初めて魔法を使いました
「ゼルさん、説明を見るとかなり凄いスキルみたいなんですが」
表示されたメニュー画面から目をそらしゼルさんの方を見るとゼルさんは真剣な表情で俺を見つめていた。
「説明を見たか?確かにそのスキルの効果は凄まじい、ただそのスキルには問題があってな」
眉間に指をあて何か考えている表情のゼルさん、説明を見る限り問題はなさそうなのだが。
「いいかリュウマ、今回は操作がわからなかったから俺も一緒になってお前さんのステータスを見てしまった、だがこれからは極力ステータスを他人に見せない方がいい」
ん?神々の祝福の効果ではなくスキルを持っている事に問題があるのか?
「あ!」
スキル説明にあった一文にその答えはあった。
『神々に愛された勇者にのみ授けられるスキル』
この一文に問題がある。
「もしかして俺勇者って事になるんですか?」
「その通りだ、勇者って言葉の意味はわかるか?」
拝啓、お父様、お母様、ご無沙汰しております息子のリュウマです、仕事が忙しく中々顔を見せられず申し訳ありません、この度あなた方の息子は異世界で勇者になりました。
「そのスキルの効果か勇者ってのはとんでもない戦闘力を有する存在だ、今のお前さんはレベルが低いからこの辺の1番弱い魔物相手にやっと勝てる位だろうがな」
フーと息を吐きゼルさんは続ける。
「15年前にも勇者がいたんだ、その勇者は30にも満たないレベルだったが当時猛威を奮っていた鳥型の魔王を仲間と共に打ち倒した、王国軍が総出でも倒せなかった相手にな」
お、勇者って俺以外にもいたんだ、15年前に魔王を倒したってことはまだ生きているかもな、生きているなら色々と話をしてみたいもんだ。
「その先代の勇者は今どうなっているんですか?」
「まぁそんなに急かすな、お前さん酒は飲めるか?」
酒は嫌いじゃない、むしろ好きな方だ、最近は仕事の付き合いでしか飲みに行けてないがアレは嫌な酒だ、必ず誰かが仕事の話を始め段々と酒を飲みにくい空気になる。
「ドワーフからもらった火酒とワインが有るがどっちがいい?」
そう言ってゼルさんが棚から2つの瓶を持って来て机に置いた。
「じゃあ火酒で、氷が欲しいところですが流石にないですよね?」
部屋を見回すがもちろん冷蔵庫らしき物は見当たらない、強い酒はオンザロックが一番だと思うね、話をしながらチビチビやる時は特に
「氷は高級品だからな、貴族サマ御用達の店なら有るんだが…、お!そういえばお前さんの生活魔法なら少量の氷を作れるぞ、俺は生活魔法は序までしか扱えないから無理だがな、コップの中に氷をイメージしてみろ」
俺はコップの中に氷をイメージする、バーなんかで出てくるまん丸いボールアイスだ。
「おおっ!出来ました」
ゼルさんを見ると笑顔でコップに酒を注いでくれた。
「俺のコップにも貰えるか?生活魔法はあんまり無茶な使い方をしない限り精神力を消費しないし色々と便利だ」
2人で乾杯しコップに口を付ける、うまいなこの酒、元の世界で俺が好きだった七面鳥が描かれた酒に似た味だ。
「それで続きだが、先代の勇者は死んだよ、鳥の魔王と相討ちの様な形で、手柄を横取りしようとしたアホな貴族サマのボンボンを庇ってな」
残念だ、しかし他者を庇って死ぬなんて実に勇者らしい最期だと思う。
「それ以降新しい勇者も魔王も今に至るまで確認されていない、お前さんが現れる今日まではな」
「じゃあ新しい勇者が現れた事が世の中に知れたら?」
「間違い無く貴族サマ達の間で争奪戦になるだろう、お前さんを手に入れた派閥が武力という点で圧倒的に有利に出れる、手駒にされるだけならまだマシさ、武力に長けた連中はお前さんを邪魔に思いレベルが上がる前に命を狙ってくるかもしれん」
「ゼルさんが他人にステータスを見せない様に言った理由がわかりました」
これは早急にレベルを上げた方がいいだろう、自衛する力は必要だ、俺は右の頬を殴られるまえにクロスカウンターを入れる主義なのだ。
「それとバディにサヤカ様の名前があるのもマズイ、貴族連中も腐っているが教会は教会で負けないほど腐っている、教会にバレると権力争いの材料として担がれるか異端者として処刑されるか…どっちみちロクなことにはならんだろう」
「そういえばバディって何ですか?あとサヤカさんの安否はどうやったらわかるんですか?」
目的を忘れそうになっていたがステータスを確認したのはサヤカさんの安否を確かめるためだ。
「ああ、バディってのは魂で結ばれたパートナーの事だ、お互いに絶対に裏切る事の出来ない存在、血の繋がり以上に深い関係さ、男女のバディってのは夫婦で結ぶ事が多いがお前さんまさかサヤカ様とそんな関係か?」
『かしこまりです、後私はリュウマさんの奥さんって事でいいですか?それともまず恋人同士からにします?』
あの空間でのサヤカさんの言葉が俺の頭にリフレインする、美人の嫁(仮)持ち俺勝ち組。
「まぁ大体そんな感じです」
「羨ましいヤツめ、伝承によるとサヤカ様は周りの男を虜にする程の美貌の持ち主だったそうだ」
「そうだ、バディの安否確認の方法だったな、ステータスのバディの欄に意識を集中してみろ」
メニューを開きステータス、バディと順に意識を集中する。
「良し、次はバディに話しかけたいと念じてみるんだ」
言われた通りに念じる。
黒髪ポニテ、黒髪ポニテ…
するとメニュー画面が切り替わり1人の人物が画面に映し出された。
『わっ!びっくりした〜、リュウマさん!リュウマさんじゃないですか!どうして念話なんてできるんです?それに若返った様な…』
画面には見た事のある街並みでクレープを持っているサヤカさんが映っている。
「サヤカさん!無事で良かった、そこはもしかして俺いた世界?」
『はい、リュウマさんの世界ですよ〜、リュウマさんの世界に実体化できたのは良かったんですが独りぼっちだし、元の空間に戻ろうにも霊力が足りないしで霊力が集まっている『めーじじんぐー』って場所を目指していたらなんと!すぐ近くに憧れの原宿を発見できたのです!」
ブイっと画面越しにVサインを決めるサヤカさん、この子ポンコツじゃないのか?完全に観光気分になってただろ。
「その方がサヤカ様か?確かに美人だな、美人というか愛らしいというか、よしリュウマ、次はそのまま『コール』と唱えてみろ」
俺のメニューを覗き込んだゼルさんに促されるまま俺は『コール』と唱える
『そちらのダンディなおじさまはどちら様で?…ってコール!?リュウマさん少し待…』
言い終わる前に画面の中に映るサヤカさんは姿を消した。
画面の中には路上にヒラリと落ちるセーラー服とクレープ、周りの人間が急に人が消えた事に気づき騒然としはじめる。
プツリと画面から消える映像。
その瞬間背後からポスンと何かが落ちた様な音が聞こえた。
「痛〜い…もう!待って下さいって言ったじゃ………ってキャー!!!!!」
振り返ってみるとサヤカさんがそこにいた、全裸で。
「こっち見ないで下さい!」
サヤカさんは叫ぶと近くの棚にあった酒瓶を俺めがけて投げつけてきた。
「がふっ…!?」
酒瓶が見事頭にクリーンヒットし俺は意識を失った。
ごっつあんです。