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黒い白百合は今日も微笑う  作者: 相模 仄華
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同居人は微笑う

第1話めです!ゆっくりですが、更新頑張ります。

憧れているだけで、十分だったんだよなぁ。だってさ、その方が楽だと思う。

もし誰かを好きになって、その人を知る為に動いたら必ず知らない方が良かった【裏の顔】、【本性】といった面が出てくる訳だ。


それを知っても尚、好きでいられるならそれで良い。でも私は違う。憧れのまま、理想のままの状態でいてほしいから敢えて知ろうとは思わない、我儘って思われるかもしれないけど。



「絢香って、理想高そうだよね」



友人である浅井美乃梨と、好きな人のタイプについて話をしていた時に彼女から言われた言葉だ。悪気はないと分かっているし、私自身特に気にしていないから発言は問題ない。理想が高いというよりは、何と言えば良いのか……ただ単に現実を見ないだけな気がするんだけど、語彙力が無いから訂正をしたりしなかった。



「そうかもね〜」



なんて笑っている。正直面倒くさい、第一いつまで話をするつもりなんだろう?もう放課後なんだからさっさと帰ればいいのに、教室に残って延々と続くトークに疲れてきた。

因みに、私が教室に残っている訳は来月に迫っている期末試験に向けての準備の為だ。机にはノートと教科書、筆記用具と勉強に必要なものが一式置かれている。てっきり美乃梨もなのかと思っていたが、向かい合わせにつけられた机には、教科書すらなかった。


話したいだけならキリの良いタイミングを見計らって帰ろうかなー、なんて考えた。窓の方にチラッと視線を向けると、空は茜色に染まっている。冬は日が沈むのが早いから、もう数十分したら暗く烏の鳴き声が遠くから聞こえた。



「絢香〜。ちょっと、話聞いてる?」


「……へ?あ、ごめんごめん。聞いてるよ」


「も〜!」



美乃梨は頰を膨らませ、私は彼女の反応に対し苦笑いで返す。ちょっと抜けていて不真面目な面も目立つが、彼女は私の数少ない友人だ。拗ねている彼女を宥め、壁に掛けてある時計で時刻を確認する。

もう後数分で、完全下校時刻だった。私は美乃梨に「そろそろ帰ろっか」と言えば、鞄にノートや筆記用具を詰め込み始める。



「あ、待ってよ絢香!置いてかないで」



縋るような声で、美乃梨も鞄を持てば私に着いて来た。廊下を歩く二人分の足音がやけに大きく響く、オマケに私達以外人が歩いていない所為か、それとも廊下の明かりが所々消えて薄暗くなっている所為か、中々不気味な光景だ。



「なんかちょっと怖いね〜。お化けとか出て来そうじゃない?」


「ちょっと、私そーゆう話苦手なんだからやめてよね」



ニヤニヤ意地悪な笑みを浮かべ、私の腕を小突くと顔色を伺うように覗き込む。ホラーが苦手な私は、美乃梨の話に眉を寄せると分かりやすい嫌がっているアピールをした。





***





「はぁ……結局、ほとんど勉強出来なかった」



美乃梨と道中別れた後、私は大きな溜息を吐く。前回の中間試験が思ったように点数が伸びなかったから、今回の試験で挽回しないといけないのに、不安になってきた。

取り敢えず、帰ったら出来なかった教科の勉強をしないといけない。私の足は自然と早足になっていた。賑やかな商店街を抜け、住宅街に入ると夕飯の匂いが鼻をくすぐる。今夜の我が家での夕飯は何だろう、ちょっとだけ楽しみだ。


だけど、その気持ちは直ぐに消えてしまう。思い出したくない事を思い出してしまったからだ。



「……あー、憂鬱」



早足だった歩幅は急に遅くなった。最近は家に帰りたくない、理由はちょっと複雑なんだけど、それは別に親と何か問題があるとかではない……寧ろ両親との仲は良好な方だ、多少の喧嘩はするけど。

帰りたくない理由は他にある。



「……今日もいるのかしら」



家が近づくにつれて、私の心はどんどん暗くなっていく。まるで鉛か鉄の塊か、とにかく重い何かが背中に乗っかっているみたいに足の進みが遅かった。肩に下げたスクールバッグを持ち直し、私は大きな溜息を吐いた。


その内に見えてきたのは、何処にでもある一軒家。白い塗料を塗った壁に紺色の屋根と、特別に目立つ外観ではない。表札に彫られた『堀内』と云う苗字が目印のここが、私の家だ。

制服のポケットにしまっていた鍵を取り出して鍵穴に挿し込む。ガチャリと施錠が外れる音がして、私は一度大きく息を吸い込むと、扉を開ける。



「ただいまー」



足元を見ると、母親が愛用している低いヒールのパンプスに父親のビジネスシューズ、そしてもう一足別の人物の靴があった。黒色のローファーで、サイズは私が履いている物よりずっと大きい男物。けれど、これは父親のではない。因みに私は一人っ子だから、兄弟の物である可能性はゼロだ。



「……やっぱりいるのね」



好きな人ができた場合、私は告白をしたいとか、恋人になりたいと言った事はしたくない。憧れは憧れのまま、好きになったら片想いのままでいた方が辛い思いをしたり、その相手に対して失望をしなくて済む。

それなのに、最近私には一つ問題が出来てしまった。パタパタと二階の方から階段を駆け下りてくる音がする、彼奴が私の声に気づいたんだ。



「おかえりなさい、絢香ちゃん」


「……ただいま」



問題の根源である彼––––『白崎 昴』

透き通るような白い肌に、癖一つない艶やかな黒髪。端正な顔立ちをしていて、男性に使うのはちょっと失礼だと思うが、本当に『綺麗』な人だと思う。


白崎は切れ長の瞳で私をジっと見つめ、ふわりと優しげな微笑を浮かべると、形の良い唇を開けて一言。



「ったく、おせぇんだよ。帰ってくんの、次からはもっと早く帰って来いよな」



……知りたくなかったなぁ。

2話めに続きます!


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