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5話







「おい、何だあの防具……もしかしてミスリルか!?」


「何処の奴だ?上位層の奴らか?」


「おい、あそこにいるのはフリーランサーのユーマか」


「ユーマはフリーランスを卒業したって聞いたぜ?」


「なら、ユーマの奴、大物のギルドに……!?」


 あぁ、なんだろう。この盛大な注目のされ方は……。


 言ってやりたい。今から、こいつの初ダンジョンの付き添いなんですって。
















 







 天界の塔といえば登り系ダンジョンで最も有名なダンジョンであろう。非常にバランスのとれたダンジョン構成とモンスター。採れるアイテムも豊富で理不尽なトラップも少ない。


 初心者にもお勧めできるダンジョンである。


 ただし、10階まで。それ以上は死を覚悟しなければならない。


 今回はそこまで登る必要もないし、こいつの初ダンジョンという事もあってか目標は5階。俺も単純な装備で登る予定である。


「お前の剣の腕は確かにある。むしろ俺よりも強いかもしれん。ということで必然的に前衛職になるわけだが、異論はないな?」


「あぁ、むしろ王宮剣術の腕の見せ所だ」


「取り敢えずは戦闘に関しては心配ないとして、ダンジョンのなんたるかをお前に教えないといけん」


「よろしく頼む」


「つーことで、今回は5階であっても接術指揮オーダーリンクはつけるぞ」


「あれか。ダンジョンに入る時はいつもつけるのか?」


「うーん。俺はフリーランスだったから、パーティ指揮を取ることはあんましなかったからなー。よほど辛い時以外はないな、あれは初対面の人間にはちょっとね」


「今回は5階までだろう?接術指揮オーダーリンクまで付けていたらすぐ終わるのでは?」


「確かに、楽ちゃ楽だな。だが、言ったろ?今回はダンジョンのなんたるかを教えるって」


 ダンジョンでは個々の力は確かに重要であるが、それ以上にチーム力が非常に大切だ。一人が勝手な行動をすればそれがパーティの全滅に繋がる可能性もある。そういう意味も込めて常に最高の力で挑む必要があるのだ。


「これからお前とギルドでやっていこうって言うんだし、お前もこれに慣れておいた方がいいしな」


「わかった。よろしく頼む」


「おーけー。――接術開始リンク・オン


 さて、初ダンジョンの開始である。














 





 俺には固有スキルが存在する。これは大変珍しいそうで、ダンジョンで冒険をしていく上で俺にとっては生命線のようなものだ。


 これがなければ、恐らく、俺はこの世界で冒険者をやっていくなんて思いもしなかっただろう。


 一つ目が接術指揮オーダーリンクスキル。


 パーティメンバーの意思と自分の意思を繋げるスキルである。例えばパーティの疲労や意思などを感じることができ、意思疎通も行えることができる。


 突然のシフトやスイッチ。戦闘中の細かな連携もこれがあれば何なく対応できる。優れたスキルである。


 当然、人数が多ければ多いほど接術リンクの難しさも大きくなっていく。初対面の人間との接術には媒体を通してでの接術となるが、これもまた難しく、向こうからの拒絶が激しければ成功しない。


 次に鑑定スキル。というのだろうか。


 対象指定したものの情報を見る事ができる。俺はリライズと呼んでいる。


 これも不思議なもので、昔やっていたRPGのゲーム情報のように見る事ができる。


 ちなみに、アルをリライズするとこういうステータスが俺の目に映る。




 アルペジオ・ファランス・クルーゼ LV15

 

 男/20


 職業 剣士

 

 HP 500/500

 MP 200/100

 STR 140

 DEX 120

 VIT 190

 AGI 110

 INT 200

 LUK 77

 

 

 装備 ファランスの剣(STR+80)

    ミスリルマジック一式(STR+20 DEX+50 VIT+120 AGI+30)

    アクティブスキル アンチマジックLV2 パッシブスキル(MP+100)




 と、まぁこんな感じであるが……。

 

 レベル15でこのステータスはやべーわ。平均100を超えてるもんな。


 如何せん武具が強すぎる。一式揃えたお陰でVITだけでなくてその他のステータスも上がっているのを見るに、やはり相当な防具であったようだ。


 こうしてゲームのステータスで見れるのはやはり俺だけのようで、この世界には勿論、レベルという概念はない。あくまで他者をステータス換算した数字のようだ。偶におかしい数字も見られるのはステータス上のバグなのかはわからないが。


 んで、このリライズの副作用なのか知らないがもう一つ特典みたいなものがついている。


 俺のクラスについてだ。

  

 これを固有スキルと言っていいのか微妙であるが、きちんとクラスも変わっているし、ステータスも変化しているので多分、スキルの一つなのだろう。


 多種、あらゆるクラスをこなす事ができるスキルである。


 発動条件は簡単。そのクラスの武具を装備するだけである。


 例えば、剣を持てば剣士。槍と盾を持てばナイト。と言った具合にクラスが変化する。

 

 このお陰で状況に合わせてクラスを変えることができるので重宝している。


 これらのスキルはダンジョンでやっていく上で非常に重要で大切で便利なものばかりだ。

 

 モンスターの情報なんかを文字で見ることが出来るのは分かりやすくて助かるし、指揮オーダースキルなんて便利過ぎてヤバいくらいだ。


 俺には俺でこの世界でやっていける自信と力がある。


 勿論、天界の塔攻略も夢物語で終わるとは思っていない。きちんと攻略できる根拠はある。


 足りないのは経験と仲間。最も近くて遠いものなのだ。


「む……?」


「小型系のモンスター……2足歩行だな。多分ゴブリンだと思うが」


「この足音だけで分かるのか。俺にはただ何か居るということしか分からないな」


「慣れだな。お前だってワインの味の違いを見分けること出来るだろ?そういうものだ」


「なるほど」


 接術リンクによって俺が感じる足音も他者へと伝わる。そのため、すぐさま立ち止まると得物を構えて正面を見据えた。石造りのダンジョンのその角からゴブリンが複数体顔をのぞかせる。


「あぁして角に待たれて不意打ちでも喰らったらどうしようもないからな。ただ前へ進んで登るっていう考えはなしだ」


「わかった」


「んじゃ、いくぞ」


 俺も補助職として名高いシーフでの戦闘参加だ。基本的には手出しするつもりはないが、一応短剣を構える。

 

 ここはアルに前に出てもらって、その補助だな。


 俺の意思を汲み取ったのか、アルがすぐさま剣を構えながら突撃する。防具を着ても敏捷値は高いために、軽やかな足捌きでゴブリンに近づいていく。


 それに合わせるかのように、2歩後ろ。そこで短剣を構えて続く。

 

 上段からの一撃。白銀を描く見事な上段斬りはゴブリンの頭から下まで真っ二つに割れた。ゴブリンは全部で5体。突然の襲撃に驚き声を上げるが気づくのが遅すぎる。戦闘に入ろうと得物である棍棒を手に構えた瞬間、別の一体が消える。


 剣を振り切ったアルをカバーするように、投げナイフを2本。投擲する。


 見事2体のゴブリンの足に刺さり、足止めする事できた。


 アルから少し驚いた感情が流れてくる。


 そりゃ、シーフでこのくらいの精度がなきゃやっていけんよ。


「ギャアッァ!」


 相変わらず人型とは思えない甲高い声だ。俺はゴブリンの声はあまり好きじゃないんだ。早く黙らせてくれ。


 アルが反転し、斬り上げ、斬り下がりとクロスを描くようにして斬り、もう一体を絶命させる。フリーのゴブリンが飛びかかるようにして攻撃するが俺が後ろについている分アルにダメージを与えることはないだろう。


「”逆流する時よ”!」


 魔法陣が描かれてゴブリンの体が一瞬遅延される。その間にアルは後ろに一歩下がった。


 スイッチか。


 俺はそれに合わせて前へ出て、誰もいない地面を叩きつけるゴブリンの喉元を斬り裂いて、その勢いのまま足を怪我しているゴブリンにも止めを刺した。


 これで殲滅である。


「ふぅ、こんなもんか。まぁ2階層だしな。レベルも低いだろうし」


「うむ。大したことなかったな」


 剣に付いた血を振るうように払うと、意外そうに剣を少し見た。


「意外と血の量は少ないのだな」


「ダンジョン製のモンスターはな。それぞれの神の加護を受けてるせいもあって生物としての役割はあんまし果たしてねぇんだと思う。生殖活動も行わねぇし」


「そして、このドロップアイテムか」


 ゴブリンの死体が炭と消え、無残にも残されたのは小さな石ころのような塊とゴブリンの棍棒だけだ。


「ダンジョンっていうのは突然現れる場合が多いだろ」


「あぁ、この天界の塔もそうだったな」


「だから、一説によればダンジョンっていうのは神様が人間に与える試練みたいなものだって偉い学者様が言ってるのを聞いたことがある」


 ま、俺からしてみれば試練というよりは神様の暇つぶしのように思えるが。


 か弱い人間共のが力を合わせてダンジョンをクリアするゲーム。それを眺めて暇をつぶしているだけだってね。


「さぁ、残りの階層も上がってしまおう」


「ふむ。このペースだと5階層なんてすぐだな。どうだ、勢いよく10階層まで行くっていうのは」


「馬鹿、そういう油断が命とりなの」


 と、言いつつも俺は何処かしら心の中で余裕を持っていた。 

 

 なにせ5階層。下手な事をしなくても楽々と上がれる筈の階層だ。


 アルに注意をしていても、俺だって楽勝だって思っている。そしてそういう考えが通じないのがダンジョンだということを俺はこの後たっぷりと思い知らされるのだ。



 






 





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