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1話

軽い気持ちで小説を投稿した。悔いはない




 


 ダンジョンには2つのタイプが存在する。


 潜っていくタイプのダンジョンと、登っていくタイプのダンジョンである。


 素人から見れば些細な違い――大した違いじゃないかもしれないが、俺達冒険者にとって、それは死活問題なのである。

 

 まず一つに、モンスターの質が違う。潜っていくタイプのモンスターは死神ハーデスの影響下を受けており、即死性と異常状態系の攻撃を持つモンスターが多い。登っていくタイプのダンジョンは天神ウラノスの影響下を受けており、攻撃力と防御力を兼ね備えたモンスターが多い。


 そのダンジョンの構成も様々で、馬鹿みたいにモンスターハウスが多い場所だとか、トラップが多いだとか結構違ってくるわけだ。


 たまに、未知のダンジョンが発見されたりするが潜るか登るかでまず、大抵予測をつけることが出来るのでこの知識は冒険者にとっては一般常識というわけである。

 

 俺が拠点とする街、トラム=コラムにあるダンジョンは登るタイプのダンジョンである。その中心地にそびえ立つ天界の塔はルーキーからベテランまで、幅広い冒険者から好まれているダンジョンだ。ギルドマスターズの発表によると、毎日約3千から5千程度の冒険者がダンジョンに入るらしい。


 この街も必然的に冒険者を中心とした街となるわけだ。


 しかしながら、未だこの塔は走破されていない。もうこのダンジョンが現れて随分と長く経つが確認がとれているのは40階層。


 これだけ毎日冒険者が塔に登っているのに、未だ走破されない理由。


 それは、ダンジョンの難しさとその長さがある。

 

 実はこのダンジョン。変化するのである。昼の12時と夜の12時の2回。内部的にダンジョンが変化し、その中身が変化するという不思議ダンジョンなわけである。


 天高くそびえ立ち、頂点が何階かもわからぬ中で、一気に走破するというのはほぼ無理に近い。当然ダンジョンが深くなるにつれてモンスターも強くなってくる。もう一度登ろうとすれば、前回と中身が変わってまったく新しいダンジョンになる。そりゃ長年経っても未だ走破されないわけだ。


 この未解明のダンジョン。天界の塔。


 これを一番に走破するというのは俺の夢だったりする。



















「モンスターだな」


 ダンジョンの中で特有の重低音を聞き分けて、俺はパーティーの足を止めた。


 地面に耳を当ててさらに細かくその足音を解析していく。


「数は3、2足系の人型。多分ミノタウロスか、ゴーレムだと思う。こちらに向かってくる。ここから50メイルもないぜ」


「よし、先手を取りたい。ウィルソン、大きいの一発食らわせるぞ。その後に俺とコブが前へ」


「了解」


 魔術師が杖を取り出して詠唱を始める。それに続くように他のメンバーも各々の得物を取り出した。


 一つの緊張が空気を支配する。


 それに伴って、伸びる廊下の奥。そこの角から大きな図体が壁伝いに頭角を現した。


 ミノタウロスだ。


 数は3。身長はおよそ3メイル程。大きな角が特徴で、まだ階層が薄い方なので得物を持たない。それでも、一般の人間を遥かに超えた力を持つのは変わりない。


「見えた!」


 リーダーが声を上げると同時に魔術師が杖から特大の火の玉を打ち出す。先頭に陣を取っていたミノタウロスはその魔法をモロに受けて、爆散した。基本的には怪力が特徴のミノタウロスは俊敏な動きはできない。来ると解って先に撃ちだしてしまえば回避は不可能だ。


 ミノタウロスの咆哮がダンジョンに響き渡る。いきなりの先制攻撃にたじろく事なく、ミノタウロスは俺たちを視界に捉えると一気に走りだした。


「シフト!」


 魔術師が下がり、前衛職の2人が前へ出た。大盾を持つナイトであるリーダーと、両手剣を持つ剣士、コブだ。俺は直接的な戦闘力は低いので、この2人のカバーと魔術師の護衛である。


「うおおおおおおおおおお!」


 ナイトをジョブに持つリーダーが気合の雄叫びを上げて、前へ出る。ミノタウロスの怪力をその腕一つで受け入れた。


 それをカバーするように、両手剣を持った剣士がミノタウロスの腕を切り落とす。


 あまりの痛みにミノタウロスはよろけるようにして下がり、悲痛の叫びを上げた。それを逃す冒険者はいない。すかさずリーダーが手に持つ槍でミノタウロスの心臓目掛けて突く。


「くっ……!」

 

 だが、ミノタウロスは強靭な肉体を持つモンスターだ。ナイトの熟練度も相まってだろう、その心臓を突き殺す事は叶わず逆に肉壁に挟まれて身動きが取れなくなってしまった。別のミノタウロスが大腕を振りかぶる。


「"逆流する時よ”」


 味方をカバーするのが、俺の戦闘職である。ミノタウロスの腕目掛けて、剣を振ると腕に纏わりつくように魔法陣が描かれ、そして数秒の間ミノタウロスの動きが遅くなった。


 シーフが持つ数少ない魔法だ。


 豪腕のミノタウロスの動きが、まるで亀が歩くかのような動きでリーダーに迫る。一般人であってもこのミノタウロスを避けることは簡単な事だろう。


「おらああああああ!」


 再び両手剣が弧を描いて腕が落ちる。


 自慢の力も腕がなければ発揮できまい。2つの個体が力が半減されたのを確認して、リーダーが盾を投げ捨てる。そして、両手での力を持って今度こそミノタウロスの心臓を突き刺した。


 後に残ったのは片腕を失ったミノタウロスだけである。負ける要素もなく、あっさりとその戦闘を終えた。












 







「お疲れ!」


 グラスを合わせて、祝杯を上げる。喉元を通る苦味と炭酸とアルコールの火照りが体を癒してくれる。


 エールという飲料水で、安い美味いで冒険者たちからは人気メニューの一つでもある。

 

「いやーしかし、相変わらず良い仕事してくるな。ユーマ!」


「まぁ、このくらい手慣れたものよ」


「どうだ、よかったら正式にうちのギルドに入らないか?お前程の冒険者をフリーランサーにしておくのは惜しい」


「申し出はありがたいんだが、俺もようやくギルドの立ち上げが目処に立ってね」


「え、ユーマ。ギルド立ち上げるの?」


 ウィルソンの言葉に俺は大きく頷いた。


「あぁ、コツコツとお金を溜めて3年。ようやく夢の第一歩を踏み出せそうだぜ」


「確か……ハーレムギルドだっけか。上手くいきそうなのか?」


「取り敢えずは、ギルドの立ち上げは出来そうなんだけどさー。如何せんギルドメンバーが全然見つからなくて」


 ギルド作成の条件は整ったものの、メンバーがいなければ話しにならない。あれから何度か酒場に足を運んで募集を掛けてみたりしたのだが、今もフリーランサーを続けているということはそういう事である。


「夢は遠いぜ……」


「しかし、ハーレムギルドねぇ」


 エーテルを飲みながら、リーダーが何処かため息が出るような声を上げた。


「んだよ、男なら誰しも夢見るだろ?」


「……クラン・クランていうギルドを知ってるか?」


「あぁ、ハーレムギルドで有名なギルドだろ?」


 大層イケメンな奴がギルドリーダーだった筈だ。そいつ以外は在席するメンバーが女性なので、有名である。何処かの貴族の出身らしく性格もあまりよくないので、よくない噂が飛び交っていた。ギルドの実力自体もあまりないためにある意味忌み嫌われているギルドである。


 まぁ、大半は男の嫉妬のようなものだったが。


「あそこのギルド解散したぜ」


「まじでか」


「なんでも、ギルドリーダーのナニが切り落とされたらしい」


「――」


「こえぇ」


「あ、俺それ聞いたことあるっすよ。元々あんまし関係悪かったらしいっすけど、女同士のいがみ合いが発展して修羅場に突入したとか。んで、ギルドリーダーが余計な事言った結果サクッと」


 聞いただけでも恐ろしい。思わず息子を抑えてしまう。


「んで、その事件を切っ掛けに女性メンバーが仲良くなっちゃって。再形成したとか。ギルド名はハーピィだったかな」


 さすがのマスターズギルドもギルド内の喧嘩には口を出さなかったらしい。


「結局はこの職業は同性同士で組んだ方が安定するんだって。ギルドを運営していればよく判る。男女のイザコザがなく釣り合ってるギルドなんてほんの少数だ。男女間の恋愛が拗れて気まずい雰囲気になってみろ、もう最悪だぞ」


「あーあーあ!聞きたくなーい!やめろよ!これからギルドを立ち上げて頑張ろうって人間に現実を見せるな!」


 最悪だ。これから夢に向かって進もうってする人間に普通こんなこと言うか?


「ま、何にせよギルドを立ち上げるっていうのなら、応援するぜ。これはその祝い金だ」


 テーブルに置かれた袋。金属音が擦る音が聞こえて、その袋の中身が金貨であるが分かった。それも結構な数だ。


「いいのか、こんなもらっちゃって」


「素直に受け取れ。何度もお前には助けられてるからな」


「ありがとう」


「いいって事よ。また何かあったらいつでも連絡をくれ、俺たち“サイン”が力になってやる」


「なら、早速一つ頼んでいいか?」


「なんだ、言ってみろ」


「女エルフを紹介してくれ……!」


「おとといきやがれ」


 

 


 


 






 



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