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4話



 冒険者には誰にでも贔屓にしている店がある。


 魔法具であったり、武具屋であったり、宿屋であったり。その商業は様々であるが、俺にも贔屓にしている店がこの街にあった。


 武具屋カザスティン。中々の老舗であり、ここの店主はちょっとした変わり者であるがその品々は昔ながらのオーソドックスなものばかりである。汎用性を重視したものが多く、凝ったデザイン性や変わった物は置いてないが単純な強度、精度が売りの武具屋である。


 知る人ぞ知る昔ながらの名店である。


「らっしゃーい。お、ユー坊じゃんか、おいっすー」


「おいっすー。どう最近は」


「変わらんねー。相変わらず厳しいよ」


 カザスティンの店主。ロー・エルローラとはたまに一緒に買い物に出かける程仲が良い。


 気さくで活発的な姉のような、まさに姐御、という感じの人物である。


 彼女で12代目という歴史ある店なのだが、近くに出来た大きなチェーン店に客を取られてからこの店も寂しい風景を見せていた。


「お?そこのイケメンさんは?」


「悪友のアル」


「誰が悪友か、親友と呼べ」


「お、おう」


「何?おホモ達?」


「泣かすぞ」


「で?何の用?まさか、世間話に来たわけじゃないわよね?」


「あぁ、実はこいつが冒険者デビューすることになってね。まずは武具から揃えようと思ってきたわけよ」


「ほほう。んじゃ、いつものお勧めの奴をもってくるか」


「あぁ、頼む」


 ローラが初心者用の武具を店の中から引っ張りだしてくる間。俺達は店の中を見渡した。


 俺はどうしても冒険者だからか、武具屋には通いつめているため、さほど目新しく感じることはない。だが、アルはこうした店に普段立ち寄ったことがないためか、珍しい顔つきで店を見て回っていた。


 そんな様子を見て、何処か懐かしさを覚えてしまう。俺も最初の頃は武具屋の武具にワクワクしたものだ。


「おいさ、持ってきたよー」


「お、ありがとう」


 ローラが持ってきたのはチェイン装備一式であった。チェインメイルを鎧とするその装備は動きやすく、また防御力も高い。初心者から中堅どころまでご愛嬌の装備である。


「アル、ちょっと着てみてくれ。多分サイズは合ってると思うけど」


「む、なんだそのダサい装備は」


「――ぁ?」


「ちょ、ちょっと姐さん、ストップ!」


 なんてこと言いやがる!?

 

 こいつは思った事を素直に口に出し過ぎるだろ!確かに、ちょっとダサいけど!あの防寒服みたいなものはダサいけど。


「こいつは、俺も昔お世話になった装備で、動きやすさと防御力は保証する!間違いなく、完璧な防具だ!」


「ふむ、お前がそう言うなら着てやらんでもないが、それよりもあっちの防具の方がいいんじゃないのか?」


「あれってお前、ミスリル一式じゃねーか」


 店に入った時からやけに仰々しく飾られていた武具。全体的なフォルムは刺々しく、しかしながら神々しい様を見せていた。


 あの武具に使われているのはミスリル。恐らくは、この世界の中で加工できる鉱石の中で最も硬く軽い鉱石。その希少価値は高く、その存在は中階層まで行かなかれば手にいれることができない。冒険者にとって一人前の証。最初は目立つな、くらいの感覚しか見てなかったが改めて見てみると不思議な感じはする。


 ちょっと見てみるか。


「しかも、おまコレ!?」


「ほほーう。流石ワンオフスキル持ち。分かりますか」


「防御+120……アンチマジックレベル2にパッシブスキルが魔力増加!?なんだ、この防具!?」


「言ってる意味が分からんが……ともかく、強いのか」


「らしいよ、私も意味分からんが」


 強いってものじゃねぇよ!


 防御は100超えるのは判る。ミスリル装備だからな。そのくらいはあるさ。しかしながら、アンチマジックLV2がついて、パッシブスキルも付いてるとか見たことがない。むしろ、上位レベルの冒険者でもそうそうお目に掛からないものだ。コレを着ているのはもう既に50層に届きそうな奴らばかりだと思う。つまり、化け物レベルの防具ってことだ。


「これを何処で?今まで置いてなかったろ」


「古い地下倉庫が最近見つかってね、親父と一緒に整理してたら見つけたのよ。多分、何世代も前の武具ね。別にスキル持ちじゃないから詳しい情報はわからないけど、長年色んな防具を見てきたから判る。コレは凄いもんだってね。んで、取り敢えずは向こうの店に対抗してみて置いてみたんだけど、だーれも買おうとしないのよね」


「おいおい、こんなレア装備中々見れるもんじゃ――」


「どれ、幾らだ?」


 俺は無言でその値段表に指を指す。


「一、十、百……99万9999Gか」


 約100万G。まぁそれもそうか。思わずその値段に固まってしまったが、それくらいしても無理はない。


 俺の年間の稼ぎが約40万G程度なのでおよそ2年と半年ちょっと。その中から生活費を差し引いたら何年になるか。一流冒険者だってそんな金額パッと出せるわけがない。


「恐ろしい金額だな、おい」


「流石に、買い手が見つからなくてねー。親父が決めた金額なんだけど、ほら上位層の奴らってこのくらい金持ってるでしょ?それを狙い目にしたつもりなんだけどさ」


「まぁ、あいつらは50層近くまで行ってればドロップしたアイテムを加工するか発掘した武具があるからな。そこまで行ってればこのレベルの武具なんて珍しくないと言うし」


「そうそう、結局はただの置物扱いなんだよね」


 武具屋っていうのは基本的には初心者から中堅どころの客層が多い。上位のレベルになると今度は鍛冶屋が重要になってくる。採れたアイテムを加工することに重点を置くから結局はこの装備も腐ってしまう。


 到底、俺が手を出せるものでないしな。


「ふむ。100万か……」


「あぁ、流石のお前もそんな金額ポンと――」


「よし、店主。この装備を買おう」


「はあああああああ!?」


「え、マジ?買ってくれるの!?100万だよ?」


「あぁ、これを頂こう」


「キャー!さっすがイケメンー!どうする?分割なら手引するよ!」


 パチンと、一つ手を鳴らす出てくる不思議人間セバスチャン。執事服を身に纏うこの人は常識で語ってはいけない。


 彼が持つのは大きな袋。それを一つ手に取ると、机の上に無造作に置く。


「無論、一括だ」


 唖然とするのはローラである。俺はもはや呆れて物も言えない。


 多分、彼女はアルの言葉を冗談の一つと捉えたのだろう。何せ100万Gである。単純に考えても金貨が100枚。そんな量が袋の中で押しくらまんじゅうしてる姿なんて見たことがない。


 だが、現実はそこにある。


 あぁ、そうだ。こいつは貴族であり、こういう男であった。


 ローラが恐る恐ると言った感じで袋を手にする。ずっしりとした重みを感じているのだろう。その重みをしっかりと味わい、そして中を覗く。


 そして彼女が面を上げた時、俺は人の目がGで埋まる瞬間を見てしまった。


 恐ろしい速さでアルの手を取り、そして口元によだれを垂らす。


「結婚して下さい!」


「ほらみろ。ユーマ。女は金だぞ」


「姐さん、みっともないんで止めて貰っていいか……」


 俺は悲しいよ。


 人の悲しい性を目の前に、俺は涙を流さずにはいられなかった。


 



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