同居人の表と裏
二話目の更新になります!
まだまだ文才は未熟ですが、頑張ります。
「……いつ帰ろうが、私の勝手よ」
「遅くなった理由は?」
それよりも、早く靴を脱がさせろ。
そして私を部屋に行かせてくれ、頼むから。
堂々と仁王立ちで玄関を占領している白崎に対し、盛大な溜息を一つ吐く。私が帰る事を嫌がっていた理由は、彼に会うのが堪らなく嫌だからだ。
白崎は同じ高校に通っている男子生徒、簡単に彼のスペックを説明すると……容姿端麗・成績優秀・運動神経抜群と、三大要素が揃った所謂“完璧イケメン”って奴だ。
まあ、全部表向きの話だけど。
「それよりも、退いてくれない?部屋に行きたいの」
白崎は超がつく程の猫被りだ。
普段は【表の顔】と【裏の顔】を上手く使い分けているから、誰も白崎が猫被りだと気づかない。(そもそも誰も信じない。)
本性を知っているのは私だけだ。
私は彼の身体を強引に押して、履いていた靴を脱ぐと、そのまま部屋に向かおうとした。
両親はリビングでテレビでも観ているのか、笑い声が聞こえる。いつもなら帰りが遅くなった場合、母親に「連絡をしなさい」って軽く叱られるのに白崎が来てからそれが無くなった。
その代わり、帰宅すると母親の代わりに白崎が出迎えをするようになっだんだけどさ……私の親に一体何をしたんだろう。
想像したくない。
階段を上がろうとした時、私は何やら嫌な気配がしたので足を止め、背後を振り向いた。
「ちょっと、何でついてくるのかしら?」
「なんだ、駄目なのか?」
駄目に決まってるだろ、何で部屋まで来ようとしてるのさ?
そしてジィッと私を見つめるな、無駄なイケメンを振り撒くんじゃない。小首を傾げるな。
本音がポロポロと口から出てしまいそうになるが、私は辛うじて言葉を飲み込んだ。両腕を組み、まるで此方を見下すように上から目線な態度と口調にちょっと腹が立つ。
無視して部屋に向かおうとしたら、リビングに繋がる扉が開いて母親が顔を出した。私の姿を見ると、母親は溜息を吐いて眉根を寄せる。
「遅くなるなら、ちゃんと連絡をしなさい。心配するでしょ」
「……はーい」
「あら、昴君。ごめんなさいねぇ、絢香が帰ってきたから、直ぐに夕飯にしちゃうわね」
母親は私の側に白崎がいると分かった瞬間、普段見せないような優しい表情を浮かべて接し始める。私の時とは大違いだ。
白崎の方は邪魔が入ったと言うように不機嫌な表情になったが、猫被りが得意なだけあって、速やかに裏から表の顔に切り替えた。
この一瞬の隙を利用しない訳にはいかない、私は一気に階段を駆け上がり、部屋に入ると鍵をかけた。
内側からかけるタイプだから、扉を開けられる心配はない。鞄を床に置くとベッドにダイブして、枕に顔を埋める。
「…………知りたくなかったなぁ」
私は白崎が好きだった。
いや、それは『好き』というよりは『憧れ』に近いのかもしれない。初めて彼の姿を見た時、本当にこんな人が存在するのかと思ったくらいだ。
頭が良いのも、運動神経が良いのも、見た目が良いのも、憧れを抱くのには十分な理由になる。
けど、それよりも魅力的だったのは白崎が見せる笑顔だった。普段はキリッとした大人びた雰囲気を醸し出しているのに、笑うと小動物のように愛らしいギャップに惹かれていた。
なのに…
「あんな性格詐欺師だったとか、最悪にもほどがあるでしょっ!」
本音が出た。
バシッバシッと、枕に八つ当たりするように兎に角叩きまくる。手足をバタつかせる。乾いた音が部屋に響き、一階にいる両親や白崎に聞こえてしまうんじゃないかと思ったが、今は苛立ちの方が勝っていた。
「悪かったな、性格詐欺師で」
「……なっ!?」
驚いて、枕を高く掲げたまま静止した。部屋を見回しても人の姿はない、声だけが聞こえる状態だと気付いたら一気に安心するも、嫌な予感がした。
声の主の正体は言わなくても分かる……凛とした耳に心地いい声は、白崎のものだ。
扉越しに予想できるのは、腕を組みながらニッコリと満面の笑みを浮かべている彼の姿。声だけだと単なる予想しか出来ないが、きっと外れていないと思う。
「…………」
「急に大人しくなったな。八つ当たりはもう終わりか?」
八つ当たりをしていた事がバレている。もしかして、私が部屋に入ってから直ぐ此処まで来たとか?
部屋の前で待機していたって事?
……恥ずかしすぎるし、ちょっと怖い。
そして部屋から出られない。羞恥心で顔がカァッと熱くなったかと思えば、サァーッと血の気が引いていく音がする。
赤くなったり青くなったり、忙しいな私。
「まあ確かに、俺の性格を知っているお前からしたら詐欺師だろうな。 けど、仮にお前がそれを誰かに話したとして、信じる奴は果たしているだろうか」
そう質問する彼には余裕しか感じられない。答えは勿論『NO』だが、挑発するような口調は私の苛立ちを増幅させた。
「……なんなのよ、あんた。さっきから私に構わないでよ、放っておいてくれない?」
なるべく心を落ち着かせて言ったつもりだったが、実際口に出してみると結構怒りの感情がこもっている上に、言い方が刺々しい。
言った後、自分でも驚いてしまい口元に手を当てた。
しかし、扉越しからの反応はない。
ちょっと外にいる相手の様子が気になり、私は扉を開けてみる事にした。
慎重に慎重に、なるべく音を立てないよう静かに扉を開ける。
カ……チャ……
見てみると、廊下に白崎の姿は無かった。下に降りたのかと思い、内心少しホッとしていたら、扉にぶつからないように少し距離を置いた辺りに夕飯が乗ったトレーがあった。
「…………」
態々これを持ってきてくれたの?
まだ湯気が立っている夕飯をトレーごと部屋に運び、私は自分で言った台詞を地味に後悔した。
三話目に続きます、次回の更新は今週か来週になります!