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3話








 こう言うのもなんだが、俺はフリーランサーの中でも有名な人物であると思う。


 この世界で3年間もフリーランサーを続けてられるのは数少ないからだ。


 冒険者、と言えばチーム力である。強大な力をもった魔族も、人族も、決してソロでは活動できない。ダンジョンというのはそうできているからだ。


 例え、伝説の勇者であっても一人でダンジョンを攻略するのは不可能であろう。


 数多くあるトラップ。意味不明な初見殺しモンスター。極めつけに鬱陶しいのがモンスターハウス。1対複数の状況下に放り込まれた時、人間は言うほど冷静にはいられない。どんな力をもった奴だって自分の力を発揮できぬまま死んでいくだろう。

 

 それがダンジョン。それがモンスター。


 ので、冒険者はチームを組む。


 最低3人。最大で5人まで。これより少なすぎると危ないし、これより多すぎると統率ができないために、冒険者たちはこの数を目安にしてチームを組む。


 互いをカバーし合い、強力なモンスターとダンジョンを攻略するのが冒険者の基本的で強いやり方だ。


 だから、フリーランサーというのは行き先が短い。


 俺もフリーランサー歴3年になるが、これでも長い方で大抵のフリーランサーと呼ばれる奴らは1年そこらで、自分のギルドを見つけて永住している筈だ。


 そろそろ、俺もフリーランサーを卒業して自分のギルドを立ち上げたいと思っているのだが、ギルドの仮登録から早一週間。未だ仲間は見つかっていないのである。















「諦めるんだな」


 優雅にグラスを傾けて、そいつはこう口にしやがった。俺が何をと聞く前に、鼻につくような笑みを浮かべて再度言葉にする。


「ハーレムギルドは諦めろと言ったんだ」


「あんだと!?」


「現実問題、貴様が目指す所はそこではない」


 青く透き通るような髪、輝く装飾品を身につけて足を組み。赤ワインを傾けるこいつは俺を見て言う。


「ハーレムギルドは俺の夢の一つだ!冒険者になって、可愛い女の子に囲まれるのは悪いことじゃないだろ!誰だって思う筈だ!」


「俺は思わないが」


 なんだか、俺の夢が馬鹿にされたように感じてつい言葉が熱くなってしまう。


「ハイエルフ!キャットパンサー!女賢者!女騎士!この世界の女性は皆強くて可愛い!そんな女の子たちを侍らせたいと思ったことはないのか!?」


「ない。別に女性で困ったことがないからな」


「ガッテム!神はいなかった!」


「いるぞ」


「うるせぇ!そういう問題じゃねーんだよ!このボンボン貴族が!」


 思わず拳を机に叩きつけた。神は何故人の上に人を作られたのか。


「ふむ、そんなにハーレムとやらを作りたいのか」


「そんな真に迫って言うことじゃないかもしれんが……」


「なら、やはりお前は間違っているな」


 この男はグラスを再度傾けた。もう何本目だろうか。相変わらず酒に強い男だ。敢えて値段を尋ねることは無いが、恐らくはそこらに転がっている空のビンは俺が一ヶ月程暮らして行けるほどのものなのだろう。


「何がだ」


「お前はそういう所は馬鹿だな」


「お?やりますか?やっちゃいますか?俺っち強いよ?」


 こいつはいちいち人をおちょくらないと生きていけないのだろうか。


「まぁ聞け、そうだな、そのハーレムとやらを築きあげたいのならば取り敢えずは男女問わず募集し、ギルドを作成する。これは絶対条件だ」


「うん」


「そして、ある程度有名になったら――」


「なったら?」


「金で女を誘い、男共を排除する」


「お前、本当最っ低だな」


 聞いた俺が馬鹿だった。何を言い出すのかと思えば。


「何故だ。女は所詮金ではないのか」


「お前いつか刺されるぞ」


 心底驚いたような顔をする金髪に一発殴りたくなるような衝動に駆られる。


「しかし、どのみちギルドは作らねばなるまい。もう時間もないだろう」


 確かにその通りではあった。ギルドに仮登録してから早1週間も経っている。当初はすぐに集まるだろうと軽い気持ちで仮登録を済ませてしまったが、2週間経っても本登録を終えなければペナルティが掛かってしまい、再度登録するのに時間が掛かってしまう。それだけは何としても避けなければならない。


「……ふむ。冒険者か」


 ニーナさんの話しでは恒例祭が終わった後なのでギルド間の入れ替えがある程度は見込まれる筈だが。登録者名簿見ても、人は居らず募集にも引っ掛からない。逆にコレを機会にギルド間の絆が高まってしまったのかもしれない。


 さて、どうしようかと俺が考えていると、目の前の男が神妙な顔つきになっているのに気づく。


 俺はわかる。こいつとはもうすでに5年近い付き合いになるが、こうした顔つきになる時は大抵悪い時か、何か良からぬことを考えた時だ。


 つまり、どっちにしたって悪い方向へと転がる。


 主に俺が。

 

「……よし、ユーマ。貴様、ハーレムギルドは諦めろ」


「だから、何度も俺は――」


「気が変わった。俺も冒険者とやらになるぞ」


「――は?」


 流石の俺も、固まることしか出来なかった。















 アルペジオ・ファランス・クルーゼ。


 それが青髪ギザ男の名前である。


 国を治める十二人貴族会の一人、ケイオネス・ファランス・クルーゼの三男坊。


 容姿端麗、成績優秀。ただ、性格は難あり。


 それが彼に対する周りの評価である。


 何故、冒険者――しかもハイカーである俺が大貴族の息子と面識があるのか。簡単な話しこいつとは昔同級生であったからである。


 俺は王都近くにあるそれなりに有名な学校の生徒だった。


 こいつとは席が隣同士でそれはきつい学校生活を送ったものだ。


 しかしながら、話してみると中々悪いやつではない。馬もそれなりに合うし言葉や性格にややムカつくこともあるが、本質的には友達思いのいい奴なのである。


 俺もこいつと居るのは悪くない。のだが、冒険者となれば話は別だ。


 確かに、貴族の嗜みといいながら剣術を学んでいるので、腕は悪くない。しかしながら、腕が良いからダンジョンで生きていけると言われればそれは違う。


 ダンジョンではそういった思想を持った奴から死んでいく。そういうものだ。


 それに、なろうと思ってすぐになれるものではない。冒険者にはギルドマスターズから正式に出される試験をクリアしたものが貰えるライセンスがあるのだ。それがないと――。


「父上に頼んだらすぐに出来たぞ」


「糞がっ!」


 俺が苦労して手に入れたライセンスを一日掛からずに手にいれやがった。なんて奴だ。これが貴族の力だというのか……。


「冒険者になるため適切試験だの面倒くさい。この俺がやる必要のないものだ」


「キミねぇ、困るんだよねぇ。そういった考えもってちゃ、どんどん死んでいくんだぞぉ」


「問題ないな、なにせ俺にはお前が居る。お前が全部教えてくれたほうが手っ取り早いだろう」


「――っ!?」


 な、なんだ。こいつは……一瞬トキメキかけてしまったぞ。


 これが貴族……!恐ろしい子……!


「そういう事で。俺が貴様のギルドに入ってやる」


「ちょちょーい!俺はハーレムギルドを――」


「目指すのだろう、あの頂を。ハーレムギルドなどその後で十分だ」


 あの頂。その空の上、雲の上を伸びる天界の塔。それを見上げて俺は深く息を吐いた。


 珍しい、といえば珍しく。このギザな男が熱く言葉にした頂。


 俺の夢の一つだ。


「本当にやるのか?冒険者」


「やる。俺は嘘はつかん。中途半端な事もせん」


「……わーかったよ。取り敢えずは、武具集めからだな。よし、俺がお勧めの武具屋を紹介してやるぜ!」


「ふむ、俺はまったくの初心者だからな。お前に全て任せる」


 取り敢えずは、一人。


 そして、夢の一歩を踏み出す俺であった。


 まぁハーレムギルドは諦めませんけどね!


 

 


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