきた。
「怖かったです、奪われそうになる事も、奪う事も」
「それが分かるならお前は大丈夫だ、この気持ちを忘れなければお前はお前のままでいられるさ」
「はい、絶対に忘れません」
そう言った瞬間頭の中に機械音声の様な声が鳴り響いた。
『経験値を習得、レベルが3上がりました。』
『スキル習得条件を達成、身体強化(序)を習得しました。』
『スキル習得条件を達成、剣術(序)を習得しました。』
『スキルポイントを27習得しました。』